公益財団法人 健康・体力づくり事業財団

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健康・体力づくりQ&A−生活の中の身近なギモンに答えます−

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運動

アスリート

  •  平成13年度国体選手の血液検査結果では、男性選手の7・2~22・2%、女性選手の4・5~17・3%に軽度か高度の貧血がみられました。このようにスポーツ選手には、高率で貧血がみられます。

     貧血とは、血液中の赤血球の数や赤血球の主成分であるヘモグロビンの量が減ったために、酸素を運搬する能力が低下靴選びして、体が酸素不足になった状態です。貧血にはさまざまな種類がありますが、最も多いのは、ヘモグロビンの材料である鉄の不足から起こる「鉄欠乏性貧血」です。スポーツ選手の場合も同様です。  鉄欠乏の原因には、①鉄の摂取不足(摂取量不足、吸収障害) ②鉄の需要増大(発汗、発育成長) ③鉄の排泄増大(出血、月経過多)、があります。スポーツ選手に、最も多い原因は、食事からの鉄摂取量が需要に追いつかないことです。スポーツ選手がトレーニング中にかく汗には多くの鉄が含まれます。さらにスポーツを行う者には、発育・成長期の若年者が多く、骨格筋形成にも多くの鉄分が必要です。こうしたさまざまな理由により、一般人には十分な鉄摂取量であっても、スポーツ選手には不足となる場合があるのです。

     鉄欠乏性貧血を予防・治療するために重要なことは、鉄、たんぱく質、ビタミンCを十分に摂取することです。予防・治療のための必要量は、一般人に推奨される量の約2倍です(表参照)。

     また鉄の体内への吸収率は、獣肉・魚肉・鳥肉などの動物性食品に多く含まれるヘム鉄では高く、野菜・乳製品・卵製品に多い非ヘム鉄では低いのですが、非ヘム鉄の吸収率はビタミンCやMFP因子(meat, fish, poultry=獣肉・魚肉・鳥肉)因子により高まります。そのため、鉄欠乏性貧血の予防・治療のためには、動物性食品、緑黄色野菜、柑橘類を十分に摂取することが必要です。

     もう一つ、スポーツ選手に多いのが溶血。これは赤血球が壊れる現象で、運動中に足底部を頻回に打ちつける長距離走、バレーボール、バスケットボール、剣道などの選手に頻発します。溶血が起きても、通常であれば造血機能が高まり赤血球が補われるのですが、オーバートレーニング症候群であったり、食事の摂取内容が悪かったりすると、溶血性貧血になる場合もありますので、練習のしすぎや栄養不足には注意が必要です。

    表●鉄欠乏症貧血の予防・治療としての食事摂取(1日あたり)
     ◎たんぱく質⇒2g以上/体重1kg
     ◎鉄分⇒25~30mg
     ◎ビタミンC⇒250mg:トレーニング開始5~7日間と競技前
            200mg:試合後3~4日間
            150mg:飽和状態に達した後のトレーニング期間
    ※『健康運動指導士養成講習会テキスト』2007より



    【Point】運動指導等に携わる人は
     定期的な運動トレーニングの実施は、一般的には造血作用(赤血球の数・働きを正常にする作用)を高進するといわれます。しかし造血機能高進は、適切な運動トレーニングが実施され、かつ適切な食事摂取が行われるときにのみ起こります。現在の多くのスポーツ選手では、トレーニング過剰で、食事摂取内容(質・量)が悪く、この両者の要素が適切にそろうことはまれで、貧血に陥りやすいと考えられます。
     したがって、可能な限り両者の要素が適切に行われるよう、スポーツドクターや管理栄養士・栄養士、健康運動指導士等の運動指導者、家族、選手本人が共同して努力する必要があります。

    坂本 静男(早稲田大学スポーツ科学学術院教授)
    【健康づくり 2008年1月号】

ウォーキング

  •  よく耳にする「老化は脚から」という言葉、これは単に年を重ねることで脚の筋力が衰える、というだけの意味ではありません。筋肉のみならず、骨・関節・神経という、運動にかかわる体の部分(これを運動器といいます)が衰えると、しっかり歩くことができなくなってしまう、ということを表しています。確かに年齢とともに運動器には衰えが生じます。しかしこの変化は加齢のみによるものではありません。「年だから」という気持ちで、体を動かさないことの影響も大きく加わっています。体を動かさないから運動器の働きが弱る、そのため日常生活動作でも痛みを感じる、痛いから動かさない、という悪循環により運動器の衰弱が進んでしまいます。  二本足でしっかり歩く、という人間の基本的活動を継続するためにいちばん身近な運動は、歩くことです。歩くことを運動として扱う場合、ウォーキングという言葉を用います。ウォーキングは脚の筋力強化に有効であるのみならず、健康へのさまざまな効果も示されています。ウォーキングにおける姿勢、靴やウエアの選び方、ペースなどの注意について特集した書籍や雑誌も多く出てきています(『健康づくり』2008年10月号特集参照)。

     ところが、体のために始めたウォーキングにより、かえって運動器に障害をきたして、整形外科を受診される中高年の方もいらっしゃいます。問題を起こす部位として頻度が高いのは膝です。関節には、加わるショックを吸収する役割の関節軟骨がありますが、軟骨は加齢に伴い、しだいに磨耗します。このような変化が膝に起きた状態を変形性膝関節症といいます。クッションの減ってきた膝にウォーキングでの体重の負担が加わり、膝の痛みが発生する危険もあります。これまで運動をしていなかったために膝を支える働きの筋肉が弱っていたり、関節の滑らかな動きに制限があったりする場合、負担はより大きなものとなります。

     それでは変形性膝関節症となった方は歩いてはいけないのでしょうか。そんなことはありません。膝関節痛(日常生活に支障をきたさない程度)がある場合でも、膝の動きを繰り返すことによりしだいに痛みが軽減する、という報告もあります。家の周りの散歩や室内での足踏みのような軽い運動で効果が得られます。運動器は動かすことで能力の回復が可能です。痛みが軽くなれば、ウォーキングの距離を増やすこともでき、筋力アップにもつながります。

    ウォーキングの効果を期待して、痛いけど頑張る、と無理をする方もいますが、痛みは体からの注意信号と思ってください。ご自身の体と相談して、痛みのない範囲から始め、少しずつ進めることが大切です。継続することでしだいに効果は表れます。




    【Point】保険指導等に携わる人は
     変形性膝関節症による疼痛のためウォーキングが困難な場合、非荷重で行う膝・股関節周囲筋の等尺性運動の有用性が示されています。この際には運動の形のまねではなく、目的の筋を強化する正しい運動方法の指導が必要です。
     なお、状態によっては運動がかえって膝の状態を悪化させる危険もあります。安静時にも痛みがあったり、膝関節にはっきりした熱感や発赤などの変化がある場合、変形性膝関節症以外の疾患の可能性もあります。自分だけの判断で運動を始めることのないよう、まず整形外科医の判断を受けるよう勧めてください。

    石川知志(新潟医療福祉大学 健康科学部健康スポーツ学科教授)
    【健康づくり 2009年3月号】

  •  かぜは一種の感染症。適度な運動は免疫力を向上させるため、運動をしたほうがかぜをひきにくくなるのが通常ですが、マラソンなどの激しい運動や過激なトレーニングを行うスポーツ選手には、かぜやその他の感染症が多く見られます。このことから、運動と感染のリスクについては、図のようなJカーブモデルが提唱されています。

     実際、激しいトレーニングを継続するスポーツ選手の場合、くしゃみ、鼻汁、咽頭痛を主症状とする上気道感染症(かぜ)の頻度が一般の人の3倍も高く、特にマラソンのような過酷な持久性運動では、競技終了後2週間に50~70%の選手がかぜ症状を呈し、そのリスクは通常の2~6倍になると報告されています。では、なぜスポーツ選手にかぜや皮膚感染症などの病気が多いのでしょうか。

     その理由は、病原体から生体を防御するための、皮膚・粘膜の機能が低下するためです。

     まずスポーツ選手は、暑熱・寒冷・紫外線・外傷などのストレスを受けることが多く、また運動中には骨格筋への血流が促進される一方で、皮膚・粘膜への血液循環は抑制されるため、病原体のバリア機能が障害されます。そのため病原体の侵入を許し、皮膚感染症につながります。

     また運動時には呼吸が増すため、微生物が気道に侵入しやすくなります。微生物を含む鼻汁や喀痰は粘膜上皮の線毛運動、咳、嚥下などにより通常は排除されるのですが、運動中には気道粘膜が乾燥・冷却され、粘液の粘度が増すため線毛運動が低下します。そのため、病原体を排除しにくくなり、上気道感染症が頻発します。

     特にスポーツ選手では、団体行動や集団生活を行う機会も多いため、病原体が伝播しやすい環境にあります。スポーツ選手の遠征時に、嘔吐や下痢がしばしば見られるのも、ウイルスや細菌による急性胃腸炎を起こしやすいためと考えられます。

     さて、これらスポーツ選手であれ、マラソンの愛好家であれ、かぜ予防の基本は、手洗いの励行とマスク・加湿器を使用することです。それに加えて、大会前には、特に注意して感染源を避けたり、適切な栄養と休養をとるなどの対策を行うとよいでしょう。


    【Point】運動指導等に携わる人は
     マラソンのような持久性運動のあと(特に激しい運動の直後数時間)には、選手の免疫機能は低下します。
     特に、減量を伴うトレーニングでは、栄養状態の悪化から免疫機能が低下するうえ、試合前の精神的ストレスなどの悪条件が重なるため、かぜや感染症を起こしやすくなります。
     したがって、こうした激しい運動を行う選手にとっては、糖質やたんぱく質のみならずビタミンやミネラル等まで、過不足なく摂取できる栄養管理と適切な休養が必要です。また運動中の水分補給は、脱水や熱中症の予防のみならず、だ液の分泌を促して免疫機能を高める観点からも重要です。

    鈴木 克彦(早稲田大学人間科学部選任講師)
    【健康づくり 2008年3月号】

運動の効果

  •  日ごろから運動を行っていると、暑さや寒さに対する身体の反応は変わっていきます。そして、それに伴い暑さや寒さに対する耐性も変わっていきます。

     体温が上昇すると、私たちの身体は皮膚の血管を拡張させたり、汗をかいたりして熱を体外へ逃がしています。身体のいちばん外側の組織である皮膚の血管が拡張して皮膚に多くの血液が流れると、外気と血液の温度差で熱を逃がすことができます。また、汗は蒸発するときに、気化熱として皮膚表面から熱を奪います。体温が上昇し、ある温度(個人差があります)に達すると、皮膚の血流量や発汗量が急激に増加し、その後は体温の上昇とともに直線的に増加していきます。

     日常的に運動を行っていると、この関係が変化していき、より低い温度から皮膚血流量や発汗量が増加し始め、また体温の上昇に対する皮膚血流量や発汗量の増え方が大きくなります。その結果、それまでよりも熱を逃がすことができるようになるので、暑さに強くなるというわけです。

     寒さに対する身体の反応ですが、体温が低下したり、寒い環境に暴露されたりすると、皮膚血管を収縮させて熱が逃げるのを防いだり、震えることで筋肉を収縮させて熱産生量を増加させたり、また、震えとは別に骨格筋や肝臓などの代謝を高めて熱産生量を増加させたりします。

     日常的に運動を行っている人と行っていない人を比較した研究では、日常的に運動を行っている人のほうが、皮膚血管をより収縮させることや、代謝が高いこと、さらには筋肉量が多いことで震えによる熱産生量が大きいことなどを報告しています。つまり、運動を行っている人のほうが、身体の熱を逃がしにくく、熱産生量も大きいので、寒さにも強いということになります。

     運動以外でも、これらと似たような変化が起こります。たとえば、冬季よりも夏季のほうが皮膚の血流量や発汗量が増えやすくなっています。夏季は気温が高いので、体温が上昇しやすくなっています。運動によっても体温は上昇しますが、この「体温が上昇する」という刺激が、繰り返し身体に加えられることで、身体はそれに対応しようとして、熱を逃がす反応を大きくしていくのです。また、冬季には夏季よりも基礎代謝が高くなっており、熱産生量を増やして寒さに対応しようとしています。

     このように、運動を継続的に行っていると、身体は暑さや寒さといった刺激に対応するようになっていきますので、定期的に運動を行うとよいでしょう。また、あらかじめ暑さや寒さに慣れておけば、身体はうまく反応するようになりますから、本格的なシーズンの前に暑さや寒さに慣れておくように心がけるとよいでしょう。


    【Point】運動指導等に携わる人は
     皮膚血管拡張や発汗反応を大きくするためには、有酸素運動が効果的です。短期間のトレーニングでもこれらの反応は変化しますが、運動をやめてしまうと元に戻ってくるので、継続して運動を行うように指導することが重要です。耐寒性を高めるのにも、有酸素運動は有効ですが、筋肉量を増やして、震えによる熱産生量を増やすことも有効でしょう。
     運動トレーニングも大事ですが、暑さや寒さに慣れることも、耐性を高めるのに非常に有効な手段です。運動を継続的に行うと同時に、本格的なシーズンになる前に、環境変化に慣らすような工夫も指導するとよいでしょう。

    林恵嗣(静岡県立大学短期大学部講師)
    【健康づくり 2010年1月号】

運動の種類や注意点

  •  効果があるかないかは、運動をする目的によります。筋力や最大酸素摂取量を増やすための運動は、週1回のトレーニングでは、効果を期待するのは難しいとされています。しかし、森林浴を兼ねてのウォーキングやサイクリング、親しい友人とのテニスなどは週1回でもストレス解消や気分転換には効果的です。

     年齢的には、生活習慣病予防のために運動不足を解消し、適度な運動を日常化する必要があります。そのためには、自己流で運動を始めるのではなく、メディカルチェックを受けたうえで、週1回でも健康センターやスポーツジムなどの健康づくりコースに参加し、健康運動指導士などのアドバイスを受けながら運動することをお勧めします。そこで得た知識は、日常生活で活用することができるからです。

     中高年の健康づくり運動のガイドラインは「有酸素運動を中心にストレッチングや筋力トレーニングを加え、1回30~60分、週3~4回実施する。ちなみに有酸素運動(ウォーキング・ジョギング・エアロビックダンスなど)の運動強度は、ややきつい程度(カルボーネン法40~60%)で、健康状態や体力などの個人差に応じて適切に対応する」とされています。、最近では、運動不足で健康状態に不安のある人に対して「1日30分以上(10分以上であれば、2~3回に分けて行ってもよい)の中程度の身体活動をできれば毎日行う」という指針が示されています。

     そこで紹介したいのが神奈川県で推進されている「3033(サンマルサンサン)運動」です。「1日30分」、「週3回」、「3か月間」継続して運動やスポーツを行い、楽しく運動習慣を築く試みです。

     「1日30分」というのは、10分程度の運動を合計30分行ってもかまいません。もしあなたが週1回、スポーツを楽しむことができるなら、週2日は、ガイドラインに示されているように中程度の身体活動、つまり、エスカレーターではなく階段を使う、デスクワークの合間にストレッチングをする、朝、駅まで歩くなど日常生活を活動的にする工夫をしましょう。

     また、継続しなければ、健康づくりの効果を期待することはできません。「3か月間」は続け、体を動かす心地よさを実感してください。なお、運動にはけがなどのリスクも伴いますので、やりすぎは禁物です。必ずウオーミングアップとクーリングダウンを行い、ストレッチングも取り入れましょう。


    <運動強度の目安>

     有酸素運動では、次の式(カルボーネン法)で目標心拍数を求め、運動強度の目安にします。
     最高心拍数=220—年齢
     予備心拍数=最高心拍数—安静時心拍数  
     負荷心拍数=予備心拍数×0.4~0.6
     目標心拍数=安静時心拍数+負荷心拍数

     負荷心拍数は、「運動習慣がない人、体力の低い人、高齢者など 0.4」、「中高年者、肥満者など 0.5~0.6」で求めます。自覚的には「ややきつい」強度です。


    【Point】運動指導等に携わる人は
     健康づくりのための運動指導では、安全性の確認が必要です。運動開始前には、循環器系の項目を中心としたメディカルチェックを受けるよう指示します。体力測定、その日の体調の確認なども行い、安全で効果的な運動プログラムを提供します。 自主的に運動ができるよう、基礎的な知識を指導するようにしましょう。
     運動中は呼吸、表情、動作などに異常がないか、チェックしながら指導してください。

    武井 正子(順天堂大学名誉教授)
    【健康づくり 2005年10月号】

  •  自営業のYさん夫妻は、毎朝5時半に起床、身支度を整え、6時に家を出て1・5ほど歩き、公園で行われているラジオ体操の会に参加しています。顔なじみの人とあいさつを交わし、途中で、朝食用の豆腐を買って、7時15分には帰宅。この早朝ウォーキングを始めて3年。定期健診ではいまのところ異常はなく、体調もよいので、継続したいと思っています。

    「早朝ウォーキングをしている人たちへ」
     早朝は、運動に適した時間帯ではありません。自律神経系の働きがよくなり、気温も多少上がってくる10時すぎあるいは、午後2時すぎなどがよいのです。

     これから、日に日に寒くなってきますし、朝の6時だとまだ暗い時間になってきます。健康であっても次のようなことに留意しましょう。

     ①空腹のまま出かけるのではなく、消化のよいものを少し食べて出かける。
     ②寒い日は、手袋、靴下、帽子、マフラー、ウインドブレーカーなどを身につけ、適宜、体温にあわせて、着脱する。
     ③ひざの屈伸や全身のストレッチングなど、ウォーミングアップを行ってから歩き出す。
     ④外はまだ暗いので、目立つ服装をし、交通事故に気をつける。
     ⑤悪天候の時は、無理をしない。

        ◇ ◇ ◇
     Mさんたちのグループは、週1回の健康体操のほか、今年の春から月に1回、近郊の山にハイキングに出かけています。これからの季節のハイキングでは、次のことに気をつけてください。

     ①山は天候が変わりやすい。陽だまりは暖かいが、北側は風もあり、相当寒いことがある。
     ②天候が変わったら、無理をしない。特に風は、体感温度を低下させる。低山でも侮らない。
     ③体温調節の可能な重ね着で出かける。歩くと体温が上がり、汗が出るので、吸湿性のよい下着を着る。その上にはウール製のジャケットやズボンを。急な雨や雪でぬれないよう雨具は必携。
     ④寒さを感じやすいのは、手、足、耳などの末端部。手袋、保温性のあるソックス、耳あてのある帽子は、必需品。
     ⑤風を防ぐにはウインドブレーカーや通気性のよい登山用の上着を。下にダウンジャケットやフリースを着ると防寒にもよい。
     ⑥お弁当やお茶のほか携帯食(非常食になるもの)を持参する。
     ⑦寒さによる障害(凍傷・低温症)を起こしやすい原因は、次のとおり。

      氷点下の気温/風速の増大/防寒具の不備/濡れた衣類/長時間、寒さにさらされる/疲労/けが/脱水状態/栄養不良/意欲の低下/アルコール類の多量摂取など


    【Point】運動指導等に携わる人は
     積雪や路面の凍結があり、寒い地域では、冬の間に運動習慣が途絶えてしまうことがあります。ウォーキングサークルが、積極的にウォーキングスキー(歩くスキー)を取り入れた例もありますが、できれば、室内での運動に切り替えて、冬を乗り切りたいものです。経験がなくても楽しくできるニュースポーツなどを取り入れてみてもよいでしょう。
     運動を継続できるように、10月ごろからは、室内でできる楽しいプログラムを掲示して、参加を呼びかけるようにしましょう。

    武井 正子(順天堂大学名誉教授)
    【健康づくり 2005年11月号】

  •  寒くなると、外に出るのがおっくうになりがちですが、運動不足が続くと体力は低下します。そうならないためにも、ウォーキングなどを行って、意識的に体を動かすことを心がけましょう。

     ただし、冬は体が冷えていて、筋肉が硬くなっているため、運動前にしっかりとウォーミングアップを行うことが大切です。

     また、暖かい家の中から急に寒い外へ出ると、急激な温度差が血管を収縮させ、血圧を上昇させてしまいます。急激に血圧が上がると脳や心臓などへの負担が高くなるため、血圧の高い人は、できるだけ暖かい時間帯を選んで歩くようにします。そしてウォーミングアップをしながら、体を寒さに慣らすようにしましょう。

     まずは、軽く足踏みをして全身の血液の循環をよくします。そのあとに背伸びや上体回しをして筋肉をストレッチングします。無理にストレッチングを行うと、筋肉や腱などを痛めてしまう危険がありますので注意しましょう。ウォーミングアップのストレッチングは痛みを感じない気持ちのよいところで反動をつけず、呼吸は普通に、いまどこを伸ばしているのか意識しながら10分から15分、行うことが大切です。また、ウォーキングの後にもクールダウンを行って筋肉をほぐしましょう。

     気温が低い冬は、防寒対策や水分補給にも注意が必要です。以下の点に気をつけましょう。

    【防寒対策】
     ●衣類 歩いているうちに体温が上がってきますので、体温調節がしやすいように薄手のウエアを重ね着するとよいでしょう。肌着は、汗を吸収し、速乾性に優れた化学繊維製のものがお勧めです。寒いときは、ウインドブレーカーなどをはおると、保温性もよくなります。
     ●帽子 キャップ、ハットなどの耳まで覆うタイプのものや防水加工がされているものは頭が雨や雪でぬれるのを防いでくれます。
     ●手袋 手袋をするとセーター1枚分ほどの保温効果があるともいわれています。また、保温効果以外にも、万が一転んで地面に手をついても手袋をしているとけがを軽減することができます。さまざまな形のものがあるので、お好みのものを選びましょう。

    【水分補給】
     ウォーキング中の水分補給も忘れてはいけません。夏場は、暑さから水分補給の必要性を感じる人も多いと思いますが、冬場も体温の上昇によって汗をかくため、水分が失われてしまいます。ウォーキングを始める直前と、ウォーキング後に約200cc(コップ1杯程度)ほどとりましょう。また、歩いている途中でも、のどの渇きを感じる前(20分~30分おきを目安)に飲むとよいでしょう。ミネラルウオーターやお茶などがお勧めです。


    【Point】運動指導等に携わる人は
     冬は道路が積雪や凍結などで滑りやすくなっていることがあります。ウォーキングを始める前に道路の状態を確認し、凍結がひどい場合はウォーキングを控えましょう。天候の悪い日が続くと家から出ず、それを機にウォーキングをやめてしまう人も出てきますので、家の中でも簡単にできるエクササイズの方法などをアドバイスするとよいでしょう。
     たとえば、いすを使って足首回りやひざの曲げ伸ばしをしたり、足踏みやもも上げなどをこまめに行って、筋肉が硬くならないようにしましょう。また、リズミカルな音楽に合わせてステップを踏むのもよいでしょう。

    深見 賢一((社)日本ウォーキング協会専門講師)
    【健康づくり 2006年12月号】

  •  海やプールにかぎらず、まず一般的に飲酒時の運動について考えてみましょう。これは2つの面から考えるとわかりやすいと思います。その一つは、アルコールの心循環機能に対する影響です。もう一つは、アルコールの運動機能や判断力に対する影響です。

    まず、アルコールは心臓の筋肉の収縮力を弱めることがわかっています。実験によると、ビールコップ1杯程度の少量の飲酒でもその効果が表れ、その影響は血中アルコール濃度がゼロになった後も続くようです。慢性的に大量飲酒を続けていると心筋を障害し、心臓のポンプ機能が落ちてきます。運動をすると、四肢の筋肉はふだんより多くの血流を必要とし、心臓のポンプ機能を上げることを要求します。しかし、アルコールで収縮力が落ちているわけですから心臓には過分の負担がかかることになります。

    アルコールはさらに不整脈を起こすことでも有名です。一般的に頻度の最も高い不整脈は心房細動です。長期の大量飲酒だけではなく、たった1回の大量飲酒でも心房細動を引き起こすことが知られています。

    アルコールはまた、突然死の原因として重要な心室細動を引き起こすことも知られています。特に虚血性心疾患など既存の心疾患があるときのアルコールが危険とされています。飲酒後の運動は特に危険で、突然死を引き起こす可能性が高くなります。

    アルコールは運動機能だけでなく判断能力をさまざまなレベルで障害します。スピードを要求されるスポーツや判断を誤ると危険なスポーツ(スノーボードや多くのマリンスポーツなど)でアルコールが多くの事故の原因になっているのはそのためです。

    ご質問の海やプールですが、飲酒と水難事故との間には密接な関係が報告されています。2003年までの世界の文献のまとめによると、溺死の30~70%に飲酒が関係していたとのことです。また、わが国の研究でも、血中アルコール濃度を測定した溺死体の73%からアルコールが検出され、血中濃度は平均で0.2%であったとのことです。さらに、浅いプールに飛び込んで脊髄損傷を起こす事故も稀ならず報告されています。米国のある報告によると、これらの半数が飲酒後に起きていたとのことです。

    以上より、運動の激しさにかかわらず、飲酒時の運動は避けるべきです。特にマリンスポーツは溺死の危険と隣り合わせていることを忘れないでください。

    【参考文献】
    (1)樋口進(編)健康日本21推進のための「アルコール保健指導マニュアル」社会保険研究所 東京 2003
    (2)DeVivo MJ et al. Spinal Cord 35:509-515, 1997.
    (3)Driscoll TR etal.InjPrev10:107-113, 2004.


    【Point】保健指導等に携わる人は
     アルコールと心臓のポンプ機能および不整脈については本文のとおりです。一方、運動時には、目の俊敏な動き、体の敏感な反応、瞬時の正しい判断などが要求されます。これら一連の反応は0.02%程度の血中アルコールで障害されるといわれています(標準体重の男性の場合、ビール350mlでこのレベルに達することがある)。飲酒量がさらに増えると運動機能や判断力の低下がさらに進みます。また、運動前日の飲酒は、けがのリスクを有意に高めることも報告されています。
     運動時のみならず、運動する前からも飲酒を控えるように指導してください。激しい運動の場合には、特にこの指導を徹底しましょう。

    樋口進(国立病院機構久里浜アルコール症センター副院長)
    【健康づくり 2009年8月号】

エクササイズガイド

  •  「エクササイズガイド」は、ふだんの生活のなかの動きすべてが健康づくりに役立つというのがコンセプト。そこで、通勤や家事なども含めて「週23エクササイズ」以上を目標に運動や生活活動を行うことを提唱していますが(表参照)、3メッツ未満の弱い身体活動は目標に含まれていません。3メッツ未満の活動の場合、どれだけやったかを意識し、実施時間を記憶するのが難しいためです。

     ヨガやストレッチングは、2・5メッツと低強度のため、「23エクササイズ」の計算には含まれませんが、やっても何の効果もないということではありません。消費エネルギーや身体活動量が増えることは、間違いありませんし、柔軟性の向上、関節可動域の拡大、肩こり・腰痛予防、血行の改善、代謝促進、筋肉痛の予防、リラックス効果などのメリットが期待できますので、今後も続けることをお勧めします。

     また、最近では「ニート(NEAT)」という言葉が注目されており、これが多い人は肥満しにくいことが示唆されています。

     NEAT(Nonexercise Activity Thermogenesis)を日本語に訳すと「非運動性熱生産」。日常生活などで無意識の行動に伴い消費される熱量のことです。同じように過食しても太りやすい人と太りにくい人がいる理由の一つは、NEATが高い人はまめに体を動かす習慣があり、その分カロリーを消費しやすいからなのです。したがって、ヨガやストレッチングにも、ある程度の肥満防止効果があるといえます。

     とはいえ、減量や体力の向上を目的にするなら、低強度の運動だけでは不十分です。減量の場合は、食事をそのままにして、NEATだけ増やしても効果は望めません。加齢に伴う筋力の減少を防ぐ効果も乏しいといえます。

     健康面だけでなく、天気のよい日などに戸外で散歩やジョギングをしたり、好みのスポーツを行うのは、爽快なもの。こうした3メッツ以上の運動・身体活動も積極的に行ってみてはいかがでしょう。

    表●「エクササイズ」、「メッツ」とは?

     ★「メッツ」とは、身体活動の「強さ」の単位。座って安静にしている状態を1メッツとして、歯磨きは2メッツ、ボウリングは3メッツ、速歩は4メッツなど、活動内容によって強度である「メッツ」が決まっています。

     ★「エクササイズ」とは、身体活動の「量」を表す単位。メッツに活動の実施時間をかけて求めます。
      〈例〉速歩30分の場合4メッツ×1/2時間=2エクササイズ


    【Point】運動指導等に携わる人は
     過大な期待は禁物のNEATですが、太りにくい体にするためには、こまめに体を動かすことが大事だという考え方は重要です。
     「1日1万歩」や「週3~5回のトレーニング」ができればベストですが、無理なく日常生活の中で活動量を増やすきっかけづくりとしてNEATは有効でしょう。
     エクササイズガイドでは3メッツ以上の強度の運動・身体活動のみを対象としていますが、これは3メッツ未満の身体活動の実施時間を記憶できないということに加えて、ヨガ等の低強度の運動により生活習慣病の発症が予防できることを証明した質の高い論文がないことが背景にあります。ただ今後、低強度のヨガ等の運動の効果が証明される可能性もありますし、どんなに低強度でも、何もやらないよりはやったほうがよいのは当然のことだといえます。

    田中 宏暁(福岡大学スポーツ科学部教授)
    【健康づくり 2007年1月号】

  •  通勤時の歩行、掃除、買い物などの「生活活動」と、ジョギング、水泳、サッカーなどの「運動」をあわせて「身体活動」と呼んでいます。エクササイズガイド2006では週23Ex(エクササイズ)以上の活発な身体活動が生活習慣病予防に効果的だとしています。歩行なら1日8千~1万歩歩くと週23Exを達成できます。また週23Exのうち、4Exは運動を実施することを推奨。これは、たとえばジョギングなら週約35分に相当します。

     では週23Exの身体活動を推奨する根拠は何なのでしょうか。エクササイズガイド2006の作成にあたっては、身体活動と生活習慣病予防の関連を調べた根拠の明確な論文を世界中から集めて、内容を精査しました。その結果、生活習慣病予防に効果がある身体活動量は、週19~26Exだとわかりましたので、その平均をとって週23Exを推奨することになりました。

     それらの論文では、対象者を身体活動量の少ないグループと多いグループに分けて、その違いが将来の生活習慣病発症率に影響するかどうかを調べています。もちろん生活習慣病になるかどうかは、身体活動量だけで決まるものではありません。性・年齢や喫煙習慣、代謝性危険因子の有無などの要素も絡むため、論文では、身体活動以外の影響を排除して分析しています。つまり、身体活動量以外の条件が同じ人を多数(たとえば数百人)集めてきて、一つの群の身体活動は週23Ex以上で、もう一つの群は19Ex未満であれば、週23Ex以上の群のほうが生活習慣病になる確率が低いというわけです。

     以上の意味において、ご質問の回答はイエスです。ただし、これらは確率の 問題であり、身体活動量が多ければ絶対生活習慣病にならないわけではありません。逆に、全然身体を動かしていない人が生活習慣病にならない可能性もあります。しかし生活習慣病になりたくないのであれば、週23Exの身体活動はやってみる価値があります。

     できる人は、そのうち週4Ex以上の運動を行えば、さらに生活習慣病のリスク低下が期待できます。 そもそも身体活動や運動は、食事制限などと異なり、必ずしもがまんを強いるものではありません。日常生活を活発にすることはちょっとした工夫で可能ですし、少し汗を流す程度の運動を行うことは、爽快で快適なものです。「生活習慣病にならないため」「爽快な気分を味わうため」「若々しい身体や気持ちを維持するため」、運動・身体活動の目的はさまざまでしょうが、まずは楽しいと思える範囲で取り組めるとよいですね。

    <Ex(エクササイズ)とは>

     ★Ex(エクササイズ)は、身体活動の量を表す単位。身体活動の強度(メッツ)に身体活動の実施時間(時)を掛けたもの。
     ★Mets(メッツ)は、身体活動の強さを安静時の何倍に相当するかで表す単位。座って安静にしている状態が1メッツ、普通歩行が3メッツに相当する。
     ★Ex(エクササイズ)からエネルギー消費量を求めることができる。エネルギー消費量(kcal)=1.05×エクササイズ(メッツ・時)×体重(kg)


    【Point】運動指導等に携わる人は
     週23Exという基準値は、集団の中で身体活動・運動量が最も低い群よりも、各生活習慣病罹患が統計的に有意に変化する群の各指標の下限値です。したがって、より多くの身体活動・運動量のほうが効果が高いと考えられます。また、肥満者の減量を目的にする場合は、週23Exでは不十分ですので、より運動量を増やすか、摂取カロリーの減少を含めて総合的に助言してください。

    田畑 泉(国立健康・栄養研究所健康増進プログラムリーダー)
    【健康づくり 2007年9月号】

  •  運動ではなくても、日常生活で活発に体を動かすことによって健康の維持・増進は可能です。

     厚労省が平成18年に策定した「健康づくりのための運動基準2006」によると、健康づくりのためには週23エクササイズ(メッツ×時)の活動量が目標とされています。これはたとえば、毎日3.3メッツ(運動の強度を示す単位)×1時間×7日で達成できます。毎分67m(1時間で4km)ぐらいの普通歩行が3メッツに相当しますので、それと同じかそれ以上の活動を、毎日1時間程度実施するように努めてみましょう。もし、週末に時間をとるのが難しいのであれば、平日の活動量を増やして、1週間当たりの合計値を増やすようにしてみてください。

     具体的には、買い物でも散歩でもかまいませんので、外出の機会を増やすことが確実な方法です。その場合、できればJIS規格を満たす歩数計を購入し、少しずつ歩数を増やすようにしてください。1000歩でおよそ10分に相当します。

     1週間で23エクササイズをクリアするのに必要な1日の生活活動量は、歩数にして8000歩から1万歩程度です。しかし、いきなりこのような歩数を達成目標にしなくても、わずかでもできる範囲で量を増やすことから始めましょう。最初の1か月で1000歩増やし、次の1か月でさらに1000歩増やし…といったように、慣れてきたら少しずつ活動量を増やす目標を設定しましょう。もちろん、1000歩ではなく500歩でも、1か月ではなく半月でもかまいません。そのときの目標が達成できたら、次の目標を決め、少しずつ活動量を増やしていきましょう。目標が達成できないのは、無理な目標を立てているためと考えられます。95%達成可能で短期的な目標を立てましょう。

     そうはいっても、なかなか外出できないこともあるかもしれません。その場合は、歩数にこだわらなくても、床掃除、部屋の片づけ、庭仕事、洗車、子どもと遊ぶなどの活動を含めて、毎日60分程度行うことをめざしましょう。たとえば、床掃除を毎日20分実施すれば、1日当たり3メッツ×(20÷60)時間=1エクササイズを稼ぐことになります。掃除をする時間を増やすことによって、健康になるとともに、みんなが気持ちよく過ごせることになるのであれば、一挙両得です。特別に時間をとらなくても、家事を行いながらの「ながら」体操も実施できます。

     活動量を増やした生活を継続させる工夫としては、冷蔵庫等に目標とする運動内容(たとえば歩数)をはったり、玄関の目立つところにウォーキングシューズを置くなどして、実践のためのきっかけや合図になるものを身の回りに散りばめましょう。家族や友達の前で「やるぞ」と宣言し、応援してもらったり、一緒に体を動かしてもらえるように頼んでみるのもいいでしょう。


    【Point】運動指導等に携わる人は
     指導・相談の場においては、話をよく聞き、どんなことができそうか自分で気づけるように支援してください。また、開始後も、何ができなかったかではなく、何ができたかを強調してください。自信をもたせ、目標設定から活動の実施まで自分でできるようになってもらいましょう。
     なお、歩行の場合は、室内でのこまごました歩行を除いたうえで、10分 でおよそ1000歩程度と推定できます。室内の活動については、歩数計でも把握しづらいのですが、明らかな休憩等は除くように指導してください。

    田中茂穂(国立健康・栄養研究所 健康増進プログラム エネルギー代謝プロジェクトリーダー)
    【健康づくり 2009年2月号】

筋肉痛

  •  筋肉痛は、運動によって筋肉もしくは筋膜に微細な損傷が起こり、その損傷部位に起こる炎症反応が進むことによって生じます。この炎症反応には時間がかかるため、痛みは通常、運動の翌日以降に現れます。痛みが遅れて現れることから、生理学的にはこれを「遅発性筋痛」といいます。

     ジョギングは、筋肉にかかる張力はあまり大きくありませんが、筋肉痛が起こりにくい運動とはいえません。6METs以上の運動強度が持続され、毎回の着地動作で、筋肉痛の起こりやすいエキセントリック収縮(筋肉が伸ばされながら短縮する力を発揮する収縮様式、いわゆるブレーキ動作)を行うからです。

     筋肉痛があるときは、ウォーミングアップでその筋肉を軽く動かしたり、マッサージをして痛い部位の血流を促進すると、痛みが和らいで運動を行いやすくなります。これは炎症の際に生成されるプロスタグランジンやヒスタミンなどの痛みを誘発する物質(サイトカイン)の血流による除去が促進されるからと考えられています。ただし、痛みが軽減するとはいえ、筋肉の損傷自体が回復しているわけではありません。基本的には、筋肉痛があるときはあまり無理をするべきではないでしょう。その日のジョギングは軽めにするか、休むべきだと思います。

     運動後、疲労の残った筋肉は、緊張がとれず筋肉がこわばった状態になっています。筋肉の緊張とは、筋肉にわずかに力が入り続けていて、脱力できない状態のことです。筋肉が緊張を続けてこわばった状態は筋ポンプ作用が働きにくいため、血液循環を悪化させます。血液循環が滞ると、うっ血によりしみ出る水分などによって周辺組織を硬化させるという悪循環に入ります。その結果、筋疲労による筋肉のこわばりやこりが生じてしまいます。運動後のクーリングダウンでは、軽く筋肉を動かして乳酸などの代謝産物を除去(燃焼して使う)すること、ストレッチングを入念に行うことで、運動後の筋緊張が抑えられ、筋肉痛等の運動後の筋疲労も低減できると考えられます。

     同じ強度の運動を行っても、筋肉痛が激しく起こる人とほとんど起こらない人がいます。これは運動を繰り返すことによって、筋肉痛に対する耐性ができることが主な理由です。継続的な運動習慣によって、筋肉痛はだんだんと起こりにくくなるのです。

     これからジョギングを始める人は、最初からはりきってたくさん走るのではなく、徐々に走る距離や速度を上げるようにして、ジョギングによる筋肉痛に体を慣らす必要があります。筋肉痛に対してだけでなく、徐々に体を慣らすことは、整形外科的な傷害や内科的事故を予防するうえで、大切なことです。


    【Point】運動指導等に携わる人は
     筋肉痛に対する処置の一つにアイシングがあります。アイシングは、運動により微細な損傷の起きている筋肉を冷やすことで、炎症反応を抑えることを目的に行います。
     しかし、炎症とは、損傷部位の回復のために起こる修復症状ですから、あまりむやみにアイシングを行うことには疑問が残ります。この辺りの問題に対する学術的な結論はまだ出ていませんが、炎症を抑えるアイシングのみに頼るのではなく、運動後の筋肉の状態を良好に保ち、回復を進めるストレッチングなどのクーリングダウンなどをしっかり行うことを指導することが重要です。

    宮地 元彦・谷本 道哉(国立健康・栄養研究所健康増進プログラム運動ガイドライン)
    【健康づくり 2008年9月号】

筋力トレーニング

  •  スクワットはトレーニングの王様といわれます。一回の動作で多くの筋肉を効率よく鍛えられるだけでなく、二足直立し歩行する、物を持つ、重い物を動かすなど、人の基本動作に通じるためです。

     ひざが痛む要因としては、回数が多すぎる、重すぎる重りを持って行った、体調が悪い、ひざに病気があるなどのほか、基本に外れた悪いフォームが考えられます。

    【正しい動作や注意点】
     スクワットとは「しゃがむ」という意味です。ひざを曲げてしゃがみますが、このとき股関節、足関節も連動して曲がりますので、よいアライメントで行うことが大切です。アライメントとは骨、関節の並べ方のことで、まっすぐに並べないと関節に無理な力がかかります。つま先とひざを曲げる方向、足関節とひざ関節の曲げる方向を一致させます。また、ひざだけでなく意識して股関節を曲げるよう行う必要があります。では、正しい姿勢を保持するコツとしてコーナースクワットで説明します。

    【コーナースクワット】
     図のように、部屋のコーナーに立って左右の壁に足をつけるように置きます。左右同じ距離・おおよそ1歩くらい足を進めて、左右対称に足を広げ、腰を下ろします。両手を両ひざに置き、壁に押しつけながら腰を上下します。上半身を前傾させ、足の中央に荷重するような姿勢をとります。1日10セット、1セット5~6回を繰り返すようにします。

     鍛えられる筋肉は抗重力筋(立つために使う足腰の筋肉)です。ひざの上で硬くなるのが大腿四頭筋で、下腿三頭筋や前脛骨筋も使われます。下腹に力を入れて行うと腹筋、背筋にも力が入ります。股関節の伸筋であるハムストリング筋にも力を入れて行いましょう。

     負荷のコントロールは、若い人ならバーベル等の重さ・上げる回数で加減します。自体重で行う場合は、腰を下ろす角度で調節し、深く曲げてもひざの角度は90度までにしましょう。

    図●コーナースクワット

     ★足はコーナーからおおよそ1歩前。

     <注意点>
     ★足関節とひざ関節の曲げる方向を一致させる。
     ★ひざと骨盤が壁から離れないようにする。
     ★ひざがつま先より前にいかないように足の位置を注意する。


    【Point】運動指導等に携わる人は
     高齢者で股関節周りが硬い人は、コーナースクワットは難しいようです。ストレッチングをしながら、徐々にできるように指導しましょう。
     筋力のない高齢者には、机とやや高いいすを用意します。机に両手を置いて立ち上がる、座るをゆっくりと行います。筋力が出せるようになったら、両手から指1本へと机に置く力を徐々に減らし、さらに、いすを低くしていきます。最終的にはいすにおしりが着かないようにと進めていきます。
     スクワットの形ができたら、下腹に力を入れるように指示します。腹筋・背筋に力が入るのがわかったら、肛門を締め骨盤底筋に力を入れるコツを指導しましょう。

    渡會 公治(東京大学大学院総合文化研究科・教養学部広域科学専攻助教授)
    【健康づくり 2007年3月号】

骨粗しょう症

  •  骨は加えられる力に応じて増えたり減ったりすることが明らかにされています。つまり、骨に刺激を加えれば骨を増やす働きが活発になり、逆に骨に加わる刺激が少なくなれば骨を増やす働きも減り骨が減ってしまいます。実際、体重や衝撃の加わる競技のスポーツ選手の骨は非常に強くなっており、宇宙飛行のように無重力で刺激が加わらない宇宙飛行士は、短期間に急速に骨が減ってしまうこともよく知られています。

     したがって、骨粗しょう症を予防するために骨の減少をくい止め増加させるには、骨の材料であるカルシウムの摂取だけでは十分でないことは明らかで、骨に運動による刺激を与えることが必要です。もちろん、運動の刺激が加わることで骨を作る働きが高まったときに、骨の材料や骨を作るために必要なビタミンやホルモンが不十分では骨は増えません。そのような意味で必要量のカルシウム、ビタミンD、ビタミンKなどの摂取に気をつけることは大切です(表参照)。

     実際に効果的な運動は、その人の現在の骨の強さにより異なります。特に、骨粗しょう症を予防する年代の方では、ある程度以上の負荷を加えた運動が必要になります。そのため、ゆっくりとしたウォーキングではまり効果が得られないという研究報告が多く見られます。また、刺激の加えられた部位の骨に効果は現れ、刺激の加わらない骨には効果が出ない点にも注意が必要です。

     重大な骨折部位である大腿骨に荷重負荷をかける運動では、ジョギングや縄跳びのようなジャンプ運動が推奨されます。骨折の多い橈骨や上腕骨頚部など上肢への負荷を加える場合は、力士の基本運動である「鉄砲」や壁押しがよいでしょう。筋力トレーニングでは、ゆっくり力を発揮する運動よりも素早く力を出す運動が、等尺性運動よりも動的な運動が効果的とされています。

    表●骨形成に役立つ食品
     (1)カルシウムの豊富な食品
      牛乳・乳製品、海藻類、小魚、豆類・大豆製品など
     (2)ビタミンDの豊富な食品
      魚、キノコ類、鶏卵など
     (3)ビタミンKの豊富な食品
      緑黄色野菜、海藻類、納豆など
    (注)バランスのよい食事を心がける必要があります。

    図●「鉄砲」運動や壁押し
     壁に向かって両脚を前後に開いて立ち、前傾しながら体重をかけるように片手を交互に押し込むようにする(突く)運動。両手で押して(突いて)もよい。


    【Point】運動指導等に携わる人は
     女性は閉経後に骨量が減少し、骨粗しょう症リスクが高まります。閉経後の女性を対象にした多くの研究で、運動は骨量の増加に効果的だと確認されていますが、運動を中止するとその効果は消失するという報告が多く、継続がとても重要です。
    もしジョギングやジャンプ運動により膝などに痛みを生じ、かつその痛みが30分以上続く場合は、その運動が適していない可能性が高いため、運動の種類・量の変更を検討しましょう。
    なお中高年女性で、通常の食事では十分なカルシウム(1日600mg以上)が摂取できない場合は、カルシウムサプリメントを勧めてみるのもよいでしょう。

    鳥居 俊(早稲田大学スポーツ科学学術院准教授)
    【健康づくり 2010年3月号】

サイクリング

  •  自転車をこぐ運動は、平地や緩やかな坂を上る程度なら、効果的な有酸素運動です。定期的に継続すれば、血液性状の改善や体脂肪率の低下など、生活習慣病の予防になります。また、周りの景色の変化や風を受ける爽快感など、メンタルな側面からも効果的といえます。さらに、坂道走行などで負荷をかければ、下半身だけでなく上半身の筋肉も鍛えられ、運動不足の方の健康づくりには最適です。

     自転車の車種として2つ候補を挙げます。一つ目はクロスバイクというマウンテンバイクを改良したものです。トップチューブが低く初心者にも安全で、タイヤはブロックパターンがなく舗装路での走行性をよくしてあります。また、フロントサスペンションが付いているなど、少々の段差にも耐えられる設計になっています。もう一つはシティサイクルから開発された通勤専用自転車です。多段ギアや泥よけ、安全のための自動点灯式のライトなども付いています。これだとスーツのまま乗れます。

     サドルの高さは、またがって両足のつま先がやっと地面に着くぐらいにします。そうすると、こぐ際にひざの角度が90度以上になり、力を出しやすく疲れにくくなります。停止するときはサドルの前に降り、トップチューブをまたいで両足を地面に着けます。走り出すときはペダルを踏み込み、立ちこぎの状態からサドルに乗ります。慣れないうちは恐怖心もあるでしょうから、若干低めにしてもよいでしょう。

     自転車通勤に際して最も注意しなければならないのは交通事故です。

     自動車との事故で多いのは自動車の左折時の巻き込みと、自動車が右から出てくるときの出合い頭です。自動車の運転手は他の自動車に注意を払っていて、あまり自転車を見ていません。運転手とアイコンタクトするようにしましょう。

     夜間走行のときには必ずライトを点灯し、テールライトも割れたり曲がったりしてないか確認しておきます。チェーンカバーが付いてない場合はすそテープを右足首に巻いてズボンがチェーンに巻き込まれないようにします。

     自転車通勤を始める際は、まずは休日などにゆっくりとしたペースで職場まで往復して身体を慣らしましょう。そのときに、所要時間、路面状況、交通状況、危険個所などを確認しておきます。

     自転車は風を受け汗がすぐに乾くので水分補給を忘れがちです。乗る前後に補給しましょう。気温の高い日は途中での補給が必要です。

    体力がつけば坂を上るなどして負荷をかければ、筋トレの効果も得られます。帰りにやや傾斜のある坂道を選んでダンシング(立ちこぎ)で上ってみましょう。腕や足腰が鍛えられます。


    【Point】運動指導等に携わる人は
     運動不足の人がいきなり長距離を乗るとひざを痛める可能性があるので、通勤を始めるまでに軽いトレーニングで身体を慣らしておくよう指導してください。
     坂を上るとき、シッティングよりもダンシングのほうが脚にかかる負荷を分散できることを体感してもらってください。ダンシングを指導する際のポイントは、ひざと腰を伸ばしてハンドルを倒した側の腕を引き、起き上がってきたら反対の腕で押し出すことによりペダルに体重をかけるようにすることです。また、何度か練習するとどのギアが効率がよいかつかめるようになることもアドバイスしてください。

    岡内優明(大分大学工学部福祉環境工学科准教授)
    前田寛(大分大学工学部福祉環境工学科教授)
    【健康づくり 2009年1月号】

サウナスーツ

  •  以前、スポーツジムにやってきた高校生のA子さんは、トレーニングウエアの上にサウナスーツ、毛糸のレッグウォーマーというスタイルで、エアロビクスやトレッドミルで走っては、何度も真剣な顔で体重計に乗っていました。理由を聞いたところ、2日後の学校での身体計測までにどうしても5kgやせたいということでした。

     ボクシングなどの体重制限のあるスポーツでは、食事も水分の補給もせず、サウナスーツで運動し、一時的な減量をめざすこともあります。しかし、これは特殊な場合。

     汗をかくと体内の水分量が減り、体重は、一時的に減りますが、その後、水を飲んだり、食事をしたりすると体重は元に戻ります。

     やせるというのは、水分を減らすことではなく、体脂肪を減らすことです。体脂肪を減らすためには、短時間にハードな運動をするよりもウォーキングやジョギングなどの有酸素運動に筋力トレーニングなどを加え、継続的に実施することが必要です。

     若い女性では、特に痩身願望が強く、文科系の女子大生にアンケート調査をしたところ、80%が体重に関係なく「もっとやせたい」と回答し、運動する目的は「やせるため」が50%を超えていました。できれば、高校を卒業するまでに運動・栄養など健康づくりの基礎を身につけてもらいたいものです。

     成人の体は55~60%が水分といわれ、水分は除脂肪体重の70%を超えます。また、体内の水分量は、摂取量と排泄はいせつ量でバランスをとっており、それがなんらかの原因で、12~20%失われると生命の危険にさらされることになります。

     これからのシーズンは、運動中の熱中症対策が課題になります。サウナスーツを着ていると、大量に汗をかいても蒸発しないため、体温はさらに上昇し、熱中症を起こす危険が高まります。発汗によって失われるのは、水分だけではなく、血液中のナトリウムが失われると、熱けいれんを起こします。サウナスーツでの運動は、熱中症発生の環境を故意につくっているようなものです。

    競技スポーツでも健康づくりでも、運動は安全に行うことが大切です。


    【Point】保健指導等に携わる人は
    〈指導上のポイント〉
    ○運動時の服装について、動きやすく、吸湿性や通気性のよいウエアの着用や冬季の重ね着ルックでの体温調節をアドバイスしましょう。
    ○運動前後の体重測定は、発汗量の目安です。体重の減少が2%を超えないように(体重50kgで1kg)運動中の水分補給を指示しましょう。
    ○運動直後の体重の減少は、発汗等による水分の減少であって、体脂肪の減少ではないことを説明しましょう。
    ○特に中高年の運動指導では、生活習慣病予備群を想定し、無理のない運動量で安全に運動指導を行いましょう。
    (参考)1日の水分バランス

    <摂取量>飲み物から 1,300ml
         食物から 1,000ml
         代謝の際の酸化プロセスから 350ml
         計 2,650ml
    <排泄量>尿として 1,500ml
         皮膚から 450ml
         呼気で 550ml
         便によって 150ml
         計 2,650ml
    (スポーツ科学辞典 大修館)

    武井 正子(順天堂大学名誉教授)
    【健康づくり 2007年6月号】

紫外線予防

  •  運動を始めるにはよい季節ですね。特にウォーキングは特別な道具や場所がなくてもできる手軽な有酸素運動で、健康保持にはとてもよい運動です。女性の場合は、更年期以後に問題となる骨粗しょう症の防止にもつながります。骨粗しょう症は、カルシウムをとればよいと思われがちですが、カルシウムだけをとっても、運動負荷をかけなくては骨になりません。また、ビタミンDの不足も骨粗しょう症を招きやすいといわれていますので、ビタミンDを多く含む食事も心がけるとよいでしょう。

     初めてウォーキングを始めるのであれば、最初から無理をして長距離を歩くのではなく、少しずつ距離を延ばしていくことをお勧めします。思わぬ事故を防ぐためには、空腹を避け、水分補給に気をつけます。熱中症予防のためには熱のこもらない服装にし、暑い時間を避けましょう。朝は10時ごろまで、夕方は午後4時以降に歩くことをお勧めします。

     さらに、上手に紫外線を防止する工夫をしましょう。4月はまだ涼しく、気持ちよく歩くことができますが、すでに紫外線に十分注意しなければならない時期に入っています。夏になったらではなく、春分を過ぎたころから紫外線に気をつけてください。

     紫外線を防ぐには、つばの広い帽子をかぶったり、皮膚の露出を避けるために、長袖で風通しのよい服装にしたり、露出している顔にはサンスクリーン(紫外線防止化粧品)を塗りましょう。多様な強度のサンスクリーンが売られていますから、下図を参考に製品を選んでください。

     サンスクリーンは、塗り忘れないことはもちろんですが、塗る量も大切です。通常、液状のものであれば手のひらに一円玉大を2回とり、顔へ塗るのが適量です。適量を塗ることで、製品に表示されている効果が得られます。塗り忘れを防ぐためには、朝の洗顔後、基礎化粧品をつけたあとにすぐサンスクリーンを塗っておくのがよいでしょう。その上にメークをするのですが、メークが崩れていなければきちんとついていますので、そのままウォーキングに出かけて大丈夫です。なお、汗をかいたときは、ゴシゴシこすらずハンカチで吸い取るようにしましょう。そうすれば2時間程度までのウォーキング中にサンスクリーンを塗り直す必要はないでしょう。

     また、白内障を防止するためにはサングラスをかけるとよいでしょう。

    参考/環境省「紫外線環境保健マニュアル」(http://www.env.go.jp/chemi/uv/uv_manual.html)

    図●紫外線防止化粧品の選び方
     それぞれのシーンに適したSPFとPA分類
      PA(UV-A防御指数) +<++<+++
      SPF(紫外線防御指数)10~50(50+)
      ※PA・SPFは、それぞれUVA波(波長が長い)・UVB波(波長がより短い)からの防御効果を表す指標
     (1)日常生活(散歩、買い物等)→ PA10~20 /SPF +
     (2)屋外での軽いスポーツ、レジャー等→ PA20~30 /SPF ++  (3)炎天下でのレジャー、リゾート他でのマリンスポーツ等→ PA40~50 /SPF ++~+++
     (4)非常に紫外線の強い場所や紫外線に過敏な人等→ PA50(50+)~ /SPF +++
       (日本化粧品工業連合会)


    【Point】保健指導等に携わる人は
     多様なサンスクリーンが売られていますが、それぞれにおいや塗り心地、耐水性、白くなりやすさなどが違います。化粧品などにかぶれやすい方には、紫外線吸収剤が含まれていない敏感肌用と書かれているものを、プールで泳いだり、たくさん汗をかいたりする人には耐水性のあるものを推奨してください。
     また、サンスクリーンは皮膚の上に存在して初めて効果を発揮するものですから、タオルや手でぬぐったりすると効果が落ちてしまいます。落ちたと思ったらすぐ塗り直すようアドバイスしてください。

    長沼雅子(北海道大学 客員教授)
    【健康づくり 2009年4月号】

ジョギング・マラソン

  •  まずマラソンは、だれにでもできるスポーツだとの認識に立ってください。マラソンは歯を食いしばって走る苦しいスポーツと思っている方が多いのですが、実はほとんどの距離をのんびりゆっくり走るスポーツです。

     図は高齢者で非常に体力の低い人、中年の方でやや運動不足気味の人、積極的に運動をしている人の運動中の乳酸濃度を模式的に表したものです。運動の強さはじっとしているときの酸素需要量に対して、何倍の酸素需要量を必要とするかという単位(メッツ)で表しています。

     散歩であれば3メッツ、通常の歩行であれば4メッツ、階段の上りは5~7メッツ、ゆっくりジョギングは6~8メッツに相当します。だれでも共通していることは、運動の強さがある強度になるまではまったく乳酸がたまりませんが、その強度を境に強度が増せば増すほど乳酸濃度が増します。

     体力差は乳酸がたまり始める強度になります。この強度を専門用語で乳酸閾値といいますが、私たちは笑顔を保ちながら行える上限の強度なので、ニコニコペースと呼んでいます。実は市民ランナーもトップランナーもマラソンの平均スピードはこのニコニコペースに近似しています。すなわちニコニコペースであれば、だれでもマラソンを完走できる可能性を示しています。しかも好都合なことに、何も歯を食いしばって頑張らなくてもニコニコペースでトレーニングすれば、スタミナは上昇してくるので同じニコニコペースでより速く走れることになります。

     1回のトレーニング時間は、30分から1時間。数分ごとの細切れでもかまいません。週に3日以上は走るようにしましょう。特に週末はゆっくり時間をかけて走行距離を稼ぐようにします。

     トレーニングによるスタミナの上昇は20~30%。さらなる効果を期待するには努めて体から余分な脂肪を取り除くことです。過食を避け、週当たり30km以上走れるようになると1~2か月で1kg程度減量できるはずです。そうなるとますます楽に走れるようになります。

     私自身、肥満治療のために始めたこんな簡単なトレーニングで、マラソンの記録がどんどん向上しました。

    田中 宏暁(福岡大学スポーツ科学部教授)
    【健康づくり 2007年4月号】

水泳・水中運動

  •  プールの中で歩いたり、跳んだり、音楽に合わせてエクササイズをしたり、これらを総称して水中運動(アクアエクササイズ)といいます。胸から上が水面に出るくらいの水深で行いますので、泳げなくても十分に楽しむことができます。水になじんでくると、泳いでみたいという気持ちになり、高齢になって水泳を始める人も少なくありません。

     水には、「浮力」「抵抗」「水圧」「水温」 という4つの特性があります。水中運動は、これらの特性を生かしながら、楽しく運動効果を上げることができます。

    「浮力」 水中では、浮力により、体重は10分の1程度まで軽くなるといわれています。体重が重く、足腰に負担がかかる人も、水中では楽に運動することができます。また、全身を浮力に任せて浮いてみると、リラクセーション効果があります。

    「抵抗」 水は空気に比べ、約800倍も密度が高いため、水中で体を動かすと抵抗があるのがわかります。その抵抗を上手に利用することによって、筋力アップ、シェイプアップの効果が期待できます。

    「水圧」 水中でウエストを測ると、数センチも細くなっています。立位で行う水中運動では、腹部にかかる水圧によって、腹式呼吸が促されるだけでなく、下肢の運動による筋の収縮と水圧によって、血行がよくなります。

    「水温」 通常、水中運動は、28~30度の水温で行われます。水は空気の20倍も熱を伝えやすい性質があり、体から熱が失われるので、体温を保とうという生理機能が働き、陸上よりエネルギー消費量が増加します。

     中高年になると運動不足から肥満者が増え、高脂血症、高血圧症、糖尿病などの罹患率が高くなります。陸上では、自分の体重を支えて運動しなければなりませんが、水中運動では、「浮力」がひざや腰への負担を軽くし、適度の「抵抗」によって、マイペースで筋力アップができ、全身への「水圧」が血液の循環をよくし、心地よい「水温」によって、無理なくエネルギーを消費しながらシェイプアップ効果を上げることができます。

     水中運動は、中高年にとって楽しく安全に継続できる健康づくりの運動なのです。

    〈水中運動を行うときの留意事項〉
     1.中高年者は、メディカルチェックを受け、運動の可否、実施上の留意事項など、主治医に相談しましょう。
     2.ウォーミングアップとストレッチングをしっかり行いましょう。
     3.水に体を徐々に慣らしながら、プールに入るようにしましょう。
     4.プールの規則を守り、事故を起こさないようにしましょう。


    【Point】運動指導等に携わる人は
     安全に指導をするために次のことに留意しましょう。

     ①【施設の安全チェック】すべりやすくないか、水深は適当か、水温は適温か(高齢者では、体温の低下を防ぐため、30~32度で行う場合もある)など。
     ②【健康状態や体調のチェック】血圧、脈拍、体温などを測り、無理をさせない。
     ③基本の動作を指導し、ゆっくり楽しみながらプログラムを進める。
     ④運動中は、プールサイドから監視できる体制で指導にあたる。
     ⑤曲のテンポは、120bpm(マーチ程度)以下のさわやかでリズミカルな音楽を使う。

    武井 正子(順天堂大学名誉教授)
    【健康づくり 2005年8月号】

  •  文科省の体育・スポーツ施設現況調査(2003)によると、国内に屋内プールは公共、民間など合わせて4896施設あり、手軽にプールに通える環境が整ってきました。近年、プールでは単に泳ぐだけでなく、水中歩行やアクア・エクササイズなどの水中運動プログラムが工夫されてきました。水中運動による健康・体力づくりも大切ですが、全身で水を感じ、水を楽しむこと自体を水中運動の目的としましょう。

     プール内では、体温より低い水温の水に入るので熱が奪われやすく、浅い水深でも水圧の影響を受けます。したがって、水環境自体が身体への負荷になりますので、水中運動教室参加前に、まず治療すべき病気はないか、健康診断を受けましょう。また、体調が優れないときは、休みましょう。さらに、入水前にはプールサイドでストレッチングや軽体操など準備体操をしましょう。

     体力は目に見えませんから、わかりにくいものです。ここでは体力を、運動を発現するための「筋力」、運動を続けるための「持久力」、運動を効率よく目的に沿うように行うための「調整力」に分けて考えてみましょう。

    (1)水中での筋力‥水中では、浮力が働き、重力の影響は小さくなります。頭部を水面に出すと90%、臍まで水面に出すと50%程度重力の影響を軽減できますので、腰やひざにかかる負担が軽くなり、体力に自信のない方も運動できます。

     また、水中を移動する場合、水の抵抗を受けます。この抵抗は、およそ断面積に比例し、移動速度の2乗に比例します。したがって、水中歩行であれば、横歩きで水に当たる面を小さくしたり、ゆっくり歩いたりすれば、小さな筋力発揮で済みます。逆に抵抗を増やしたければ、手のひらを進行方向に向けたり、歩く速度を上げたりして調整できます。

    (2)水中での持久力‥軽い運動を長く続けると持久力は向上します。泳ぐ場合は、呼吸ができないと軽い運動でも長く続けられませんが、足の着くところでの水中運動ならば、長く続けられます。水中では、水圧に抗して呼吸を行うので、呼吸筋が鍛えられる利点もあります。

    (3)水中での調整力‥浮力や抵抗の助けによって、陸上より不安定な姿勢での運動が可能です。たとえば、大股歩きや腕の開閉などダイナミックな関節運動によって柔軟性や平衡性を身につけましょう。脚の運動だけでなく、腕で水をかいたり、押したりする運動を組み合わせると、神経系のトレーニングにもなります。

     なお、水中運動を継続していく過程で、水に顔をつけたり、潜ったり、浮き身でリラックスしたり、息継ぎができるようになってくれば、泳げるようになるでしょう。


    【Point】運動指導等に携わる人は
     水の特性(熱伝導率、水圧、浮力、抵抗など)を理解し、運動プログラムに生かしてください。水中運動に、水泳の基本技能を織り込むことで、受講生の興味を徐々に広げることが持続可能な健康づくりのポイントです。運動以外の、プールサイドでのコミュニケーションも大切ですが、ぬれた水着から気化熱を奪われることに注意が必要です。また、運動時間に応じて、フタ付きボトルを用意するなど水分摂取できる体制を整備しましょう。

    野村 照夫(京都工芸繊維大学応用生物学部門教授)
    【健康づくり 2008年7月号】

水分補給

  •  水は生体成分の中で量的に最も多い化合物であり、生命を維持するうえできわめて重要な役割を担っています。それは生体内ではさまざまな物質が溶け込んだ体液として存在していますが、成人男性では体重の60%、女性では55%程度とほぼ一定に保たれています。

     しかし、骨格筋の収縮によって熱が多量に発生すると、発汗によってそれを放散して体温の上昇を抑えようとしますので、体内の水分は失われることになります。特に高温多湿環境下での運動時には、発汗によって大量の水分が失われます。たとえば、マラソンレースでは1時間当たり2Lにも及ぶことがあるといわれています。

     このようにして脱水が進行すると、循環不全や高体温の持続による中枢神経障害により、重篤な後遺症や死に至る危険性も出てきます。それゆえ、体内の水分が大量に失われるような状況下では、その悪影響を最小限にくい止めるために、積極的に水分を補給しなければなりません。

     吸収を速めるために10℃前後に冷やした水を用い、摂取のタイミングとしては、まず運動を開始する30分~15分前に一定量(400ml程度)をとることが勧められています。なぜなら、のどの渇きを感じるまでには時間的な遅れがあり、渇感を感じた時点ではある程度脱水が進んでいるからです。また、脱水している状態で大量の水を摂取すると、細胞内外の電解質(塩類)バランスが崩れて、骨格筋のけいれんが起こることもその理由です。 加えて、運動中にも冷やした一定量(150ml程度)の水を、15~20分間隔で積極的に摂取します。失われる水分量が体重の2%を超えると、パフォーマンスは低下するといわれていますので、それ以内にとどめることも重要となりますが、水分補給の第一義的な目的は、あくまでも熱中症の予防にあることを忘れないでください。

     熱中症にはいくつかのタイプがありますが、命に直結するのが熱射病です。これは高体温によって中枢神経機能に異常をきたした状態で、意識障害(鈍い応答、おかしな言動、意識喪失)を引き起こして死亡する確率を高くします。このような状況が見られたら、体を冷やし(水をかけたり、ぬれタオルを当ててあおいだり、首・腋窩・足の付け根に氷やアイスパックを当てる)ながら、一刻も早く病院に搬送することが重要です。

     なお、運動によって失われるものには、水以外にも電解質と栄養素がありますので、運動後には失われた水分・電解質・栄養素を補うために、直後に電解質と糖質を含む液体を補給するとともに、食事においてはバランスのよい食事を摂取するようにしてください。


    【Point】運動指導等に携わる人は
     湿球黒球温度で28℃以上(目安として乾球温で31℃以上)のような場合には、厳重警戒を要しますので激しい運動は中止させるようにしてください。それ以下の場合でも、乾球温が24℃を超える際には、休息を多めにとったり、水分補給を積極的に行わせます。特に暑さに体が慣れていない時期では、熱中症に陥る危険性が高いことにも注意が必要です。
     なお、自由摂水では失われた量の約3分の2程度しか補われないといわれていますので、好みの量より少し多めに飲むように指導することも必要かもしれません。

    村岡 功(早稲田大学スポーツ科学学術院教授)
    【健康づくり 2008年7月号】

  •  「ウォーターローディング」とは、運動中の発汗などによる体水分の損失を防ぐために、運動前に通常よりも多くの水分を摂取する技法を指します。海外では「ハイパーハイドレーション」とよく呼ばれます。全身の体水分量を増加させ、血漿量を増大し、究極的には運動のパフォーマンスを高めることを目的に行われています。

     この技法を行うには、大きく分けて2つの方法があります。一つは通常の水やスポーツドリンクだけを飲むというものであり、もう一つはグリセロールというアルコールの一種とともに水分を摂取するというものです。

     前者の方法ですが、これは運動の30分から1時間前に2l程度の水分を摂取するというシンプルな方法です。心拍数や深部体温などを低下させたという研究例がいくつかありますが、実際に運動パフォーマンスを改良したという研究事例はありません。また、いくつかの好ましくない効果も指摘されています。まず、排尿量が増加するため、せっかく摂取した水分の多くが失われてしまう可能性が考えられます。加えて、尿意を催すことで、運動パフォーマンスに逆効果をもたらす可能性があります。また、胃腸の不快感が運動パフォーマンスを低下させるという問題もあります。さらに、摂取量が多すぎる場合やこの方法に慣れていない人では、低ナトリウム血症や水中毒といった状態に陥る危険性もあります。したがって、この方法を用いるのには十分な注意が必要でしょう。

     次に後者の方法ですが、こちらは運動前に体重1kg当たり1.0~1.2gのグリセロールを体重1kg当たり25ml~35mlの水分と一緒に摂取するというものです。グリセロールは体内で水分を多く含む組織に散布され、浸透圧を高めるといわれています。これにより、水を組織にため込むことができるため、水分のみの場合に比べ600mlほど多く水分が貯留できることがわかっています。この方法による運動への効果ですが、35度以上の暑熱下でかなり運動強度が高く、運動時間も90分以上という条件つきで、運動パフォーマンスを改良するという報告がいくつか見られます。しかしながら、これについても好ましくない効果が考えられます。その第一は、多量のグリセロール摂取による吐きけや胃腸不快感、また頭蓋内圧の増加からくる頭痛などを引き起こす可能性です。また、水分のみの摂取の場合も同様ですが、体重制限のある競技(軽量級のボートなど)や体重がパフォーマンスに影響する競技(マラソンなど)では1.5kgの体重増加はパフォーマンスを低下させることが容易に想像できます。

     いずれにせよ、これらの技法は特殊な環境下で、提案されるものです。適切なスポーツ科学もしくは医学の専門家に指導を受け、十分な実践を踏まえたうえで行うべきでしょう。


    【Point】運動指導等に携わる人は
     ウォーターローディングの効果は、専門家の間でも結果が一致しておらず、またその使用機会は限定されます。さらに多くの危険性やデメリットも内包する非常に使用の難しい技法です。アスリートにこの技法を指導する際は、個人への適性を十分な実践で確認したうえで行うようにしてください。
     一般の方には、多くの場合必要であるとはいえないようです。安易に行わないように、その正しい用途と危険性を十分に説明してください。

    樋口満(早稲田大学スポーツ科学学術院 教授)
    【健康づくり 2009年7月号】

食べ方

  •  夕食後に満たされたおなかは、夜の間に消化・吸収されて体内(血液中)に取り込まれ、朝起きたときには空腹の状態となります。では、「空腹の状態で運動しても大丈夫?」なのでしょうか。

     答えは、「大丈夫」です。

     少し専門的になりますが、口(咀嚼)・胃(蠕動)によって消化された摂取物は、最終的にはグルコースや脂肪粒となって腸で吸収されて血液中に取り込まれます。取り込まれた栄養素は、まず肝臓に送られ、血液によって全身へと運搬されます。糖(グルコース)が吸収されると、血中の糖分濃度(血糖値)が上昇しますが、この血糖の上昇に対応して血中インスリン濃度が高まって、血糖は肝臓や筋肉にグリコーゲンとして蓄えられることになります。

     つまり、確かに、朝食前にはおなかはすいているのですが、前日に摂取した栄養(糖分)は、筋肉や肝臓に蓄えられていて、使われてはいないということです(寝ている間に軈運動軋してしまう人はいませんよね!)。

     筋肉と肝臓にグリコーゲンをフルに蓄えたとしたら、2~3時間の運動が可能です。ですから軈エネルギー供給軋という観点からいえば、朝食前にジョギングを行ってもまったく支障はありません。

     一般的に運動は、筋肉でのインスリン感受性を高める効果を有しています。したがって、朝食前の運動によってインスリン感受性が高まると、血糖の取り込みが素早くなって、朝食後の血糖上昇が抑制される、という副次的効果も期待できます。

     ところで、軈エネルギー軋については早朝でも十分に蓄積されていると述べましたが、軈水分軋については、寝ている間も発汗によって失われています。ですから、朝起きた直後は軈軽い脱水状態軋にあると思っていただいても間違いではありません。朝食前に運動をやらない方にとっても、「起きがけの水分摂取」はとても大切です。ましてや、早朝の運動前には、水分摂取は必須です。これは、暑い夏だけのことではありません。冬の早朝に運動する場合も、運動を始める前に、必ず水分を摂取するようにしてください。

     ちなみに、「いつ運動をすべきか?」という問いには正解はありません。昼休みの運動でも、夕食後の散歩でも結構です。何より大切なのは、「最も運動しやすい時間帯に運動する」ということであって、ご自身の1日(1週間)の生活時間の中に組み込むことが肝要なのです。ただし「激しい」運動については、食事直後は腹部臓器への血液減少による消化不良や、就寝直前は自律神経の興奮による入眠障害を起こすケースがあるので、避けたほうがよいでしょう。

     なお、糖尿病や高血圧などに罹患されている方は、守らなければならない留意点がいろいろとあります。主治医の先生に相談して運動を進めるようにしましょう。


    【Point】運動指導等に携わる人は
     朝食前の運動は、一般の人が行う場合には、水分補給さえ気をつければ問題ありません。
     糖尿病の方にとっても、朝食後の血糖上昇を抑制するという観点からは推奨されます。ただし、運動で糖分を消費するからといって、薬物投与を勝手に控えたりする事例もあるようなので、医師の指示に従うようにとの指導は欠かせません。
     また、高血圧の方が冬場の早朝に運動する場合などは、ストレッチングなどの準備運動を行って、身体を十分に温めるように指導してください。

    中村 好男(早稲田大学スポーツ科学学術院教授)
    【健康づくり 2007年8月号】

  •  運動する前に食べる物を考える以前に、運動を開始する時間と食事時間の関係を知らなくてはいけません。

     最初に消化と吸収について考えましょう。食物を食べることにより、消化器系機能が活動を始めます。食物は、消化管において消化・吸収され、吸収されなかった物質が排泄されます。その時間は、24時間~3日といわれています。そのため、身体は、食べ物の消化・吸収をしていない状態で運動を行うことは基本的に不可能といえ、運動は、消化・吸収に影響を及ぼすこととなります。

     通常の考え方としては、食後3時間してから運動をすることを勧めています。運動によって消化管の不調が考えられる場合や、試合前の緊張している状況などでは、運動前の食事に配慮する必要があります。しかし、通常の運動前はいつも食べている食事で大丈夫です。食べすぎない、よく噛んで食べるなどの注意は、常に必要です。

     おにぎりやバナナを積極的に活用する機会としては、運動を始める時間が昼の1時である場合など、通常の食事時間に運動しなくてはならないときです。運動が終わる時間までエネルギーや栄養素が足りなくならないように、前の食事を済ませてから運動するまでの間に、運動を始める2時間ぐらい前までを目安に補食を入れる必要があります。その補食として活躍する食べ物が、糖質を多く含む穀類(米や小麦など)からできているおにぎりや果物です。

     糖質は、グルコース(ブドウ糖)やフルクトース(果糖)などのこれ以上分解できない状態(吸収されるまでに消化された状態)、すなわち、糖質の最小単位である「単糖類」のほか、スクロース(一般的にいう砂糖)・乳糖・麦芽糖などの単糖類が2つ結合して構成している「二糖類」、でんぷんやグリコーゲンなどの多数の単糖類が連なった「多糖類」に分類することができます。

     糖質というと「甘いもの」をイメージするかもしれませんが、砂糖などの甘いものだけではなく、穀類の中にあるでんぷんも糖質ということを覚えておきましょう。また、グリコーゲンは、人間の体内でつくり蓄えることのできるでんぷんです。

     糖質の働きとしては、第一にエネルギー源があります。エネルギー源となる栄養素には、糖質、脂質、たんぱく質がありますが、糖質はエネルギー源として最も使われやすく、体内で1g当たり4kcalのエネルギー源となります(たんぱく質も1g当たり4kcal、脂質は1g当たり9kcal)。

     おにぎりや果物は、運動中に使用するエネルギー源である糖質を効率よく補うことのできるものです。運動によって消費するエネルギー量を考えて補給し、運動中、質の高いパフォーマンスを維持するようにしましょう。


    【Point】運動指導等に携わる人は
     運動前の補食を勧める場合、補食の内容と量を必ず指導しなくてはいけません。
     一般の方は、運動によるエネルギー消費量を多く見積もる傾向があり、補食を食べすぎるケースが多く見受けられます。
     また、トップアスリート以外の一般競技者の場合、毎食の食事がバランスのよい状態であるならば、補食の中心となる栄養素を糖質として食品選択を考えてよいでしょう。
     食事のバランスが悪い場合には、補食のアドバイスをする前に、一般的な食生活の基本について指導をすべきです。

    鈴木 志保子(神奈川県立保健福祉大学栄養学科准教授)
    【健康づくり 2008年10月号】

  •  筋肉の生成には、炭水化物、たんぱく質、脂質のバランスよい摂取が重要ですが、トレーニングによって筋肉を増強させるなら、たんぱく質を十分にとる必要があります。トレーニングによるストレスで傷つき破壊された筋繊維の補修作業にたんぱく質が使われ、筋線維が再合成されることで筋肉が増強されるからです。たんぱく質の摂取量の目安は、一般的に必要な量が1日体重1kg当たり1g程度に対し、しっかりトレーニングする人は倍の2g程度になります。

     しかし、たんぱく質の摂取量を増やそうとすると、炭水化物や脂質なども必要以上に摂取してカロリーオーバーになりやすくなります。高たんぱくで低脂肪の食品を選べばよいのですが、摂取量も考えると体重1kg当たり2gを摂取するのは大変です(表参照)。そこで、多くのスポーツ選手が比較的低カロリーで、吸収効果の高いプロテインを積極的に活用しているわけです。

     プロテインをとるタイミングは、トレーニング後30分以内の「ゴールデンタイム」が効果的です。筋肉の補修作業はトレーニング直後から行われ、再合成を促進させ筋肉アップさせるには直後から30分以内が望ましいのです。

     ただし、プロテインをとりすぎると、余ったたんぱく質は体脂肪となり蓄積されます。多くのプロテインには糖質も含まれているので、カロリーオーバーにならないように注意しましょう。

     また、過剰摂取した場合、腎臓に負担がかかることがあります。体内でアミノ酸になったたんぱく質は腸で吸収され肝臓に運ばれますが、たんぱく質をとりすぎるとアミノ酸の代謝で多量の尿素が出ることになります。その結果、腎臓に負担がかかり、機能低下を招くことがあります。たんぱく質を多くとるボディービルダーが水分を多くとらなければならないといわれるのは、尿素をスムーズに排泄するためで、これが行われないと関節組織に尿酸結晶がたまり炎症を起こし、痛風の危険もあります。

     いずれにしても、プロテインを飲んだからといって筋肉がつくわけではないので、過剰な期待は禁物。バランスのとれた日常の食生活を土台に、トレーニングの負荷や実態に応じてプロテインは補助的に使用するのがよいでしょう。


    【Point】運動指導等に携わる人は
     アミノ酸のなかでも、BCAA(バリン、ロイシン、イソロイシン)と呼ばれる分岐鎖アミノ酸の効果が最近指摘されています。通常のアミノ酸は肝臓で代謝されますが、BCAAは筋肉で代謝され、すぐに運動エネルギーに使われるのが特徴です。トレーニング前に摂取すると筋繊維の損傷が軽減され、筋肉痛や疲労感の回復が早く、トレーニング後に摂取すれば筋肉の増強効果があるとされています。トレーニングの実態に合わせて摂取指導を行うようにします。

    福永 哲夫(早稲田大学スポーツ科学学術院教授)
    【健康づくり 2008年5月号】

  •  マラソンなど、長時間走り続けるためには、日ごろからの練習時期と試合前、当日と分けて考える必要があります。練習時期には、1日3~4食を(男性2600kcal、女性2000kcalを目安)一汁三菜(ごはん、肉や魚のおかず、野菜のおかず2品)というスタイルで、練習をやりこなす体力をつけておきます。

     マラソンのように長時間筋肉を動かすためには、できるだけたくさんのエネルギー源をため込んでおくほうが有利です。そこで、試合前の3日前あたりから、筋肉を動かすために必要なエネルギーを体に蓄積するようにします。これは、グリコーゲン(カーボ)ローディングと呼ばれる方法で、この時期は、毎食ごはん(お米)、パン、麺類、いも類といった炭水化物が多い食品を、ふだんの1.5~2倍くらいに増やし、その分、肉や魚のおかずを減らしておきます。間食には、あんぱんやバナナなどもお勧めです。これで持久力を最大限に生かす体づくりができていきます。

     試合前日や当日には、刺し身など生ものは避け(食中毒防止)、消化時間が長く、胃もたれの原因になりやすいあぶらっこいメニュー(揚げ物やステーキなど)もやめます。加熱したあっさりとした和風のメニューを選びましょう。

     当日は、スタート時間から逆算し、食事は3~4時間前に済ませておきましょう。餅入りうどんやおにぎり、厚切りトースト(ジャムやはちみつ)などがお勧めです。「空腹でもないけれど満腹でもない」という状態が理想的です。もし、緊張して食欲がない場合は、エネルギーゼリーやバナナなどでもかまいません。

     このほか、水分も重要な役割をもちます。水分補給が必要なのは練習も試合も同じです。特にマラソンでは、運動前と運動中の補給が重要です。あらかじめ水分を十分とっておき、途中でもこまめに水分を補給することが必要です。試合や練習開始30分前には、コップ1杯(200cc)程度は飲んでおきましょう。レース中など、途中で補給がしにくい場合は多めに飲んでおきます。アメリカスポーツ医学会では運動前は500ccを推奨しています。

     汗で水分を失うと、血液がドロドロになり競技能力が低下したり、体温調整がうまくいかなくなったりして熱中症の原因にもなります。水分は、真水よりもイオン系スポーツドリンクを半分程度にうすめたもの、あるいはコンビニエンスストアやスポーツ専門店等で購入可能なハイポトニック飲料を用意しておきます。これらのほうが、水分吸収効率がよく、適度なエネルギーや、発汗で失われたミネラル類の補給になります。15~30分間隔でコップ半分~1杯程度、こまめに飲みましょう。給水・補給ポイントでは、水のほか、一口サイズのバナナやエネルギーゼリー、あめなどを補給してもよいでしょう。


    【Point】運動指導等に携わる人は
     まず、練習量やレース歴、体力・持久力、けがの有無などを確かめ、本人のコンディションにマッチしたマラソンの種類(10kmやハーフ、フルなど)をアドバイスしましょう。初心者がいきなりフルマラソンを完走することは難しいことを伝えることも大切な役割です。
    <  ほとんどのスポーツドリンクは、糖分が約6%程度ありますが、運動時に水分吸収が最も早いのは、糖分2.5%以下なので「市販品を半分にうすめる」ということが重要です。ハイポトニックとは、体液より浸透圧が低いという意味で、水分吸収効率がよいもののことです。

    菊池 真由子(リゾ鳴尾 フィットネスクラブエフィ栄養アドバイザー/管理栄養士、健康運動指導士)
    【健康づくり 2008年4月号】

  •  食後は消化器官に血流が集中するので、できれば食後すぐの運動は避けるのが理想的です。食後は消化のために胃腸にたくさんの血液が必要となりますが、運動をすると筋肉のほうへ大量の血液が使われてしまい、その結果、胃腸に負担がかかってしまいます。運動強度が高いほど筋肉や心臓への血液量は増え、反対に胃腸など消化器系の内臓への血液量が減ってしまいます。そのため食後は1~2時間程度あけたほうがよいのですが、ハードな運動でなければ、そこまで休む必要はありません。

     たとえば、軽いウォーキング程度の運動であれば、多少休息時間が短くても問題はないでしょう。また、食事の量を軽くしたり、消化のよいものを選んだり、ウォーキングのペースを落としたりすることで、胃腸などへの負担を軽くすることもできます。会社の昼休みなど限られた時間内でしたら、このような工夫で実行できるでしょう。

     運動の目的等によっても、食事内容やタイミングが異なります。たとえば、筋力トレーニングの効果を最大にするためには、肉、魚、卵、豆類などのたんぱく質を適度に摂取することが必要です。また、長めの有酸素運動を行う1~2時間前には、ご飯やパンなどの炭水化物でエネルギーを摂取するとよいでしょう。

     糖尿病の人については、食後に運動を行うことで、食事摂取により上がった血糖値を速やかに下げることができます。食後に運動すると、体内の糖質が燃焼し、血糖値を下げるインスリンの働きを補うことができるというわけです。この場合も、食後すぐは避け、一定程度は休息してから行うようにします。目安としては、消化が落ち着き、血糖値が上昇してくる食後30分から1時間程度がよいでしょう。

     なお、血糖を抑える薬を服用している人は、運動によって低血糖にならないよう気をつけることが大切です。服薬中は、食前などの空腹時や血糖値が上がっていない食後すぐの運動は避けるようにしましょう。

     このように、各自の身体状況や目的によって違いはあるものの、胃腸に十分な血液が流れるよう、食後は一定程度休息するというのが基本です。


    【Point】保健指導に携わる人は
     食後すぐのほか、運動を控えたほうがよいタイミングは、朝起きてすぐや、空腹時などです。
     朝起きたては散歩程度の軽い運動にとどめるか、朝食後に時間がたってから運動するようにします。その時間にしか運動できないという場合には、アメなどの糖分をとってからにします。同様に食事前の空腹時も、できれば避けたほうがよいでしょう。特に高齢者の方には注意が必要です。
     また入浴中は、胃腸を流れる血液が減少し、消化・吸収の働きが低下しますので、食後すぐの入浴は避けましょう。
     このほか、子どもを中心に注意が必要なのがアナフィラキシー(急性アレルギー反応の一つ)です。食後に運動すると、消化管が刺激され、アレルギーの原因物質の吸収が増加し、じんましん、めまい、呼吸困難などを伴うことがあります。アレルギー反応を起こす食品を摂取しないことはもちろんですが、食後数時間は運動を控えることが予防法となります

    田畑 泉(国立健康・栄養研究所健康増進研究部長)
    【健康づくり 2006年3月号】

  •  BCAA(バリン、ロイシン、イソロイシン)は体のたんぱく質を構成するアミノ酸、それも体内では合成することのできない必須アミノ酸であり、食品では乳製品や肉類に多く含まれています。最近の研究により、BCAAのもつ多くの生理機能が明らかにされつつあります。たとえば、BCAAの中でもロイシンはたんぱく質合成を促進し、その分解を抑制します。それによって、BCAAは、体づくりに有利に作用します。この作用と関連して、BCAAを4~5g程度摂取(特に運動前)すると、運動によって誘発される遅発性筋肉痛を抑制する効果が認められました。遅発性筋肉痛はふだん運動をしていない人に発生することが多く、BCAAはこのような人が運動するときに翌日の状態をよくすると考えられています。

     また、1日に9 0分程度の激しいトレーニングを2週間連続して行い、その後にパフォーマンステストをした場合、1日12gのBCAAを摂取しながらトレーニングをすると、摂取しない場合よりもパフォーマンスが改善されることが報告されています。BCAAの摂取が筋損傷の軽減や体づくりと関係してパフォーマンスの維持、もしくは改善につながっていることが考えられますが、それ以上の詳細なメカニズムはわかっていません。

     さらに、運動を行う前に1回だけBCAAを摂取することによるパフォーマンスの効果は数多く検討されていますが、パフォーマンスを上げるとする報告と、影響なしとする報告があり、明確な結論が出ていません。

     ただし、運動前のBCAA摂取については運動中の中枢性疲労を軽減することが報告されています。中枢性疲労とは、体ではなく、主に脳が疲労を感じることをいいます。中枢性疲労は脳内でセロトニンが増加することで発生し、そのセロトニンになる前の物質が芳香族アミノ酸の一つであるトリプトファンです。よって、トリプトファンが脳内に多く取り込まれると中枢性疲労の原因となります。トリプトファンが脳に取り込まれる場合には専用の輸送体が作用しますが、実はこの輸送体はBCAAと共有されているため、運動により血中のBCAAが低下するとトリプトファンが脳に多く取り込まれるようになり、中枢性疲労の原因になることが示唆されています。しかしながら、BCAAを摂取して運動中の中枢性疲労を低下させてもパフォーマンスには影響しないことが報告されていることから、やはり1回だけのBCAA摂取がパフォーマンスに与える影響は大きくないようです。むしろ、筋肉痛などへの効果を期待したほうがよいでしょう。


    【Point】運動指導等に携わる人は
     BCAAは運動により消費されることは確かなので、運動トレーニングの期間にコンスタントにBCAAを与えることが重要と考えられます。どの程度の投与量が必要かを検討した研究はありませんが、BCAAの効果が認められている量としては1回に4~5g程度を運動前に与えるのが効果的とするデータが出ています。
     運動強度にもよりますが、血中BCAAレベルは2~3時間で元に戻るので、それ以上に長く運動を続ける場合には追加して摂取する必要があると考えられます。さらに、運動する人の疲労度に応じて増量するとよい可能性もあります。運動後、かなり消耗しているようなら、BCAAを与えると回復も早い場合もあり、試してみてもよいでしょう。

    下村吉治(名古屋大学大学院 教授)
    【健康づくり 2009年8月号】

  •  持久力とは、ひと言で表すと「バテない力」です。スタミナともいわれています。これを高めるには、全身の筋肉量を増やすことと同時に、筋肉そのものを動かすエネルギー源が必要です。

     このエネルギー源になる食品は、ごはんやパン、もち、めん類といった炭水化物です。おにぎりやどんぶりもの、チャーハンなどは、ごはんをしっかり補給しやすいメニューです。1日3食きちんと食べることはもちろん、メニューにじゃがいもなどのいも類、かぼちゃ、果物などをプラスすると炭水化物を多く補給することができます。

     また、一般的に洋風料理は、和風料理に比べて、脂肪が多く、糖質(炭水化物のうち食物繊維を除いた消化吸収されるもの)が少なめになりがちです。先に挙げた炭水化物を豊富に含む食品を、多めに食べるように工夫しましょう。

     練習時間が長くなるなどで、運動中にエネルギーの補給が必要な場合は、エネルギーゼリーを利用するのも一つの方法です。マラソンなど競技時間が長い場合は、水分補給を兼ねてスポーツ用飲料を活用する場合もあります。

     「スタミナ=肉」というイメージが強いのですが、これはよくある勘違いです。肉類は、筋肉そのものをつくる材料や、貧血予防のための鉄分の補給源にはなりますが、運動を続けるパワーにはなりません。

     筋肉をつくるのに必要なものは、肉類に豊富なたんぱく質で、その筋肉を動かすのに必要なものは、ごはんなどの炭水化物です。つまり、主食をしっかり食べることが、スタミナアップにつながるのです。

     また、補給した炭水化物を効率よくエネルギーとして燃焼するためには、ビタミンB群が必要になります。これらは卵、さば、あじ、さけ、牛肉、豚肉、牛乳、納豆などに多く含まれています。おかずとして取り入れるとよいでしょう。

     持久力を必要とする競技では、試合に向けて体内に炭水化物をため込む、グリコーゲン(カーボ)・ローディングと呼ばれる食事方法があります。試合日3日ほど前から、ごはんなどの主食を日ごろの1.5倍程度多く食べるようにして、その分、肉や魚などのおかずを減らす方法です。

     過去には1週間ほど前から調整する方法もありましたが、実行が難しく、コンディションを整えるのに失敗しやすいので、お勧めできません。3日前ぐらいからの調整でほぼ同じ効果があるとされているので、あまり厳格に考えずに行うとよいでしょう。

     このほか、鉄が不足すると集中力の低下や息切れなど、バテる原因になります。したがって、おかずとなる肉や卵などは、量を減らすことはあっても、必ず食べるようにしましょう。また、ほうれん草や小松菜などの青菜類、ブロッコリーやグリーンアスパラは、鉄が豊富であるほかに、栄養の吸収をよくして、疲労回復を促進するビタミンCも含まれているのでお勧めです。


    【Point】栄養指導等に携わる人は
     試合直前は緊張して食事がのどを通らないこともあります。マラソンや自転車などの持久力が必要な運動の場合、食べないまま競技をすると危険です。ごはんが無理なら、バナナやあんぱん、はちみつトーストなどを勧めます。
     日ごろも練習量に見合ったエネルギー量が必要なので、ベスト体重に対して、減っていれば食事量全体を増やすようにします。主食のごはんやパンなど炭水化物を多めに食べるようにしてもらいましょう。おかずにはレバーや牛肉、卵、まぐろなど、たんぱく質と鉄が同時に多く含まれる食品を食べることを勧めます。こうした食品は、貧血対策にもなります。

    菊池 真由子(リゾ鳴尾浜フィットネスクラブエフィ 栄養アドバイザー<管理栄養士、健康運動指導士>)
    【健康づくり 2010年1月号】

転倒予防

  •  毎日雨が降ると憂うつな気分になり、外出もおっくうになりますが、家に閉じこもってばかりいると足腰が弱ってきます。

     この季節、紫陽花や花菖蒲が咲くなど、なかなか風情があります。雨の日も外出が楽しくなるようにちょっと工夫してみましょう。

    ・足に合った滑りにくい靴を履きましょう。革底よりも溝の深いゴム底の靴がよいでしょう。
    ・滑りやすいのは、大理石やリノリウムなどの材質の床、横断歩道の白いラインなどです。地下街や店内も傘からの水滴で滑りやすくなっているので、気をつけて歩きましょう。
    ・傘をさしますので、バッグなどは背負うか、肩から斜めがけにし、片手を空けるようにしましょう。スーパーなどでの大きな買い物は配達してもらいましょう。
    ・できるだけ車道側を歩くのを避けましょう。また、車や自転車が避けてくれるように、明るくて目立つ色の傘を使いましょう。気分も明るくなります。
    ・足もとにばかり気をとられていると、何かにぶつかってよろけることもあります。背筋を伸ばして歩きましょう。

    ●転倒予防体操
    「体も心もリズムにのって」
     転倒予防で大切なのは、体の動きをコントロールする能力です。雨の日は運動不足になり、気分も落ち込んでしまいます。そこで部屋の中を少し広くして、楽しくステップしてみましょう(図参照)。

    ◆スクワット・ステップ
     ★右足を右に出して両ひざを曲げ両手はひざに(1、2)
     ★右足を元に戻してひざを伸ばし、拍手2回(3、4)
     ★左にも同様に(5、6)(7、8)
     以上8動作を2回

    ◆スリーステップ・ニーアップ
     ★右足から3歩歩き、4で左ひざを上げる(1、2、3、4)
     ★左足から同様に(5、6、7、8)
     以上8動作を交互に2回

    ◆クロス・ステップ
     ★右足を前に出し、左足をそろえる(1、2)
     ★左足を後ろに出し、右足をそろえる(3、4)
     ★右足を右に出し、左足をそろえる(5、6)
     ★左足を左に出し、右足をそろえる(7、8)
     以上8動作を2回


    【Point】運動指導等に携わる人は
     ★雨の日は、湿度も高く、床が滑りやすくなります。運動指導中もすぐふけるようにぞうきんなどを準備しておきましょう。
     ★エントランス付近は転倒の危険があります。傘や靴を置く場所の周辺を整理整頓しましょう。
     ★今回の転倒予防体操は、コントロール能力やバランス能力の改善に効果的です。「雨に歌えば」や「手のひらを太陽に」などリズミカルで明るい気分になる曲を使いましょう。

    武井 正子(順天堂大学名誉教授)
    【健康づくり 2006年6月号】

登山・山歩き

  • 初夏の山は、天候も比較的安定していますし、なんといっても緑の季節です。野鳥のさえずりが聞こえ、あじさい、山ゆり、れんげつつじ、ニッコウキスゲ、水芭蕉などの多彩な花々が迎えてくれます。それほど高くない山でも、随所に開ける展望や頂上に立ったときの充実感で山歩きにのめりこむ人も少なくありません。

    しかし、中高年の山歩きでは、ちょっとしたことで滑って捻挫をしたり、無理をしてひざを痛めたり、体力を過信して疲労困憊し、体調を崩すこともあります。初心者といっても個人差がありますから、余裕をもって下山できる程度の山歩きから始めることが大切です。一度は、「初心者山歩き教室」などに参加し、基本的なことを学んでおくとよいでしょう。

    ●靴選び
    山歩きは、日常のウォーキングとは異なり、上り下りがありますし、湿地帯を通ることもあります。靴は、足首をガードするハイカットのトレッキングシューズ、革靴は重いので、新素材の軽めで柔らかい靴が初心者には向いていますが、登山用具の店で相談し、履いて歩いてみて、自分に合ったものを見つけてください。防水も忘れないように。
    ●ザック 背中と腰にフィットした背負いやすいものを選びます。
    ●雨具 山は天候が変わりやすいので、セパレートタイプで雨だけでなく、保温、防風にも使える軽いものを用意しておきます。
    ●滑り止めつきの手袋 木の枝をよけたり、岩に手をかけたりするので必需品です。
    ●歩き方 アップダウンのある山歩きでは、ひざを伸ばし、歩幅を広げてかかとから着地する平地のウォーキングは通用しません。疲労するだけでなく、滑りやすく危険です。歩幅を小さくし、ゆっくり歩きます。肩幅程度の歩隔(左右の開き)で2本のライン上を歩くようにすると安定します。急な坂は、ジグザグにゆっくり歩きます。ひざを軽くまげ、靴底全体に体重を乗せるようにしましょう。下りは、特にひざに大きな負荷がかかります。最近、スキーのストックのようにトレッキングポール(2本組)を使っている人を見かけますが、足腰への負担が軽減されます。

     ひざに痛みがあるなど、気がかりなことがある場合は、しばらく山歩きを中止し、整形外科で診察を受けるようにしましょう。特に女性の50代は、変形性膝関節症になりやすい年齢です。


    【Point】運動指導等に携わる人は
     山歩きは、思いのほか筋力や持久力を必要とし、心拍数も上がり息切れすることもあります。日ごろから健康状態をチェックし、くれぐれも無理をしないように注意しましょう。水分の補給は、脱水症状を起こさないように早めに行うことが大切です。
     手を下げて歩くと、むくんでしまいます。両手は、ウエストより高い位置で組んだり、ザックのショルダーベルトを軽く握るなどして、むくみを予防します。
     休憩時には、両手を上げて深呼吸をしたり、ストレッチングをしたりして疲労を回復させます。また日ごろから山歩きに備えて、脚筋力だけでなく、腹筋、背筋などの筋力アップの運動をすること、また、万一に備え、一人での山歩きは避け、できるだけ仲間と一緒に出かけるようにアドバイスしましょう。

    武井 正子(順天堂大学名誉教授)
    【健康づくり 2006年7月号】

有酸素性運動

  •  運動をするためには、筋肉でエネルギーをつくらなければなりません。私たちは、食事で取り入れた栄養を筋グリコーゲンとして筋肉に蓄え、運動のエネルギーをつくります。短時間に大きな力を必要とする運動、たとえば、短距離走や重量上げなどでは、ほとんど酸素を使わずにエネルギーをつくることができます。こうした運動を無酸素運動=アネロビクスといいます。

     一方、息切れしない程度の運動を超時間続ける場合(たとえば、ウオーキング、ジョギング、サイクリングなど)は、筋グリコーゲンを燃焼し続けるために、一定量の酸素を筋肉に送り続ける必要があります。こうした酸素を使いながら行う運動を有酸素運動=エアロビクスといいます。

     それには、呼吸循環器系の機能が効率よく働かなければなりません。運動不足では、呼吸循環器系機能が低下し、高血圧や動脈硬化、糖尿病などの生活習慣病にり患する割合が高くなります。

     また、特に大きな下肢の筋肉を使うことがないため、筋肉が減少し、肥満しやすくなります。

     有酸素運動のなかでも、特にウオーキングは、安全で、だれにでも手軽にできる健康づくりの運動として定着してきました。

     現代人の生活では、消費エネルギーより摂取エネルギーが、1日300程度多いといわれており、運動不足の生活が続くと余分なカロリーが体内に蓄積され、生活習慣病の原因になりかねません。1万歩歩き続けることによって消費するエネルギーは約300、それが「1日1万歩」の理由ですが、最近の研究では、一人ひとりの健康状態や体力に合わせて無理なく継続することが健康づくりの基本であって、一気に歩かなくても、1回10分以上、何回か分けて歩いても、肥満を予防し、生活習慣病の予防に効果があるという報告がなされています。

     中高年で運動不足が気になっている人は、1回2000歩、1日2~3回(通勤や買い物でさっさと歩く)、週5回~できれば毎日、つまり、無理のない歩数(時間)で頻度を増やし、いつまでも継続することを心がけてください。

     なお、高血圧症や糖尿病、腰痛、ひざ痛など、健康上不安のある人は、主治医に相談するようにしましょう。

    〈正しい歩き方のポイント〉
    1.足にあった歩きやすい靴を履いて。
    2.背すじを伸ばして! よい姿勢が基本。
    3.歩幅を少し大きくすると、ひざが伸び、着地はかかとからになる。
    4.肩に余分な力を入れない。呼吸が楽になり腕を軽く振って。
    5.楽しい気分でさっさと歩こう。


    【Point】運動指導等に携わる人は
     運動を始めたてのころは意欲も高いのですが、毎日「1日1万歩」は結構大変な数。実際の体力や歩数とのギャップにショックを受けて、苦痛になったり、やめてしまったりではもともこもありません。当初の目標を「1万歩」ではなく、「継続」に置くことが重要です。まずは少なく感じるぐらいの実現可能な目標をたて、それをクリアしたら「プラス1000歩」という意識をもってもらい、現実的なアプローチをとるようにします。また、歩数計の多くはデータ保持の機能がついていますが、より長期的に管理・評価するためには歩数記録・日記などをつけ、その日の感想や自己評価なども記入しておくようすすめます。

    武井 正子(順天堂大学名誉教授)
    【健康づくり 2005年6月号】

アルコール・二日酔い

  •  お酒は体に毒という表現があります。悪酔い(気持ちが悪い・ふらふらする等)の原因は、アルコールを体内で分解する途中で毒のような働きをもつ物質(アセトアルデヒド)ができ、これが一定量を超えると不快な症状を発生させるためです。飲む量とアセトアルデヒドの量は比例するので、飲みすぎるとアセトアルデヒドの量も増え、頭痛や吐きけ、二日酔いの原因になるのです。ですから、飲酒量そのものが問題であり、乳製品で悪酔いを防ぐことはできません。

     特に、空腹のような、胃が空の状態で飲酒すると、アルコールの吸収が早く、アルコールによって胃粘膜を傷つけてしまうこともあります。酔いを感じるには30分程度はかかります。このため飲み始めの短時間で多量に飲んでしまい、気がついたら激しく酔っていたということがあります。そこで、あらかじめ牛乳や乳製品を摂取しておくと、急激なアルコールの吸収を抑え、胃を保護する効果が期待できます。

     また、牛乳をとることで、胃が膨らみ飲酒をゆっくりペースにすることも可能です。乳製品が苦手な人は、すきっ腹で飲まないようにするのがコツです。

     このように、乳製品は多量飲酒から手軽に体を守る働きはありますが、それだけで悪酔いを防ぐことは難しいです。

     健康日本21では、一日の飲酒量を純アルコール量で20gとし、アルコール度数によって目安量があります。たとえば、ビールなら中ビン1本(500ml)、清酒なら1合(180ml)、焼酎なら2分の1合弱(70ml)、ウイスキー等の水割りならシングル2杯、ワインならグラス2杯(200ml)を「節度ある飲酒」としています。たまの宴席なら楽しく過ごしたいものですが、飲酒量がわからなくなるほど飲まないようにしましょう。

     おつまみは、高塩分、高脂肪、あるいはその両方のものがほとんどです。味つけが濃い、塩辛いメニューはのどの渇きをもたらし、ますます飲酒量が増えます。揚げ物のメニューは食べすぎの原因になり、お酒のカロリーと合わせて体に脂肪をため込んでしまいがちです。

     おつまみには、枝豆や冷やっこのような大豆製品、刺身や魚貝類がお勧めです。あっさり味や和風メニューを多めにとり入れることで、肝臓を守り余計なカロリーをとらずに済みます。

     もし、二日酔いになってしまったら、どんどん水分をとって、尿として速やかに体内からアルコールを追い出しましょう。水分は、スポーツドリンクやみそ汁の汁、オレンジジュース(果汁100%)などがお勧めです。水やお茶なども冷たいと吸収がよくなります。このほか、柿やバナナなど甘みのある果物を食べ、お酒を無毒化するために働いている肝臓にエネルギーを補給するのも一つです。迎え酒は肝臓を痛めつけてしまうので絶対にしてはいけません。


    【Point】運動指導等に携わる人は
     最近は、ワインにはポリフェノールが豊富なので健康によいとか、焼酎は二日酔いになりにくく体にもよいなどといった話を耳にします。しかし、どれもアルコール飲料という意味では体内で同じ働きをするので、「飲みたい人の苦しい言い訳」と考えてもよいでしょう。
     しかしながら、頭ごなしに否定すると受け入れてもらえません。「酒は百薬の長」ともいうので、飲んで気持ちが明るくなる程度、さわやかな酔いを心がけてもらいましょう。

    菊池 真由子(リゾ鳴尾 フィットネスクラブエフィ栄養アドバイザー)
    (管理栄養士、健康運動指導士)
    【健康づくり 2008年12月号】

  •  肝臓はたんぱく質でできているので、良質なたんぱく質をとることは肝臓の再生を助けます。シジミは、タウリンなどのアミノ酸やミネラル、ビタミンが多く含まれた良質なたんぱく源の一つです。また、みその原料である大豆も、良質なたんぱく質です。みそ汁にすることで、シジミのくさみが気にならなくなりますし、汁の中に溶け出したシジミの水溶性成分もむだなく摂取できますので、シジミのみそ汁自体は、お勧めできる料理の一つといえます。しかし二日酔いするまで飲んでしまったアルコールの影響を帳消しにしてくれるほどの効果は残念ながらありません。

     大量にお酒を飲む人のなかには血圧の高い人も多く、逆にシジミのみそ汁による塩分の過剰摂取のほうが問題となると考えられます。また、長年の飲酒により肝機能の低下が進行しているケースでは、シジミに含まれる鉄分の作用によって、さらに肝機能が悪くなることもあり、シジミのみそ汁に過剰な期待は禁物です。

     二日酔いに特効薬はありません。俗にいう「迎え酒」も、アルコールによって中枢神経が麻痺するため効いた気がするだけで、一時的な気休めでしかありません。むしろ二日酔いを長引かせてしまいますし、アルコール依存症につながる危険性もあります。

     適正な飲酒量は、ビールなら中ビン1本、日本酒なら1合程度で、これは約20gのアルコール量に相当します。一方、肝臓が1時間に処理することができるアルコール量は、体重60kgの男性でおよそ6g 程度。したがって、適正といわれている飲酒量ですらアルコールの分解には3時間以上を要しますから、その何倍も摂取してしまっては、翌朝までにアルコールを分解できず、二日酔いになるのも無理のないことです。

     日本酒1日約3合以上を5年間以上飲んでいる人では、その50~80%の人は脂肪肝で、脂肪肝の人が大量飲酒を継続するとその約20%にアルコール性肝炎が発症するといわれます。脂肪肝は、お酒を控えたり、食生活を改善したり、適度な運動を続けることで改善します。

     でも、不幸にも二日酔いになってしまったとき、昔から酔い覚ましには柿がいいといわれます。これは柿に含まれるカタラーゼという酵素がアルコールの酸化を活発にさせ、アルコール分解の過程で作られる有害物質であるアセトアルデヒドの分解を進めるためです。柿に多く含まれる果糖は、低血糖状態の糖分補給にもなります。また、熱いシャワーを浴びると血行がよくなり、頭も少しはスッキリするでしょう。

     しかし、これらの療法に過剰に期待せず、それをよい機会に、休肝日を設けたり、食生活などの生活改善に取り組むことをお勧めします。


    【Point】保健指導等に携わる人は
     アルコールによりダメージが蓄積されると、やがて肝機能障害などの内臓障害を引き起こすことになるほか、肝臓以外にもすい臓、咽頭、脳、心臓などにも障害を与えたり、高血圧や糖尿病を悪化させたりします。
     とはいえ、習慣的大量飲酒者にその害を説いても、なかなか効果は得にくいもの。大量飲酒の影響が肝機能や血圧に現れていないか等を見極めたうえで、まずは運動やダイエットを勧めるなど、本人が実行可能な目標を探ることも必要です。たとえば食行動が変われば、次には飲酒行動が変わっていくという「波及効果」も期待されるからです。

    山川 正信(大阪教育大学健康科学講座・人間生態学研究室教授)
    【健康づくり 2007年1月号】

塩分

  •  塩分は、人間の体内に約200gほど含まれ、さまざまな働きをしながら一定量を保っています。その役割は、細胞を守る、血液を循環させる、食物を消化・吸収させたり、神経細胞に情報伝達したり、生命維持には欠かせない栄養素です。塩分は、体内では腎臓がうまく調整機能を働かせて、必要な量を保持しています。そのため、私たちが食べ物から必要とする塩分量はごく少量で済むようになっているのですが、必要以上に多くとっているのが私たちの食生活の実態といえるでしょう。

     塩分のとりすぎで引き起こされる害といえば、血管壁を傷め、さまざまな生活習慣病の元凶といえる「高血圧症」がまず挙げられます。とりすぎた塩分を薄めようとして水分が増え、その結果、血液量が増えて血管を圧迫します。この圧力で傷つけられた血管はもろくなり、死亡率の高い脳卒中や心臓病の原因となるのです。

     また、塩分をとりすぎると、胃の中の塩分濃度が高くなります。そうなると、塩が酸に変わって、胃の粘膜を刺激します。その状態が続くと胃壁が弱り、細胞ががん化しやすくなってしまいます。

     腎不全の原因にもなりかねません。体内の余分な塩分は、腎臓の働きで尿や汗から体外に排出されますが、塩分のとりすぎの状態が続くと、腎臓に負担がかかり腎機能が低下していきます。これを放置し、腎不全の状態になると、老廃物が排出されずに体内にたまってしまったり、体に必要なたんぱく質が排出されてしまったりします。

     ですから、日常の食生活の中でも多くなりがちの塩分をコントロールし、さまざまな病気から体を守る必要があるのです。

     ポイントの一つは無意識のうちに繰り返されている悪い食習慣を見つけ改めることです。めん類の汁を飲み干していませんか。味のついた料理にさらに調味料をかけていませんか。加工食品や漬け物をとりすぎていませんか。確認してみましょう。また、しょうゆやソースの代わりにレモンや酢の酸味を使ったり、だしを上手に活用した調理方法も効果的です。

     一方、体内の余分なナトリウム(=塩分)を排出する働きのある、カリウムや食物繊維を多く含む食品を積極的にとることも大切です。具体例としては、野菜類、果物類、いも類、豆類などです。

     食事は毎日、基本的には三度あるわけですから、毎食の小さな積み重ねが後になって大きな効果となって表れます。


    【Point】栄養指導等に携わる人は
     食塩をとると血圧が上がり、減塩すると血圧が下がる人(食塩感受性)と、塩分で血圧が影響されにくい人(食塩非感受性)の2つのタイプがいます。減塩教育を行っても降圧が認められない場合には、減塩を守らないために降圧が不十分なのか、守っていても感受性が低いために降圧しないのか識別する必要があります。減塩を心がけていても血圧が下がらないことから、減塩の努力を中断してしまわないように支援することが大切でしょう。
     血圧の下がり具合には個人差があること、減塩によって血圧が下がらなくても降圧剤を使用している場合は降圧効果が増強されること、などを十分に理解してもらうことが必要です。
     なお、カリウムを積極的に摂取するよう指導する場合、腎臓病の人は、高カリウム状態が危険を招くことがあるので注意する必要があります。

    由田 克士(国立健康・栄養研究所健康・栄養調査研究部室長)
    【健康づくり 2005年8月号】

おやつ

  •  子どもにとって、おやつは「楽しみ」の機会であるとともに、1日に必要なエネルギーや各種栄養素を満たすためにも大切なものと考えられます。小さな子どもの場合は、体の大きさのわりに、エネルギーや各種栄養素の必要量が多く、胃袋の容積や消化機能が十分に発達していないために、三度の食事だけではなかなか十分な量をとることができないからです。

     おやつを与える際には、・タイミング ・種類と量 ・味、について十分に気をつけるとともに、家族や仲間とのかかわりのなかで「楽しんで」食べられるような配慮も必要です。

     タイミングとしては、1日3回の食事の間で、できるだけ時間を決めて、食事の妨げにならないようにすることが大切です。欲しがるときに、だらだらと食べさせることは好ましくありません。

     種類に関しては、「おやつ=菓子」では決してないので、おにぎりやもち、パン(菓子パンでないもの)、ふかしいもといった炭水化物が中心の食べ物や、果物、野菜、チーズ、ヨーグルト、牛乳など多様な栄養素を含んでいるものがお勧めです。市販の菓子、特にスナック菓子、脂質をたっぷり含んだ洋菓子、糖分を多く含む菓子や飲料については、多くとりすぎない注意が必要です。また、種類と量を考える際には、「エネルギー密度」「栄養素密度」といった考え方を意識するとよいでしょう(POINT参照)。

     近ごろは、三度の食事でも外食やスーパー、コンビニ等で買った調理済みのおかずや弁当、インスタント食品の利用が増え、外で「加工された」濃い目の味つけに、小さなころから慣らされてしまいがちです。おやつでも、塩味、甘味が強いものは少量にとどめ、できるだけ素材そのものの味を楽しめるような食品を選びたいものです。小さいころの味覚の教育は、「食育」の大事な要素です。

    表● よいおやつとは?
    ・消化がよいもの
    ・ある程度のかさがあり、満腹感が得られるもの
    ・加工品ではないもの
    ・甘みが強すぎないもの。素材自体に甘みなどの味があるもの
    ・果物、野菜、乳製品などビタミン・ミネラルが豊富なもの
    ・牛乳や麦茶など水分補給できるもの


    【Point】栄養指導等に携わる人は
     食品の重量当たりのエネルギー(カロリー)量を「エネルギー密度」と呼びます。主栄養素のうち脂質(1g当たり9kcal)を多く含むものは、カロリー過剰となりがちです。また、重量としては同じでも、糖分が多く含まれる菓子や飲料等では、満腹感が得られにくいために、ついとりすぎてしまいます。
    食品1000kcal当たりの各種栄養素量を「栄養素密度」と呼びます。いわゆるジャンクフードは、エネルギー密度が高く、そのわりにはビタミン、ミネラルや食物繊維等に乏しい、すなわち栄養素密度が低いものになります。おやつには、上記のような栄養素密度が高めの食品を組み合わせたいものです。
     う歯の予防という観点からも、ショ糖が多く含まれている食品や飲料は少なめにしたいものです。また、幼児は水分要求量が多いので、おやつの際は牛乳や麦茶などで水分補給をしてあげることも大切です。
     日常の子どもたちの食生活のなかで、おやつをどのようにするかについては、「食を通じた子どもの健全育成のあり方に関する検討会」報告書(http://www.mhlw.go.jp/shingi/2004/02/s0219-3.html)なども参照してください。

    吉池 信男(国立健康・栄養研究所研究企画評価主幹)
    【健康づくり 2006年10月号】

  •  ほんの一息“午後のティータイム”。そんなことを頭に思い描く時間は、仕事をしていても小腹がすき、集中力も落ちています。また、仕事で夕食が遅くなる場合は、昼食から夕食までの時間が長いため、空腹感も強く、ついつい夕食をたくさん食べてしまいがちになります。特に21時以降の遅い時間にたくさん食べると、胃や腸に負担がかかり、翌朝は食欲が出ず、朝食が進まないといったことにつながります。

     そんな悪循環を防ぐためにも積極的に取り入れたいのが空腹をがまんせずに間食をとることです。以前は、肥満やダイエット、糖尿病などをおもちの方には、間食はよくないとされてきました。しかし肥満予防や血糖コントロールのためにも、ここではあえてお勧めします。これは、食事の間隔が開きすぎるときに、小さめの和菓子やおにぎり1個などを食べておくと、その後の食事での吸収が高まりすぎず、脂肪の蓄積が抑えられます。また、食事時間が不規則になったことによるインスリンの分泌の乱れも抑制でき、血糖の急変動を防げるためです。

     間食といっても、適度な塩分と口当たりのよさでついついとまらず、全部食べてしまいがちな大袋のスナック菓子や洋菓子などは、肥満や血糖コントロールの乱れにつながりやすいので厳禁です。間食に適した食べ物は、適度な糖質と脂肪、食物繊維の含まれたものです。たとえば、まんじゅう1個、ナッツ入りチョコレート、野菜入りビスケット、バナナ1本とヨーグルトなど、エネルギーの目安は、1日200kcal以下です。ナッツ入りチョコレートは、適度な脂肪分が含まれるため、2~3個でも満足感が得られます。また食物繊維の多い野菜入りのビスケット等も食べごたえがあり、お勧めです。

     加えて、ホットウーロン茶・ホットブラックコーヒー・ホットレモンなどの温かい飲み物は、おなかをなだめる効果があります。お菓子類だけでなく、一緒に飲むことで、さらに満腹感が得られるでしょう。最近では、一口サイズのお菓子も増えているので、記載されている表示エネルギー等を参考に上手に利用しましょう。もし、200kcalを超える間食をしてしまった場合は、後悔せず、その分夕食の食べる量を減らしたり、翌日の食事で調整したりしましょう。

     間食の時間帯としては、1日1回、昼間と夕食の間がお勧めです。残業や会議等で、夕食の時間が21時や22時になる人の間食は、昼食後それほど時間がたっていないため、15時では早すぎます。昼食と夕食の中間の時間、ちょうど小腹のすき始める16時~18時ぐらいに食べると、夕食を食べすぎずにすむと思います。


    【Point】栄養指導等に携わる人は
     甘い洋菓子や菓子パン、スナック菓子などには砂糖や脂肪が多く含まれ、1、2個食べただけでも食事1食分に相当するエネルギーになることがあります。糖尿病の方でも、食事と間食の間が3時間以上開けば血糖値に悪影響を与えることは少ないですが、糖質のとりすぎでは、確実に血糖値を上げます。ヨーグルトとシリアルまたはフルーツ、くるみとミルクティ、チョコレートと繊維入りのお茶など、できるだけ糖質が少なく、たんぱく質・食物繊維を含む食品や組み合わせを選ぶことです。目安は1日200kcal以下ですが、食べ始めるととまらない人には、間食は勧めないほうがよいかもしれません。また、近年カロリーオフの飲料が数多く出回っていますが、ジュース類の糖質は、砂糖やブドウ糖を多く含み、吸収が早く血糖値を上昇させやすいので、飲み物を勧める場合は、食物繊維入りのものがよいでしょう。

    坪井志保(せんぽ東京高輪病院 管理栄養士)
    足立香代子(せんぽ東京高輪病院 栄養管理室長 管理栄養士)
    【健康づくり 2009年6月号】

オリーブオイル

  •  オリーブオイルはヘルシーなオイルとされ、酸化しにくいので老化や病気の原因になる活性酸素の働きを抑えることから、心筋梗塞、糖尿病、高脂血症などの予防に効果があるといわれています。しかし、これは飽和脂肪酸と比較しての話で、調理油に含まれるリノール酸と比較した場合、オリーブオイル(オレイン酸)のほうが健康によいかどうかは不明です。

     オイルには脂肪酸が多く含まれていますが、この脂肪酸の体に対する作用は種類により異なります。脂肪酸には「飽和脂肪酸」と「不飽和脂肪酸」の2種類があります。「飽和脂肪酸」には血中コレステロールを高める働きがあり、「不飽和脂肪酸」には下げる働きがあります。たとえば、動物性の油脂にはコレステロールの原料となる「飽和脂肪酸」が多く含まれていて、植物性の油脂にはコレステロールを減らす「不飽和脂肪酸」が多く含まれているので、生活習慣病の改善には「不飽和脂肪酸」をとるのがよいといわれるわけです。

     さらに「不飽和脂肪酸」は「一価不飽和脂肪酸」と「多価不飽和脂肪酸」に分かれます。さらに「多価不飽和脂肪酸」は 「n│6系多価不飽和脂肪酸」と「n│3系多価不飽和脂肪酸」に分かれます。「一価不飽和脂肪酸」の代表はオレイン酸です。「n│6系多価不飽和脂肪酸」の代表はリノール酸で、「n│3系多価不飽和脂肪酸」の代表が魚油やαリノレン酸です。調理油にはリノール酸主体の大豆油やコーン油と、オレイン酸主体のオリーブ油があります。

     米国ナースの研究では、リノール酸の摂取量が多い人のほうが、リノール酸の摂取量の少ない人に比べ、心筋梗塞罹患は少なくなっています(オレイン酸の効果は認められていません)。

     どちらの脂肪酸もエネルギー源としては大切ですが、とりすぎるとカロリーオーバーとなり肥満になりやすくなります。運動量の少ない方は、とりすぎに注意してください。


    【Point】栄養指導等に携わる人は
     オリーブオイル(オレイン酸)とリノール酸の多く含まれている他の油脂と比べた場合、どちらが健康によいか結論は出ていません。リノール酸は体の中で合成できず、ある一定量は摂取しなければならない脂肪酸(必須脂肪酸)です。オレイン酸は体内でつくることができます。オレイン酸は動物由来の油にも多く含まれているので、動物脂肪を多く摂取する人は、リノール酸の多い調理油を使用されるほうがよいでしょう。量に関しては、どちらの油も過剰摂取した場合、運動量の少ない人は肥満になりやすくなります。あくまでほどほどが肝要です。また妊娠中や授乳中の場合も、通常の食事でとる以上の量をとらないよう注意が必要です。

    江崎 治(国立健康・栄養研究所基礎栄養プログラムリーダー)
    【健康づくり 2008年3月号】

カルシウム

  •  カルシウムの摂取目標量は、成人男性600~650褂、成人女性600褂です(厚労省「日本人の食事摂取基準2005年版」より)。しかし、平成16年の日本人の平均カルシウム摂取量は1日530褂で(厚労省「国民健康・栄養調査」)、過去40年間を見ても常に600褂下回っています。

     カルシウムは、骨格や歯を構成する主成分であるほか、筋肉の収縮や弛緩、脳の活動促進など、体内で重要な役割を担っています。そのため、体内にはカルシウム濃度を一定に維持するための厳密な調節機構が備わっており、カルシウムの供給が不足すると骨からカルシウムが溶け出します。継続的にこの状態が続くと、しだいに骨量が低下して骨がスカスカの状態になる骨粗しょう症を招きます。女性は出産や閉経などをとおして、骨量が低下しやすいので特に注意が必要です。

     カルシウムは体内に吸収されにくい栄養素なので意識的に摂取する必要があります。カルシウムを最も多く含む食品の代表は牛乳や乳製品で、腸管からのカルシウム吸収が優れているので効率よく摂取できます。骨ごと食べられる小魚などもお勧めです。豆腐、納豆などの大豆製品もカルシウムが豊富で、吸収率も優れています。小松菜、大根の葉、チンゲン菜などの緑黄色野菜は、吸収率は低いのですが、比較的カルシウムが多く含まれていますし、βカロテンなどのビタミンも豊富に含まれていますので、積極的に摂取するとよいでしょう。

     一度に効率よく摂取できる牛乳や乳製品を、食材として使うことが少ない日本人の食習慣では、カルシウムを十分に摂取しにくいことは事実。ですから、食事からの十分な摂取が困難な場合には、骨粗しょう症予防のためにカルシウムサプリメントを活用することも、特に女性には重要です。なお、骨粗しょう症を防ぐにはカルシウムを十分に摂取することに加えて、運動などによって骨に適度な負荷をかけることも大切です。

     高齢になると腸管からのカルシウム吸収能が低下します。また、腸管からのカルシウム吸収能を高めるビタミンDは、食事からの摂取だけでなく日光を浴びることによって皮膚でも作られますが、戸外に出なくなったり食事量が減ったりすると、こちらも不足しがちになりますので、意識してカルシウムを摂るよう心がけて下さい。

     一方、喫煙や過度の飲酒、精神的な不安、緊張、ストレスなどは、カルシウムの吸収を妨げ、骨量の低下につながります。食習慣だけではなく、日々の生活習慣を見直してみることも大切です。


    【Point】栄養指導等に携わる人は
     乳製品はカルシウムが豊富で吸収率も高いのですが、脂質が多くカロリーの高いものもありますので、注意が必要です。肥満、高血圧、高脂血症などの心配のある人は、低脂肪乳や無脂肪乳などの乳製品に替える提案も必要です。
     カルシウムを体内に効率よく摂取し骨量を増やすには、ビタミンDやたんぱく質、マグネシウム、リン、カリウム等のミネラル類などほかの栄養素とのバランスも重要ですから、カルシウム単体でなく、多様な食品から摂取することが大切であること、バランスのよい食事を心がけることが基本であることを理解してもらいましょう。

    森田 明美(国立健康・栄養研究所栄養教育プログラム生活習慣病 プロジェクトリーダー)
    【健康づくり 2007年12月号】

牛乳・炭酸飲料

  •  日本人のカルシウム摂取基準による子どもの目標量は600~800mg/日ですが、実際の摂取量は約630~730mg/日(「平成17年国民健康・栄養調査結果」より)です。ただし平日での調査ですから、学校給食がない時期を考えると充足しているとは限りません。義務教育の時期を過ぎると給食がなくなるせいか、牛乳の摂取量が減り、それに伴ってカルシウム量も減少します。

     カルシウムは、日本人全体から見ても摂取基準を充足しにくい栄養素で、不足すると生活習慣病にもかかわってきます。ですから給食に牛乳が必ず1パック(200ml)ついているのです。

     乳製品に含まれているカルシウムは体内への吸収率が最も高く、約50%といわれます。しかし、カルシウム摂取量を増やすためにたくさん飲んでしまうと、今度はたんぱく質や脂質のとりすぎにもつながり、エネルギー比のバランスを崩してしまいます。それよりもいろいろな食品をとるほうが、体格向上のためによいと考えます。給食で牛乳を飲んだ場合は自宅でコップ1杯、給食のないときは2杯程度を目安にするとよいでしょう。もっと飲みたい場合は、低脂肪乳にすれば脂質エネルギー比を抑えることができます。

     カルシウムは乳製品以外にも、小魚、青菜、海藻類などに含まれていますので、これらの食品をとることでカルシウムは補充できます。骨量は、思春期から20歳ぐらいまでは増加しますが、加齢とともにカルシウムやリン、たんぱく質の吸収率が低下し、骨粗しょう症へと進んでいきます。

     次に、炭酸飲料で骨が溶けるのかという質問ですが、炭酸飲料に関係なく加工食品や一般の食品には、リンという栄養素が含まれています。リンは、特にインスタント食品、冷凍食品、スナック菓子、嗜好飲料、肉類などに多く含まれます。

     カルシウムとリンの比率は1:1~1:2が望ましいのですが、炭酸飲料などを多量に飲むと体内のリンが増え、リン酸塩となってカルシウムの吸収を阻害してしまいます。その状態で牛乳を多量に飲んでも、体内のカルシウムの吸収率は低くなってしまいます。

     物理的に考えると、炭酸飲料を摂取しても骨に直接的な影響があるとは考えにくく、むしろ大人が子どもにおやつのとりすぎについて注意を促すために用いたものと思われます。


    【Point】運動指導等に携わる人は
      骨はたんぱく質にカルシウムやリンが付着し、代謝を繰り返して骨の細胞の入れ替えをしています。古くなった骨を壊す「壊骨細胞」と新しい細胞をつくる「骨芽細胞」が入れ替わり、人の骨は2~3年で新しくなります。
     カルシウムの99%は骨や歯に貯蔵され、残りの1%は血液に取り込まれて全身を巡り、脳の情報伝達やホルモンの分泌、筋肉の収縮などの働きをしています。血液中のカルシウムが不足すると骨に貯蔵されたカルシウムを取り込み、血液中のカルシウムのバランスを保とうとします。そのため、カルシウム不足は子どもでは骨折、大人では骨折や骨粗しょう症になる可能性が高いのです。
     カルシウム不足にならないためには、牛乳だけでなく食品からもカルシウムを摂取するよう指導するとよいでしょう。

    石井 荘子(和洋女子大学家政学群健康栄養学類准教授)
    【健康づくり 2008年8月号】

血糖値

  •  血液中に含まれるブドウ糖(血糖)が異常に多くなるのが糖尿病です。多くは過食、運動不足、肥満、ストレスが原因で起こります。放置すれば失明や心筋梗塞など深刻な合併症を引き起こす危険性があり、生活習慣を改め、血糖値を正常に近づけることが大切です。そのためには、運動量の増加とともに食生活の改善が不可欠です。

     糖尿病には、インスリン欠乏による「1型糖尿病」と、インスリンがうまく働かない「2型糖尿病」があります。日本の糖尿病患者の9割以上がこの2型に該当します。ここでは患者数の多い2型糖尿病の予備軍についてお答えします。

     糖尿病を予防するためには、じっと座っている時間を少なくすることがポイントです。少なくとも毎日30分以上の速歩(時速5km)とテレビ観賞は週10時間以内に止めておくことをおすすめします。

     糖尿病予防の食生活改善のポイントとしては、「適正なエネルギー量をとる」「バランスよく栄養をとる」の2つが挙げられます。規則正しく食事をとることも大切です。朝食や昼食を抜いたり簡単にすませたりしていると夕食が過剰になり、肥満につながります。肥満は糖尿病の大きな要因。太っている人は肥満を解消すれば血糖値はかなり改善されます。

     食事は質も大切です。肉(特に牛・豚のバラ、ロース等)に多く含まれる飽和脂肪酸を多く摂取すると太り、糖尿病になりやすくなります。摂取カロリーの7%以下に抑えましょう。また、食物繊維を多く摂取すると糖尿病の罹患頻度を20~30%程度減少できます。玄米、麦飯、全穀粒パンなど、食物繊維が多く含まれて精製されていない穀類を積極的にとりましょう。男性ではビール大ビン1本以上を毎日飲むと糖尿病の罹患が増加することが知られています。

     外食は量が多く高エネルギーになりやすいうえ、味が濃く、栄養が偏りやすい傾向にあります。外食のときは、エネルギーが低そうなものや、定食などおかずやつけ合わせの種類・品数が多いものを選びます。食べる前にカロリーオーバーする分をよけて残す工夫もしてみてください。最近は食事バランスガイドもでき(2005年9月号参照)、エネルギー表示をしているレストランが増えていますので、適正エネルギーを目で覚えるとよいでしょう。


    【Point】栄養指導等に携わる人は
     内臓肥満の方には減量は糖尿病予防にきわめて効果的です。男性でへその周り腹囲が85以上、女性で90以上の場合要注意です。栄養指導の際は、肥満が引き起こされている原因(運動不足、座っている時間が多い、肉を多く食べる、ソフトドリンクを多く飲む等)を明確にし、栄養が原因と考えられる場合、食品に焦点を当てた指導が効果的です。
     肥満の原因の一つとなるカロリーのとりすぎには、糖質のとりすぎと脂質のとりすぎがあります。前者の場合は、主食である米・パン・めん類などのとりすぎや、ソフトドリンクの飲みすぎに注意し、たとえば小さめのお茶わんを使うのもひとつの方法。後者の場合は、肉より魚を食べるようにしたり、脂肪分が多く含まれる菓子類や、アルコールも控えてもらいます。しかし、飽和脂肪酸の摂取量が少ないと脳出血が起こりやすくなるので摂取エネルギーの4.5%以上の摂取は必要です。また、食事のときは大皿だと自分の食べた量がわかりにくいので、取り分けて食べる工夫も大切。そして、腹囲を測定し日々変化を実感してもらうようにします。

    江崎 治(国立健康・栄養研究所生活習慣病研究部長)
    【健康づくり 2006年1月号】

高齢者

  •  肉を食べたほうがよいというのは、肉に限らず不足しがちなたんぱく質をとったほうがよいということです。それでは、なぜ高齢者はたんぱく質をとったほうがよいのでしょうか?

     高齢になると、口腔や嚥下(飲み下し)の問題、病気や体調不良、買い物や料理をすることが難しくなるなどをきっかけに、食欲が低下しがちです。すると食事の量は減少し、必要なたんぱく質やエネルギーを摂取することができずに、低栄養状態に陥りやすくなります。したがって、意識的に粗食にすると栄養状態がより悪くなってしまうおそれがでてきます。

     加齢とともに消費するエネルギーは低下しますが、たんぱく質やビタミン、ミネラルなどの必要量はそれほど変わりません。さらに、高齢者では身体活動量が低下したり、エネルギー摂取量が低い場合には、たんぱく質の必要量は大きくなるので、なおさら、十分なたんぱく質の補給が必要となります。

     たんぱく質は肉のほかにも、魚や卵、大豆製品、乳製品からもとることができます。これらの食品からたんぱく質をしっかりととり、三度の食事が不規則にならないように工夫し、必要な栄養素やエネルギーが不足しないようにしましょう。具体的にどのようなものを組み合わせてとるかについては、「食事バランスガイド」(http://j-balanceguide.com/)が参考になります。1日に主菜3皿程度が一つの目安と考えられます。

     咀嚼力が落ちている方が肉類を食べる場合は、薄切り肉やひき肉、しゃぶしゃぶ用の肉を使用するとよいでしょう。焼き魚がぼそぼそして食べにくいという場合は、とろみのたれを用意するなどの工夫をしてはいかがでしょうか。

     また、噛むことは脳の働きを活性化し、唾液の分泌を促し消化を助けますので、軟らかいものばかり食べればよいというものではありません。食べやすいだけでなく、各自の体の状態に合った適切なメニューにすることも大切です。

     低栄養状態になると免疫力が低下して、体調を崩しやすくなったり、持病が悪化するおそれがあります。体調不良が続くと、ますます食事の摂取量が減って、さらに低栄養状態になるという悪循環に陥ってしまいます。 表を参考に、低栄養状態になっていないか、最近の症状をチェックしてみてください。

    なお、糖尿病、高脂血症等の治療中で、医師から食事指導を受けている場合には、主治医の指示に従う必要があります。

    表● 栄養不足─こんな症状があったら要注意です
    ・最近、体重が減少した
    ・食欲がない。食事の量が減った
    ・食べ物を飲み込みにくい
    ・体調を崩しやすい、かぜをひきやすい
    ・足、腰に痛みがある
    ・けがが治りにくい


    【Point】栄養指導等に携わる人は
     たんぱく質の不足は、血液中の血清アルブミンの量によってわかります。具体的には3・5/以下の場合が低栄養状態となります。
     ただし、血清アルブミンが減少していても自覚症状はないため、知らないうちに低栄養状態になっていることもあります。本人の日常生活・体調などの変化に目を配ることが大切で、個人差はありますが、「半年で2~3?以上体重が減った」などの場合は要注意といえるでしょう。

    吉池 信男(国立健康・栄養研究所研究企画評価主幹)
    【健康づくり 2006年9月号】

コラーゲン

  •  コラーゲンはたんぱく質の一種で、皮膚や靱帯、腱、骨、軟骨、歯、血管など体内のほとんどの組織に存在しています。体内におけるコラーゲンの総量は、全たんぱく質の30%を占めており、全コラーゲンの40%は皮膚に、20%は骨・軟骨に存在しています。

     コラーゲンは皮膚の弾力や強度を強める働きや、靱帯、腱、骨、軟骨などの結合組織に強度を与える重要な働きをしています。特に、腱ではコラーゲン線維が透き間なく配列し、筋肉の力を骨に伝え、運動の際に出る非常に強い力を支えています。また、骨や軟骨では、弾力性を持たせ、衝撃を吸収して骨折などを防ぐ働きをしています。

     ちまたでは、コラーゲンの摂取によって、肌の張りやつやが保持・増強される、あるいは骨・関節疾患に伴う症状が緩和するなどの情報をよく目にしますし、コラーゲンを含む健康食品も多数販売されています。では実際、効果の程はどうなのでしょうか。

     確かに、肌の張りがなくなったり、しみやしわなどの皮膚の老化を起こす原因の一つとして、皮膚内のコラーゲンの減少が挙げられます。コラーゲンは、紫外線などにより発生する活性酸素によっても、質や量が変化してしまいます。また、加齢によってコラーゲンを合成する働きが低下し、コラーゲンの量が減少します。

     しかし、単に皮膚にコラーゲンを塗ることで皮膚表面からストレートに皮膚内に取り込まれ、皮膚の状態が改善するという科学的な証明はいまのところありません。一般に化粧品などに使われているコラーゲンは、保湿剤の目的で配合されているものです。

     また、コラーゲンを食品として摂取する場合ですが、通常、たんぱく質はアミノ酸まで分解され、腸管で吸収されますが、コラーゲンは腸管内で消化されにくいため、アミノ酸が2~3個のペプチドの状態で吸収される場合もあると考えられています。取り込まれたコラーゲンペプチドは全身に配分されますが、必ずしも効いてほしい部位(たとえば皮膚や関節)にだけ届くわけではありません。また、期待に反して、ヒトが健康食品として摂取したときの皮膚の老化や関節炎に対する改善効果に関しては、十分な科学的データが得られていないのが現状です。

     コラーゲンを摂取することで、その原料となるアミノ酸やペプチドの補給はできます。しかし、毎日の食生活の中で、たんぱく質をはじめとする栄養素をバランスよく摂取していれば、コラーゲンの生成に必要な栄養素が不足することはまずありませんので、あえて健康食品としてコラーゲンを摂取する必要性はないといえるでしょう。


    【Point】栄養指導等に携わる人は
     体内でのコラーゲン生成には、アミノ酸と、アミノ酸どうしを合成する酵素、そして酵素の働きを補うビタミンCが必要です。ビタミンCが欠乏するとコラーゲン合成に異常をきたし、皮膚や血管に障害をもたらします。これが壊血病です。しかし、現代の日本人の食生活において、壊血病が起こるほどビタミンCが欠乏することはまずないと考えられます。
     健康で若々しい体を維持するためには、「栄養バランスのよい食事を3食きちんと取る」という食習慣の基本が最も効果的で大切だということを理解し、実践してもらうことが重要です。

    石見 佳子(国立健康・栄養研究所栄養疫学プログラム・生体指標プロジェクト)
    【健康づくり 2008年1月号】

コレステロール

  •  コレステロールは脂肪の一種で、体内では、細胞膜やホルモン、ビタミンD、胆汁の生成などに用いられます。血中には善玉と呼ばれるHDLコレステロールや悪玉と呼ばれるLDLコレステロールなどがあります。ともに体には必要ですが、後者が多いと心筋梗塞を起こしやすくなります。

     生体内のコレステロールの70~80%は肝臓と小腸で合成されます。食品からも摂取されますが、摂取量が多くなった場合には、体内の合成量を抑えて全体量を調整する機能が働くため、血中のコレステロールには直接反映されません。

     米国での多くの大規模観察研究では、コレステロールやコレステロールを多く含む卵の摂取量と虚血性心疾患ならびに脳卒中の発症率の間に有意な関連は認められていません。一方、飽和脂肪酸を多く摂取すると肥満や動脈硬化になりやすくなります。では、日本人ではどうでしょう。日本人は欧米人に比べ、飽和脂肪酸の摂取量は少ないけれど、コレステロールの摂取量は多いのです。日本人は鶏卵や魚の卵が好きなためです。でも虚血性心疾患は極めて少ない。このことからも、少しくらいコレステロールを多く摂取しても飽和脂肪酸摂取量が増加しなければ、それほど問題にならないと推定されます。

     ではいくら食べても大丈夫でしょうか。日本人でコレステロールや卵の摂取量と疾患罹患率を調べた大規模観察研究が2つ報告されています。どちらも非常に多くのコレステロールを摂取すると、残念ながら危険があることを示していました。最近のデータでは、女性において卵(コレステロールを約250含む)を2個/日以上摂取する群(総対象者の上位1・3%)では卵を1個/日の群に比べ有意ではないが、がん死亡の相対危険が約2倍になっていました。この研究ではコレステロールの摂取量が調べられていませんが、卵を2個/日以上摂取する群のコレステロール摂取量は600/日以上になると予想されます。

     さらに、ハワイ在住の中年男性日系人を対象とした観察研究では、コレステロール摂取量が325/1000摂取エネルギー以上だと虚血性心疾患による死亡率の有意な増加が認められています。このため、日系人中年男性の325/1000から求めた値、男性では750、女性では600を「日本人の食事摂取基準(2005年版)」のコレステロールの上限値(目標量)としてあります。

     つまり、多量のコレステロールを習慣的に摂取すると、心筋梗塞やがんの罹患を増加させる可能性があります。


    【Point】栄養指導等に携わる人は
     血中LDLコレステロール値は高いと心筋梗塞のリスクになりますが、他のリスクファクター、喫煙、高血圧、糖尿病、HDLコレステロール低値、家族歴の有無により、重要度が異なります。これらのリスクファクターのある人はより強力にLDLコレステロール値を下げる必要があり、薬を必要とすることも多く、医者にかかる必要があります。
     一方、食事からのコレステロールは多量に摂取しない限り、心筋梗塞罹患リスクにはなりません。心筋梗塞を心配する人には魚、大豆製品、緑黄色野菜に多い葉酸、精製されない穀類に多いビタミンB6の十分な摂取を薦めましょう。これらの食品を摂取すると心筋梗塞の予防になることが推定されています。

    江崎 治(国立健康・栄養研究所生活習慣病研究部長)
    【健康づくり 2005年11月号】

食育

  •  「食育」と聞くと、子どもに食物の知識や調理の技能を教えることだと思いがちです。しかし、「子どもへの食育」ではなく、「子ども自身の食育」という主体性を重視し、子ども自身が食べ物を含めた多様な環境と向き合うなかで、「食を営む力」を培っていくことこそが、「食育」だと考えるべきでしょう。

     授乳期・離乳期は「安心と安らぎの中で食べる意欲の基礎づくり」の時期と位置づけられます。続く幼児期には「食べる意欲を大切に、食の体験を広げる」こと、学童期には「食の体験を深め、食の世界を広げる」ことがテーマになります。さらに、思春期には「自分らしい食生活を実現し、健やかな食文化の担い手になる」ことを通して、楽しく食べる子どもに発達していくことが期待されます。

     発育・発達の段階に応じて、こうしたプロセスを踏んでいくことで、食べる機能だけでなく、「食を営む力」の発達、食行動の発達を促すことができます。

     授乳期・離乳期の子どもの食べる意欲を高め、食を楽しみにするための具体的な方法としては、第一に空腹であることが最も重要で、子どもが遊びに十分熱中できることから始まります。

     そうして、毎回の食事を通して、少しずつ食べたい物、好きな物が増えていくことになります。同時に、食を共にする人の存在に気づき、一緒に食べたいと願うようになっていきます。

     乳幼児期は、食べる楽しみをベースに、食事を食べたり作ったりする体験を広げることで、食への興味・関心が高まる時期です。それがひいては、学童期や思春期で、学校での食に関する授業等をもとに自分の食事を見直し、自分の健康と地域社会での食べ物の生産や流通、環境とのかかわりなどに気づき、みずからの食の世界を広げることに役立っていきます。  そのためにも、離乳期ならば、子どもが食べ物を見て、手で触れ、においをかぎ、口で味わうといった五感を使った探索行動が十分にできるようにしましょう。同時に、大人が子どものモデルであることを意識し、「おいしいね」といった言葉を通して、一緒に食べる楽しさを共有していきたいものです。

     2~3歳は調理スキルの習得というより、親と一緒にいたいという意識が強い時期なので、一緒に楽しく食事を作る楽しさを大切にしていきましょう。

     このように考えると、何歳からどのような「食育を始めるのか」というより、子どもが食べることに関心を寄せていける環境をつくっていくことが重要になります。

     そのためには、子育て支援の一環として、家庭からの相談にも応じている、児童の健全育成にかかわる保育所・子育て支援センター・児童館などさまざまな場を活用してみることも一つの方法です。これらの施設では、保健所・保健センターや、農・食の関係団体とも連携しながら、子どもの食の体験を豊かにする取り組みを図っています。

     次の世代を担う子どもたちが生活文化を創造し、人間性豊かな明るい社会を実現できるよう、家庭や地域が一緒になって、「食を営む力」を培うことを大事にしていきましょう。


    【Point】栄養指導等に携わる人は
     子ども一人ひとりに個人差があるように、保護者一人ひとりのライフスタイルも価値観も異なります。
     「食育」についても、食についてまったく無関心の親がいる一方で、食物の安全性や衛生面を過剰に意識する親もおり、二極化が進んでいます。食の悩みを相談できる場が地域社会にあること、子育てを自分一人ではなく社会が支えてくれていることを実感してもらうとともに、食に関する情報を提供しながら、保護者の自己決定力を伸ばしていけるように支援してください。

    酒井 治子(東京家政学院大学家政学部准教授)
    【健康づくり 2010年2月号】

食生活

  •  夜遅く食べることや朝食を抜く習慣が、体によくないとは昔からよくいわれています。しかし、仕事で帰宅が遅く、夕食は寝る前、朝は食事をとるより少しでも寝ていたいという人は、少なくないでしょう。平成19年国民健康・栄養調査では、朝食をとらない人は、とっている人に比べ、午後8時台までに夕食をとる人の割合が男女ともに少なく、また30~40歳代男性では朝食をとっていない人の約4割が午後9時以降に夕食をとり、そのうち1割強は午後11時以降という結果でした。働き盛りの世代における、不規則な生活習慣のいわば「悪循環」を招いている状況がうかがえます。

     では、1日3食、規則正しい食事がなぜ大切か。その大きな理由として、私たちヒトを含め、地球上のすべての生物がもつ、1日約24時間の生体時計(サーカディアンリズム)と、それをつかさどる時計遺伝子の存在が挙げられます。近年、その科学的な解明は急速に進みました。

     生物に生体時計が備わっている理由の一つは、生命の維持活動に不可欠なエネルギーを、効率よく蓄えて利用する機能を獲得する必要があったからといえます。

     その一端を示すものとして、生体時計を調節する時計遺伝子の一つであるB‐mal1(ビーマルワン)というたんぱく質は、食事から摂取した脂肪分を脂肪細胞に蓄え、さらに蓄えた脂肪からコレステロールを合成する一方で、脂肪の分解を抑制する働きをもち、結果的に細胞内の脂肪蓄積を増大させます。

     脂肪細胞内のB‐mal1発現量は、午後10時~午前2時まで、すなわち休息期間にあたる時間帯が最も多く、活動期間である午前6時~午後3時ごろに少なくなります。これは、活動期間に失われたエネルギーを、休息期間中に効率よく補充することを意味していますが、同時に夜遅く食べると太りやすい原因の一つともなり、内臓脂肪の蓄積が原因であるメタボリックシンドロームとも密接にかかわります。

     また、昼行性の動物であるヒトは、地球の自転リズムである24時間より、1時間長い生体時計をもちますが、夜更かし・朝寝坊の習慣では、そのずれが解消されず、慢性の時差ぼけのような状態となります。それをリセットするには、決まった時間に朝食をとることと、朝日を浴びることが重要です。特に朝食までの間隔が長いほうがリセット効果は高まりますので、その意味でも、夕食はなるべく早めに済ませたいものです。

     さらに最近の研究では、生体時計の乱れと発がんとの関連も明らかにされており、今後、規則正しい食生活をはじめとした長期的な健康管理の方法として、生体時計を正しく保つことが、ますます重要となるでしょう。

    【参考文献】
    大塚邦明『病気にならないための時間医学‐〈生体時計の神秘〉を科学する‐』ミシマ社、2007


    【Point】栄養指導等に携わる人は
     平成20年度から特定健診・特定保健指導制度が始まり、働き盛り世代で、不規則な生活習慣の方にお会いする機会も多いことでしょう。
     夕食を早めに済ませることが理想でも、残業途中の食事がはたして許される雰囲気の職場か、せめて分食として軽くおなかに入れておきたいおにぎりなどが入手できる売店があるか、朝食も自宅でより出社後のほうが習慣化しやすいかなど、面接の中でその人の職場・家庭環境や生活全体を考慮し、取り入れやすい方法から一緒に考えていくことが大切です。

    小野真実(女子栄養大学栄養学部専任講師<食生態学研究室>)
    【健康づくり 2009年4月号】

食事摂取基準

  •  「栄養所要量」は、健康の保持・増進や、生活習慣病の予防のために、標準となるエネルギーおよび各栄養素の摂取量を示すもので、栄養指導や給食計画等の基準として幅広く利用されてきました。平成17年4月からは、この栄養所要量に代わって「食事摂取基準」が使用されることになりました。単純に名称がかわっただけでなく、考え方そのものが大きくかわったものと理解してください。

     「2005年改定日本人の食事摂取基準」では、食事摂取基準は、「健康な個人または集団を対象として、国民の健康の維持・増進、エネルギー・栄養素欠乏症の予防、生活習慣病の予防、過剰摂取による健康障害の予防を目的とし、エネルギー及び各栄養素の摂取量の基準を示すもの」としています。また、その数値の策定にあたっては、各個人の必要量は測定できないという前提に立って、医学・栄養学の科学的データを基盤に確率論が導入されています。確率論的に数値をとらえる食事摂取基準の考え方は、欧米諸国で現在、実施されているもので、今後世界の主流になるものと考えられています。 食事摂取基準では具体的な指標として、エネルギーは「推定エネルギー必要量」、各栄養素については「推定平均必要量」、「推奨量」、「目安量」、「目標量」、「上限量」の5つの指標が示されています。それぞれの指標の意味については、別表のとおりです。各栄養素の数値など食事摂取基準の詳細は、厚生労働省の「日本人の食事摂取基準について」を参照してください。 (厚生労働省ホームページURL http://www.mhlw.go.jp

    <食事摂取基準の指標>
    ●エネルギー
     ①推定エネルギー必要量(EER)
     エネルギーの不足のリスクおよび過剰のリスクの両者が最も小さくなる摂取量。

    ●栄養素
     ①推定平均必要量(EAR)
     特定の集団を対象として測定された必要量から、性・年齢階級別に日本人の必要量の平均値を推定し、それぞれに属する人の50%が必要量を満たすと推定される1日の摂取量。一番基本となる数値である。
     ②推奨量(RDA)
     ある性・年齢階級に属する人々のほとんど(97~98%)が1日の必要量を満たすと推定される1日の摂取量。栄養計画において主に使用される指標である。
     ③目安量(AI)
     推定平均必要量・推奨量を算定するのに十分な科学的根拠が得られない場合に、ある性・年齢階級に属する人々が、良好な栄養状態を維持するのに十分な量。
     ④目標量(DG)
     生活習慣病の一次予防のために現在の日本人が当面の目標とすべき摂取量(または、その範囲)。
     ⑤上限量(UL)
     ある性・年齢階級に属するほとんどすべての人々が、過剰摂取による健康障害を起こすことのない栄養素摂取量の最大限の量。


    【Point】栄養指導等に携わる人は
     各栄養素については、性別・年齢階級別に数値が示されていますが、摂取量の評価が目的の場合、栄養計画の立案が目的の場合、個人を対象とする場合、集団を対象とする場合など、用途に応じて、指標を使い分けることになります。特に栄養指導、給食計画等に携わる人は、食事摂取基準の意味を正しく理解し、どのように活用すべきかを熟知したうえで用いてください。

    吉池 信男(国立健康・栄養研究所研究企画評価主幹)
    【健康づくり 2005年5月号】

食情報

  •  「ココアが体によい」「納豆が体によい」等の情報が全国的なブームを起こす例が多々みられます。
     まず健康によい食事とは、穀物、野菜、たんぱく質等(あるいは主食、主菜、副菜等)を通常の食材からバランスよく食べることが基本です。この基本をふまえたうえで、それでも健康効果を期待して特定の食品・成分を摂取する必要があるのでしょうか。こうした問題を考える際に役立つのが、「『健康食品』の安全性・有効性情報」のホームページです。

     トップページから「納豆」を検索して「安全性・有効性情報」を読むと、納豆を食べたからといって、納豆が含む酵素・納豆キナーゼが消化管から吸収されて血栓を溶解し、「血液サラサラ」になる証拠はヒトでは見つかっていないことがわかります。

     次に、話題の「カテキン」を検索すると、カテキンを含む緑茶の飲用は食道がん、胃がん等のリスク低減に有効性が示唆されていることがわかります。「示唆」ですので科学的証拠は現時点では十分ではなく、飲みすぎの弊害がないかも不明です。ただ通常の茶飲料は長年飲用してきた歴史があるため、常識的な量では問題ないと判断できます。一方、特定成分を抽出・濃縮した食品では常識的には摂取しない量のカテキン等が含まれるケースがあり、その場合は安全性に注意する必要があります。

     例えば、濃縮茶カテキンを成分とする特定保健用食品(トクホ)が「体脂肪が気になる人に適する食品」として販売されています。トクホは、有効性・安全性のデータを提出して厚労省の認可を得ており、所定量での安全性は確認済みです。ただ過大な期待から過剰摂取した場合の安全性は不明で、一定のリスクがあると考えたほうが無難です。実験上は有効性が確認されたとはいえ、あなた個人が効果を得られるかは不明ですし、一般的には運動・栄養面での生活改善を併用しない場合の体脂肪減少効果は限定的です。トクホは現在の食生活を見直すきっかけとして補助的に利用したほうがよいでしょう。

     つまり商品の効果については、前述のホームページなども利用して、消費者自身が慎重に検討する必要があります。まして認可を受けていないいわゆる「健康食品」は玉石混交の状態です。効果も、リスクの程度もあいまいで、実際しばしば健康被害が報告されています。特に、錠剤やカプセルの形態は、食品のカテゴリーに入っていますが、現実的には薬のような特別な効果を期待して利用されがちです。味や容積がない錠剤やカプセルは摂取しやすい反面、特定成分を過剰摂取しやすいことを認識しておいたほうがよいでしょう。


    【Point】保健指導等に携わる人は
     次々に新しい「健康食品」が誕生するなか、消費者自身が情報選択能力を身につける必要があることは、本文で述べたとおりです。
     保健指導対象者が怪しげな健康法を実践することもありがちですが、それを頭ごなしに否定すると、お互いの信頼関係を損ねかねません。健康によいことをしたいという前向きな気持ちは大切にしつつ、さりげなくその効果が現実には表れていないことを確認して、健康の保持増進の基本がバランスのとれた食事、運動、休養であるという認識に導くよう工夫してみてください。

    梅垣 敬三(国立健康・栄養研究所情報センター健康食品プロジェクトリーダー)
    【健康づくり 2007年3月号】

  •  市販の飲料水や食品には、「高~」「~入り」「低~」「~控えめ」「~オフ」などの表示をよく見かけます。これら「栄養成分が補給できる」「適切な摂取ができる」などを示すものを強調表示といいます。食品メーカーなどが強調表示をする場合は、その栄養成分が「栄養表示基準」に定められた基準値を満たす必要があります。「栄養表示基準」は健康増進法に基づき厚生労働省が告示したもので、消費者が食品を選択するうえでの適切な情報を提供することをが目的です。「~ゼロ」や「ノン~」もこの強調表示に当たります。

     では、「栄養表示基準」における「ゼロ」と「ノン」のカロリーの基準値はどうなっているのでしょうか。食品の場合は100g当たり5kcal未満(飲料や液状の食品の場合は100ml当たり5kcal未満)で表示可となっています。たとえば、清涼飲料水500mlのカロリーが25kcal以下の場合、「カロリーゼロ」または「ノンカロリー」と表示できます。つまり、「カロリーゼロ」と表示していても完全にゼロkcalではないということです。

     このほかに「低カロリー」や「カロリーオフ」という表示があり、こちらは食品100g当たり40kcal未満(飲料や液状の食品の場合は100ml当たり20kcal未満)で表示可となっています。

     カロリーが低い清涼飲料水や食品の多くには、ほぼ低カロリー甘味料といわれているものが使われています。低カロリー甘味料は、砂糖に比べて甘味度が非常に高く少量で必要な甘みを得られるため、結果的に低カロリーとなる「非糖質系甘味料」、あるいは甘味度は砂糖と同程度ですが体内で消化・吸収されにくく、結果として取り込まれるエネルギーが少ない「糖アルコール」があります(表参照)。これらの甘味料を使用することでカロリーを抑えているわけです。こうした甘味料の中には、消化・吸収されにくいためとりすぎるとおなかの調子がゆるくなるものがありますので、とりすぎには注意が必要です。

     なお、まぎらわしい表示に「砂糖不使用」がありますが、これは、食品を加工するときに砂糖すなわちショ糖(ブドウ糖と果糖が結合した二糖類)を使っていないという意味です。原料に使われた野菜や果実にショ糖が含まれている場合があるほか、非糖質系甘味料が使用されている可能性もありますので、「砂糖不使用」の表示だけでは甘さやカロリーは判断できません。


    【Point】栄養指導等に携わる人は
     血糖値を厳しくコントロールする必要のある糖尿病の人は、ノンカロリー・低カロリーの甘味料を上手に使うことで、食生活上の工夫ができます。なお、アスパルテームについてはフェニールケトン尿症の人は使用の際に注意が必要とされ、その旨の容器への表示が義務づけられていますが、少量では問題にならないと考えられています。

    山田 和彦(国立健康・栄養研究所食品保健機能プログラムリーダー)
    【健康づくり 2007年11月号】

  •  最近は、ダイエットや肥満解消を考え、食品に含まれる脂質を気にする方が増えています。市場にも「体脂肪が気になる方に」「脂質ゼロ」といった商品が出回っています。ご質問の食用調理油には、「体脂肪になりにくい」点で、特定保健用食品に認定されているものがあり、2種類に分けられます。

     1つ目は、グリセリンに2つの脂肪酸が結合したジアシルグリセロール(=DAG。特に1,3DAG)を主成分に採用したものです。DAGは、一般の油の主成分であるトリアシルグリセロール(TAG、グリセリンに3つの脂肪酸が結合)に比べて、食後の血中中性脂肪が上昇しにくく、長期間摂取し続けると、肝臓や腸間膜への脂肪蓄積を少なくさせる働きがあります。  2つ目は、中鎖脂肪酸を加えたもの。中鎖脂肪酸は、ヤシ油やパーム核油にも含まれる成分で、一般の油に含まれる長鎖脂肪酸に比べ、吸収・酸化が早く、エネルギーになりやすい特徴があります。

     メカニズムは異なりますが、どちらもヒト試験によって有効性が検証されています。前者では、DAG群はTAG群に比べて、体重、BMI、ウエスト/ヒップ比が有意に低下し、体脂肪等の蓄積が有意に抑制されました。後者では、4~12週間摂取した群は対照群に比べて、体脂肪量、ウエスト、ヒップで有意に抑制されました。なお、こうした効果は表れにくい体質の方がいるなど、個人差があることを覚えておきましょう。

     このようにどちらも一般の油に比べて、「体脂肪になりにくい」効果が期待できます。ただし、この種の油を使ったから、多く食べても安心ということではなく、通常の油と同じようにとりすぎには注意が必要です。

     食の欧米化により、脂肪の過剰摂取が問題になっています。脂肪エネルギー比率(総摂取エネルギーに占める脂肪からのエネルギー割合)は、18~29歳で20%以上30%未満、30~69歳で20%以上25%未満が目標量ですが、成人男性の約2割、女性の約3割が30%以上とっており、その割合は年々増加傾向にあります。

     脂肪を過剰摂取しないためには、食用油のように「見える油」を工夫するとともに、食品に含まれる「見えない油」にも気を配ることが大切です。たとえば、ショートケーキ100gには14.0g、一般的なカレールー100gには34.1gの脂質がそれぞれ含まれており、気がつかないうちに脂肪をとっています。

     また、調理する際にも余分な脂質をとらないコツとして、(1)揚げる・いためるではなく、煮る・焼く調理法にする (2)ヒレ肉→ロース肉→バラ肉の順に脂肪が多く、使用部位をよく考える (3)脂身・皮のカットや油抜きなど下ごしらえを工夫する、などが考えられます。


    【Point】栄養指導等に携わる人は
     特定保健用食品の効果を期待し、多量摂取する利用者もいますが、健康増進の効果は増大しません。バランスのよい食生活を基本に、「摂取方法」を守り、生活習慣を改善する「動機づけ」として活用することが大切だと伝えましょう。
     脂肪は、体の生理機能を維持したり、ホルモンを合成したりする役割を担っています。また、脂肪の摂取が不足すると、脂溶性ビタミンの摂取量も少なくなる可能性があります。ですから、減量希望者には、脂肪は「とらない」ではなく、「とりすぎに注意する」ことを指導しましょう。

    梅垣敬三(国立健康・栄養研究所情報センター長)
    【健康づくり 2009年5月号】

  •  世界で広く栽培されているゴマは、わが国でもその種子や食用油が多くの料理に利用されています。ゴマは漢方薬の一種として用いられているように、古くから人々の間で健康によい滋養食と考えられてきました。近年では科学的な研究が進み、ゴマのもつ効果がより明らかになってきています。

     ゴマは、三大栄養成分であるたんぱく質、脂質、炭水化物のほか、カルシウム、鉄分、マグネシウムなどのミネラル類、ビタミンEやB1、B2も多く含んでいます。ゴマは料理に使っておいしいだけでなく、われわれの身体活動に必要な栄養成分を多く含んだ食品なのです。最近では、ゴマに含まれるゴマリグナンと呼ばれる化合物の存在が注目され、機能性食品としての注目が昔以上に高まっています。

     セサミンはゴマリグナンの一種で、抗酸化作用、肝機能の改善、血中コレステロールの低下、血圧の低下、アルコール代謝の促進などに働くことが報告されています。ただし、これらは試験管内や動物を対象とした実験段階のものであり、実際にヒトに適用できるかはまだまだ研究の途上にあります。ご質問の答えですが、残念ながら、セサミンがヒトの疲労回復に直接結びつくとの信頼できる報告や実験結果は、現在のところ見当たりません。

     しかしながら、ヒトに対する有効性についてのデータもいくつか見られます。たとえば、セサミンの摂取により、運動負荷後の過酸化脂質の上昇が抑制されたという報告があります。また、アルコール代謝能の低い健康な男性にセサミン100㎎を7日間摂取してもらった場合、アルコールによる顔面温度の上昇が対照群に比べて抑制されたという報告があります。さらに、高コレステロール血症患者にセサミンを継続的に8週間摂取させた場合、総コレステロール値およびLDLコレステロール値が対照群に比べて有意に低下したという報告もあります。ただし、これらの現象についても、確実に効果があるというにはさらなる検証が必要です。

     ゴマにはさまざまな健康効果が示唆されていますが、「ゴマを摂取すること」と、「ゴマに含まれている特定成分(セサミンなど)」を摂取することは、有効性や安全性において必ずしも同等ではありません。なんらかの効果を得るには、特定成分をある程度の量で摂取する必要がありますが、一方でサプリメント等から特定成分を摂取すると、過剰摂取という問題が出てきます。またゴマは脂質も多く、ゴマやゴマ油は意外と高カロリーの食品といえます。体によいかもしれないと考えてとりすぎるのは避けるようにしてください。

     セサミンをサプリメントから摂取する場合も、品質の確かな製品を選択し、利用していてよいという体感が得られないまま、継続して摂取することは、むだな出費や過剰摂取につながるため注意が必要です。通常の食事ができる人であれば、あえてサプリメントでセサミンを摂取する必要はないでしょう。

     疲労回復のためにはなんといっても、バランスよくしっかりと栄養をとり、十分に休むことがいちばんです。なんらかの食品に頼るだけではなく、食事や運動、睡眠など、生活全般を見直していくことを心がけてください。


    【Point】栄養指導等に携わる人は
     通常考えられる範囲でゴマを摂取するぶんには安全性に問題はありませんが、多量に摂取すればさらに健康にいいというものではありません。特にぜんそくなどの既往歴がある場合、摂取に伴う過敏症も報告されています。ゴマは料理をおいしくする素材の一つと考えて適度な摂取量にとどめることが重要です。セサミンの効果を過大に評価することは望ましくありませんが、栄養教室などでは栄養に興味をもってもらうきっかけとして用い、健康づくりの基本であるバランスのよい食事摂取が行えるような指導につなげていくことが大切でしょう。

    梅垣敬三(国立健康・栄養研究所情報センター長)
    【健康づくり 2009年10月号】

ダイエット

  •  肥満予防には、速歩きなどの積極的な運動、座って長時間テレビを見るなどの動かない生活習慣の是正、甘いものの制限(ソフトドリンクを含む)およびダイエット(摂取エネルギーの制限)が大切です。ダイエットの基本は栄養バランスを維持しながら、摂取エネルギーを減らすことです。主食、主菜、副菜、牛乳・乳製品、果物の摂取バランスを維持することが重要で、特に、たんぱく質を含む食品を上手にとることが一つのカギになります。

     そこで、ご質問中のまず肉についてですが、肉には飽和脂肪酸が含まれています。飽和脂肪酸を習慣的に多く摂取すると肥満、糖尿病、虚血性心疾患に罹患しやすくなりますが、逆に十分摂取しないと脳出血を起こしやすくなります。昔の日本では肉の摂取量が少なく、塩分の摂取量が多く、脳出血で多くの方が亡くなりました。この点を考慮し、2005年版食事摂取基準では、「飽和脂肪酸は摂取総エネルギーの4・5~7%」となっています。この範囲だと肥満も脳出血も生じにくくなります。

     飽和脂肪酸が多いのが、牛サーロインや、焼肉やソテーに使われる豚ロース、豚バラ肉などです。過剰摂取が気になる方は、脂身の少ない牛・豚のもも肉やヒレ肉、鶏のささみや胸肉、皮のついていないもも肉などを選びましょう。調理方法は、脂が落ちる網焼きやグリルパンを使ったステーキなどがお勧めです。

     肉に比べ低カロリーで低脂肪の魚は、良質のたんぱく質やカルシウムを多く含んでいます。中性脂肪を減らし、心筋梗塞を予防するEPA(エイコサペンタエン酸)や、DHA(ドコサヘキサエン酸)は魚だけに含まれています。吸収率の高いヘム鉄も豊富に含まれており、ダイエット時の貧血予防に適しています。毎日1回は摂取しましょう。

     卵にはコレステロールが多く含まれます(約250mg/個)が、ビタミンCと食物繊維以外のほとんどの栄養素が含まれ、たんぱく質はたいへん良質です。しかし、コレステロールは多量に摂取すると、虚血性疾患やがんのリスクが出てきます。女性で600mg/日、男性で750mg/日までは安全です。敬遠して栄養不足になるほうが問題ですが、1日2個までにしておくのが無難でしょう。

     「畑の肉」とも呼ばれる大豆は、イソフラボン、カルシウム、ミネラルを含む代表的な植物性たんぱくです。大豆製品は乳がん、心筋梗塞、更年期障害、骨粗しょう症を予防し、特に女性の味方です。豆腐、納豆、豆乳などは、毎日1回は摂取しましょう。


    【Point】栄養指導等に携わる人は
     肉、魚、大豆製品は生活習慣病予防のため、欠かせない食材です。 また、卵は良質なたんぱく源です。ダイエットの方法によってはこれらの大切な食品が十分摂取されません。これらの食品の摂取が長期間不足すると、どのような病気にかかりやすくなるか説明し、よく理解してもらうことが大切です。
     指導ツールとして有効に活用したいのが、厚生労働省と農林水産省が共同で作成した「食事バランスガイド」です。主食、主菜、副菜など5グループに分類された食品が料理名とともにイラストで表示されており、摂取すべき量が一目でわかります。なお、主菜(肉、魚、卵、大豆料理)の1日当たりの摂取量は3~5つ(SV)と定められました。

    江崎 治(国立健康・栄養研究所生活習慣病研究部長)
    【健康づくり 2005年10月号】

  •  本来、健康的な生活を送るには、1日3食、時間を決めてとることが理想的です。食事の時間がある程度一定であれば、胃腸の動きもスムーズで、消化液の分泌がよくなり、吸収力も高まります。その結果、栄養がうまく全身に行き渡り、各機能の働きが活発になります。ところが、消化が終わらないうちにまた何かを飲食したり、逆に食事時間が空きすぎたりすると、消化吸収のリズムが乱れ、それが自律神経やホルモン代謝にも影響してきます。

     特に夜は、体内では眠って疲れをとろうと副交感神経が体をリラックスモードに導きますが、胃が消化活動をしていると、床に就いても熟睡できません。疲労もたまって当然です。夜更かし、朝寝坊、朝食抜き、という悪循環を断ち切るためにも、夕食後の不必要な飲食(夜食)をせず、できれば食事は寝る3時間前までにはすませる習慣を身につけたいものです。それが自律神経のバランスを保ち、健康的な体質をつくる鍵となるからです。

     しかし、食事を規則正しくとりたくても、残業などで夕食が遅い時間になったり、食べる時間が不規則になったりすることもあります。さらに、空腹のまま仕事を続けると、ドカ食い(エネルギーの過剰摂取)にもつながります。夜は栄養を吸収・蓄積し、翌日の活動に備えようとします。そのため、消費しきれなかった余剰エネルギーは寝ている間に脂肪として蓄えられていきます。

     そこで、残業などで夕食が遅くなってしまう場合は、「つなぎ」の間食をとるようにします。ポイントはその分その後の食事を軽くすること。これができれば胃のリズムが整い、消化吸収もスムーズになります。

     夕食が遅くなりそうなときは、コンビニのおにぎりやサンドイッチ、果物、牛乳などで夕方に一度軽い間食をとり、帰宅後にその間食では不足する栄養素(野菜など)を補う程度の食事を控えめにとるようにします。

     また、夕方に間食をとりそびれたときは、夕食を腹7分目にして我慢すれば消化器官の負担も抑えられ、眠りも妨げられません。肉類などは、消化に2~3時間かかるので、なるべく避けます。胃がもたれたりして朝食が食べられなくなるようでは、翌日の食事のサイクルに影響が出てしまいます。どうしても空腹で眠れないときは温かい牛乳がおすすめです。


    【Point】栄養指導等に携わる人は
     仕事などの関係上、どうしても夕食が遅くなる人には、本文でも述べたように夕食を2回に分ける分食も考慮してみましょう。その際、1回目と2回目を合わせ、全体として食事のバランスが得られるよう意識してもらうようにしましょう。
     遅い時間に避けたい食べ物は、①高エネルギーな菓子類 ②油を多く使った揚げ物 ③ファーストフードなどです。逆に比較的安心して食べられるのが、①煮物、焼き魚、みそ汁などの和食系のメニュー ②鍋物、ポトフ、温野菜など ③雑炊や煮込みうどんなど ④牛乳、プレーンヨーグルト、チーズなどの乳製品です。  対象となる個人の身体状況、健康状態、生活時間、嗜好などを勘案し、できるだけ実効性が高まるよう配慮しながら、望ましい食べ方(組み合わせ方)をアドバイスすることが大切です。
     昨年公表された「食事バランスガイド」(http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/eiyou-syokuji.html、小誌2005年9月号)を参考にすると、理解が深まりやすくなるでしょう。

    由田 克士(国立健康・栄養研究所健康・栄養調査研究部室長)
    【健康づくり 2006年2月号】

  •  まず、アミノ酸ですが、人の体の約60%は水分で、残りの半分弱の約15~20%がアミノ酸およびアミノ酸からなるたんぱく質で構成されています。アミノ酸は、食事などによって体内にとり入れられたたんぱく質が分解・吸収されて作られます。体を作る20種類のアミノ酸のうち11種類は体内で作ることができますが、体内で作ることができない9種類は必須アミノ酸と呼ばれ、食事からとることが不可欠です。アミノ酸が不足すると体は正常に機能しなくなり、低栄養状態や肌あれなどが起こることもあり、アミノ酸は生きていくうえで欠かせない栄養成分といえます。

     アミノ酸の摂取はスポーツ界などで積極的に行われています。激しい運動や長時間の運動時には、不足したエネルギーを補おうと筋肉中のたんぱく質が分解・消費されます。その結果、筋肉組織が消費されますが、たんぱく質を作るもととなるアミノ酸を補給することで、筋肉の消耗や低下を抑えることができます。運動後に補給すれば、消耗を受けた筋肉の回復を促し、筋肉痛を防ぐ可能性が期待できます。

     一方、オリゴ糖は糖質の一種で、単糖類という最小単位がいくつか結合したものです。このことからギリシャ語の「少ない」という意味の「オリゴ」と名づけられました。野菜や果物、牛乳などにも含まれていますが非常に微量です。通常、摂取する機会が多いのは、テーブルシュガーや清涼飲料水、ヨーグルトなどの形で、これらはでんぷんや砂糖などから酵素などを用いて人工的に作られたものが多いです。

     オリゴ糖は、ビフィズス菌など腸内の善玉菌を増やしおなかの調子を整える働きがあります。砂糖と違って虫歯菌の栄養素にならないので、虫歯になりにくい甘味料としても使われています。消化吸収されにくく、砂糖に比べ低カロリーなので、血糖値の上昇も少ないものです。ただし、とりすぎや体調によっては下痢を起こしますので、注意が必要です。

     なおアミノ酸、オリゴ糖に代表される多くの健康食品素材があり、体内での働きはさまざまですが、これらは必ずしも通常の食事にプラスしてとる必要はありません。基本は日常の食事からということを忘れないでください。効きそうだから、よさそうだから、とすぐに手を出すのではなく、必要なときに必要なものをという判断力や知識を身につけることも大切です。


    【Point】保健指導に携わる人
     アミノ酸は通常の食事をしていれば不足することはまずありません。旅行などで偏食が続いたとき、ダイエットで食事制限をしたとき、スポーツの後や肌あれなどが気になったとき、などにワンポイントでとるぐらいがちょうどいいでしょう。通常は多量に摂取しても余剰分は排泄されてしまいますので、あまり意味がありません。
     アミノ酸ダイエットという言葉も耳にしますが、一般の人であれば食べすぎや運動不足の解消に努めるほうが先決で、効果的です。
     むしろ、アミノ酸入り飲料などのとりすぎにより、糖分を過剰に摂取してしまうほうが心配です。本格的なスポーツではなく、ウォーキングなど日常生活における健康づくりなどでの水分補給は、水で十分です。成分を気にするよりも、こまめに補給することを気にかけてもらうようにします。

    山田 和彦(国立健康・栄養研究所食品表示分析・企画研究部長)
    【健康づくり 2006年4月号】

特定保健用食品

  •  サプリメントはもともとは「補足」という意味で、ビタミンやミネラルなど通常の生活では不足しがちな栄養素を補う目的で作られた栄養補助食品の総称です。形状は、液体、粉末、錠剤、カプセルタイプなどさまざま。薬の形態に似ていますが食品の一種です。

     栄養補助食品は厚生労働省により細かく分類、規定されています。「特定保健用食品」(略称トクホ)は安全性と特定の成分の保健効果が認められたもので、栄養学および医学の科学的データの裏づけにより、保健効果が証明されています。約500品目あり、保健用途(血圧、コレステロールを安定させる、おなかの調子を整えるなど)の表示ができます。トクホのように保健用途は表示できませんが、含まれる栄養成分の機能を表示できるのが「栄養機能食品」です。含まれる栄養成分の含有量が基準を満たすことを条件に、その機能表示が認められています。

     なお、今年2月に省令が定められ、見直しされたトクホ制度がスタートしています。その主な内容は、①従来の審査基準では有効性の科学的根拠のレベルには届かないものの、一定の有効性が確認される食品を条件付きで許可する「条件付き特保」、②すでに許可されているトクホのうち一定の基準を満たすものについて、有効性の試験は不要とし、安全性の試験だけを求める「規格基準型特保」、③関与成分の疾病リスク低減効果が医学的・栄養学的に確立されている場合、トクホの許可において表示を認める「疾病リスク低減表示」の3つです。

     ①は、「○○を含んでおり、根拠は必ずしも確立されていませんが、血圧が高めの方に適していることが示唆されている食品です」といった表示ができます。②は、許可数が100件を超え、関与成分の最初の許可から6年以上経過し、複数の企業が許可を取得していることが条件で、「おなかの調子を整える」等の表示をする成分のうち、難消化性デキストリン、大豆オリゴ糖などの9成分です。③は、「カルシウムと骨粗しょう症」と「葉酸と神経管閉鎖障害」の2種類について、疾病リスク低減効果がある旨の表示が認められています。

     サプリメントの日常の利用についてですが、健康な人の場合は通常の食品から必要な栄養素をバランスよくというのが理想であり、進んで摂取する必要はありません。ただし、がんや高血圧、糖尿病などの生活習慣病の人や、それらの予備軍の人、体力が落ちている人などが、摂取栄養の偏りや不足がないように補助的にサプリメントを利用することは有効といえるでしょう。

     最後に。人間の体は必要な食品を摂取し、咀嚼、消化、吸収などの各プロセスを経て健康な体を維持しているものなので、簡便だからといって安易にサプリメントを多用する姿勢はよくありません。基本はあくまでも毎日の食事です。


    【Point】栄養指導等に携わる人は
     トクホや栄養機能食品では、すべての栄養成分がバランスよくとれるわけではない点について認識してもらうことが重要です。1日の目安量などは必ず守るように指導し、過剰摂取による害がある点についても注意を喚起します。インターネット販売や通信販売で海外製品も入手しやすくなっていますが、海外では食品扱いの成分でも日本では医薬品扱いの成分が含まれている場合もあるので、その点についてきちんと確認や相談をするように指導します。

    山田 和彦(国立健康・栄養研究所食品表示分析・企画研究部長)
    【健康づくり 2005年7月号】

トランス脂肪酸

  •  マーガリンなどに含まれるトランス脂肪酸とは、植物性の液状の油である不飽和脂肪酸に水素添加という化学処理を行うことで、固形化された油です。不飽和脂肪酸は不安定な脂肪酸のため、化学処理によって酸化しにくく、日持ちする油に変化させているのです。

     トランス脂肪酸には、悪玉とされるLDLコレステロールを増加させ、善玉のHDLコレステロールを減少させる働きがあり、大量に摂取すると動脈硬化などによる心臓病のリスクが高まるという報告があります。欧米の調査では、トランス脂肪酸の摂取量が1日に5~15g以上になると心疾患のリスクを高めるとされます。

     このためWHOは、トランス脂肪酸の摂取量を1日当たり「摂取エネルギーの1%以内(2g程度)に抑えるべき」と勧告しました。またデンマークでは消費者向け製品のトランス脂肪酸の含有量に制限をかけ、米国ではトランス脂肪酸の含有量表示を義務づけるなどの動きが出てきています。

     日本では厚生労働省が1999年の「第6次改訂日本人の栄養所要量」で、「トランス脂肪酸の摂取量が増えると、血漿コレステロール濃度の上昇、善玉コレステロール濃度の低下など、動脈硬化症の危険性が増加すると報告されている」と注意を呼びかけています。

     一方、内閣府の食品安全委員会は、日本人ではトランス脂肪酸の摂取量が少ないため健康への影響は小さいとしています(2004年)。実際、最新の調査によれば、日本人の1日当たりのトランス脂肪酸摂取量は0・7~1・3g、摂取エネルギーに占める割合では0・3~0・6%と推定され、WHOの基準を満たしています。しかし、個人ごとのばらつきが大きいと考えられ、偏った食生活では過剰摂取の危険があります。

     マーガリンやショートニング(植物油等が原料でラードの代用品として開発。サクサク感を出すため菓子等に使用)、ビスケット、クッキー、ポテトチップスなどの食品は、トランス脂肪酸を多く含む可能性がありますが、実際には製品ごとに含有量は大きく異なります(表参照)。しかし消費者には商品ごとの情報がありませんので、これらの加工油脂や加工油脂を含む食品をとりすぎないことが現状での重要な対策となります。

    表●トランス脂肪酸含有量

    小分類または食品名     平均値(g/100g)  最大値(g/100g)  最小値(g/100g)
    食用調合油、ナタネ油等   1.395        2.780        0
    ショートニング       13.574       31.210        0.640
    ビスケット類        1.795        7.282        0.036
    (日本食生活分析センター調べ)



    【Point】栄養指導等に携わる人は
     かつては動物性油脂であるバターよりも、植物性のマーガリンのほうが好ましいとする考えがありましたが、現時点では必ずしもどちらがよいとはいえません。バターもマーガリンも、過剰に摂取すると、エネルギー過多や動脈硬化の面で問題となりますので、好きなほうを少量にとどめるよう指導しましょう。
     なおトランス脂肪酸については、内閣府の食品安全委員会が、科学的な知見を整理した「ファクトシート」の見直し作業を行っていますので(http://www.fsc.go.jp/senmon/kagakubusshitu/index.html)、こうしたサイトなどで常に最新の情報を得ておくことが大切です。

    永田 純一(国立健康・栄養研究所食品保健機能プログラム 食品分析プログラムリーダー)
    【健康づくり 2007年7月号】

貧血

  •  貧血にはその要因によっていくつか種類があります。最も多いのは、鉄が不足して起こる鉄欠乏性貧血です。ここではそれについて述べます。

     貧血の原因としては、食事からの鉄摂取量の不足、妊娠、授乳などによる鉄需要の増加などが挙げられます。マラソンや剣道など、足を強く地面に打ちつけるスポーツも原因になることがあります。

     貧血を防ぐには、バランスのよい食事、特に鉄を意識して多くとることが大切です。

     鉄を効率よくとるポイントは、「ヘム鉄」の多い食品を多くとることです。食品に含まれる鉄には、吸収のよいヘム鉄と、吸収率がそれほど高くない非ヘム鉄があり、腸での吸収率に数倍の差があります。

     ヘム鉄は肉や魚などの動物性食品に、非ヘム鉄は野菜や海草などの植物性食品に含まれています。非ヘム鉄も良質な動物性たんぱく質やビタミンCと一緒にとることで吸収率が高まります。量だけでなく、食品の組み合わせも工夫するとよいでしょう。

     鉄もたんぱく質も多い食品には牛肉やレバー、カツオなどの赤身の魚、あさりなどが、ビタミンCが多い食品には緑黄色野菜、果物などが挙げられます。おすすめメニューの一例として、「小松菜と牛肉の炒め物」「レバーのしそ揚げ」「あさりの酒蒸し」「ひじきと大豆の煮物」などを毎日の食事に組み入れるとよいでしょう。

     また、鉄は胃酸が分泌されると吸収されやすくなりますので、梅干や酢などの酸っぱいものと一緒に食べたり、よくかんで胃酸の分泌を促したりすることで吸収率を高めることができます。

     鉄は発汗によっても失われますので、暑くなるこれからの季節は要注意です。鉄を多く含む食事を心がけるほか、「無理なダイエットをしていないか」「朝食を抜いていないか」など、食生活全般を見直しておきたいものです。

     女性の場合は、生理や妊娠などで多くの鉄を必要としますので、男性の1・5倍~2倍くらいとるぐらいの意識でいるとよいでしょう。また、妊娠期、授乳期は、母体の健康、胎児の発育のため、また母乳量と含まれる栄養成分を保つため、鉄以外にもビタミン、ミネラルなどの栄養素を必要としますので、特に食生活には気をつけましょう。「妊産婦のための食生活指針(http://www.mhlw.go.jp/houdou/2006/02/h0201-3.html)」に具体的な食生活のポイントが示されていますので、参考にしてみてください。


    【Point】保健指導等に携わる人は
     鉄欠乏性貧血を防ぐには「規則正しい三度の食事」と「バランスのとれた食事内容」が大きなポイントになります。また鉄以外にも、葉酸やビタミンB12の不足によっても貧血は起こりますので、この点にも注意が必要です。
     食生活以外の要因に注意を向ける必要もあります。たとえば、痔や潰瘍などが原因で貧血症状が現れることがあります。また、胃の切除後や肝硬変、血液人工透析などが原因で貧血が起きていることもあります。原因として食生活に心当たりがないときは医療機関での診察・検査を勧めたほうがよいといえます。

    荒井 裕介(国立健康・栄養研究所国際産学連携センター研究員)
    【健康づくり 2006年7月号】

  •  ミネラルウォーターの生産量は増えており、炭酸飲料、コーヒー飲料、スポーツドリンク、トマトジュースなど他の飲料が横ばいの状況のなか、大きな伸びをみせています。近年の健康志向がその背景にあると考えられますが、人体の60%が水であり、1日平均2・5褄の水を食事と飲料から補っていること、体内の水分が40~50%まで下がると生命の危機に陥ることなどを考えると、水への関心が高いのは自然なことかもしれません。

     さて、そもそもミネラルウォーターとは、容器入りの飲料水のうち地下水を原水としたものをいい、添加物などの調整を行っていないものをナチュラルウォーターやナチュラルミネラルウォーターと呼びます。ちなみに、原水が地下水でないものはボトルドウォーターと呼んでいます。また、ミネラルウォーターは、カルシウムやマグネシウムが豊富な硬水と、これらの成分が少ない軟水に大別されます。硬水はノンカロリーで、ミネラルを摂取でき、またマグネシウムが多いものは腸内浸透圧に与える影響で便秘になりにくいなどの効果が期待できると思われています。こうした点で、減量を志す人が愛飲している現状もあるようです。

     便通がよくなること自体は好ましいことですが、減量の本質は筋肉や骨の重量をできるだけ落とさずに脂肪を燃焼させることですので、便秘と減量は直接的には関係しません。カルシウムやマグネシウムについては、必要な量を食事から摂取できていない人もいますので、硬水から不足分を補う効果は期待してよいでしょう。

     このほか、海洋深層水や酸素水も話題となりました。海洋深層水は、深海を循環している水のことで、ミネラルが豊富で細菌が少ないとされますが、ナトリウムが多く、製品間のばらつきが大きいようです。酸素水は通常の水よりも多くの酸素を溶かした水ですが、その有用性の根拠は見当たりません。いずれも体への直接的な影響を期待するのではなく、気分をリフレッシュするためのものという程度に考えてください。なお、海外ではミネラルウォーターにヒ素が混入していた事例がありました。

     いずれにしても、ミネラルウォーターに過大な期待を寄せるのではなく、状況に合わせて気分よく利用するのがよいでしょう。もしこれまでジュースやスポーツドリンクなどを飲んでいたのを水に変えれば、確実に摂取カロリーが減り、減量効果が期待できます。この場合、ノンカロリーの水やお茶であればよく、ミネラルウオーターである必要はありません。


    【Point】栄養指導等に携わる人は
     食生活全体から見たミネラル摂取という意味では、ミネラルウォーターに含まれている程度の量では十分とはいえません。食事からの摂取が基本であり、ミネラルウォーター(硬水)は補助的なものだと理解してもらいましょう。
     また硬水と同様に減量目的に「にがり水」が飲まれることがあります。にがりに含まれるマグネシウムに便通をよくする効果があるからですが、市販の「にがり水」の品質はまちまちで、腎臓障害の方がマグネシウム濃度の濃い製品を利用して重大な健康被害を受けた事例があります。便通改善などの医薬品的な効果を期待した安易な利用がされないよう注意喚起してください。

    梅垣 敬三(国立健康・栄養研究所情報センター健康食品プロジェクトリーダー)
    【健康づくり 2008年2月号】

野菜ジュース

  •  『「健康日本21」中間評価報告書』によると、日本人の野菜摂取量は、目標値350gに対して平成17年は267g、緑黄色野菜は目標値120gに対して89gと、いずれも目標値に達していません。

     一方、野菜の1人当たりの消費量は近年減少傾向にありましたが、平成16年度には年間93・8kgだった消費量が、「野菜飲料の増加等により17年度は96・2kgに増加した」との報告もあります(平成17事業年度農畜産業振興機構年報より)。実際、野菜ジュースの生産量は近年増加しており、17年度の生産量は前年度比130・2%と、コーヒー飲料の106・6%や茶系飲料の101・3%など、その他の飲料と比べて大きな伸びを見せています((社)全国清涼飲料工業会調査より)。朝食を抜きがち、外食率が高いなどの食生活を送る人が多いなか、手軽に飲める市販の野菜ジュースを活用しようということなのでしょう。

     そこで、今回のご質問「野菜ジュースは野菜の代わりになるのか」です。結論は、市販の野菜ジュースは、家庭などで食べる野菜とは栄養成分のバランスが異なり野菜の代わりにはならないので、食生活を補うための一手段として利用するのがよいです。さらに大事なこととして、野菜の十分な摂取は単に栄養成分をとること以外に、食事全体のバランスを整えるという意味があります。

     平成12年に国民生活センターから公表された、市販の野菜ジュースを緑黄色野菜の各栄養成分と比較したテストによると、ビタミンA効力などを除き、食物繊維やビタミン、ミネラルの補給効果は低いという結果でした。加工時に搾り汁や加熱殺菌などの処理が行われ、栄養成分のバランスが変化していると考えられます。また、野菜を搾ったときにできる搾りかすのほうに食物繊維やβカロテンが多く含まれており、野菜を丸ごととる場合と同じようには必要な栄養成分を摂取できません。このような栄養成分のロスを少なくする工夫が各メーカーでなされているようですが、食物繊維についてはどうしても失われる量が多くなります。

     なお、手作りの野菜ジュースの場合はというと、搾りかすを捨ててしまうジューサーで作った野菜ジュースの栄養成分は、市販の野菜ジュースに近いものとなってしまいます。ミキサーなら野菜の栄養成分が丸ごととれるのでお勧めですが、品種の偏りには注意が必要です。

     いずれにしても、市販の野菜ジュースは野菜の完全な代用にはなりません。日常の食生活の補助的なものとして利用し、必要な栄養分は多様な種類の野菜からバランスよくとるように心がけましょう。


    【Point】栄養指導等に携わる人は
     「健康日本21」において1日350gという目標値が定められたのは、実際に350g以上を摂取している成人では1日トータルの食事からの栄養バランスが優れているということに基づいています。したがって、「食事バランスガイド」等を参考に、「副菜」として野菜を十分に摂取することがいちばん望ましいのですが、実際には野菜ジュースを上手に利用するという工夫も必要でしょう。「食事バランスガイド」の応用として、野菜ジュースは飲んだ重量の2分の1としてカウントし、たとえば1回飲みきりのパック(缶)では「1つ(SV)」に数えることを勧めています。

    吉池 信男(国立健康・栄養研究所研究企画評価主幹)
    【健康づくり 2007年10月号】

がん

  •  がんの主要な原因はたばこや飲酒、食事などの日常の生活習慣にかかわるものだとわかってきました。習慣の見直しや改善の努力でがんのリスクを軽減することが期待できます。  現状において推奨できる科学的根拠に基づいた、日本人のためのがん予防法(http://epi.ncc.go.jp/can_prev/preventive_measures.html参照)は、日本人を対象とした疫学研究を基に欧米でのエビデンスも参考にしながら「生活習慣改善によるがん予防法の開発に関する研究」班において策定したものです。

     喫煙ががん・循環器疾患などの疾患のリスクを上げることはよく知られています。禁煙は最も確実ながん予防法といってよいでしょう。また、受動喫煙にも注意しましょう。

     ある程度の量の飲酒は、大腸などのがんのリスクを上げる一方で、心筋梗塞や脳梗塞のリスクを下げる効果がありますから、節度のある飲酒が大切です。飲む場合は純エタノール換算で1日約23g(日本酒1合、ビール大瓶1本、焼酎や泡盛3分の2合、ウイスキーやブランデーダブル1杯、ワインボトル3分の1本程度)にとどめましょう。

     確実にがんを予防できるという単一の食品、栄養素は、現在のところわかっていません。逆に、とりすぎるとがんのリスクを上げる可能性がある成分、調理・保存の過程で生成される化学物質等があります。そのようなリスクを分散させるためにも、バランスのよい食事を心がけましょう。なかでも、塩分をとりすぎない、野菜・果物を毎日とる、ハム・ソーセージ・ベーコンなどの加工肉や牛・豚・羊などの赤肉をとりすぎない、飲食物を熱い状態でとらないようにすることは大切です。

     身体活動量が高いと、がんのみならず心疾患の死亡のリスクも低くなります。身体活動量を保つことは、健康で長生きするためのカギになりそうです。

     肥満とがん全体との関係は、日本では欧米ほど強くありません。むしろ、やせによる栄養不足は免疫力の低下から感染症を引き起こしたり、血管壁をもろくしたりすることから、脳出血を起こしやすくなります。中高年期男性のBMIで21~27、女性では19~25の範囲内になるように体重を管理しましょう。

     肝がん発症の原因となるB型・C型肝炎ウイルスは、主に血液や体液を介して感染します。出産時の母子感染、輸血や血液製剤の使用、感染リスクが明らかでなかった時代の医療行為により、知らない間に感染している可能性もありますので、保健所や医療機関で肝炎ウイルス検査を受けましょう。

     がん予防では、さまざまな条件とのバランスを考えて、がんのリスクをできるだけ低く抑えることが目標になります。これさえ守れば絶対にがんにならないという方法はありません。毎日の生活習慣に不健康な偏りがないかどうかを点検し、少しずつ改善し、慣らし、継続するという地道な努力を、ストレスにならない範囲で工夫するのが近道でしょう。


    【Point】保健指導等に携わる人は
     先に紹介した日本人のためのがん予防法を念頭に、取り入れやすい実現可能な生活習慣改善のアドバイスを行うのがよいでしょう。
     たとえば唯一の楽しみであるたばこはやめられないが飲酒ならいまの量を減らす努力はできそう、一人暮らしで食事のバランスをとるのが難しい場合は、運動をする習慣をつける工夫をするなど、完璧をめざすのではなく、ストレスを感じずに続けられるものを一緒に探すようにするとよいかもしれません。
     また、検診を受診することは早期発見・早期治療に結びつきますのであわせて勧めると効果的です。

    笹月 静(国立がんセンターがん予防・検診研究センター予防研究部室長)
    【健康づくり 2009年9月号】

  •  子宮頸がんは子宮の入り口にできるがんで、以前は40~50歳代以降に多い病気でしたが、最近は20~30歳代の発症が増加しています。

     子宮頸がんはヒトパピローマウイルス(HPV)の感染が原因であることがわかっています。HPVはDNAの配列から100種類以上に分類され、子宮頸がんと関連しているのはそのうちの十数種類です。これらは、「ハイリスクHPV」と呼ばれています。特に多いのは16型、18型の2種類で、日本人の子宮頸がんの原因の約60%を占めています。HPVは性行為によって感染するため、性経験のある女性の70~80%が生涯に一度はHPVに感染します。感染してもほとんどは一時的なもので、免疫の作用で短期間にHPVを排除します。何らかの要因でHPVの感染が持続すると、一部の女性はがんになる可能性がある異形成という状態になります。異形成になっても多くの場合、自然に治るのですが、ごく一部の女性が頸がんを発症します。この期間は数年から十数年といわれています。

     子宮頸がんは「細胞診」という検査によって、がんになる前の異形成の段階で見つけることができます。細胞診を定期的に受けることで、異形成の段階で発見し、経過観察や治療を行えば、がんを予防することができるのです。しかも、細胞診は子宮の入り口を綿棒等でこすって採取するだけなので、体への負担が少ない検査です。

     欧米では子宮頸がん検診の受診率は70~80%ですが、日本は20~30%前後と先進国では最下位です。しかも、がんの罹患が増加している20~30歳代の受診率はさらに低く、5%程度といわれています。残念ながら20歳代のがんのトップは、検診で予防できるはずの子宮頸がんなのです。また、進行がんの場合、たとえ命は救われても子宮を残すことはかなわない場合も多いです。女性の社会進出等で30歳代の妊娠出産が多くなっています。子どもを産もうとしたときに子宮を失っているという悲劇は、検診を受けることで避けることができます。

     近年、子宮頸がんの原因となるHPVに対するワクチンが開発されました。同ワクチンはハイリスクHPVの16型と18型に対する感染を予防する働きがあるため、性行為を経験する前の接種が最も効果的です。日本では、平成21年10月に同ワクチンが承認されましたが、ワクチンを接種したからといって、すべての子宮頸がんを予防できるというわけではありません。細胞診による検診も受けることが大切です。

     子宮頸がんは、検診とワクチンで「予防できるがん」です。20歳を過ぎたら2年に一度は検診を受けてください。


    【Point】保健指導等に携わる人は
     欧米では、すでに多くの若い女性が子宮頸がんワクチンを公費負担で接種しています。日本でも同ワクチンが承認されましたが、公費負担にはなっていません。ただし、自治体によっては、接種費用を全額または一部補助しているところもありますので、問い合わせてみることを勧めましょう。
     ヒトパピローマウイルス(HPV)感染を完全に防ぐ方式は、現段階では見つかっていません。性行時にコンドームを使うことで感染の確率を下げることはできますが、その効果は完全ではありません。検診を受けることが子宮頸がんを予防する最善の予防法であることを知ってもらいましょう。

    小田 瑞恵(東京慈恵医科大学産婦人科講師 こころとからだの元気プラザ女性のための生涯医療センター)
    【健康づくり 2010年3月号】

基礎代謝

  •  人は何もしないで安静にしているときでも、生命を維持するために、心臓を動かし、呼吸をし、体温を維持し続けています。この代謝活動を基礎代謝といいます。

     基礎代謝は性別、年齢、体格、栄養状態などによってかなり個人差があります。一般的には女性より男性のほうが高く、16~18歳前後をピークとして、その後は徐々に低下していき、40歳を過ぎると急激な下降線をたどります。

     基礎代謝量は、1日に消費する総エネルギー量の約6割を占めるので、年齢とともに基礎代謝が低下していくことによって、全体の消費エネルギーも低下していきます。若いころと同じ量を食べていれば、消費できなかった余剰エネルギーは体脂肪として蓄積され、肥満の原因の一つとなります(もちろん身体活動量の低下が肥満の主な要因ですが)。中年太りの原因として、40歳以降の基礎代謝の急激な低下によって体質的にも太りやすくなったことも認識しておく必要があるでしょう。

     一般的に基礎代謝が低い人は太りやすい体質の傾向にあると考えられますが、基礎代謝量を決定するいちばんの要素は、その人の除脂肪量(脂肪以外の組織の量。筋肉や内臓、骨など)にあります。脂肪よりエネルギー消費が多い除脂肪量が多く基礎代謝量が高い人は、エネルギーの消費効率がよく、脂肪が多い人に比べると脂肪が体内に蓄積されにくく、逆に除脂肪量が少なく基礎代謝量が低い人は、エネルギー消費がより少ないため、余ったエネルギーが脂肪となって太りやすくなる可能性があります。

     一般的にBMI値25以上を「肥満」と判定していますが、体脂肪率が高く特に内臓の周囲に脂肪がたまる「内臓脂肪型肥満」の人は、高血圧や糖尿病など、さまざまな生活習慣病になる危険性が高いので、日ごろから肥満予防・肥満解消を心がけたいものです。

     ダイエットを実践する際には、基礎代謝量を低下させないことが重要なポイント。食事の量を減らすだけのダイエット法では、栄養素の不足から除脂肪量をも減少させてしまい、かえって太りやすい体質になってしまうので注意が必要です。逆に、除脂肪量を増やして基礎代謝を高めるダイエットを実践していけば、太りにくい体質になるため、過度な食事制限をしなくても効率よく減量でき、健康の維持にもつながります。除脂肪量を減らさないためには運動を併用することが有効です。

    <基礎代謝量の計算方法>
    ◎1日の基礎代謝量
     体重に以下の値をかけて推定します。

     20歳代    男性24.0 女性23.6
     30~40歳代 男性22.3 女性21.7
     50歳代    男性21.5 女性20.7

     例:65kgの35歳男性の場合 65×22.3=1450 kcal/日
     ただし、体重が標準から離れるほど推定誤差が大きくなります。


    【Point】運動指導等に携わる人は
     基礎代謝を高めるためには、必要栄養素を十分とりながら、筋肉量をふやす運動(筋力を鍛えるような運動)を日常生活の中に組み入れていくことです。体脂肪燃焼に適した有酸素運動と組み合わせて行うと、より運動の効果が高くなります。
     基礎代謝量の推定については、今は自宅で簡単にできる体脂肪計も市販されているので、目安として利用してみるのもいいでしょう。

    田畑 泉(国立健康・栄養研究所健康増進プログラムリーダー)
    【健康づくり 2005年5月号】

中性脂肪

  •  中性脂肪は、コレステロールと並ぶ代表的な脂肪です。「中性脂肪が高い」といった場合は血液中の中性脂肪が高いことを意味し、空腹時測定の場合、肝臓で作られるVLDL(超低比重リポたんぱく)中の中性脂肪の量が多いことを意味します。

     VLDL値の上昇は肥満者、アルコール多飲者、糖質の過剰摂取で認められます。しかし、食後採血しないようにすることが大切です。食事に含まれる脂肪は小腸で吸収された後、カイロミクロンと呼ばれる小さい脂肪の塊として血中に出てきますが、食後の測定ではこのカイロミクロンに含まれる中性脂肪を測定してしまいますので、健常人でも高く出ます。採血の12時間前からカロリーのある物を飲んだり食べたりしてはいけません。水は大丈夫です。

     高いと体に悪いかどうかはケースバイケースです。もう一つの脂肪、悪玉コレステロール(LDL│コレステロール)の増加は心筋梗塞の強力な危険因子ですが、VLDL│中性脂肪の増加が独立した心筋梗塞の危険因子かはわかっていません。VLDL高値自体が病気を引き起こすと考えるよりも、間接的に病気の発症とかかわり合うと考えたほうがよいでしょう。

     脂肪細胞から多く出ている遊離脂肪酸は、肝臓でVLDLに一部変換されるため、VLDLが多い場合、内蔵の周りの脂肪がたまった内臓肥満のことがあります。目に見えて太っていなくても、へその周りの腹囲(へそ周り)が男性で85、女性で90を超えると、内臓肥満で、生活習慣病が発症しやすくなります。また、VLDL│中性脂肪の高い人は善玉コレステロール(HDL│コレステロール)も低いことが多く、善玉コレステロールが低いことは独立した心筋梗塞の危険因子です。

     すなわち、「中性脂肪が高い」と言われた場合、何が原因でVLDLが高くなっているのか、肥満・内臓肥満・脂肪肝はないか、アルコールをたくさん飲んでいないか、甘い清涼飲料を多く飲んでいないか、などについて調べておくことが大切です。また、LDLおよびHDL│コレステロール値は正常なのか、糖尿病・高血圧の有無、喫煙しているかなど、他の危険因子の存在により、中性脂肪値の意味づけが異なってきます。治療法についても、各個人によって原因が異なるため、対応が異なってきます。


    <基準値>
     ※医療機関によって若干基準値が異なる場合があります。
      中性脂肪(TG)
       30~149mg/dl
      善玉コレステロール(HDL)
       40mg/dl以上
      悪玉コレステロール(LDL)
       140mg/dl未満


    【Point】栄養指導等に携わる人は
     中性脂肪を減らすにはダイエットが第一になりますが、各個人によって、原因が異なるため、対応が異なってきます。運動が重要な人、カロリー摂取制限が有効な人、清涼飲料水の制限が大切な人、魚を多く食べるようにしたほうがよい人など、十人十色です。何がその人のポイントか見つけてください。ポイントが当たれば、著明に改善します。うまくいかない場合は、糖尿病の人のためのレトルト治療食や糖尿病治療食の宅配システムを利用するのも一つの方法です。最近のものは味つけもおいしくなり、値段も一食当たり1000円前後と、ダイエット食を学ぶ教材としても手軽に試すことが可能です。

    江崎 治(国立健康・栄養研究所生活習慣病研究部長)
    【健康づくり 2005年6月号】

低血圧

  •  急に立ち上がると、クラクラと目の前が暗くなる状態は、「起立性低血圧」が疑われます。安静時から起立した際に、収縮期血圧がおおよそ20mmHg以上低下するケースで、脳貧血とも呼ばれ、自律神経失調症状の一つです。

     本来、起立したときには、交感神経が腹部や手足の血管を収縮させて血圧が低下しないように働きますが、低血圧のため全身の血液が脳に上がらず、下半身にたまって血圧が低下することで発生します。正常血圧や高血圧の人にもみられます。原因は、ストレスや不摂生、疲れなどで交感神経の働きが悪くなるためです。生理周期や過度なダイエットも一因で、男性より女性に多くみられるようです。

     血圧が低いだけで、ほかに自覚症状がなければ治療はしません。まずは規則正しい生活からスタートです。特に朝は決めた時間にきちんと起き、寝だめなどせず、朝食をとり1日の体内リズムをつくることが大切です。体力づくり、たとえばウォーキングや軽いストレッチングなどを、日々心がけてみるのも一つでしょう。

     立ち上がるときには、心の中でワンテンポ間を置いて「どっこいしょ」とつぶやくか、足の屈伸をゆっくりと繰り返して、次の動作に移ることが望ましいでしょう。

     また、日内変動がほとんどなく恒常的に血圧が低い「本態性低血圧」もあります。一般的には、収縮期血圧が100mmHg以下と定義しており、遺伝的影響もあります。自覚症状がない人もいますが、頭痛、疲れやすい、めまい、冷え性、動悸、午前中が苦手、食欲不振などの不定愁訴を伴うことが多く、どちらかというと若くやせ型で筋肉の少ない女性にみられます。

     はっきりした原因はわかっていませんが、自律神経の働きが未熟だったり鈍かったりしていることが考えられます。虚弱体質、ストレスを感じやすい性格、不規則な生活、喫煙、アルコールなど嗜好品のとりすぎ、生理不順や月経前緊張症(PMS)などでも、低血圧になりやすく、起立性低血圧を合併しやすくなるおそれもあります。

     本態性低血圧は、昇圧剤や漢方を使って体質改善を試みることもありますが、服用し続けなければいけませんし、時間も少しかかります。改善には、やはり日常生活の見直しと、栄養バランスを考えた食事が特効薬です。

     なお、低血圧と「貧血」は、よく混同されがちですが、まったく別のものです。貧血とは、血液中の赤血球の成分である血色素(ヘモグロビン)の量が正常値より低い状態をいいます。ですから、自覚症状ではなく血液検査をして判断することが必要です。


    【Point】保健指導等に携わる人は
     上記のように、低血圧といっても症状はさまざまです。起立性低血圧や本態性低血圧のほかにも、「症候性低血圧」(二次性低血圧)と呼ばれるものもあります。これは、何らかの病気がもとで血圧が低くなっている状態で、糖尿病、慢性肝炎、肺結核、甲状腺機能低下症のほか、出血傾向などが挙げられます。この場合は原因となっている疾病を把握することが第一になります。
     いずれの低血圧についても、体質だとあきらめず、食事と運動、十分な睡眠といった生活習慣の改善を促すように指導しましょう。また、女性の場合は月経周期を把握し、無理のないタイムテーブルとリラックスを心がけることも必要です。低血圧と上手につきあっていくことも含めてアドバイスしましょう。

    池下 育子(池下レディースクリニック銀座 院長)
    【健康づくり 2007年5月号】

糖尿病

  •  糖尿病の合併症の一つである網膜症が進行すると、失明することがあります。ある日、目覚めたら目が見えなかったなど、突然発症するケースもあります。

     糖尿病を放置したり、食事や運動療法、薬物療法を目標どおりに実践できず、高血糖の状態が長く続くと、全身の血管が徐々にダメージを受けていきます。高血糖により血管壁の細胞の代謝に異常が起きることなどが原因と考えられ、全身の大小の血管に障害が生じてきます。大きな血管に障害が起こると動脈硬化が進行し、放置したり正しく治療しないと心筋梗塞や脳卒中が起きてきます。小さな血管の障害が網膜に起きるのが「糖尿病性網膜症」です。網膜症は、高血糖状態が続くようになってから5~7年ほどで発症するといわれています。

     糖尿病性網膜症では、網膜に分布する細い血管壁の弱くなった部分が膨らんで瘤を形成したり、出血や血栓を起こします。進行すると網膜に浮腫や網膜剥離が起こり、さらに進むと、損傷を受けた血管の代わりに新しい血管が増殖(新生血管形成)してきます。この新しい血管は非常にもろく、網膜や硝子体への出血を引き起こします。

     網膜症の症状は、視力低下、目のかすみ、飛蚊症などで、ひどい場合は失明に至ります。しかし網膜の病変がある程度進んでも、視力低下などの自覚症状が出ないことも少なくありません。網膜の障害が軽度であれば、血糖値のコントロールなどによって回復する可能性がありますが、ある程度進行するとレーザー治療などが必要で、網膜も元どおりには回復しません。したがって糖尿病患者は、自覚症状がなくても、定期的に眼底検査を受け、網膜症の早期発見に努める必要があります。

     糖尿病の合併症には、網膜症のほか、知覚神経や自律神経の働きが悪くなる神経障害や、悪化すると腎不全に至る腎症などがあります。一般的には、神経障害は高血糖の状態が続いて5年ほどで、腎症は10~15年ほどで発症するといわれていますが、その進行速度は血糖値のコントロールの状況やほかの疾患の有無などの条件により個人差があります。

     合併症の中でも腎症は、腎不全になると人工透析が必要になり、食事制限もより厳しくなるなど、身体的、精神的苦痛が大きく、生活の質も著しく低下させます。現在、人工透析を始める人の原因疾患の第一位は糖尿病性腎症です。


    【Point】保健指導等に携わる人は
     糖尿病の合併症は、血糖値をコントロールすることで予防したり、進行を遅らせたりすることができるのは確かです。また網膜症は、血圧を正常に保つことも発症予防に有効です。しかし、網膜症がある程度以上進行してしまうと、血糖値や血圧のコントロールを行っても十分に視力を元に戻せないことも少なくありません。したがって、予防が何よりも大切だということをしっかり理解してもらいましょう。
     自覚症状や視力検査は網膜症の発見にほとんど役に立ちません。早期発見には、定期的に専門の眼科医による眼底検査が必須です。内科は受診していても、眼科は受診していないという人もいるので、眼科受診の有無を確認し、定期的な受診を促しましょう。

    門脇 孝(東京大学大学院医学系研究科教授)
    【健康づくり 2007年8月号】

ドライマウス

  •  ご質問の症状から、口腔乾燥症(ドライマウス)の疑いがあります。ドライマウスになる原因はさまざまです。ストレス、高血圧、糖尿病、そして降圧剤や抗うつ剤、睡眠薬などの副作用も考えられます。

     糖尿病、腎不全、シェーグレン症候群(自己免疫疾患)などがドライマウスの原因としてよく知られていますが、そのほかに唾液の分泌量が正常でも口呼吸、睡眠時無呼吸症候群などで夜間に唾液が蒸発して乾燥する方もおり、生活習慣を含めたさまざまな複合的な原因が考えられます。最近特に多いのが、薬の副作用によるドライマウスです。

     対処法は乾燥症状の原因を明らかにし、それに対する治療を行うことが重要ですが、乾燥症状を改善するためのヒアルロン酸等の保湿成分を含んだ口腔用のスプレーならびにジェルも市販されており、夜間の乾燥症状には入れ歯のような保湿装置とジェルを併用することにより症状を軽減することができます。また内服薬として唾液分泌促進薬や漢方薬が処方されることもあります。服用されている薬剤が原因の場合は主治医と相談し、同じ効果でも異なる薬剤に変更してもらうか、服用する薬剤の減量を相談してみてください。

     唾液は1日約1・5褄口腔内に分泌され、その役割には洗浄作用、抗菌作用、歯の保護作用、消化作用、粘膜保護作用、粘膜修復作用などがあります。どれも大切な役割を担っており、水は完全な代替物となり得ませんが、水分の補給は大切です。

     唾液中には、ラクトフェリン、リゾチーム、免疫グロブリンなどの抗菌物質が含まれています。これらの物質は細菌やウイルスを殺す働きをもっています。

     口腔内の常在菌の一つにカンジダがあります。カンジダはほかの粘膜、たとえば目や膣内にも存在します。このカンジダが増えると、カンジダ症を引き起こします。ネバネバ感や、舌が痛くなる「舌痛症」、唇の横が切れる「口角炎」なども典型的な症状です。

     カンジダは健康な方でも常在しており、菌がある程度以上増えないように共存しています。しかし体内の免疫力が低下したり、唾液の量が少なくなったりすると、とたんに増え粘膜に炎症を起こします。ひどい場合は、舌が白色の苔状を示し、ひび割れたり、うろこ状になったりします。こうなると食事も苦痛ですし、日常生活を送るうえでも支障が出てきます。

     そのほかには口の中の微生物が繁殖することで、虫歯や歯槽膿漏、口臭の原因にもなりますし、高齢者に多い誤嚥性肺炎などの感染症も起こしやすくなることが知られています。


    【Point】保健指導等に携わる人は
     ドライマウスは適切な処置によって症状を緩和し、進行を止めることができます。ドライマウスによる口腔内の諸症状を防ぐためには、歯ブラシやふくみうがいなど毎日の口のセルフケアが大切なことを理解してもらいましょう。加えて薬を忘れずに飲む生活や食事、運動習慣の見直しも大切です。
     本症はさまざまな基礎疾患により生じることから、診断、治療方法に関しては専門的な知識が求められます。大学病院や総合病院の口腔外科やドライマウスに対応する歯科医院への受診を促しましょう。

    斉藤 一郎(鶴見大学歯学部教授)
    【健康づくり 2007年11月号】

尿酸値

  •  最近、健康診断で尿酸値を測定する機会が増えてきました。尿酸とは、プリン体という細胞の核に含まれる核酸の一部やエネルギー源であるATPが代謝されてできた一種の老廃物です。プリン体は、食べ物や一部のアルコール飲料にも含まれますので、尿酸の一部はこれらに由来します。

     このようにして体内でつくられた尿酸は、その多くが腎臓から尿に溶けて排泄されます。血液中の尿酸の濃度は、通常は7.0mg/dl以下に保たれています。しかし、尿酸がたくさんつくられたり、排泄する量が減ったりすると、尿酸の濃度が正常よりも高くなります。血液中の尿酸濃度が7.0mg/dlを超えると、高尿酸血症になります。最近では成人男性の20~25%が高尿酸血症といわれています。

     高尿酸血症が長期間続くと、関節の中で尿酸の結晶ができてきます。この結晶が関節腔(関節の滑液で満たされている腔所)にこぼれ落ちると、急に関節が腫れ上がります。これが痛風発作です。さらに放置すると、尿路結石が生じたり、腎臓の機能が低下したりすることがあります。

     また、高尿酸血症があると肥満、高血圧、脂質異常症、糖尿病予備群などの生活習慣病を合併することが多いのです。最近注目されているメタボリックシンドロームも合併しやすいといわれています。このような合併症があると、動脈硬化を起こしやすくなります。尿酸値が高いと言われたら、痛風発作を起こしたことがなくても、生活習慣が乱れていないか、メタボリックシンドロームになっていないか、よく気をつけてみることが大切です。

     尿酸値を上げる原因としては、肥満や過食、プリン体の過剰摂取、飲酒、過剰な運動、ストレスがあるとされます。

     肥満と尿酸値は、密接に関係します。肥満がある場合は、摂取するカロリーを適正にし、過食を避けて減量に努めましょう。尿酸の元はプリン体ですが、プリン体制限を厳格にすると、摂取食品のバラエティが制限されてしまいますので、栄養上好ましくありません。プリン体を特に多く含む、内臓類を避けるようにすればよいでしょう。

     アルコール類はどれも尿酸値を上げる作用があります。よくビールは痛風によくないといわれますが、ビールに限ったことではありません。1日にビールなら500ml、日本酒なら1合、焼酎なら0.6合、ウイスキーなら60mlを目安に節酒してください。

     また、肥満の改善のためには運動も必要ですが、無酸素運動は尿酸値を上げる作用がありますので、速歩や適度のジョギングなどの有酸素運動がよいでしょう。

     尿酸は尿から排泄されるので、さしつかえなければ水分を多く摂取することをお勧めします。これらの生活習慣の見直しは、高尿酸血症に合併する他の生活習慣病の予防にもつながります。


    【Point】保健指導等に携わる人は
     プリン体の摂取量が多いと痛風になりやすいのは確かですが、内臓類のほか、肉類や魚介類のさまざまな食品に含まれており、低プリン体食は現実的ではありません。
     痛風が働き盛りの男性に多い疾患であることも考慮して、適度なカロリーでバランスのよい食事を心がけてもらうとよいでしょう。野菜の中にもプリン体の多いものがありますが、最近の研究では高プリン体含有野菜は、痛風の発症に関与しないことがわかってきました。
     また、ストレスは高尿酸血症にはよくありません。ストレス発散のために暴飲・暴食をするのも一因と思われます。ストレスを上手に解消するようなアドバイスも望まれます。

    谷口 敦夫(東京女子医科大学附属膠原病リウマチ痛風センター 准教授)
    【健康づくり 2008年10月号】

肥満

  •  体脂肪率(体重に占める体脂肪の割合)は、肥満の程度に応じて高くなります。しかし、両者の関係にはズレもあり、スポーツ選手のように体重は軽度の肥満と判定されるレベルでも、筋肉量が多く体脂肪率は高くない人もいます。逆に、体重は正常範囲でも体脂肪率が高い人もいます。簡便な体脂肪率計が普及し、体脂肪率の測定が身近になったことで、体重では肥満と判定されなくても体脂肪率の高い、いわゆる「かくれ肥満」が認識されるようになってきました。

     「かくれ肥満」は明確に定義された病態ではなく、大きく分けて2つのタイプを指して用いられます。一つは、運動量の少ない若年女性に典型的にみられるタイプで、体重は標準体重あるいはそれ以下でも、筋肉量が少なく体脂肪率が相対的に高い状態です。体脂肪の絶対量は多くないので、肥満に合併する動脈硬化性疾患のリスクは高くありません。しかし、体重が軽く運動量が少ないという、骨塩量減少のリスクを2つ備えているので、骨粗鬆症の予備群と考えられます。こうした人では、まず運動量を増やすことが重要です。

     一方、体重は正常範囲の上限ぐらいで体脂肪率の高い人もいます。こちらは、若いころは正常体重ないしはやせだった人が、その後に体重が増加したタイプです。若いころに体重が少なかった人は脂肪細胞の数が少ないので、運動不足や過食で体脂肪が蓄積する場合、腹部の腸の周り(腸間膜)にある脂肪組織(内臓脂肪と呼びます)の脂肪細胞一つひとつが大きくなって脂肪をため込みます。したがって、こちらのタイプのかくれ肥満は、皮下脂肪が少ない割に内臓脂肪の蓄積が多いという特徴があります。

     皮下脂肪も多く蓄積すれば、高血圧や高脂血症などを合併しますが、内臓脂肪の蓄積は糖尿病や高血圧、高脂血症の合併がそれ以上に高率です。その機序は、肥大した脂肪細胞が悪玉の生理活性物質を分泌するという直接の作用もありますし、内臓脂肪以外に肝臓や筋肉にも異常な脂肪の蓄積が生じることを介した影響もあります。

     内臓脂肪は食事制限や運動によって減りやすいという特徴があります。わが国では従来、運動の効果が強調されてきましたが、同じエネルギー量を食事で絞った場合と運動で消費した場合では、減少の程度に差のないことが、近年わかってきました。食事制限も運動もどちらも熱心に取り組む価値があるわけです。腹部脂肪蓄積の指標であるウエスト周囲径は、体重よりも早く変化が起こりますので、ウエスト径に注目しながら、ダイエットに取り組みましょう。


    【Point】保健指導等に携わる人は
     中高年者に多い軽度の肥満では、全身の体脂肪量よりも体脂肪の分布、特に内臓脂肪の蓄積が合併症のリスクを大きく左右します。現在普及している簡便な体脂肪率計は、生体インピーダンス法という測定方法を用いています。身体の水分の出入りに敏感なため、通常の状況の雑な測定では精度の高い方法に匹敵する値がなかなか得られないという問題もあり、むしろ健診では、内臓脂肪の蓄積を評価するためにウエスト周囲径の測定が行われるようになってきました。2008年度からの厚生労働省の新しい健診・保健指導のシステムでも、保健指導の対象者の選定にウエスト周囲径の測定が加えられましたので、一般的な測定項目として慣れておく必要があるでしょう。

    勝川 史憲(慶応義塾大学スポーツ医学研究センター医師)
    【健康づくり 2006年12月号】

  •  腹囲が男性85cm以上、女性90cm以上で、高血糖、高血圧、脂質異常の2つ以上にあてはまる人は、内臓脂肪が蓄積した「メタボリックシンドローム」と診断されます(表参照)。内臓脂肪の細胞からは、インスリンの働きを悪くする物質や、血液の固まりをつくりやすくする物質、血管を収縮させる物質などが分泌されていますので、なんの自覚症状がなくても、これらの物質によりさまざまな悪影響が引き起こされる心配があります。

     いまは予備群とのことですが、健診結果の個々の数値がちょっと悪い程度でも、これら危険物質が血管や臓器に与えるダメージはしだいに蓄積していきます。放置すれば、動脈硬化が進行して心筋梗塞や脳卒中を引き起こしたり、糖尿病等を発病したりしかねません。

     しかし、幸いなことに内臓脂肪は皮下脂肪に比べて、運動や食事の改善によって落としやすいという性質をもっています。腹囲85cmをいきなり達成する必要はありませんので、まずは体重3kg 、または腹囲3cmの減量を目標に少しずつ前進していきましょう。体重1kg 、腹囲1cmを減らすには約7000kcalの減量が必要ですので、1日に約230kcal(ご飯茶わん1杯程度のcal)を運動により余分に消費するか、食べる量を減らすことができれば、1か月に体重1kg ・腹囲1cmを減らすことができます。これを3か月続ければ3kg (3cm)の減量の達成です。この程度の減量・減少であっても、検査数値の改善が期待できますので、焦らずに減量の努力を続けましょう。

    表●メタボリックシンドロームの診断基準
    ・に加え、・~・のうちの2つ以上があてはまる場合、「メタボリックシンドローム」と診断されます。

    1.ウエスト周囲径が
      男性 85cm以上 女性 90※cm以上
      (内臓脂肪がたまっている危険性が高い!)
      +

    2.血清脂質
      中性脂肪値150mg/裲以上
      HDLコレステロール値40mg/裲未満
      の両方またはいずれか

    3.血圧
      収縮期(最高)血圧130mmHg以上
      拡張期(最低)血圧 85mmHg以上
      の両方またはいずれか

    4.血糖値
      空腹時血糖値110mg/裲以上

    ※女性は80cmから危険因子の合併が増加するので、その場合は90cm未満であっても注意が必要です。


    【Point】運動指導等に携わる人は
     メタボリックシンドロームの予防で重要なのは、急に高い目標を立てるのではなく、実現可能な目標を立てることです。すぐに適正体重や腹囲に到達しなくても、少しでも体重が減少すれば、血圧が低下したり、インスリンの感受性が増したり、脂質が改善したりといった効果を得られることがわかっています。昨年秋に開かれた日本肥満学会では、運動と食事によってまずは3kg の減量・3cmのウエスト減をめざそうという「サンサン運動」が提唱されていますので参考にしてください。
     なお、肥満者の場合、ひざなどの下肢、腰などに傷害を引き起こしたり、運動中に高体温になるなどのリスクが高いので、運動の種類や強度の設定に配慮が必要です。たとえば、運動後、ひざや腰などの痛みが30分以上続くようなら、その運動が炎症を増長させており、合っていないと判断できます。運動中も「ややきついな」と感じた場合は、負荷の強度や動作のスピードを抑えるなど、運動中に体と対話し、セルフモニタリングするよう助言しましょう。

    門脇 孝(東京大学大学院医学系研究科教授)
    【健康づくり 2007年2月号】

  •  大人の肥満は、心臓病や脳梗塞・脂肪肝・2型糖尿病などの生活習慣病や、がんなどの悪性疾患を引き起こすことが知られています。そして、これらの病気の合併のしやすさは肥満の程度ばかりでなく、腹腔内に蓄積している内臓脂肪量と関係が強いといわれています。

     子どもの肥満も、大人と同様にさまざまな病気を引き起こします。子どもの肥満は、成人肥満に移行しやすく、肥満している期間が長いほど合併症が多くなります。

     2005年に日本人成人を対象としたメタボリックシンドローム(以下、MetSと略)の診断基準が策定されたのを受けて2007年に小児期MetSの診断基準が作成されました。MetSの子どもたちは増加しており、最近の調査では、一般学童の約1~2%、肥満健診受診児の約20%、当院の小児生活習慣病外来受診者の約33%を占めています。私たちが行った血管超音波検査によれば、肥満した子どもは肥満していない子どもと比べて、頸動脈壁がすでに硬くなっていることがわかりました。しかも、内臓脂肪が多いほど、頸動脈硬化は進行していました。心筋梗塞や脳梗塞などの動脈硬化疾患は、病気が発症するまでは無症状で、突然発症するため「サイレントキラー」と呼ばれています。

     子どもの肥満の増加と並行して、子どもの糖尿病も増加しています。以前、子どもの糖尿病といえば、インスリンの絶対的欠乏状態をきたす1型が大部分を占めていましたが、最近は、肥満と関係が強い2型が増加しており、思春期以降では、2型の頻度は1型を超えています。子どもの2型糖尿病は、1型よりも網膜症や腎症、神経障害などの合併症が生じやすいことが問題となっています。また、糖尿病であることに気づかず、口喝を癒そうとして大量にジュースを飲み、著しい高血糖や酸血症のために意識障害で病院に担ぎ込まれるケースもあり、非常に危険です(ペットボトル症候群)。

     肥満に伴いやすい病気として、睡眠時無呼吸症候群も忘れてはいけません。睡眠時無呼吸症候群は、睡眠中に呼吸停止を繰り返し、熟睡できないため、日中に居眠りが生じ学力が低下します。睡眠時無呼吸症候群は、突然死につながる危険な不整脈を引き起こす場合もあるため注意が必要です。

     脂肪肝も子どもの肥満に合併しやすい病気です。以前、肥満に伴う脂肪肝は良性と考えられていましたが、最近は、肥満に伴う脂肪肝の一部は、脂肪性肝炎→肝硬変→肝細胞がんまで進行することが明らかになり、脂肪性肝炎や肝硬変を合併した肥満児例が報告されています。

     さらに、肥満した子どもたちは、自分の容姿に劣等感を抱きやすく、自尊心が低く、いじめの対象になりやすいなど、心理社会面の問題も軽視できません。肥満した子どもたちの生活の質(QOL)は肥満していない子どもたちより低いことが、多くの論文で指摘されています。

    このように、肥満は子どもたちの心身に悪影響を及ぼすため、早めに適切な対応を行う必要があります。


    【Point】運動指導等に携わる人は
     適切な運動は、肥満予防、体力向上、生活習慣病予防、うつ予防、社会性の向上、記憶力向上などのさまざまな効用があります。運動の効果は、継続することによって表れます。一般に肥満児は、走ること、鉄棒などの重力に抗する運動は苦手です。水泳など、肥満していることが不利にならず、子どもたちが楽しめる種目を選択するとよいでしょう。肥満児のなかには、低強度の運動でも無酸素閾値に達する者もいるため、集団指導の際には注意が必要です。また、指導計画立案の際には、肥満児は下肢の障害を生じやすい点に留意する必要があります。

    原 光彦(東京都立広尾病院小児科部長)
    【健康づくり 2009年9月号】

うつ

  •  ご主人の様子をお聞きするかぎりうつ病が疑われますが、これだけの情報ではっきりしたことはいえませんので、なるべく早く精神科医の診察を受けてください。うつ病は、本人が病気とは思わず、治療を受けてもむだだと考えたり、「精神科」を受診することに抵抗を感じたりする場合もあります。しかし放置すると症状が悪化するだけでなく、自殺の危険もあり得ますので、ご主人がいやがっても、家族から強く受診を説得すべきです。

     うつ病の場合は、治療の基本は服薬と精神的負荷の排除であると家族が(本人も)認識したうえで、次のことに留意して接してください。

     まず、医師の指示に従って服薬させることです。もし薬の副作用と思われる症状が現れたら医師に相談して指示をあおいでください。

     次に、頑張ることをやめさせるべきです。たとえば、「家のローンもあるし、これから子どもにもお金がかかるんだから頑張って」などと叱咤激励するのは禁物です。うつ病の人は周囲の期待にこたえられないと思い込んで、自責の念に苦しんでいますので、叱咤激励されるとますます追い詰められた気持ちになります。

     仕事が手につかないような場合は、医師の意見も踏まえ、できれば思い切って休業し、精神的負荷を取り除くと回復が促進されます。休業することで職場への罪悪感を強く感じたり、仕事のことが気になってかえってストレスになるような場合は、上司から安心して休業するよう説得してもらう必要があるかもしれません。

     また、気分転換といえども無理に何かをさせないでください。うつ病であれば何をやっても楽しくないので、気分転換になりません。旅行やスポーツ、趣味なども精神的負荷となり、症状を悪化させることがあります。飲酒も控えるべきです。大量のアルコールはうつ症状を悪化させるほか、薬の副作用を起こすおそれがあります。

     普通、うつ病の治療には2~3か月かそれ以上を要すため、本人だけでなく家族も治らないのではないかと不安になりがちです。特に休業した場合、本人は職場に迷惑をかけているという思いや、職場での居場所がなくなるというおそれから、回復が不十分なまま焦って出勤しようとすることがあります。しかし、無理に出勤するとうまくいかず、自信を失って職場復帰をより困難にしてしまうことになりかねないので注意が必要です。

     そして、治ったと感じてもいきなり服薬を中止せず、医師の指示に従って徐々に服薬量を減らすとともに、数か月から数年は強い精神的負荷を避けてください。


    【Point】保健指導等に携わる人は
     うつ病と思われる人が以下のような言動を示す場合は、自殺のおそれがあります。家族と連携して、1日も早く精神科を受診させるとともに、自殺念慮が消える程度に回復するまで本人を独りにしないことが大切です。
     ■死を口にする…「死んでしまいたい。消えてしまいたい」「生きていく希望がもてない。苦悩の連続だ」「私なんかいなくなってもいい」といったことを口にする。
     ■強い困惑状態を示す…「私はどうしたらいいかかわらない。簡単なことも判断できない」「頭がパニックになった。何も考えられない」などといった強い困惑を口にする。
     ■自殺未遂や自殺企図…自傷行為や死に場所を求めてさまよう(行方不明になる)などの行動がみられる。

    池田 智子(茨城県立医療大学助教授)
    【健康づくり 2006年11月号】

  •  うつ病はポピュラーな病気です。ある統計によると、4人に1人は生涯のどこかでうつ病にかかることがあるといいます。

     このうつ病と飲酒のかかわりが深いことは意外に知られていません。うつ病では、抑うつ気分からの一時的開放を求めて、また、随伴する不眠症に対処するために飲酒することがよくみられます。それが高じて大量飲酒につながることもまれではありません。

     残念ながら既存の文献では、うつ病に対するアルコール依存症(単なる大酒飲みではなく)の合併率しかわかっていませんが、生涯合併率は10~60%で、その中央値は30%ということです。わが国におけるアルコール依存症の有病率は厳格にみれば0・9%、広くとらえても5%に満たないので、うつ病にいかに高率に飲酒問題が合併するかわかると思います。

     適正量(表参照)を超えた飲酒は、がんや高血圧等の生活習慣病を予防するためにも当然慎むべきですが、さらに、大量飲酒者にうつ病が頻発することも多くの研究で明らかにされています。大量飲酒にうつ病が続発する主な理由は二つで、まず大量飲酒にまつわる離婚、失職、経済的破綻などの心理・社会的要因が挙げられます。さらに、長期の飲酒が神経内分泌的な変化をもたらし、これが、うつ病を引き起こすともいわれます。

     大量飲酒に続発するうつ病(うつ状態)は、禁酒すれば多くの場合改善します。それ以外のうつ病の方の飲酒には、どのような考え方で臨めばよいでしょうか。

     飲酒はうつ病の経過や治療に次のような影響があるとされます。飲酒は全般的にうつ病の改善率を低下させることが示唆されています。また、アルコールは抗うつ薬の代謝を変化させ、同時に処方されることの多い抗不安薬への依存を早めるといわれます。自殺リスクを高めたり、治療期間を長びかせたりといった飲酒の影響も指摘されています。実際、司法解剖された自殺者の約50%からアルコールが検出されたという報告もあります。

     以上より、うつ病の方には禁酒が強く勧められます。ご質問のケースでも、うつ病かどうかは別にして、1か月程度の禁酒が勧められます。できれば一度、精神科や心療内科を受診してください。

    表 ●適正な飲酒量
    純アルコール換算で1日平均20g程度が目安です

    具体的には
    ・ビールなら…………中ビン1本
    ・日本酒なら…………1合
    ・ウイスキーなら……ダブル1杯
    ・ワインなら…………グラス2杯

    【Point】保健指導等に携わる人は
     うつ病の治療中には基本的に禁酒が原則です。うつ症状の程度が重くなければ、抗うつ薬は一定期間(1か月以上)の禁酒後、必要に応じて処方することになります。
     うつ病の治療や指導ではまず、本人の飲酒の状況を確認します。一般的に、患者は飲酒量を過少申告するので注意しましょう。特に、飲酒量が多い人ほど、この傾向が強くなります。指導はあくまでも減酒ではなく禁酒としましょう。アルコール依存症の治療目標は生涯禁酒ですが、それ以外の場合、禁酒期間の目安を与えることが重要です。禁酒後に飲酒を再開する場合は、1日の飲酒量を減らす指導より、飲酒日数を減らす指導のほうが効果的です。いずれにせよ、うつ病の経過や治療に対する飲酒の影響について十分な理解を得てから、指導を行いましょう。

    樋口 進(国立病院機構 久里浜アルコール症センター副院長)
    【健康づくり 2005年12月号】

循環器疾患

  •  ストレスをかかえることの多い現代人。国民(12歳以上)の49%がストレスがあるという調査結果もあります(http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/ktyosa04/3-6.html)。

     過剰なストレス状態は、循環器、消化器、呼吸器、神経・筋、内分泌疾患などの誘因となることが知られています。ご質問の循環器疾患についていえば、過剰なストレスは、交感神経の緊張を高め、カテコールアミンという神経伝達物質の分泌量を増大させます。このカテコールアミンの働きにより血管は収縮し、血圧を上昇させます。またカテコールアミンにより、血液の粘度は高まり血栓ができやすくなります。さらに血液中のコレステロールを上昇させることで血管を傷つけ、動脈硬化を進展させます。こうしたメカニズムにより、狭心症や心筋梗塞が発症してくるのです。

     特に、いわゆる「タイプA行動パターン」、すなわち「短気で野心に燃え、競争心が強く、協調性に乏しい」という行動特性をもつ人は、交感神経の緊張等のストレス反応が強いため、狭心症や心筋梗塞がより発症しやすいことが知られています(表参照)。

     このように過剰なストレスは、交感神経やホルモン分泌等を介して、狭心症や心筋梗塞、高血圧症などの循環器疾患の発症にかかわっています。したがってその予防のためには、適宜ストレス状態を解消し、ストレス蓄積を防ぐ必要があります。

     ストレスの対処法(ストレスコーピング)は、「気づき」をキーワードにするものと、「リラクセーション」をキーワードにするものに分けられます。カウンセリング、交流分析などが前者に相当し、自律訓練法、ヨガ、筋弛緩法などが後者に相当します。また、入浴、軽度のスポーツなどもリラクセーションの方法として有効ですし、思い切って2~3日ゆっくり休養することも大切です。まずは日々の生活の中で自分にできるものに取り組んだり、ときには心療内科などで専門家に相談するとよいでしょう。

    表●タイプA行動特性尺度

     次のような事柄は、日ごろのあなたの行動にどの程度あてはまりますか。
     (1)自分の話したいことを急いで話そうとし、話したくなると一気にしゃべらずにはいられない。
     (2)人と話すとき、急がさずにはいられない。
     (3)歩いたり、食べたりするのが速い。
     (4)一度に二つのことをやろうとする。
     (5)数日間(数時間でさえ)休んだり何もしないでいると、悪いような気がする。
     (6)自分なら速くできる仕事を、他の人がのろのろやっているのをみると苛立つ。
     (7)道路が渋滞したり、列に並ばされたり、飲食店で席の空くのを待たされたりするとイライラする。

     (1)~(7)の各項目で「いつもそうである」「だいたいそうである」を選んだ場合を1点、「ときどきそうである」「めったにそんなことはない」を0点として加算し、指標化した尺度。4点以上はタイプA行動特性が強い。(信頼性係数α=0.7115)
    (参考文献)「健康運動指導士養成講習会テキスト」

    【Point】保健指導等に携わる人は
     高血圧や冠動脈疾患の原因は多様で、肥満や食生活のみが原因ではありません。ストレスを感じている割合が約半数に上り、日本人の各年代別の死因の上位に自殺が位置していることから考えても、ストレス対策の重要性は明らかです。来年度から始まるメタボリックシンドローム対策でも、前向きな気持ちがもてなければ生活改善を成し遂げるのは困難なわけですので、職場の人間関係やストレスを含めた総合的な視野をもって指導にあたることが必要でしょう。

    三宅 健夫(三宅労働衛生コンサルタント事務所代表)
    【健康づくり 2008年2月号】

睡眠薬

  •  睡眠薬は癖になりやめられなくなるのではないか、すぐ効かなくなってどんどん量が増えてしまうのではないか、飲み続けているとぼけてしまうのではないか。一般の方々の多くは睡眠薬は危険で、依存性があるというイメージを抱いているようです。睡眠薬は危険なので、眠れないならアルコールや薬局で買える睡眠改善薬のほうがよいと思っている方もいます。

     1960年代ごろまで広く使われていたバルビツール系睡眠薬は、依存に陥りやすく、大量に服薬すると死亡するなどの問題がありました。現在、医療機関で処方される睡眠薬は、ベンゾジアゼピン系睡眠薬や非ベンゾジアゼピン系睡眠薬と呼ばれる薬で、慣れや依存は生じにくく、自殺しようと思っておなかいっぱいになるまで服用しても、致死量にはまだまだ余裕があるきわめて安全な薬です。

     一方、市販の睡眠改善薬は抗ヒスタミン薬(かぜ薬などに入っている眠くなる成分)で、慣れが生じやすいため短期間の不眠にだけ使うこととなっており、慢性の不眠がある人は服用しないように注意書きにも記載されています。
     不眠の対処法としては、まず不眠を引き起こす生活習慣をやめることです。寝酒・深酒や、カフェイン・ニコチンなどの嗜好品のとりすぎは不眠につながります。アルコールは寝つきをよくしますが、飲んで2~3時間で効果が切れ、その後反動で目が覚めてしまうため、かえって不眠になります。そのほか、身体が必要としている以上に長く眠ろうとすることや、眠れないのに無理に布団に入ることも、不眠の原因になります。

     そして睡眠薬を使用する場合には、不眠で苦しむ夜がいままでの半分くらいになる程度の量から飲み始めます。健康な人でも毎日ぐっすり眠れるという人はまれ。毎日ぐっすり眠れるくらいの量の睡眠薬は多すぎます。

     また、いつもよく眠れる量の睡眠薬を服用しても眠れないことがあります。このようなときに睡眠薬を追加してもなかなか眠れず、記憶障害や転倒などの副作用が出やすくなり危険です。逆に、睡眠薬を急にやめると、強い不眠が出現することがあります。睡眠薬の増減量は必ず医師に相談し、医師の指示で少しずつ行いましょう。

     睡眠薬の副作用としては、①持ち越し効果(日中に眠気、だるさ、頭痛などの症状が出現する) ②筋弛緩作用(薬が効いている間は筋肉に力が入りにくくなる)、が考えられます。朝起きたときにぼーっとしている、眠くて1日中ごろごろしているといった場合には医師に相談しましょう。また筋弛緩が強いと、高齢者は夜中にトイレに起きたときなどに転倒し、骨折してしまう危険もあります。その場合は、医師に相談して筋弛緩作用のより少ない睡眠薬に変更してもらいましょう。


    【Point】保健指導等に携わる人は
     厚労省の調査によれば、不眠を自覚している男性の半数、女性の約25%が、寝酒で対処しています。寝酒は中途覚醒を増加させ、睡眠の質を低下させます。睡眠薬は寝酒や睡眠改善薬よりも有効かつ安全であること、医師の指示を守って服用する必要があることや、不眠につながる生活習慣の改善が必要なことを指導します。
     睡眠指針(http://www.mhlw.go.jp/shingi/2003/03/s0331-3.html)も参考にしてください。

    尾崎 章子(東邦大学医学部看護学科助教授)
    【健康づくり 2006年9月号】

ストレスコーピング

  • 「ストレス」と簡単に一言でいいますが、その内容は実に多様で、ストレスの受け止め方や反応も個人差があります。ある人にとっては、非常に大きなストレスと感じるものも、別の人にとっては何でもないということもよくあります。程よいストレスは人生の活力源ともなりえますが、ストレスの程度が強すぎたり、長時間ストレスにさらされたりすると、心や体に障害が現れることもあります。その症状も人によってさまざま。うつ病、自律神経失調症、さらには生活習慣病などの健康障害を引き起こすこともあるので、心と体の健康を維持するためにも、ストレスへの適切な対処法を身につけておくことは大切です。

     ストレスコーピングとは、ストレスに対して適切に対処するための技術を意味する専門用語で、認知療法・認知行動療法の考えに基づいた手法が用いられます。単なる「ストレス解消法」とは違います。

     ストレスコーピングは、まず、ストレス状況における自分自身の感情を客観的にとらえ直す(認知する)ことから始めます。自分にとって何がストレスになっているかを見極め、その状況下での自分にふさわしい対処法を見つけ行動していきます。感情や行動をコントロールすることで、ストレスに対して心身がうまく適応できるようにするのが、ストレスコーピングの目標です。

     ストレスコーピングで行う対処法は実にさまざまです。

     人は、ストレス状況のとき、呼吸は浅く体の各部の筋肉は緊張状態にあります。ストレスがたまっているかなと感じたら、ゆっくりと深く腹式呼吸を用いた呼吸法を実践したり、ストレッチングなどで筋肉の緊張状態を解きほぐしたりしましょう。呼吸法やストレッチングなどのリラクセーション法は、どこでも気軽にできる効果的な対処法の一つです。

     さらに、日常的なストレス状況に対処するための方法としては、たとえば、次のようないくつかの方法があります。

     ① だれかに話を聞いてもらう。
     ② 趣味など気晴らしをする。
     ③ 過去に体験したストレス状況、そのときの対処法を振り返ってみる。
     ④ 現在のストレスをより小さく、管理しやすい課題に分ける。
     ⑤ 将来に起こりうることを予想して対処のプランを立てる。
     ⑥ 失敗を次のステップのためのいい経験と割り切って考える。

     これらの対処法は、人それぞれ、その時々の状況に応じて、組み合わせて実践するなど柔軟に対応していくことが必要です。はっきりとしたストレス症状が出ている人は、まずは、専門家のアドバイスを受けてください。


    【Point】メンタルヘルスに携わる人は
     個々人の「ストレスに対する適応力」の強化を図り、心のセルフケアを図るのがストレスコーピングですが、職場では個人では対処できないストレス要因が数多く存在します。これらのストレス要因は、事業主の責任のもと管理監督者が軽減・緩和を図るべきものです。と同時に、ストレスに対する本人の「気づき」をサポートしたり、「じっくり話を聞く姿勢」を心がけたりするなど、ストレスコーピングの効果を高める環境づくりも大切です。

    村林 信行(アーツクリニック大崎・院長)
    【健康づくり 2005年9月号】

認知症

  •  若年認知症とは、65歳未満の年齢で発症するすべての認知症を指します。認知症の原因となる病気は、若年と老年期を含め70程度ありますが、脳血管性認知症、アルツハイマー病、前頭側頭型認知症(ピック病)およびレビー小体型認知症の4つで全体の90%以上を占めるため、この4つの病気のことを知っていれば認知症については十分だと思います。

     若年認知症の最大の問題点は、興奮や暴力などの行動障害が多いなどという病気自体のことよりも、男性に多くかつ働き盛りの時期に発症するために、失業や退職で家族全体に経済的な危機が生じても、支援する制度がほとんどないという、いわゆる未成熟な社会制度だと思います(日本だけの問題ではなく、欧米も一緒です)。

     若年認知症に見られる精神や身体症状は、老年期と異なるわけではありませんが、若年認知症の初期(記憶障害や判断力の低下など)は認知症と診断されるより、うつ病や神経症などの精神疾患と誤診されることが多いようです。そのため、40歳を過ぎた人で、(1)うつ病で長期間治療しているにもかかわらず改善しない場合 (2)身体の病気で治療している途中で、もの忘れが目立つようになった場合は一度「もの忘れ外来」を受診し、認知症の有無をチェックされることをお勧めします。

     また、認知症と診断された場合、医療の問題については病院内の地域連携室などにいるソーシャルワーカー等にまず相談するのがよいと思います。さらに、福祉の問題については地域包括支援センターや市町村福祉課に。家族が介護で悩んでいる場合は、地域にある若年認知症家族会やわれわれの運営するNPO法人若年認知症サポートセンターに、電話ないしメールで相談されることをお勧めします。

     認知症の予防法については、基本的には若年も老年も同じです。医療分野においては生活習慣病にならないこと。仮に罹患している場合はきちんと治療することがいちばんです。

     個々人が実行可能な予防法としては、まずはバランスのとれた食事です。青魚に含まれるDHA(ドコサヘキサエン酸)、お茶や赤ワインに含まれる抗酸化物質である、ビタミンC・E、ポリフェノール、フラボノイド・緑黄色野菜に含まれるビタミンB1・B12、葉酸などは、認知症、特にアルツハイマーの予防法として世界的にも報告があります。また、適度な時間の睡眠をとること、そして脳活性のための適度な脳トレ(読み・書き・計算)や運動(1日30分以上の散歩)も有効です。

     現時点では、脳血管性認知症を除くと、アルツハイマー病、前頭側頭型認知症、レビー小体型認知症に対する根治的な治療法はありません。しかし、前述したような食事、睡眠、運動を適切に実行すると、どのような認知症であっても、薬物服用のみより悪化や進行を防止できるといわれています。


    【Point】保健指導等に携わる人は
     若年認知症患者と接する際の心がけとしては、患者さんが歩んできた歴史、すなわち社会的立場の尊重と人格の尊重を前提に、本人の希望をできるだけかなえるように支援や協力をしましょう。
     わかりやすく言えば、病気になっても、以前と同様の人間関係や対応を続けるように心がけ、本人ができないところは、否定するのでなく、そっと手を差し伸べることに尽きます。

    宮永和夫(南魚沼市立ゆきぐに大和病院院長)
    【健康づくり 2009年7月号】

不眠

  •  私たちが住んでいる社会は、リラックスしたり、休息をとったりすることに比べて、緊張したり、頑張ったりすることのほうが過度に求められているように思います。そのような中で、心のバランスを崩し、不調を訴える方の典型的な状態が不眠です。また、よい睡眠をとることは体の免疫力を高めることが知られています。睡眠は、心身両面にとって健康のバロメーターといえるでしょう。

     よい睡眠をとるためには、寝室の環境を睡眠に適したものにすることと、体の緊張を解くことが大切です。

     寝室の環境のポイントとしては寝具や音、香りなどがあります。寝具については、ベッドや布団も大事ですが、枕に気をつけましょう。人によって合うものは違うのですが、一般的には適度に硬くて、頸部を圧迫しないものがよいとされています。素材や形などさまざまありますが、最近は体型に合った寝具をオーダーメードで作ってくれる専門店もあるので利用するとよいでしょう。

     音については、ストレスになる人工的な雑音や、気になってしまう人の声や隣室の物音を防ぐようにします。防音などの工事も、事情が許せば必要かもしれません。音楽を流すとしたら、自然音やヒーリング音楽といった、やや単調なものが適しています。ゆったりとしたクラシック音楽や、リズムの激しくない民族音楽などもよいですね。

     鎮静作用のある市販のアロマを利用して香りでリラックスするのもよい方法です。実際にかいでみて好みの銘柄を選び、寝室に使うとよいでしょう。

     また、眠れないときは、よく上半身のどこかが緊張しているものです。こぶしを握りしめていたり、あごに力を入れていることに気づいたら、わざとその部分にさらに力を込めて、しばらくそのまま緊張させ、一気に力を抜いてみましょう。

     さらに、緊張しているとき、心臓はドキドキと速くなり、呼吸は浅く速くなります。息を吸いすぎてしまうので、よくため息がで出ます。それを体からのサインと考えて、そんなときには意識的にゆっくりとした楽な呼吸をしてみてください。たとえば、4つ数えながら息を吸い、8つ数えながら吐いてみましょう。呼吸がゆったりしていれば酸素の消費量が減り、気持ちが落ち着いていきます。おのずと睡眠に適した状態に入っていくのです。

     寝室の環境の改善などを行っても、次から次へと不安なことが思い浮かんでしまい、眠れないことがあるかもしれませんね。そのようなときは自分でできるイメージ療法を試してみてください。たとえば、コップに注いだソーダ水を頭の中に思い浮かべてみましょう。ソーダ水の泡を、不安や心配ごとに見立てるのです。泡が次々とはじける様子を思い浮かべながら3分もすると、すっきりリラックスした気分になれると思います。


    【Point】運動指導等に携わる人は
     眠れないとき、あまりに思い悩むことはよくありません。無理に眠ろうとすると、その意識にとらわれ、かえって目がさえてしまうものです。
     20分間の深いリラクゼーション状態は2時間の睡眠に匹敵する効果があるといわれています。実際に眠らなくても、リラックスするだけで睡眠と同じような効果が得られることはアドバイスするとよいでしょう。

    菅原はるみ(ヒューマンアウェアネス研究所 カウンセラー)
    【健康づくり 2009年3月号】

女性

更年期

  •  更年期とは、閉経(平均年齢51歳)をはさんでのおよそ10年間を指し、女性ホルモンの途絶に伴い内因的、身体的機能の劇的変化を迎える時期です。月経異常から始まり、さまざまな更年期症状、ほてり、のぼせ、発汗、動悸、不眠、イライラ等の自律神経失調症状や精神・神経症状が現れ、やがて、卵巣の働きは停止します。症状の度合いには、個人差があり、運動習慣のある人は、比較的症状が軽いという報告もあります。

     更年期以降は、女性ホルモン(エストロゲン)の低下によって、骨量が減り、骨粗しょう症の罹患率が高くなると同時にたんぱく質の合成機能が低下し、筋量が減ってきます。大腿四頭筋をはじめとする脚筋力の低下は、女性に多い変形性膝関節症の誘因になります。また、閉経後、泌尿・生殖器系の萎縮により、骨盤底筋がゆるんで、腹圧性尿失禁が起きやすくなります。さらに閉経後には、内臓脂肪が増え、肥満者の割合は30%になりますので、メタボリックシンドロームへの対応も更年期からの課題です。

     したがって、更年期の体や心について正しい知識をもち、健康診断や骨量の測定を定期的に実施し、バランスのとれた食生活に気を配ると同時にストレスをためないよう心にゆとりをもって生活することが大切です。

     気晴らしに健康教室に参加するなどして、仲間と楽しみながら、リズム体操やストレッチング、水中運動などを行うのもよいでしょう。また、心地よい音楽にのってリズミカルにダンスしたり、ちょっとおしゃれをしてウォーキングをするのはいかがでしょうか。今後の人生を自分らしく元気に過ごすためにも、更年期からよい運動習慣をもつよう心がけましょう。

    図 ●心と体のリフレッシュ体操

    心と体のリフレッシュ体操(フェルデンクライス法)を紹介します。上半身の余分な緊張を解き、呼吸が楽になり、リラックスできます。

     1.床にあおむけになり、深い安定した呼吸をします。足から頭まで床と接している状態を左右で比較しながらゆっくりと確認します。
     2.右側を下に両膝を曲げて、無理なく横になります。額に左手をおき、ひじは天井のほうに。
     3.呼吸にあわせながら、頭を回すようにひじをゆっくり背中のほうに動かし、もとに戻します。(5~10回繰り返す)
     4.あおむけになり、呼吸や体の状態を確認しましょう。(反対側でも行います)


    【Point】運動指導等に携わる人は
     ①更年期症状には個人差があります。楽しんで運動ができない人、不安感が強いとか、体調が思わしくないなど更年期症状が深刻な場合は、専門医による適切な処方(ホルモン補充療法、うつ病対策など)と長期にわたるフォローアップが必要です。
     ②運動参加者に更年期の体について理解させてください。心地よく感じられる程度の運動量で、クーリングダウンにリラクゼーションを取り入れましょう。
     ③腹圧性尿失禁予防のために、骨盤底筋(膀胱や子宮、直腸が下がらないように骨盤の底で支えている)の運動を取り入れましょう。

    武井 正子(順天堂大学名誉教授)
    【健康づくり 2006年3月号】

骨粗しょう症

  •  骨は硬くて、変化しないように思われがちですが、他の細胞と同じように活発に代謝を繰り返し、新しい骨をつくる骨芽細胞と古くなった骨を壊す破骨細胞がバランスよく機能して、骨をつくり変えています。丈夫な骨をつくるには、年齢に関係なく、①バランスのとれた食生活、(カルシウムを十分に)、②運動、③適度な日光浴、の3つを日常生活で習慣づけていくことが大切です。

     ところが、加齢、女性ホルモンの減少、カルシウム不足、運動不足などが原因で骨形成に支障がでると骨のカルシウム量が減少し、骨はスが入ったようにもろくなり、ちょっとしたことで骨折しやすくなる、これが骨粗しょう症です。

     骨粗しょう症は、自覚症状に乏しく、気がつかないうちにカルシウム不足が進行し、65歳以上の女性の約50%は骨粗しょう症になるといわれています。高齢女性の転倒による骨折は年々、増加傾向にあり、寝たきりの主要原因の一つに挙げられています。

     女性は、骨のカルシウム量が男性に比べて20~30%も少ないうえに更年期以降、徐々にカルシウム量が減少し、閉経後5年ぐらいの間に20%前後も減少してしまいます。それは、閉経によって女性ホルモン(エストロゲン)が約10分の1にまで減少してしまうからです。女性ホルモンには骨芽細胞を活性化する働きだけでなく、腸管でのカルシウムの吸収を促すビタミンDを活性化する働きがあります。したがって、できるだけ若い時期にしっかりした骨をつくっておくこと、更年期以降は骨量をできるだけ維持するよう心がけることが大切です。

     ところが、最近、若い人たちの運動不足、偏食や間違ったダイエットが問題になっています。カルシウムは、成人で1日に約600以上必要とされていますが、カルシウム不足が続くと骨に蓄えられているカルシウムが血液中に溶け出し、骨がもろくなっていき、若い人の間で、骨粗しょう症予備軍が増えているのです。まずは、年齢に関係なく、骨量(骨密度)測定に参加し、自分の骨は大丈夫なのかチェックすることが大切です。

     骨を丈夫に保つためには、骨に刺激を与えるような、しっかり体重をかけて行うスクワット(ひざの屈伸)などの運動が効果的です。ウォーキングも継続すれば、効果が期待できます。また、運動すると筋肉が強化され骨をしっかり支えるので、骨折しにくくなります。

     適度な日光浴は、カルシウム吸収に必要なビタミンDの合成を助けますが、日光には有害な紫外線も含まれます。ビタミンDの合成に必要な日光量は、買い物や通勤程度で効果的といわれますので、紫外線の多い時期は帽子や日傘で紫外線カットを心がけましょう。


    【Point】運動指導等に携わる人は
     縄とび、筋力アップの運動など、体重を負荷とした運動は、骨量の維持に効果的ですが、安全に運動をするために、とくに中高年者は、次のことに留意しましょう。

     ・ウォーミングアップ、ストレッチング、クーリングダウンをしっかり行う。
     ・個人差を配慮したプログラムで無理のない運動を行う。
     ・1回の時間は短く、頻度を多くする。
     ・脚筋だけでなく、腹筋や背筋の運動もバランスよく取り入れる。
     ・転倒しないように安全面の配慮をする。靴、服装、床、用具などのチェックを。

    武井 正子(順天堂大学名誉教授)
    【健康づくり 2005年9月号】

乳がん

  •  乳がんは、最近、急増しており、日本人女性の20人に1人が乳がんにかかると推計されています。乳がんは、女性のがんで最も多く、死亡率も30~64歳までの壮年層、働き盛りで最も高くなっています。

     若い女性の乳がん増加の原因としては、ホルモン環境の変化が大きいといわれています。初潮が早くなり、閉経が遅くなったため、エストロゲンというホルモンに暴露される時間が長くなり、結果として乳がんにかかる女性が増えています。

     乳がんの予防には、バランスのとれた食事をとり、アルコールの飲みすぎを避け、禁煙し、肥満を予防するなど、生活習慣を改善することが大切です。しかし前述のように、ライフスタイルの変化によるため、乳がんの発生そのものを抑制することは困難といえます。  そこで、がんを早期発見し、治療することで、がんの死亡率を下げる(二次予防)ことが大切です。ここに、がん検診の目的があります。

     がん検診は、「有効な検診」を「正しく行う」ことが必要です。「有効な検診」とは、ターゲットとするがん(この場合は乳がん)の死亡率を下げる効果があるとされる検診です。乳がん検診で、その根拠が示されているのは、世界中でマンモグラフィによる検診のみです。

     「正しく行う」とは、マンモグラフィ検査装置や撮影する技師、画像を読影する医師の技術が確かで、データをきちんと整理し、あとで評価できるということです。評価なくして、対策は立てられません。つまり、精度管理をしっかり行う医療機関や検診施設で、乳がん検診を受けることが大切になります。

     一方で、マンモグラフィ検診だけでは限界があることが指摘されています。50歳以上には効果的ですが、50歳未満の女性には効果が低いといわれています。日本では40歳代の乳がんが最も多く、マンモグラフィプラスアルファの検診方法として、超音波による乳がん検診の研究が始まっています。

     超音波による乳がん検診は、「有効であるのか」「不利益はないのか」などについて判断できる研究が、いままでありませんでした。

     そこで、厚労省はがん対策のための戦略研究として「乳がん検診における超音波検査の有効性を検証するための比較試験」という、日本初の大規模な研究を開始しました(J-START http://www.j-start.org/参照)。この研究は、日本人に適した、よりよい乳がん検診方法を検証するもので、将来役立つことになるでしょう。

     乳がん検診について正しく理解し、みずから進んで検診を受診することが、乳がんの克服、さらには日本のがん対策を大きく推進するといえます。


    【Point】運動指導等に携わる人は
     過去に行われていた視診や触診だけでは、ごく早期の乳がんの発見は難しく、マンモグラフィが最も発見率が高いことを説明し、積極的にマンモグラフィ検査を受けるように指導しましょう。2年に1回という受診頻度については、多くの研究により有効性が確認されています。

     また、乳房の引きつれやくぼみの観察、乳房全体からわきの下までをまんべんなくさわったり、しこりがないか、乳首から異常な分泌物がないかを調べたりする自己検診は、慣れていないと、乳腺としこりの区別がつきにくいので、乳がん自己検診モデルなどで感触を知ってもらいましょう。

    大内 憲明(東北大学大学院医学系研究科外科病態講座 腫瘍外科学分野教授)
    【健康づくり 2008年4月号】

妊娠中の運動

  •  妊娠の経過が正常な場合、妊婦さんが適度な運動をすることは、血行をよくし、妊娠中に起こりやすい腰痛や肩こり、静脈瘤の予防、運動不足による肥満予防、気分転換やストレスの解消に効果があるとされています。また、マタニティ・エクササイズに参加し、楽しく体を動かして、体力をつけることで妊娠の経過や分娩を積極的に受容できるようになります。

     しかし、妊娠中の激しい運動は、早産や流産の原因になる場合もあります。安全に運動を行うためには、次の点に留意してください。

     ・運動を始める前に必ず担当医の診察を受け、了解を得て運動に参加すること。随時、アドバイスを受け、経過を報告することが大切です。

     ・これまで運動習慣がなく、基礎体力が低下している場合は、軽く体操をしたり、散歩したりする程度にとどめ、無理をしないことです。

     ・妊娠中は10kgも体重が増え腹部が前にせり出し、重心が前方に移動するため反身になり、腰痛や背部痛を起こしやすくなります。また、足腰に負荷がかかり、バランスがとりにくくなります。運動する場合、安全面の配慮が大切です。

     ・運動を開始するときには、マタニティ・エクササイズの知識をもっているインストラクターから指導を受けるようにします。病院や保健所などの体操教室や水泳教室は、妊婦だけでなく胎児への影響も配慮しながら行われますので、安心して参加できるでしょう。

     ・実施時期は、一般的には妊娠安定期とされる妊娠5か月~8か月とされています。十分な管理体制がある場合は、予定日近くまで可能な場合もあります。

     ・実施時間帯は、子宮の収縮が起こりにくい昼ごろが望ましく、ウォーミングアップもいれて60分程度、できれば週2~3回、体調をみながら行います。

     ・水中運動や水泳は、水温・室温とも30度前後がよいでしょう。

     ・気温、湿度、換気に気をつけると同時に、床面がすべりやすくないか、躓きやすくないかをチェックしましょう。

     ・適宜、水分の補給ができるようにします。

     ・急な体重増加がある、なんとなく体調がすぐれない、腹部に緊張感が続くなどの場合は、運動を中止し、担当医の診察を受けましょう。


    【Point】保健指導等に携わる人は
     妊婦さんは、正常な経過をたどっていても、体調が悪くなることもあります。運動参加は、担当医の判断によりますが、運動を開始する前に、体重や血圧を測るようにします。また、母子健康手帳を持参させ、定期検診の結果をチェックするようにアドバイスしましょう。血圧が140/90以上になっていないか、浮腫はないか、蛋白尿、尿糖がプラスになっていないか、短期間に体重の増加がなかったかなどがポイントです。
     初めての妊娠、出産には、不安が伴います。子宮内の赤ちゃんと一緒に体を動かしていることをイメージしながら、楽しい雰囲気でリズミカルに体を動かしましょう。
     おなかが大きくなると、足もとが見えにくいだけでなく、バランスが悪くなります。転倒しないように、音楽は、100~120ビートのゆっくりした曲を使います。ステップもシンプルにします。

    武井 正子(順天堂大学名誉教授)
    【健康づくり 2006年10月号】

妊娠中の食

  •  厚労省は今年11月に「妊婦への魚介類の摂取と水銀に関する注意事項」を発表しました。これは同省が2003年に発表した注意事項に見直しを加えたものです。

     魚介類は栄養面では重要な食物ですが、妊婦の場合は、メチル水銀が蓄積した一部の魚介類を摂取することの胎児への影響を懸念する報告がなされています。メチル水銀は細胞に吸収されやすく、妊娠中に母体から胎児へと移った水銀は、たとえば音を聞いた場合の反応が千分の1秒レベルで遅れるといった影響を胎児に与える可能性が指摘されています。

     なぜ魚介類にメチル水銀が蓄積されるのでしょう。水銀は、工業原料や、医薬品、化粧品、電池などの一部に使用されていますが、酸性の雨がこれらの廃棄物や土壌から水銀を溶かし出し、河川や地下水に流れ出します。海中に溶け込んだ水銀は環境中の微生物によりメチル水銀に変化し、食物連鎖により大型の魚介類やクジラなどにたどり着くころには、濃縮され蓄積されていくのです。ただし、その蓄積量はわずか。人体に影響のあるレベルではないのですが、胎児に対してのみ一定の配慮が必要という観点から、今回、クロマグロなら週80程度まで、マカジキなら週160程度までという目安が示されたのです(表参照)。

     魚は良質なたんぱく質やEPA、DHAなどの不飽和脂肪酸や微量栄養素を多く含み、栄養的にも優れた食べ物です。注意事項は「妊婦は魚を食べてはいけない」ということではなく、「水銀濃度が高い可能性のある魚を偏って多量に食べないように」という趣旨です。妊娠中は栄養豊富な食べ物をバランスよく食べることが大切です。魚介類も、種類や量に注意しながら、積極的に摂取してください。もちろん、妊婦以外の人は、良質なたんぱく源である魚介類を気がねなく食べてください。

    (詳細は、http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/iyaku/syoku-anzen/suigin/dl/0511021-03.pdfをご参照ください。)

     ○ 1回約80gとして妊婦は2か月に1回まで(1週間当たり10g程度)
      ・バンドウイルカ

     ○ 1回約80gとして妊婦は2週間に1回まで(1週間当たり40g程度)
      ・コビレゴンドウ

     ○ 1回約80gとして妊婦は週に1回まで(1週間当たり80g程度)
      ・キンメダイ
      ・メカジキ
      ・クロマグロ
      ・メバチ(メバチマグロ)
      ・エッチュウバイガイ
      ・ツチクジラ
      ・マッコウクジラ

     ○ 1回約80gとして妊婦は週に2回まで(1週間当たり160g程度)
      ・キダイ
      ・マカジキ
      ・ユメカサゴ
      ・ミナミマグロ
      ・ヨシキリザメ(筋肉)
      ・イシイルカ

    ※マグロの中でも、キハダ、ビンナガ、メジマグロ(クロマグロの幼魚)、ツナ缶は通常の摂食で差し支えなく、バランスよく摂取すること。
    ※魚介類のおよその重量は、寿司・刺身は一貫または一切れ当たり15g程度、刺身は一人前当たり80g程度、切り身は一切れ当たり80g程度。


    【Point】栄養指導等に携わる人は
     授乳期の母親については、母乳を介して乳児が摂取する水銀の量は少ないため、今回の厚労省の注意事項の見直しでも対象にしていません。良質なたんぱく質や、EPA、DHAなどの不飽和脂肪酸を多く含む魚介類の摂取の減少につながらないよう正確に理解してもらいましょう。
     また、妊娠に気づくのが遅れた場合ですが、メチル水銀は胎盤を通して胎児に取り込まれますが、胎盤の完成は妊娠4か月以降であることや、体内の水銀は代謝、排泄され、2か月程度で半減することを考えると、妊娠に気づいた時点から水銀の摂取量をコントロールするようにすればよいでしょう。

    吉池 信男(国立健康・栄養研究所研究企画評価主幹)
    【健康づくり 2005年12月号】

  •  食物アレルギーは、食物の中の特定の成分(抗原)に対して、身体を異物から守る免疫系が働いた結果、じん麻疹、アトピー性皮膚炎、鼻炎、腹痛、下痢、喘鳴などを起こすものです。その代表的な原因食物は、卵・牛乳・小麦・そば・ピーナッツなどです(図参照)。こうした食物アレルギーを持つ子どもが増えており、その発症要因・予防要因の解明が重要な課題となっています。

     両親や上の子がアレルギー体質の場合、生まれてくる子どももアレルギー体質となる可能性が高いのですが、「食物アレルギーの診療の手引き 2005」(厚生労働科学研究班)によれば、母親の妊娠中にアレルギーの原因と考えられる食物を除去した食事制限を行うことは推奨されていません。米国のガイドラインでは妊娠中のピーナッツの除去を推奨していますが、欧州のガイドラインでは日本同様推奨していません。日本の食文化でピーナッツを除去しても妊婦への負担は小さいと考えられますが、卵や牛乳を制限するというのは負担が大きく、栄養バランスのよい食事の観点からも問題です。

     同様に、授乳中の食物制限も推奨されませんが、実際にお子さんにアレルギー症状が生じた場合には、食物制限も有効な場合があります。除去すべき食品や代用食品なども含めて、専門医や管理栄養士に相談するとよいでしょう。

     しかし、アレルギーの原因がはっきりしている場合以外は、あまり神経質にならずに普通の食事を続けていればよいでしょう。むしろ、アレルギーを気にして栄養バランスの悪い食事にならないような注意が必要です。特に妊娠中は、体の調子を整えるビタミンやミネラルを十分に摂取するように心がけたいものです。妊産婦のための食生活指針(http://www.mhlw.go.jp/houdou/2006/02/h0201-3a.html)なども参考にしてください。

    図●食物アレルギーの原因食物
     鶏卵38.3%
     乳製品15.9%
     小麦8.0%
     甲殻類6.2%
     果物類6.0%
     ソバ4.6%
     魚類4.4%
     ピーナッツ2.8%
     魚卵2.5%
     大豆2.0%
     木の実類1.9%
     肉類1.8%
     野菜類1.1%
     軟体類1.1%
     その他3.4%
     「食物アレルギーの診療の手引き2005」より



    【Point】保健指導等に携わる人は
     もしも出産後、子どもにアレルギーの症状がみられるような場合は食物日誌をつけることを勧めます。食事や生活の記録、症状の記録、服薬や治療の記録を残すことは、原因を探り、対応方法を決めるのに重要な情報となります。単に食べたものを記録するのではなく、その経過も記録します。授乳中の場合は母親の食べたものを書いておきます。これらが診断や治療を行う医師にとって、実際の食事制限などを行ううえで重要な判断材料となるからです。
     なお、アレルギー用ミルク(抗原物質をあらかじめ除去した粉ミルク)を使用することがありますが、母乳育児には母乳に含まれる免疫物質や親子のスキンシップなどの重要な意味があります。アレルギー用ミルクを使用するかどうかについては、メリット・デメリットを勘案し、専門医とよく相談のうえ決定するとよいでしょう。

    吉池 信男(国立健康・栄養研究所研究企画評価主幹)
    【健康づくり 2007年5月号】

生活

アルコール依存

  •  厚労省によると、多量飲酒は1日平均純アルコールで60gを超える飲酒と定義されています。60gとは、ビールなら1.5リットル、日本酒なら3合弱、または焼酎(アルコール度数25度)なら300mlに相当します。

     アルコールに関連した健康・社会問題の多くは、この多量飲酒者が引き起こしており、その削減はわが国の保健上の大きな課題となっています。

     多量飲酒のなかでも、特に飲酒量が多く、多くの問題が一人に集積した状態がアルコール依存症です。アルコール依存症の診断には、WHOによる「ICD‐10診断ガイドライン」が用いられます。

     (1)激しい飲酒渇望 (2)飲酒コントロールの喪失 (3)離脱症状の存在 (4)耐性の証拠 (5)飲酒中心の生活 (6)問題が起きていることを知っているにもかかわらず飲酒の6項目のうち、3項目以上が過去12か月間に同時に1か月以上続くか、繰り返し起きた場合に、アルコール依存症と診断されます。

     離脱症状とは、アルコールが切れてきたときに出る、手の震え、発汗、不眠等の症状です。また、耐性とは、酒に強くなり、そのために以前より大量に飲酒することです。

     わが国の多量飲酒者やアルコール依存症患者について、2003年に筆者らが実施した全国成人に対する実態調査によると、飲酒日に60g以上飲酒していた者は860万人、アルコール依存症の疑いのある者は440万人、治療の必要な同依存症患者は80万人いると推計されています。

     ところで、人々をアルコール依存症に駆り立てる要因は何でしょうか。まず、遺伝を考える必要があり、アルコール依存症のリスクの半分はこの要因で説明されるといわれています。飲酒後に顔が赤くなるのは遺伝によるものですが、この場合は逆にアルコール依存症になりづらいことがわかっています。

     性格では、多動性、新規追求性、反社会性などが、精神的にはうつ病や過食症などが、アルコール依存症のリスクを高めているようです。最近、定年退職後の余暇をお酒でつぶして依存症になる人も多く、今後が憂慮されています。

     アルコール依存症の治療目標は、生涯断酒の継続です。なぜなら、何年断酒を続けても、ひとたび飲み始めれば速やかにコントロールを逸した状態に戻るためです。通常、アルコール依存症患者は病的にみずからの飲酒問題を隠す傾向(否認)があるため、この傾向をうまく処理することが治療の成否を分けます。

     アルコールの解毒治療、否認の処理、アフターケアなどを踏まえ、治療は専門医療機関で行われるのがよいでしょう。専門医療機関に関する情報は、都道府県・政令市の精神保健福祉センターあるいは地域の保健所が提供しています。

    【参考文献】
    樋口進(編)健康日本21推進のための「アルコール保健指導マニュアル」社会保険研究所 東京2003


    【Point】保健指導等に携わる人は
     最近、多量飲酒レベルの人に対しては、簡易介入が推奨されています。簡易介入とは、短時間のカウンセリングのことで、対象者の飲酒状況の評価、飲酒の目標設定、実行方法の検討、実施状況の確認のプロセスを、対象者と相談しながら進めていきます。
     通常、目標は断酒でなく減酒で、確認のために日記をつけてもらうこともあります。カウンセリングは対象者にやる気を起こさせるようにし、1~2か月空けて複数回行います。この手法は保健師、看護師等も実施可能で、かつ一定の効果が期待できます。

    樋口進(国立病院機構久里浜アルコール症センター副院長)
    【健康づくり 2009年12月号】

いびき

  •  いびきとは、呼吸によって鼻から吸った空気が鼻孔からのどを通って肺へと行き来する際に、なんらかの原因で気道の抵抗が大きくなり、起こる音のことです。昔はよく眠っているサインと受け取られていましたが、実際には空気の(のどへの)通り道となる気道が狭くなっているので、呼吸1回ごとに気道に抵抗がある状態です。これでは、体に負担がかかり、眠りも浅くなり、疲れがとれません。

     主な原因としては、鼻や咽喉部の疾患、肥満、年齢などによるものが挙げられます。なかでも、いびきが途中で途切れ、呼吸停止を伴うような不規則な呼吸が朝まで続くときや、周囲に迷惑をかけるような非常に大きないびきの場合は、「睡眠時無呼吸症候群」(SAS)や「上気道抵抗症候群」といった病気を抱えているケースが多いので、注意が必要です。

     疲れているときやお酒を飲んだときにだけかくようないびきは問題ありませんが、いびきの音が非常に大きかったり、強弱があるようなら医師に相談するとよいでしょう。まずは診断を受けたうえで、治療の必要があるかどうか判断することをお勧めします。近年は自宅に検査器具を持ち帰ってもらい、簡易検査を行うクリニックも増えています。

     体に大きな負担を与えかねないいびきを防ぐための方法はあるのでしょうか。症状の重症度と状況に応じて対応策をとることが必要です。たとえば睡眠不足などによるいびきは規則正しい生活を心がけると、ある程度防ぐことができます。また、体に脂肪がつくと気道が圧迫されていびきの原因となるので、肥満を解消するなど、生活習慣を見直すことによって改善できるいびきもあります。軽度のいびきなら、眠っているときの体位でもいびきを防ぐことができます。あおむけに眠ると舌がのどに落ち込み気道が狭くなるので、横向きの姿勢が効果的です。あおむけに眠る場合でも、気道がふさがりやすい高い枕は避けるといびきの予防につながります。

     こうした生活習慣の見直しで改善される軽いいびきがある一方、SASのように、治療が必要ないびきもあります。マウスピースは下あごを前に出して固定することで舌が落ち込まず、気道を確保し、いびきを抑えることができる装具です。さらにひどい無呼吸症がある場合は、気道を広げるために鼻マスクから空気圧を送り込むシーパップという治療器を使っていびきを防ぐ方法もあります。重度の場合も、こうした治療器を使うだけで劇的な改善が見込めます。その半面、治療をせずにほうっておくと、睡眠中の無呼吸により、高血圧や心筋梗塞、糖尿病、うつ病といった重大な影響を体に及ぼすこともあります。

    「いびきが大きい」と指摘されたことがある方は、まずは治療が必要かどうかを調べてみるとよいでしょう。


    【Point】保健指導等に携わる人は
     「いびき」と一口にいっても、習慣性のいびきから、睡眠時無呼吸症候群(SAS)のように治療が必要ないびきまで種類はさまざまです。SASを放置しておくと、酸素不足によって心臓や脳などに負担がかかり、高血圧、心筋梗塞、脳卒中などを引き起こすおそれがあります。
     逆に、健診結果で血圧が高かった人の背後には睡眠障害の問題が隠れているかもしれません。また、睡眠不足の理由が配偶者のいびきにあり、配偶者にSASが疑われるケースも考えられます。
     保健指導を行う際は、「よく眠れていますか」などの問診により、睡眠障害の発見や関連する生活習慣の改善につなげる視点が大切です。

    成井 浩司(虎の門病院 睡眠センター センター長)
    【健康づくり 2007年2月号】

肩こり

  •  肩こりのメカニズムは、長時間、首すじや肩の筋肉が緊張し、血行が悪くなることによって筋肉が酸素不足になり、疲労物質がたまって、周囲の神経を刺激することによって起こります。

     パソコンを使用するときは、あごをひいて背すじを伸ばし、頭の重さがまっすぐ背骨にかかるような正しい姿勢が大切です。また、肩こりを予防するには、ひじを置けるような高さにパソコン机を調整しましょう。パソコン使用時は、頭の位置を固定したまま、長時間、近距離でパソコン画面を見ることになりますので、目の疲れやドライアイを訴える人も少なくありません。

     いずれの場合も、環境を整え、正しい姿勢で、こまめに休憩をとることが必要です。少なくとも1時間に5分程度の休憩をとり、ストレッチングをするようにしましょう(図参照)。また、目の疲労回復体操も加えましょう。

     昼休みには、10分程度でもいいのでよい姿勢でさっさと歩き、血行をよくすることは、積極的な疲労回復につながります。

    【目の疲労回復体操】
    ①目を閉じて休む(1~2分)。
    ②次に、まぶたを閉じたまま、目をゆっくりと動かす。
     ・左を見て(5秒)→右を見る(5秒)
     ・上を見て(5秒)→下を見る(5秒)
     ・ (山や海、緑の木などを想像しながら)遠くを見て、だんだんに近くを見る(10秒)。

    図 ●肩こり解消体操
    1.いすの背にもたれて、両手を上げ、上体をゆっくりそらせ、深呼吸。口は自然に開く。
      片足を前に伸ばす(2回足をかえる)。
    2.左手はいすに触れる。右手は頭に置き、頭をゆっくり右に倒す(10秒、交互に2回)。
    3.左手を額に、右手を後頭部に置き、左にゆっくり頭を回しながら、体をひねる(15秒、交互に2回)。
    4.両手は太ももに置き、ゆっくり足先のほうに下ろしながら前屈する(15秒、2回)。


    【Point】運動指導等に携わる人
     職場の人間関係、交通渋滞、増大する情報量と処理機能のスピード化などの精神的なストレスは、首すじや肩周辺の筋肉を緊張させ、呼吸が浅くなります。こうした状態が続き疲労が蓄積すると、注意力、集中力が減退し、作業能率が低下していきます。したがって、意識的に呼吸を整え、筋肉の緊張を解くことによって、精神的なストレスを軽くすることができると考えられています。
     最も疲れを感じる時刻は午前11時と午後3時。2時間以上作業を続けると能率が落ち、ミスが目立ってくるという報告があります。職場の健康管理に気軽にできるストレッチング体操を取り入れてはいかがでしょう。

    武井 正子(順天堂大学名誉教授)
    【健康づくり 2006年2月号】

花粉症

  •  マスクや眼鏡をかけることは当たり前におやりになられているようですね。それでも花粉は目や鼻に入るために症状が出ます。花粉の侵入を防ぐには(1)花粉情報に気をつける (2)飛散の多い日は外出を控え、窓や戸を閉めておく (3)マスク、眼鏡を使う (4)外出から帰宅したら洗眼・うがいをし、鼻をかむ、ことが重要です。

     症状がひどい場合には、まず病院で診察してもらうのがいちばんです。治療は、基本的には、一種類の薬をベースに、症状に合わせて追加していきます。

     花粉症は、スギ花粉の飛散が盛んになる2月中旬に症状が出始め、3月第1週と第2週の間ぐらいにピークが来ます。症状が出る前、2月初旬ぐらいから抗ヒスタミン薬(鼻水によく効きます)や抗ロイコトリエン薬(鼻づまりによく効きます)など、基本となる薬を飲み始めたほうがベターです。ピーク時で症状が強いときには、ベースとなる薬のほか、鼻噴霧用ステロイド点鼻薬や目薬など、ほかの薬も追加したほうがいいでしょう。

     医療機関で処方される薬や市販薬は、薬によっては眠気などの副作用がありますが、医師の指示や注意書きをよく理解し、薬の量や回数、注意事項をきちんと守って服用する限り、大きな健康への影響はありません。

     「一度注射すると、シーズン中ずっと症状が出ない」といわれてステロイド剤の注射を行う人がいますが、これは、排卵への影響や副腎皮質機能の抑制など、重大な副作用を引き起こす危険があります。安易に行うべきではありません。

     また、妊娠中などで内服薬や点鼻薬が使えない場合には、薬を使わない治療法として、42~43度の水蒸気を吸入する温熱療法があります。これは副作用もないため自宅で何回でも行うことができ、効果のある方も多い治療法です。

     花粉の侵入を防ぎ、完全に除去することができれば理想ですが、現実には不可能です。このため、特に症状の重い方には根治療法として抗原特異的免疫療法が適応となります。これは減感作療法とも呼ばれ、花粉エキスを少しずつ濃度を上げながら注射して、身体を花粉に慣らす方法です。初めの3~4か月は週に1~2回の注射をしますが、維持量からは2週間に1回を2か月間続け、その後1か月に1回の注射で、2年以上続けることが重要です。やめたあとでも効果が持続するのがこの治療法の特徴です。


    【Point】保健指導等に携わる人は
     保健の指導者の方は、まず花粉症はアレルギー反応であり、抗原がまったく目や鼻に入らなければ発症もせず、重症化もしないことを理解してください。
     また、薬剤で症状が止まっていても抗原は入ってきており、抗体の持続的な産生増加があります。薬剤で見かけ上、症状がなくなっているのであり、花粉飛散の多いときにはマスクや眼鏡の使用を勧めるほうが、将来の症状の重症化を防ぐことができます。目や鼻への花粉の侵入を防ぐには、本文にもあるとおり、花粉情報に気をつけ、マスクや眼鏡を着用することなどが大切です。患者さんには、可能な限り花粉を回避するよう指導してください。

    大久保 公裕(日本医科大学附属病院耳鼻咽喉科准教授)
    【健康づくり 2008年12月号】

喫煙

  •  何よりも重要なことは、自分が本当に「たばこをやめたい」と思っているのかどうか、です。禁煙はしたいが、禁煙中にどうなるのかなど、不安や心配があれば、近くの禁煙外来や自治体の禁煙支援サービスなどを活用し、安心して禁煙にチャレンジできる環境を見つけましょう。また、一定の条件(たとえば1日1箱10年相当の喫煙歴)はありますが、保険診療で禁煙にチャレンジすることもできます。

     禁煙には、3つの方法が考えられます。(1)独力でやめる (2)自治体や民間などの禁煙支援サービスを活用する (3)医療機関を受診するです。現在、インターネットを活用した便利なサービスや、薬局で購入できるニコチンガム・はり薬、医療機関で処方される新しい飲み薬が登場したことなど、禁煙をサポートする環境・ツールは劇的に変化しています。

     ですから、まず「たばこをやめたい」という気持ちをしっかり確認して、身近のサービスを探してうまく活用することが、禁煙成功のポイントになります。万が一、今回失敗しても「たばこをやめたい」気持ちを捨てず、あきらめたり落ち込んだりしないで、繰り返しチャレンジすることも重要です。

     禁煙失敗の原因になる、たばこへの依存には、主に2つの面があります。(1)ニコチンによる身体への依存(神経系への生物・化学的作用) (2)喫煙行動(生活の中で、あるタイミングで手を使って火をつけ、口で吸って吐き出して…という一連の流れ)そのものがくせのように習慣化すること(行動・心理的作用)です。

     これらへの対処法として、まずニコチンガム・はり薬など禁煙補助薬を使うことで、たばこの代わりに(1)のニコチンの作用を抑えることができますし、そもそも喫煙のように不完全燃焼による多くの有害物質を吸い込まなくてすみます。しかし、(2)の行動・心理的側面に直接作用するものではありません。ただ、行動・心理的側面といっても、いわば「くせ」「慣れ」ですから、ある意味自分の気持ち一つともいえます。

     このように、禁煙する際には自分の喫煙習慣に、これらが混ざっていることに注意しながら、ときには禁煙補助薬を使いつつ、または禁煙相談を受けながら、身体と行動の両方を、たばこを吸わなくても大丈夫な状態に戻していくことになります。

     まず「たばこをやめたい」という気持ちありきで、現在利用可能なさまざまなサポートを見ていただいて、安心して禁煙にチャレンジできると自信をもっていただければ、禁煙は成功すると思います。

     最後に、ご自身の「たばこをやめたい」という気持ちを安定させるためにも、たばこから独り立ちするための「手すり」のような禁煙相談・外来や仲間などと一緒に、決してあきらめずに頑張っていきましょう。


    【Point】保健指導等に携わる人は
      相談にみえる方は、少なくとも何か意思をもって足を運んだわけですから、まずその背景や意思の強さなどを十分把握し、やめたい気持ちを強めるサポートの提供が重要です。
     また、自治体などの相談窓口では、自分での禁煙や保険診療などで何度か失敗した方が来所されるといった「最後の砦」的な面もあり、禁煙意思の維持のための役割も大切になります。
     また、母子保健や障害福祉の領域などの関係部署と連携することで、たばこをやめたい方々が暮らす環境の整備に注目することもできます。
     いま、相談窓口が置かれている位置づけを踏まえつつ、相談者の意向や生活様式に沿って、地域で利用できる資源(外来、薬局等)間においても連携し、サポートの輪を広げていきましょう。

    吉見逸郎(国立保健医療科学院研究情報センター たばこ政策情報室長)
    【健康づくり 2009年1月号】

  •  平成19年国民健康・栄養調査結果では、女性の喫煙率は11.0%ですが、20歳代で16.7%、30歳代で17.2%、40歳代で17.9%と、比較的若年層で高いことが明らかとなっています。対象者を限定した調査では3~4割が喫煙者の場合も珍しくありません。出生児約5万人を対象とした21世紀出生児縦断調査(2001年)では、19歳以下の母親の喫煙率は44.3%、20~24歳では34.7%と非常に高い値が報告されています。

     妊産婦や胎児、乳幼児等への健康影響については、「体に悪い」ことは広く知られていても、どう悪いのかについては十分知られていません。米国の公衆衛生総監報告から、喫煙および受動喫煙について、はっきりと判断された健康影響は次のとおりです。

     まず「喫煙で引き起こされる(原因となる)」と判定されたものは以下のとおりです。がん、循環器疾患(心・血管系)、呼吸器疾患はもとより、子宮内での呼吸器への影響(児の肺機能)、小児・青年期の呼吸器への影響(肺機能、呼吸器症状、喘息の症状)、特に生殖関係では胎児死亡、死産、生殖機能(女性で低下)、低出生体重、妊娠の合併症が、「喫煙が原因となる」と判定されています。低骨密度や大腿頚部骨折という女性や高齢者に心配な病態・疾患も「喫煙が原因となる」と判定されています。

     次に「受動喫煙で引き起こされる」と判定されたものは、肺がんや循環器疾患はもとより、子どもたちについて乳幼児突然死症候群(SIDS)、急性呼吸器感染症、耳疾患、重症の喘息、親の喫煙による呼吸器症状や呼吸器の発達の遅れが挙げられています。

     「たばこといえばがん」だけでなく、煙により肺・気管支炎などの呼吸器を直接「いじめる」ことになります。さらに、いわゆる「血管ボロボロ」「血液ドロドロ」となり、その影響が出ると理解すればいいでしょう。まして、胎盤を経由してしか母体、さらには外界と接触できない胎児や、成長過程の乳幼児・小児にとって、呼吸器、血管、血液への作用がどれだけ負荷を与えるかは言及するまでもありません。

     妊婦の禁煙については、残念ながらニコチンガム・パッチは妊婦(妊娠の可能性がある方含め)や授乳中の女性などでは児への影響などから禁忌で(しかし喫煙を続けることは実質ニコチンを取り込むことにほかなりません)、禁煙補助剤を用いることは難しい状況です。また、子育てや家庭のストレス、社会・心理的に孤立してしまうなど、たばこだけを問題にしにくい状況です。

     しかし日本では、妊娠をきっかけに母子保健手帳を交付され、健診や父親母親教室などの各種事業もあり、多くの職種や機関がかかわる流れが確立されています。これから親になる立場の方は、いろいろな環境や気持ちの切り換えのタイミングでもあります。行政による母子保健サービスなどを最大限に利用して、地域で生かせるつながりを探してみてはどうでしょうか。


    【Point】保健指導等に携わる人は
      妊娠中の禁煙について、米国疾病管理予防センターによる禁煙に関する臨床ガイドラインでは、「最小限の禁煙アドバイスを超えるような、一対一の心理・社会的な介入を、できうるときはいつでも提供すること」が有効だとする明確な根拠があると判断しており、こうした介入や自助教材で禁煙の可能性が2倍近くになることが記されています。
     日本では、母子保健の体制を活用し、地域レベルで連携をつくり、広く母子・家族を支援するよう工夫することができます。関係者が相談し合い、各現場で工夫してみることが大事でしょう。
     個別支援の技術としては、「やめさせる」というより、背景などをうまく聞き出し、地域での支持につなげられるようなカウンセリングの技法を中心とするのがよいでしょう。

    吉見逸郎(国立保健医療科学院研究情報センターたばこ政策情報室長)
    【健康づくり 2009年5月号】

ぎっくり腰

  •  ぎっくり腰とは、急激に発症する腰痛をいいます。顔を洗おうとかがんだときや、振り向いた拍子など、軽微な動作で発症することもあります。痛みの程度は、動くことが困難で入院するものから、何とか動けるものまでさまざまです。

     多くはじっと動かなければ痛みはなく、痺れや知覚低下、麻痺などの神経症状を伴わないものをいいます。たいがいは数日で動けるようになり、2週間程度で日常生活に戻ることができます。しかし何度も繰り返す場合や、慢性の腰痛もちに移行する場合もあります。

     診断では、自発痛や神経症状の有無、圧痛部位を確認しX線写真やCT、MRI等で原因となる病変がないか調べます。腫瘍や炎症その他の所見がないときは急性腰痛症(ぎっくり腰)となります。

     痛む部位の詳細は不明です。椎体と椎体を結ぶ椎間関節の捻挫、亜脱臼という説、仙椎と骨盤の腸骨の間の仙腸関節の捻挫という説もあります。予防するには、腰を落とさず重い物を持ち上げるなど、腰に負担がかかる動作を避け、日ごろからスクワット(後述)を行うなど、椎体と椎体、骨盤と椎体の間のスムーズな動きが自然にできるようにしておくことです。

     ぎっくり腰になった場合は、腰部の安静を図ること、痛いと感じる動きを避けることです。痛みが強い初期には鎮痛剤も効果的です。じっとしていても痛いときは整形外科を受診してください。コルセットを使って、背筋と骨盤底筋が連動するように、脊椎・骨盤を一体化すれば、動く際の痛みは軽減されます。体動困難な状態であっても、じっとしていれば痛くないときは、動ける方向を探し、どうすると痛みがあるのかを確かめ、自然治癒を待ちます。

     痛みがひいたあとのリハビリは、脊椎と骨盤の間(腰仙間、仙腸関節)や、股関節の動きをスムーズにする腰痛体操が効果的です。まず、救急法で行う回復体位と同じように、腹ばいになり、股関節とひざを左右交互に入れ替えます。この姿勢では通常疼痛はありません。

     次に、四つんばいになって脊椎を動かします。両手両ひざで体幹を支え、脊椎・骨盤を前後に動かします。天井を見るつもりで、胸と腹を目いっぱい後ろへ伸ばします。前方へは首を丸くし背中を丸め、頭の裏側を床につけるように、へそをのぞく感じで丸くなります。

     腹ばい、四つんばい体操のあとは立つトレーニングをしましょう。立つトレーニングとはスクワットです。スクワットで腰を痛める場合もありますが、正しい姿勢で行えば慢性腰痛に悩む方にも有効です。

     ※腹ばい・四つんばい・スクワットの詳しい方法は、2006年11月号、2007年3月号参照。


    【Point】運動指導等に携わる人は
     よい姿勢のスクワットを教えるのは難しいことですが、壁のコーナーを使って行う壁体操が有効な指導方法です。

     部屋のすみに尻を置き、左右の壁にひざと足をつけ、尻・ひざ・足が壁から離れないように腰を下ろす、上げるを繰り返します。不安定な場合はいすを正面に置き、両手をいすに置いて行うと、安定してできます。
     このスクワットの基本が習得できたら、下腹に力を入れ、骨盤底筋に力を入れてコアマッスルを鍛えるようにします。下腹に力を入れて、股関節を使って動くことを意識すると、腰が痛くなく、かなりの動きが可能となります。この運動は腰痛予防にも効果的です。

    渡會 公治(東京大学大学院総合文化研究科身体運動科学 (スポーツ医学) 准教授)
    【健康づくり 2007年12月号】

高齢者

  •  ロコモティブシンドロームとは運動器(骨、関節、背骨、筋肉等)の障害で要介護の状態になっていたり、その危険が高くなっている状態です。実際には、運動器がうまく働かないために、一人で歩くことが難しくなっていたり、その危険がある状態をいいます。高齢者の介護予防の視点から、2007年に日本整形外科学会が提唱した概念です。

    運動器に関する手術治療が必要になる人は、50歳代から急増しています。特に、骨粗しょう症で転倒・骨折、変形性膝関節症(膝の関節軟骨がすり減る病気)、変形性腰椎症(腰の椎間板がすり減る病気)が多くなっています。要介護になる人の約5人に1人は関節の病気や転倒・骨折等の運動器が原因となっています。最近の研究で、これらの異常が検査でわかる人が4700万人と、これまで考えられていた以上に多いことが明らかにされました。また、一人でこれらの病気を複数もっていることも、少なくありません。

    人は直立二足歩行をすることで、手を自由に使えるようになり、文明を発達させることができました。しかし、身体には負担の多い場所ができました。それが特に腰と膝です。長寿になった現在では、この負担がかかる部位の問題が大きくなってきたのです。近年の研究では、膝関節には歩行で体重の約3倍、階段昇降で約5倍の負担がかかることがわかってきました。腰の椎間板にかかる圧は、立位では寝ているときの約5倍、20㎏の物を身体の前に持って前かがみになると、まっすぐ立っているときの約4.5倍の負担がかかることがわかっています。変形性膝関節症、変形性腰椎症はこれらの負担の現れです。

    運動器の障害は、静かに進行することから、予防するには自分で気づくことがまず大切です。気づくための自己チェック法(ロコチェック)として、以下の7つの項目があります。1つでも該当すれば、ロコモティブシンドロームの危険があります。

    (1)片足立ちで靴下がはけない (2)家の中でつまずいたり滑ったりする (3)階段を上るのに手すりが必要である (4)横断歩道を青信号で渡りきれない (5)15分ぐらい続けて歩けない (6)2㎏程度の買い物(1lの牛乳パック2個程度)をして持ち帰るのが困難である (7)家のやや重い仕事(掃除機の使用、布団の上げ下ろし等)が困難である。

    該当する場合は、ロコモーショントレーニング(ロコトレ)を行うことを勧めます。ただし、痛みがある場合や、急に症状が起きた場合等では、医療機関を受診することをお勧めします。

    「ロコトレ」は、「スクワット」と「開眼片脚立ち」が基本です。中高年では運動能力や障害に個人差が大きいので、歩行能力に合ったやり方にするように工夫されています。痛みのない範囲ですることが大切です。


    【Point】運動指導等に携わる人は
     歩行能力の低下は、バランス能力や下肢筋力の低下として現れます。これらの対策として、「スクワット」と「開眼片脚立ち」を勧めます。高齢者はすでに膝や腰の変性があることから、膝や腰への負担に配慮し、正しいフォームを指導することが大切です。スクワットでは膝が足先から前に出ないよう、また、膝が足の方向に屈伸するようにします。歩行能力に合わせ、机に手をついて行う等の工夫も必要です。急な発症、安静時の疼痛、発熱、局所熱感がある場合は重大な病気が隠れていることがありますので、注意が必要です。

    中村 耕三((社)日本整形外科学会 理事長)
    【健康づくり 2010年2月号】

五十肩

  •  整形外科では五十肩の正式病名は、肩甲上腕関節周囲炎といいます。肩甲骨と上腕骨の間の関節を構成している関節包、回旋筋腱板の障害です。

     症状は、可動域制限を伴う運動痛で、動かすと痛いのが特徴です。肩が動かないと日常生活に支障をきたします。顔や髪を洗ったり、歯を磨いたり、女性だとブラジャーを着けるときも困り、肩の可動域がいかに大事かがわかります。

     診察すると、圧痛はないことが多いのですが、動きの制限があります。原因の定説はありませんが、私の専門であるスポーツ医学から見ると、使いすぎ症候群である野球肩によく似ています。使いすぎ症候群とは、小さな力が繰り返しかかることによって生ずるもので、いろいろな要因や原因が関与しています。

     無理なスケジュールで練習したり、手投げという無理なフォームで投げていたりすると起こるのが野球肩です。五十肩とはふだんの生活でも身体全体を動かさずに、手だけ、肩だけ動かしてきた結果ではないかと思います。中年になり身体が硬く、筋力不足になってきたため、無理な動きとなって発症したと考えられます。

     本質的な治療は、運動療法が主になります。私は肩関節だけでなく、肩甲骨、脊椎を大きく動かす運動療法で、昔からの「アイロン体操」、そして「肘まる体操」を教えます。この体操を日常生活で、少しずつ頻回に行うことが大事なポイントです。

     また、行儀作法を思い起こして、さまざまな動作をする際には、身体の正面で、両手で大事に扱うことを心がけるように指導します。片手でひょいとすましていることがいかに多いか、この動作がいかに肩に負担をかけていたのか、ということを納得してもらうことが大切です。

    ●肘まる体操
    襟首をつかんだままで、肩を中心にして円を描くように肘(ひじ)を大きく回します。頭の高さまで肘をグルグル回してください。逆方向にも回してください。
    手は首の後ろの奥えりをつかむのが理想ですが、痛みがありつかめない人は、肩の上でも、胸の前でもつかめるところをつかんで行う。肩甲骨と背中を大きく動かしていると、少しずつ肩も動いてくる。

    ●アイロン体操
    腰をできるだけ90度に曲げて痛い側と逆の手でイスにつかまり、痛い肩の方の腕はダラリと垂直にさげて重りを握ります。オモリを握る以外の力は抜いて、腕の重さを感じられるようにリラックスします。
    その姿勢を維持しながら、ゆっくりとオモリを持つ腕を前後左右に動かしたり、丸を描くように動かしたりします。
    1~2kgの重さが目安。たとえば、買い物バッグにペットボトル2、3本入れて、バッグを握るのではなく、指に引っかけるように持つと、前腕や上腕二頭筋の力がうまくぬけます。


    【Point】運動指導等に携わる人は
     肩の痛みをがまんさせないように運動を指導してください。
     「肘まる体操」でも手が肩に届かない人がいます。その場合は胸骨の真ん中の上のシャツをつかんでください。段階を踏んで鎖骨の近位端の部位、遠位の部位、肩甲骨の内上縁と少しずつ進めていきます。「肘まる体操」では、まず肩甲骨と脊椎を動かしていきます。肩甲骨の動き、肩甲上腕関節の動きを感じ取って、より大きく、より多くのパーツを参加させるように指導していきます。痛くない動きなので、続けることができ、続けて動かしていると、可動域は必ず大きくなっていくことをアドバイスしてください。

    渡會 公治(東京大学大学院総合文化研究科准教授)
    【健康づくり 2009年10月号】

ジェネリック薬品

  •  ジェネリック医薬品とは、製薬会社が新規に開発した医薬品(先発医薬品)の特許が切れた後、同じ有効成分を用いて別の製薬会社が作り、品質と効果が同じ医薬品として、厚生労働省により認められた後発医薬品のことをいいます。ジェネリック医薬品は開発にかかる費用が少ないため価格は安いですが、品質と効果は先発医薬品と同等であることが特徴です。欧米では商品名ではなく、有効成分名である一般名(ジェネリックネーム)で処方されることがあるため「ジェネリック医薬品」と呼ばれています。後発医薬品の薬価(健康保険で認められた価格)は、先発医薬品の2~7割で、平均5割ぐらいになります。ただし、有効成分が同じ後発医薬品でも、薬価は製薬会社によって違う場合があります。

     先に高齢化社会を迎えた欧米では、医療費の高騰の抑制策として、ジェネリック医薬品は広く利用され、国民の間に浸透しています。わが国においても、医療費の抑制策の一環として、平成14年よりジェネリック医薬品の普及に取り組んでいます。

     平成20年度の医療法改定において、ジェネリック医薬品の普及のために処方せん様式を再変更し、処方せんの「後発医薬品への変更不可・医師署名欄」に医師のサインがなければ、処方せんにジェネリック医薬品がある先発医薬品が記載されている場合は、保険薬局で薬剤師からジェネリック医薬品の説明を受けて、変更することができます。ただし、先発医薬品の特許が切れた場合しかジェネリック医薬品がありませんので、薬剤師からよく説明を聞いて判断することが重要です。また、ジェネリック医薬品への切り換えに不安がある場合は、1~2週間、ジェネリック医薬品を試して、問題があれば先発医薬品に戻すことも可能ですので、薬剤師に相談してください。

     現在、わが国のジェネリック医薬品の普及率は、欧米での50~60%に比べて、約17%と低い水準にあります。いま、使用されている先発医薬品をすべてジェネリック医薬品に置き換えたならば、医薬品費が1兆円程度削減できるといわれています。また、ジェネリック医薬品は、患者の医薬品費の負担も軽減します(一部、調剤料などを含めると軽減にならない場合もあります)。聖マリアンナ医科大学病院では、平成16年から約300品目の先発医薬品をジェネリック医薬品に切り換えていますが、有効性と安全性において問題になったことはありません。

     急速な高齢社会を迎えるわが国では、医療費増大の抑制は急務であり、国民一人ひとりが、ジェネリック医薬品を理解し、普及に努めることが必要であります。ジェネリック医薬品の普及に向けて、勇気を持って一歩を踏み出すことが大切です。


    【Point】運動指導等に携わる人は
     今年度の医療法改定と同時に、ジェネリック医薬品の普及を促進するために保険薬局・保険薬剤師療養担当規則が改定され、保険薬局は、ジェネリック医薬品の提供体制を整備し、そして、保険薬剤師は、ジェネリック医薬品を説明し、調剤することが義務づけられました。このため、患者に、ジェネリック医薬品について、地域や在宅医療に携わる保険薬剤師に積極的に相談するように指導するとともに、医師にジェネリック医薬品を処方してもらえる環境を整備することが大切です。

    増原 慶壮(聖マリアンナ医科大学病院薬剤部長)
    【健康づくり 2008年11月号】

受動喫煙

  •  たばこの煙は、吸い口から吸う「主流煙」と、火がついた端から立ち上る「副流煙」があり、どちらも有害物質を含みます(副流煙に多い成分もあります)。非喫煙者でも、この副流煙と主流煙を吐き出した「呼出煙」とが混ざって拡散した煙を吸うわけです。これを「間接喫煙」または「受動喫煙」といいます。マナーやにおいの問題だけでなく、何より有害な煙を吸いたいわけではないのに吸わされることが大きな問題です。

     間接的なたばこの煙には、国際がん研究機関により、「ヒトへの発がん性がある」と判定されています(喫煙そのものは言わずもがなです)。米国の公衆衛生総監報告においても、同様に肺がんの原因と判定されており、約20~30%程度リスクが上がるとされています。冠状動脈性心疾患など循環器への急性影響についても、約25~30%程度リスクが上がるとされています。また子どもへの影響として、せきや痰など呼吸器症状はもちろん、中耳炎、下気道疾患にかかりやすいなど多くの健康への影響が認められています。

     受動喫煙は、決してにおいやマナーの問題ではありません。時間・濃度的に強く曝露を受けやすく、またそれが避けられない家庭では健康への影響が大です。

     ところで、受動喫煙については、健康増進法25条において、「多数の者が利用する施設の管理者は、受動喫煙を防止するために必要な措置を講ずるように努めなければならない」とされており、職場でも喫煙対策のガイドラインが通知されるなど防止対策が進められています。 またWHOによるたばこ規制枠組条約においても受動喫煙防止は盛り込まれており、昨年の締約国会議では受動喫煙防止のガイドラインが採択されました。現在厚労省においても、今後の受動喫煙対策のあり方について検討を開始したところです。

     分煙には完全な方法はなく、全面禁煙が推奨されます。空気清浄機は、粒子状成分はある程度除去できても、一酸化炭素など気体成分については効果はありません。換気扇の下で吸ったり、上方向に煙を吐き出したりする人もいますが、煙はすぐ拡散すること、衣服や呼気には短時間ですが残留することなどから効果はないといってもいいでしょう。

     たばこは成人の選択・嗜好品といわれますが、子どもや妊産婦、病弱な方などにとって、特に家庭や職場など選択が難しい場所においては、やはり避けるべき曝露です。たばこを吸う吸わないにかかわらず、このことを十分理解し、また忘れないようにしましょう。


    【Point】運動指導等に携わる人は
    個別的な禁煙支援の技術については、種々の出版物や研修等も増えていますので、ぜひ身近なところで情報収集・交流の機会をもちましょう。厚労省のホームページでも「禁煙支援マニュアル」が公開されています(http://www.mhlw.go.jp/topics/tobacco/kin-en-sien/manual/index.html参照)。
     また、これからの禁煙支援には対象者へのアプローチ技法もさることながら、継続的に各方面から支援される、という体制づくりも重要です。保険診療による「ニコチン依存症管理料」、保健所等による個別健康教育、さまざまな場面での禁煙支援サービス等をうまく連携し、あるいは栄養指導後や、母子手帳発行前後の母親・父親学級の際など、他領域の保健サービスなどとの連携も模索するなど、多くの関係者で連携を構築する試みが大切です。

    吉見 逸郎(国立保健医療科学院研究情報センターたばこ政策情報室長)
    【健康づくり 2008年5月号】

食中毒

  •  食中毒の発生は例年5月頃から増え始め8月にピークを迎えます。年間2~3万人の患者が発生しており、施設などでの集団発生のほか、家庭でも起こります。食生活と密接に関連していますので、これからの季節、体調が弱っているときや、体力が低い子どもや高齢者には、特に、買い物、保存、加熱等の調理、片付けの各プロセスでの十分な注意が必要です。例えば、・生鮮食品は早く家に持ち帰り冷蔵庫に ・肉や魚などはビニール袋等に入れ、他の食品に肉汁などがかからないようにする ・調理時に手を洗う ・調理の途中や調理後などに食品を長く室温に放置しない、などです。

     食中毒の主な原因菌には、病原性大腸菌O-157、サルモネラ菌、腸炎ビブリオ、ボツリヌス菌、カンピロバクター、ノロウイルスなどがあり、これらは激しい腹痛や下痢、吐き気、嘔吐などを起こします。こうした症状が見られるときは、自己判断を避け、まず、医療機関を受診しましょう。食中毒は毎年、死亡例も報告されており、できるだけ早期の的確な対応が重要です。

     食中毒になったときの応急処置は、脱水症状を防ぐためにまず十分な水分を補給します。その際、塩分や糖分の補給のため、スポーツ飲料もよいでしょう。安静を保つことも大事で、症状が治まった後に食事をとる場合でも消化しやすいものにします。

     腹痛や下痢があるときに、市販の痛み止めや下痢止めを服用するのは逆効果になる場合があるので、服用しないでください。発熱があることから「かぜかな」と素人判断してかぜ薬を飲むのも、同様に症状を悪化させることがあります。

     病院を受診する際は、いつ症状が出始めたか、どんな症状か、どう変化したか、何を口に入れたか、便はどんな状態か、一緒に食事をした人に同じ症状が出ているか、などポイントを押さえて医師に詳しく説明します。

     治療法としては、下痢や嘔吐、腹痛などの症状を軽減させ、脱水症を防ぐことが中心となります。下痢がひどく、水様便が続くときは点滴を行います。発熱の程度など症状によっては、菌の増殖を防ぐために抗生物質を使用する場合もあります。ただし、抗生物質の強力な殺菌力により、毒性の強い菌が菌の中にある毒素(O‐157のベロ毒素など)を放出させてしまい、かえって症状を悪化させてしまう危険性がある場合は、殺菌力が強すぎない抗菌剤を投与して菌の増殖を抑え込む方法をとることもあります。


    【Point】栄養指導等に携わる人は
     応急処置や適切な治療も大切ですが、家族が感染したときなどは家庭内で感染・蔓延しやすい状況にありますので、二次感染を防ぐことがとても重要になってきます。
     乳幼児がいる場合は、おむつ交換のときにゴム手袋を使用する、おむつ交換の場所を決めて消毒を行うなど衛生的に処理するようにします。誤って患者の便に触れた場合は、すぐに流水で十分に洗い、できれば逆性せっけんや消毒用アルコールで消毒します。患者の便で汚れた下着などは、薬剤消毒してから、家族のものとは別に洗濯し、天日で十分に乾かします。風呂は患者とは一緒に入らず、風呂の水は毎日換え、タオルの共用も避けるようにします。患者本人は調理を避け、家族を含めて食事の前には十分に手洗いすることが二次感染を防ぐためには大切です。

    三好 知明(国立国際医療センター 国際医療協力局派遣協力専門官)
    【健康づくり 2006年5月号】

ドライアイ

  •  ドライアイは、その名のとおり「目の乾き」を主とした目の表面の不定愁訴や障害をいいます。目がゴロゴロする、夕方になると充血する、重く感じる、痛む、など症状はさまざまで、その要因や目の状態も、実は多様です。

     近年急増しているのが、オフィスワークによるドライアイです。パソコン使用が日常となったいま、だれもがモニター画面を見つめています。モニターから情報を得ようと、目は画面に集中するため、まばたきの回数が減ります。これにより涙の供給が減り、さらに目は正面を向いて見開いた状態。涙の蒸発が加速し、より目は乾燥します。オフィスの空調による乾燥した空気もこれに拍車をかけます。

     また、近年、コンタクトレンズの装用者が増えています。近年のコンタクトレンズは酸素透過性が向上していますが、ソフトレンズは乾燥してくると涙を吸収してしまいます。また、長時間・長期の使用により、目の表面が荒れた状態になり、涙が定着しにくくなるなど、ドライアイを悪化させる要因の一つと考えられています。

     日本は高齢化が進んでいますが、加齢とともに涙は減る傾向。また、まぶたの加齢変化により、涙の供給と排出がスムーズにいかなくなることもあります。この場合、目が乾くのとは逆に、涙がぽろぽろこぼれる「流涙」を引き起こします。これもドライアイの一つです。

     一般にドライアイは女性に多い傾向で、ホルモンや免疫の関与が指摘されていますが、原因は定かではありません。「シェーグレン症候群」と呼ばれる免疫疾患によるドライアイもあり、この場合は症状が重くなります。30歳以上の方で、目の渇きが激しい、口も乾く、という場合は、シェーグレン症候群の疑いがあります。

     前述したような、一般的なドライアイでは、まばたきを心がけ、目を乾かさないことです。パソコン作業の合間には、体を動かすなど、気分転換の時間をとるように心がけましょう。厚労省ガイドラインでは、1時間につき10~15分の休憩を勧めています。また、蒸しタオルで目を温めると、涙の油分の供給がスムーズになり、ドライアイ予防に有効なことが認められています。

     日常のケアで改善されない場合は、眼科での適切な治療により、改善できます。保湿成分のヒアルロン酸入りの点眼や、涙の排出口を微小な栓でふさぐ「涙点プラグ」という治療もあります。これは、少ない涙を有効活用する画期的な治療で、保険適応となっており、外来で短時間で施術できる治療です。  ※VDT作業における労働衛生管理のためのガイドライン


    【Point】保健指導等に携わる人は
     近年、ドライアイによる視力低下も注目されています。視覚情報社会においては、目の不調は精神的負担にもなります。原因、目の状態を正しく把握して、適切な対処をすることが望まれます。
     ドライアイの治療に詳しい医師や施設の情報は、ドライアイ研究会のホームページ(http://www.dryeye.ne.jp/)、日本角膜学会のホームページ(http://www.cornea.gr.jp/)などを参考にされるといいでしょう。ドライアイ研究会では医療従事者を対象に講習会も開催しています。
     なお、疲れ目には老眼やメガネが合わないなどの他の疾患の場合もあるので、安易に「ドライアイ」と決めつけずに、眼科での検査と診断を促すことも重要です。

    坪田 一男(慶應義塾大学医学部眼科教授)
    【健康づくり 2007年10月号】

夏ばて

  •  夏は、冷房を効かせ、冷たい物を飲んだり食べたりしがちです。暑さに負けて悪習慣が続くと、夏ばての原因になります。

     夏ばての原因は、はっきりしていませんが、①室温と外気温の極端な温度差による自律神経の乱れ  ②睡眠不足 ③体内のミネラルや水分の不足(発汗によるミネラルバランスの崩れ、脱水症状) ④暑さによる食欲の低下、などが推測されています。

     夏ばて防止には、しっかりと睡眠をとることが必要です。夏は日照時間が長いため、活動時間が長くなり、就寝が遅くなったり、暑さのせいで寝苦しかったりして、睡眠時間が短くなりがちです。規則的な生活習慣を維持し、寝室を涼しくするなど環境を整えて、十分な睡眠を心がけましょう。また、短時間の昼寝は睡眠不足による夏ばてを緩和します。このほか、生活にリズムを与える適度な運動、入浴などのリラックスタイムを設けるなどして充実した睡眠をとることが、夏ばてを防いで上手に夏を乗り切るポイントになります。

     また、冷房の使い方にも注意が必要です。室内と戸外の温度差が大きくなると体温調節する自律神経がうまく働かなくなり、全身のだるさ、食欲低下、頭痛といった身体症状が現れ、無気力感にもつながります。省エネのためにも、温度差は5~6度以内に抑え、湿度を下げることで対応しましょう。

     さらに、ふだんに増して上手な水分補給が重要です。高温の戸外で運動を行うと、体内の熱を外に逃がし体温を調整しようと汗をかきます。水分補給を怠ると、脱水症状を起こし熱中症になったり、血液濃度が高まり心筋梗塞や脳梗塞を引き起こす危険も高まります。

     水分補給で注意したいのは、冷たい物を急にガブガブ飲むのは逆効果ということ。一度に大量の水分を摂取してもうまく吸収されないばかりか、食欲も低下します。一回にコップ1杯以下くらいの量をゆっくり飲むようにして、就寝時までに発汗による体重減少を補うようにします。

     水分補給には糖分の多い清涼飲料はよくありません。アメリカでは、肥満防止に学校での炭酸飲料の販売を中止した州もあるほどです。飲み物だけで満腹になり、栄養不足なのに太ってしまうという悲惨なことになることもあります。

     水分補給の手段としてはビールも避けるべきです。アルコールには利尿作用があり、水分が尿として排出されるため、脱水症状のときは危険さえあります。いくら仕事やスポーツのあとのビールが楽しみだからといって、水分補給をがまんするのは禁物。適度に冷えた水やお茶がお勧めです。


    【Point】保健指導等に携わる人は
     幼児や高齢者は体温調節機能が弱く、運動時や外出時に脱水症状を起こしやすいので、特に水分補給に関して注意が必要です。水分補給の基本は少量をこまめにとることです。運動を始める前に予防的に少し水分をとることも効果的です。
     夏場は食中毒に対しても注意が必要な時期です。冷たい物をとりすぎたり、自律神経が乱れたりして胃の機能が低下していると食中毒にもかかりやすくなるので、体調の不良を感じた場合は、夏ばて以外に食中毒の疑いがないかに注意を払うことも重要です。

    田畑 泉(国立健康・栄養研究所健康増進プログラムリーダー)
    【健康づくり 2006年8月号】

人間ドック

  •  健診で異常値が一つもなければ「健康」と安心しがちですが、どこまで調べるかにもよります。

     健診は、就業にかかわる健康の確保のために労働安全衛生法に基づき職場で実施されたり、壮年期からの健康対策として老人保健法に基づき地域で実施されたりしています。これらの集団健診に血液検査(脂質、肝機能、血糖、貧血)が導入されたことで、生活習慣病としての糖尿病、高脂血症、高血圧の早期発見が可能となりました。

     一方、人間ドックは、死因が結核から成人病へと移りつつあった昭和29年に短期入院精密身体検査として始まりました。自覚症状の有無に関係なく、日本人の三大死亡原因である脳卒中、がん、心臓病をはじめ、さまざまな疾患の早期発見・早期治療を目的に、1~3日かけて実施されてきました。

     現在死因の第1位であるがんの早期発見のための検診として、エックス線検査による肺がん検診や胃がん検診、子宮頸部の細胞診による子宮頸がん検診、乳がん検診(触診に加え最近ではマンモグラフィも導入)、便潜血検査による大腸がん検診は地域でも行われており、一定の効果を挙げています。

     しかし罹患率、死亡率ともに増えつつある前立腺がん検診は、地域での受診機会が少ないこともあり、人間ドックで発見されることが増えています。最近、死亡率で1位となった肺がんも、人間ドックのCT検査等で発見されることが増えており、健診に加えて人間ドックを受けることは、がんの早期発見に有効です。最近では、一度の検査で臓器を特定せずに全身を広範囲に調べられるPET検査や、MRI、MRA使用による脳ドック、アンチエイジングドックなども登場し、機器の発達に伴い、早期病変が発見される頻度が増加し、治療成績改善につながっています。

     しかし、人間ドックごとに得意分野があり、必ずしもオールマイティというわけではありません。また費用もかさむため、受診間隔や検査項目の選択も大きな問題です。これからは、家族歴や喫煙歴、生活習慣などのリスクファクターを考慮して、オプション検査をオーダーメードで組み合わせる時代に入ったといえるでしょう。

     また人間ドックでは、受診時に詳細な問診から保健指導が受けられるものもあります。生活習慣病を予防するには、検査結果の経年的な推移とその背景にある生活習慣を振り返り、食事・運動・飲酒・喫煙習慣を見直すことが必要ですので、こうした人間ドックも積極的に活用するとよいでしょう。

     検査内容の詳細や、勧められる施設については、日本人間ドック学会のホームページ(http://www.ningen-dock.jp/)を参考にしてください。


    【Point】保健指導等に携わる人は
     人間ドックは時間的な余裕があるので、個別指導を行いやすいメリットがあります。また平成20年4月より特定保健指導が導入されるのにあわせて、健診においても、従来の食事や運動、生活習慣の分析にとどまる結果説明から健康習慣継続のために気づきを促し、行動変容目標設定の支援が求められるようになったと思います。人間ドックであれ、特定保健指導であれ、保健指導を行う際には、「Narrative Based Medicine(物語と対話に基づく医療)」の発想を取り入れて、丁寧に話を聞くことが大切です。健康行動の裏に隠された個人の物語を語ってもらうことで、真の行動変容ステージを捉え、より個人に即した継続的で効果的な保健指導につなげていただきたいものです。

    中嶋 千晶(なかじまちあき内科クリニック院長)
    【健康づくり 2007年9月号】

熱中症

  •  熱中症は、梅雨が上がり、急に日差しがでて、無風状態、つまり高温多湿の7月中旬から8月にかけて、激しいスポーツや作業をしているときに発症しやすい障害ですが、ヒートアイランド現象のみられる都会では、体力の低下している高齢者が、外出中だけでなく、室内でも熱中症になり、救急車で運ばれることも少なくありません。

     熱中症とは、体温の急激な上昇によって引き起こされる障害の総称です。

     暑熱環境下で、体温調節のために、皮膚の血管が拡張し、血圧が低下し、脳への血流が減少すると、顔面蒼白になり、呼吸数の増加、めまい、失神などが起こります。これを熱失神といいます。

     大量に発汗し、水分の補給が追いつかないと脱水症状になり、脱力感、けんたい感、めまい、頭痛、吐き気などの症状がでます。これを熱疲労といいます。

     発汗とともに血液中の塩分も失われ、そこに水分を補給すると一気に塩分濃度が低下し、その結果、脚、腕、腹部などにけいれんが起きます。これを熱けいれんといいます。

     高温多湿のうえ、運動によってさらに体温が上昇すると、脳の温度が上昇して体温調節中枢に障害が起き、異常な体温の上昇、意識障害、ショック状態などが起き、生命が危ぶまれる事態になりかねません。これを熱射病といいます。

    ●熱中症を予防するには

     健康づくりの運動は、まず、安全な環境で行うことです。健康づくりのウオーキングも日差しの強い時間帯や高温多湿時を避けるようにしましょう。室内での運動でも気温、湿度、換気をチェックし、水分の補給をこまめに、15~30分に1回の割合で行います。大量に汗をかくようなときは、塩分や糖分の補給も兼ねて、スポーツドリンクなどを用意するとよいでしょう。

     炎天下や蒸し暑いときなど、少しでも気分が悪くなったら、涼しいところで水分を補給しながら休みます。その時点で運動は中止しましょう。

     吐き気があって、水分の補給ができない場合は、点滴が必要になります。中高年者には、高血圧、動脈硬化などが少なくありません。症状が急変することもありえます。

     体調不良(かぜ、発熱、下痢、寝不足、疲労感など)のときや、朝食を食べていないときも、運動は中止しましょう。

     熱中症の症状を軽く見過ごさないでください。

    【Point】運動指導等に携わる人は
     熱中症の応急手当ての基本は、涼しい場所で休ませ、衣服をゆるめ、スポーツドリンク等で水分・塩分を補給し、体温を下げる処置を行うことです。体温を下げるには、水をかけたりぬれタオルを当てて扇いだり、首、わきの下、太ももの付け根(鼠径部)等の太い血管のある部分に氷やアイスパックを当てる方法があります。
     熱中症は命にかかわることもありますので、慎重に様子を見て、顔色が悪い、脈が弱い、意識を失う、けいれんを伴うなどの症状があれば、緊急事態と考え、すぐ救急車を呼んでください。
     体力のない中高年者の場合、特に症状が重くなることがあります。症状が軽く見えても、指導者は決して侮ることなく、常に危機管理意識をもち、応急処置等について勉強しておく必要があります。

    武井 正子(順天堂大学名誉教授)
    【健康づくり 2005年7月号】

半身浴

  •    一日の終わりにおふろにゆっくりつかると、身も心もリラックスしてくるのがわかります。入浴は、あすへの活力を生み出しているともいえるでしょう。

     さて、気持ちがよいからといって肩までつかっていると、やがて息苦しくなってくることはだれでも経験していることと思います。この息苦しさはどこからくるのでしょうか。お湯が熱くてのぼせている? と思われるかもしれません。でも、ぬるめの湯でも肩までつかると息苦しくなり、必ずしもお湯の熱さが原因ではなさそうです。

     それでは何が原因かというと、それは静水圧なのです。ジェット流などの水流による圧力を動水圧といい、水の深さに依存する水圧を静水圧といいます。この静水圧によりおなかが圧迫されて横隔膜が押し上げられると、肺のふくらみが妨げられ、十分息を吸えなくなります。また、皮膚表面の静脈や、血流の豊富な肝臓が圧迫されて、心臓に返ってくる血液量(静脈還流)が増え、心臓に余分な負担がかかることなどが息苦しさの主因なのです。

     半身浴は鳩尾あたりまでお湯につかる入浴法です。全身浴に比べて半身浴では体に加わる水圧が少なく、ふろの外であおむけに寝るのとほぼ同じ程度の血液量しか心臓に返ってきません。また、腹部も水圧が少ないので全身浴ほど圧迫されず、横隔膜もそれほど上昇しないので肺を圧迫せず、心臓や呼吸運動にかかる負担が少なくなります。

     さらに半身浴では、全身高温(42度)浴時に認められる血液粘度(ドロドロ度)の上昇がほとんど認められなくなります。高温浴では血液が固まりやすくなり、血管が詰まりやすく、脳梗塞、心筋梗塞の誘因になりますが、同じ高温浴でも半身浴だと、ドロドロ度の増加はごく軽度になるのです。ただ、どちらにせよ基本的に高温浴は勧められません。

     半身浴ではどうしても湯船につかっていない部分が冷えてきます。温泉や公衆浴場なら暖かいのでさほど気になりませんが、家庭のおふろでは、肩が冷えれば乾いたタオルをかける、お湯を含ませて温湿布のようにする、シャワーをかけながら入ることなども可能です。最近増えてきましたが、浴室暖房器を設置して浴室内を暖かく保つと、半身浴を快適に行うことができ、さらには入浴関連事故の減少にも役立ちます。

     湯船では足を伸ばした座位姿勢をとりますが、お湯の量が多くて肩まで達してしまう場合には、市販の半身浴用のいすを利用するのもよいでしょう。特に動脈硬化症のある中・高齢者、心肺機能の低下している人は、全身浴を避けて半身浴を行うことをお勧めします。

     最後に、お子さんに肩までつかって100数えなさい、などというのは一種の拷問ですからやめましょう。


    【Point】運動指導等に携わる人は
     全身浴時にかかる水圧は合計すると、170cm・70kgの方で約600kg、160cm・55kgの方で約500kgと計算できます。また、立位で首までつかるとふくらはぎ周囲で1~1.5cm、腹回りは3~5cm、胸囲は2~3cm程度細くなり、通常400~450mlの心臓内血液量が600~750mlにもなります。おふろに入るときはシャワーを浴びて体を洗いながらお湯に慣らし、まずふちに腰掛けて足浴、次いで半身浴、最後にふちに頭をのせてプカーと浮かぶ浮遊浴、とするのが理想的ですね。

    大塚 吉則(北海道大学大学院教育学研究院教授)
    【健康づくり 2008年12月号】

便秘

  •  便秘が続くと気分がよくありませんよね。便秘を解消するには、継続的に運動し、水分を意識的にとり、食生活においては食物繊維を多くとるようにするのがポイントです。さらに、乳酸菌を含む食品を摂取するのも腸内環境を整える効果があるので、便秘の予防や解消に効果があるといえます。

     私たちの腸内には100種類、100兆個もの腸内細菌が繁殖していますが、それらは大きく善玉菌と悪玉菌に2分されるともいわれ、環境が整った腸内では善玉菌と悪玉菌のバランスがうまく保たれ、健康的な状態になっているのです。

     しかし、悪玉菌が増えると腸内環境が荒れてしまうことから便秘につながり、それがさらに悪玉菌の増殖を助長するという悪循環に陥ります。また悪玉菌は、便秘を引き起こすだけでなく、がんや生活習慣病との関係も示唆されていますので、注意が必要です。

     一方、乳酸菌は、継続的に摂取することで腸内環境を整え、便秘解消につながると考えられます。乳酸菌はヨーグルトやチーズ、バター、乳酸菌飲料などの乳製品を作る際に利用されているほか、人間や動物の口腔内や腸管内にも存在します。腸内のpHを低下させ、カルシウムや鉄、ビタミンなどの栄養素の吸収を促進させています。pHを下げることで、つまり酸性度を高めることで、アンモニアなどの有害物質をつくり出す悪玉菌の繁殖を抑える働きもしています。また、乳酸菌によって生成された有機酸が大腸を刺激することで、蠕動運動を促進させて便通を促します。

     このように乳酸菌には腸内環境を整える働きがあるので、日々の食生活にとり入れることで便秘解消の効果が期待できます。たとえばヨーグルトは、身近で食べやすく、乳酸菌を含む食品の代表です。なお牛乳・乳製品の1日当たりの摂取量の目安は、牛乳なら200ml、ヨーグルトなら200g程度。体によいからといって、食べすぎると脂肪分の取りすぎなどにつながりますので、適量にとどめましょう。

     乳酸菌にはいろいろな種類があるので、効果が現れるまで同じものを継続的にとるようにします。さらに、ビフィズス菌を増加させるオリゴ糖を一緒にとるのもよいとされています。そのほか、特定保健用食品として認可された製品もありますので、利用してみてもよいでしょう。

     とはいえ、腸内環境の改善を乳酸菌だけに頼るのは難しいといえます。食物繊維を一緒にとるなどの工夫をしつつ、栄養バランスのとれた食事メニューを考え、日々の運動も同時に実践していきたいものです。


    【Point】運動指導等に携わる人は
     オリゴ糖と一緒にとると、善玉菌であるビフィズス菌の増加が期待できますが、オリゴ糖にはおなかをゆるくする働きもあるので、個人の状況に合わせて利用するようにします。
     腸内の善玉菌は加齢やストレス、飲酒や喫煙などによって減少してしまいます。したがって、腸内環境を改善するには、乳酸菌を利用したり、食生活を改善したりすることも大切ですが、日々の生活習慣全般の見直しが重要だということを理解してもらいましょう。

    山田 和彦(国立健康・栄養研究所食品保健機能プログラムリーダー)
    【健康づくり 2008年6月号】

  •  食物繊維の摂取を心がけているのに改善がみられないとのことですが、まず量的に不足していないか見直してみてください。食物繊維の摂取量を増やしても、ダイエットや朝食抜きなどによって食事量が減ってしまっていると、便になるべき材料が不足して便秘の一因となることがあるからです。

     また、食物繊維には「不溶性食物繊維」と「水溶性食物繊維」の2種類があり、便秘解消の効果を上げるには、性質の異なる両者をうまく組み合わせてとる必用があります。「不溶性」は水に溶けにくく、老廃物とともに便の量を増やし、ぜん動運動を起こして腸の活動を活発にして、排便を促します。「水溶性」はぬるぬるとした粘性があり、便を軟らかくして量も確保し、排出をスムーズにしてくれます。また、小腸での栄養素の消化・吸収を抑制したりする効果もあります。「不溶性」はごぼう・にんじん・セロリなどの野菜、さつまいも・さといもなどのいも類、大豆・小豆などの豆類、はと麦・玄米などの穀類に多く含まれます。「水溶性」は麦類、りんご・いちごなどの果物などに多く含まれます。食物繊維を効率的に摂取するには、乾物を使ったメニューがお勧め。野菜や果物だけで必要量を摂取するのは、かなりの量となって大変です。

     ひじきやきくらげ、寒天、切り干し大根、わかめ、昆布などをスープやチャーハンの具に入れるなど、上手にメニューに取り入れてみては。野菜は温野菜にしたりスープに入れたりして、かさを減らせば量がとりやすくなるでしょう。

     さらに、食事内容に加え、食習慣全般を見直すことが大切です。たとえば、朝食を抜いていませんか。腸は体に食べ物が入ってきてから目覚め動き出します。腸の動きが鈍いと翌日の便通にも影響し、これが繰り返されることで便秘につながります。遅い夕食も問題です。消化・吸収が遅くまで行われる分、排泄はいせつの動きが後ろにずれて、翌朝の排便のタイミングが狂ってきます。不規則な食事時間も便意を感じるタイミングがつかみにくくなり、便秘につながります。

     便秘の解消には運動も大切です。特にデスクワーク中心の方は、通勤時に速歩、エレベーターを使わない、仕事の合い間にストレッチング、などを心がけ、排便の際に重要な腹筋を鍛えておきましょう。おなかで呼吸する腹式呼吸や、手のひらでおなかの周りを「の」の字を描くように(時計回りに)軽くマッサージするのも効果的です。また、朝に一杯の水を飲むと腸が刺激され、便意をもよおしやすくなる効果があるので試してみてください。


    【Point】保健指導等に携わる人は
     「日本人の食事摂取基準(2005年版)」では、成人の食物繊維摂取の目標量は、男性17~20g、女性15~18gとされています。しかし、実際の摂取量は男性14.0g、女性13.7gと際立って不足しています(平成16年国民健康・栄養調査)。
     また、薬の多用は腸の機能を衰えさせてしますので、しんこくでなければなるべく薬に頼らず自力で、というのが原則です。薬には腸を刺激するもの、便を柔らかくして排出しやすくするものなどの種類があります。腸を刺激するタイプの薬の常用は刺激に慣れてしまうと便意を感じなくなったり、無理に排出を続けていると必要な栄養が不足してしまうことがありますので、服用期間が長い場合は医師や薬剤師に相談するよう助言します。

    山田 和彦(国立健康・栄養研究所食品保健機能プログラムリーダー)
    【健康づくり 2007年4月号】

腰痛

  •  腰痛には、椎間関節のねんざ、分離症やすべり症、椎間板ヘルニア、腰痛症などがあり、それぞれ痛み、しびれ、筋力低下などの症状を起こします。ご質問のケースは過労性腰痛症とのことですので、保母という仕事がら、腰周辺の筋肉が慢性的に疲労しているのでしょう。仕事の合間に背伸びしたり、体をひねったり、深呼吸をしたりすることが大切です。

    ●過労性腰痛解消のポイント

     子どもと接するとき、中腰で前かがみになることが多いのでは? この姿勢は、腰に大きな負荷をかけます。腹筋を意識してよい姿勢を心がけましょう(図1参照)。

     子どもと接するときは、背すじを伸ばしたまま、腰を落として、子どもと正面から向き合います。また、抱き上げるときは、できるだけ子どもに近づき腰を落とし、抱き上げるようにしましょう。

     また、前かがみで骨盤が前傾している場合、腹筋群やハムストリングス(大腿後面の筋群)の筋力の弱さと脊柱起立筋、腸腰筋(股関節の屈筋群)、大腿直筋の過緊張が考えられます。そこで、硬くなっている部位をストレッチングでしなやかにし、腹筋や背筋を中心に筋力アップします(図2参照)。

     さらにストレス解消も兼ねて、好きな音楽に合わせて、軽く汗ばむ程度にウォーキングをしたり、リズミカルに気持ちよく体を動かしたりしてもよいでしょう。


    【Point】運動指導等に携わる人は
     腰痛の原因の多くは、運動不足による筋力や柔軟性の低下と、同じ姿勢を長時間続けたことによる慢性疲労だといわれます。その予防のポイントは次のとおりです。

     ①自然なよい姿勢を心がける。
     ②適度な運動で体力を低下させない。
     ③同じ姿勢で長時間仕事をしない。
      ときどき立ち上がったり、歩いた り、ストレッチングをしたりする。
     ④体に合ったいすを使う。
     ⑤立ち仕事では、ときどき片足を足台に乗せる。
     ⑥柔らかいベッドは避ける。
     ⑦足腰を冷やさない。
     ⑧ヒールの高い靴は避ける。

    武井 正子(順天堂大学名誉教授)
    【健康づくり 2006年1月号】

  •  冷え性は、広辞苑では「冷えやすい体質。血液の循環のよくない身体」と説明されています。また、医学用語辞典には「冷え症(性)」の記述はみられませんが、東洋医学では、漢方薬や鍼の処方に効果があったという記述が目立ちます。

     冷え性の症状を訴える人は女性に多く、約3000名の女性を対象にした調査では、52%の方に冷えの自覚があり、年齢を経るにつれ増えていくと報告されています。

     冷え性の原因については、はっきりとはわかっていませんが、交感神経系の高進が要因とみられます。冷え性の方は、そうでない方に比べて、明らかに末梢の皮膚の血行が低下しています。

     このような血行の低下は、いろいろな病気が原因で発生しますが、冷え性に限っては、ほとんど検査所見に異常はみられません。つまり、冷え性は病気とは診断されない、微症状の一つといえます。

     改善のための運動としては、体幹を使うトレーニングが有効です。具体的には、スクワットや背骨ほぐし体操(図参照)といった運動が挙げられます。手先や足先だけを動かすのではなく、体幹を使うことで体全体を温める効果を得られます。また、体幹運動は全身をスムーズに動かすフォームを身につけるのにも有効で、腰痛対策等に効果的です。

     また、肌を出す服装や、無理なダイエットによる過度なやせは悪影響を及ぼします。また高齢者は老化に伴って、体温調節機能が低下しがちなので、着衣の脱ぎ着で調節しましょう。服装は着脱しやすいデザインで、保温性に優れた軽い素材を選ぶようにします。

    図● 背骨ほぐし体操

     ◆腹ばい体操・その1
      ・腹ばいになり、顔を右に向けたら、右ひざを外側に向ける(股関節と右ひざを曲げる)
      ・左も同様に行う

     ◆腹ばい体操・その2
      ※その1がもの足りなく感じる場合に行う
      ・腹ばいになり、両ひざを直角に曲げる
      ・足とひざを離さないように、L字型になった下肢を左右に倒す
      ・左右差がないようにし、徐々に動きを大きくする

     ◆四つんばい体操
      ・四つんばいになり、背骨が 肩甲骨の間に入るように力を抜く
      ・目で「天井を見る」「へそを見る」の動きを繰り返す



    【Point】運動指導等に携わる人は
     慢性の腰痛、ひざ痛、肩こり等に悩む患者には、冷え性を抱える人も多く、病院に行かず、がまんしている人も数多くいます。
     こうした微症状には、背骨ほぐし体操などの体幹を使った運動が有効です。腰痛の場合は、下肢と骨盤、腰椎をスムーズに動かす練習を。肩こりや首の痛み等には、肩甲上肢帯と頸椎、胸椎、腰椎の間の動きをスムーズにできるように練習します。どんな病態でも、全脊椎をスムーズに動かすことは必要です。
     運動教室のウォームアップとして取り入れることもお勧めです。

    渡會 公治(東京大学大学院総合文化研究科・教養学部広域科学専攻助教授)
    【健康づくり 2006年11月号】

歯・口

キシリトール

  •  キシリトールという物質は、主にカバやブナなどの広葉樹から作られる、5つの炭素原子と水酸基からなる天然の糖アルコール(甘味料)です。アルコールといってもお酒ではなく、炭水化物の構造に水酸基がついているので糖アルコールと呼ばれています。糖アルコールは、むし歯の原因となる酸を作らない甘味料の代表です。

     砂糖を口に入れると、プラーク(歯垢)の中のむし歯菌が糖を利用して酸を作り、歯を溶かしてしまいます。キシリトールは直接歯に効果を及ぼすわけではありませんが、砂糖と違って酸を作りませんので、むし歯の原因になりません。また、清涼感のある甘味があるため、口に入れると味覚が刺激され唾液の分泌を促します。その結果、口腔内のカルシウムやリンが増加し、酸で溶けたエナメル質の歯の表面を元に戻します(再石灰化)。

     歯磨き後にキシリトール入りのガムがよいと言われますが、いくらキシリトールが含まれていても他の糖類が多く含まれていては逆効果にしかなりません。また、歯によいといってもキシリトールは食品添加物として認可された甘味料であり、フッ素のような予防剤とは異なります。

     キシリトールを摂りすぎるとおなかがゆるくなることがあります。キシリトールなどの糖アルコールは腸の吸収が悪く、一度に大量に摂取すると便がゆるくなったりしますが、一般的にはキシリトールが入っている食べ物はガムや飴などでしょうから、それらから適量を超すキシリトールを摂取する心配はあまりないでしょう。

     また、歯磨き粉にキシリトールが含まれているものがありますが、現在、日本で市販されているものは濃度がかなり低いので大きな効果は期待できそうにありません。むしろ、キシリトールと一緒に含まれているフッ素のほうが予防効果が高いので、そちらの含有表示を確認してみるとよいでしょう。

     カルシウムイオンやリン酸イオンは、飲食のたびに歯から溶け出し、再石灰化により再び歯にとり戻されますが、このときフッ素イオンと一緒にとり込まれると硬く強い結晶構造の歯となり、酸に溶けにくくむし歯になりにくい歯になります。よって、食後にフッ素入り歯磨き粉で歯を磨くことは、むし歯予防に有効です。また、再石灰化を妨げないためには、食後に歯磨きをしたら1~2時間は飲食しないようにします。

     このほかフッ素を利用したむし歯予防法には、フッ素溶液を歯の表面に塗る「フッ素歯面塗布」やフッ素溶液でうがいをする「フッ素洗口」があり、特に幼児期(4歳)から中学生までの実施が効果的です。


    【Point】保健指導等に携わる人は
     キシリトールが含まれる製品のキャッチフレーズは必ずしも科学的根拠に基づくとは限らず、イメージ先行の場合もなくはありません。シュガーレスとなっているか、またはキシリトール以外にどんな糖が入っているかチェックし、キシリトールの含有量は50%以上を目安にするとよいでしょう。ただし、キシリトールを利用するときは過度の期待はせず、補助的な歯の健康法としてとらえる必要があります。
     歯の健康を守るには、・きちんと歯を磨く ・定期的に歯科健診を受ける ・フッ素入りの歯磨き剤を使用する ・正しい食生活を維持する、この4つが重要な柱となることを理解してもらうようにします。

    眞木 吉信(東京歯科大学教授)
    【健康づくり 2006年6月号】

口臭

  •  口臭には、「生理的口臭」「飲食物・嗜好品による口臭」「病的な口臭」があります。

     生理的口臭は、だれにでも認められ、起床時が最も高くなります。これは、夜間にだ液の分泌が減って、細菌が口の中で増殖、汚れのもとになる成分を分解して口臭の原因物質(揮発性硫黄化合物)を発生させるからです。空腹時、疲労時、緊張時にも、生理的口臭は強くなります。

     また、ネギ、ニラ、ニンニクなどの食品を食べた後の口臭は、口の中に残った食べかすが直接の原因の場合と、体内で消化吸収されてにおい物質が血液によって運ばれて、やがて肺から呼気として排出されて、息がにおう場合があります。アルコールも体内で吸収され、肺から揮発性のアルコール成分が排出されるため、お酒に酔った人の吐く息はくさくなります。喫煙者の口のにおいは、主にタールやニコチンです。このような生理的口臭や飲食物・嗜好品による口臭は一時的であり、時間の経過とともに減少します。

     治療が必要となるのは病気が原因で発生する口臭です。その90%以上は歯周病、多量の舌苔付着、だ液分泌の減少、進行したむし歯、不潔な入れ歯など口の中に原因があります。口臭があると「胃が悪いのでは?」と考える人は多いですが、実際に胃の病気が原因で口臭が発生することはほとんどありません。胃の上部は括約筋で閉じられているので、げっぷ以外に、胃の空気が口の中に出てくることはありません。ほかに、副鼻腔炎、糖尿病、腎臓・肝臓障害、食道がんなどで口臭が認められることもあります。

     口臭の予防法として最も重要なのは、におい物質の発生源となる口の中の不潔状態を改善することです。それには、歯ブラシを用いて歯や入れ歯に付着した歯垢を除去すること、特にデンタルフロスや歯間ブラシを使用して歯と歯の間を清掃することが大切です。また、舌の表面に白黄色の舌苔が多量に付着している場合には、舌ブラシや柔らかい歯ブラシを使用して舌清掃を行うことが口臭軽減には効果的です。

     当然ですが、口臭発生の原因と考えられる歯周病やむし歯などの原因疾患がある場合には、速やかにその治療を行うことも必要です。血圧の薬や睡眠薬を服用している場合は、副作用でだ液分泌が減少し、口臭が強くなることもあるので注意が必要です。

     人間の嗅覚は同じにおいを長時間かいでいると、そのにおいに慣れて反応しなくなります(順応反応)。そのため、自分の口臭は自分ではなかなか気づきにくく、不安に思う人が多いようです。口臭が気になったら、まずは、歯科医院で相談してみましょう。


    【Point】運動指導等に携わる人は
     口臭予防のためのセルフケアでは舌清掃で舌苔を除去することが大切です。舌苔は新陳代謝で脱落した粘膜細胞、白血球等の血球成分、細菌の死がい等からなり、細菌によって分解されると口臭物質を発生させます。1日1回、特に舌苔がたまっている起床時に舌を磨くように指導しましょう。
     また、歯科医師や歯科衛生士が行うプロフェッショナルケアを受けるよう助言することも重要です。歯周病やむし歯の治療を受け、適切な歯磨きの方法や舌ブラシの使い方を習い、専門的歯面清掃や歯石除去を定期的に受けることが口臭予防には必要となります。

    川口 陽子(東京医科歯科大学歯学部附属病院 息さわやか外来・診療科長)
    【健康づくり 2008年6月号】

歯周病

  •  歯周病は、歯と歯ぐきの境目にたまった歯垢の中の歯周病菌の働きにより歯ぐきが炎症を起こし、しだいに歯を支えているあごの骨(歯槽骨)を溶かしていく病気です。

    炎症を起こした歯ぐきから血膿うみが常に出ていることから「歯槽膿漏のうろう(歯の周りから膿が漏れ出る)」ともいいます。歯周病はほとんどの場合痛みがなく進行するので、放置すると重篤な歯周病(骨の溶解は1~2cm程度まで進む)になり、やがて歯が抜けていきます。歯周病は小学生ごろから始まり、成長とともにゆっくり進行します。

     そして40歳代から有病率が急増し、45歳以上では4割を超えます。

     一方、糖尿病の有病率は、男性で50歳代25%、60歳代31%、女性で50歳代15%、60歳代28%と高率です。歯周病も糖尿病も有病率がきわめて高く、国民病といってよいでしょう。そして、この両者は密接に関連しています。歯周病は立派な「感染症」であり、罹り患かんしている人の歯ぐきは、慢性感染による炎症状態にあります。口腔内の炎症状態にある面積は、重度な場合は実にはがき1枚分にも達し、こうした感染状態では、細菌は血管を通して全身に行き渡ります。細菌が全身を巡ると、血糖値を上昇させるホルモンが分泌されたり、インスリンに対する身体の反応が悪くなったりします。したがって歯周病は糖尿病のリスクを高める可能性があります。より深刻なのは、歯周病の人が糖尿病になった場合です。この場合、糖を好む特殊な歯周病菌が増殖して、歯の周りの骨を急速に破壊していきますが、高血糖状態では、他の組織同様、歯周組織の修復力も低下します。これらの要因により糖尿病は歯周病を悪化させ、歯周組織の炎症は激しくなります。

     それがさらに糖尿病を悪化させるという悪循環が起こるのです。

     この悪循環を避けるためには、糖尿病および歯周病を予防することが大切です。特に、不幸にも糖尿病に罹患された人は、歯周病の予防・改善が重要です。実際、糖尿病患者が食後のブラッシングを十分に行うと、糖尿病も改善することがわかってきました(図参照)。

     歯周病の人が必ず糖尿病になるわけではありませんが、糖尿病になるリスク・悪化させるリスクを低く抑えるためにも、また生涯自分の歯でかむことができるためにも、歯周病の予防が大切です。


    【Point】保健指導等に携わる人は
     歯周病は、2型糖尿病の血糖コントロールに密接に関連すると同時に、糖尿病患者における虚血性心疾患や糖尿病性腎症の発症にも関与していることが明らかになりつつあります。糖尿病患者にはブラッシング指導が不可欠だということを、保健指導の専門家は知っておく必要があります。


    図●歯周病改善による糖尿病改善効果
     HbA1c7.0%以上の糖尿病患者がブラッシングに約6週間励んだ結果、HbA1cは有意に減少した(服薬等の医学的処置は行わなかった)

    ※全国国民健康保険診療施設協議会「歯科口腔状態と介護予防に関する調査事業報告書」(平成13年3月)より

    南 温(郡上市国保和良歯科総合センターセンター長)
    【健康づくり 2007年6月号】

歯ぎしり

  •  歯ぎしりとは、歯と歯を触れ合わせてガチガチさせたり、音を発生させずにぐっとかみしめたり、上下の歯をすり合わせて音を立てたりすることをいいます。ご質問は、周りの方がいちばん気になる、上下の歯をすり合わせて音を立てる歯ぎしりをしているケースと思われます。

     歯ぎしりの原因は、精神的・肉体的ストレスである可能性が最も高いといわれています。本人の自覚がなくても、ストレスを知らず知らずのうちに感じている人も多いのではないでしょうか。

     子どもの歯ぎしりについてのメカニズムは、まだよくわかっていません。大人と同じようにストレスが原因で起こる場合や、成長の過程である歯の生え変わりの時期に「歯茎がむずむずする」ため、それをまぎらわす現象などともいわれています。歯並びが悪いためやかみ合わせがよくないため、といった歯の形状がかかわっているかどうかについては、歯科医師の中でも「関係がある」「関係がない」といろいろな意見がありますが、現在では関係はないだろうという考え方が広まってきました。

     子どもの歯ぎしりのうち、成長過程での一時的な場合は心配ないと考えられます。しかし大人と同じようなストレスによる歯ぎしりは注意する必要があります。

     歯ぎしりを長く続けた場合の体への影響については、上下の歯を前後左右にギリギリとすり合わせる行為によって、歯やあごに大きな負担がかかることになります。

     歯ぎしりは一晩中しているわけではなく、定期的に短時間行われるのが特徴ですが、仮に15~30分間も続くようであれば心配です。「歯がすりへる」「歯がかける」「歯周病になる」ほか、あごが痛くなったり、口の開閉が困難になったり、あごを動かすと音が出たりする顎関節症の症状が出てくるようになります。

     しかし、低年齢の子どもの場合は、歯の周囲組織も柔軟性が豊富なので、体に問題が出ることはほとんどないようです。ただし、中学生や高校生になると、大人と同様の症状が出る可能性がありますので気をつけなければいけません。寝ている間の歯ぎしりが多くなると、朝起きたときにあごが疲れたり、肩のこりを感じたりすることがあります。

     歯ぎしりの治療法は、まずは子どものストレスの原因を考えてみましょう。お稽古を始めたがあまり好きではないため行きたくない、塾に通い始めたがみんなについていけない、幼稚園や学校で友達と仲よくできないなどです。心あたりがあれば、その状況を変えたり休ませたりしましょう。

     少しずつストレスがなくなれば、歯ぎしりがいつの間にかなくなるでしょう。それでも治らないときは、歯科医師に相談しましょう。夜寝る際にナイトガード(マウスピース)を装着することにより歯にかかる負担を軽減することもできます。また精神的な安心感により相乗効果が生まれることもあるようです。


    【Point】保健指導等に携わる人は
     歯ぎしりは、精神的ストレスによる大脳皮質や辺縁系、および自律神経の異常興奮が原因で起こるといわれています。一過性の成長発育による歯ぎしりであれば、ほとんどの場合自然に治り問題はないと考られます。しかし根本的な問題が、情緒的な問題であれば何らかの方法で軽減・解消するよう手助けが必要でしょう。
     子どもの歯ぎしりの原因を保護者とともに判断することが重要です。いずれにしても十分な睡眠や規則正しい生活のリズムを身につけることも指導しましょう。

    隅田百登子(日本歯科大学附属病院 小児・矯正歯科講師)
    【健康づくり 2009年2月号】

歯並び

  •  歯並びや噛み合わせが悪いと、機能的にも心理的にも障害を及ぼす可能性が高くなると思われます。

     歯並びが悪いといっても、上の前歯が出っ張っている、噛み合わせが上下顎反対、上下の前歯が噛み合わず開いている、前歯がデコボコに並んでいるなどさまざまな症例が見られます。歯並びは遺伝することがありますが、ここでは環境的な要因によって起こる歯並びや噛み合わせについて考えてみます。

     子どもがいびきをかく、発音が聞きとりにくい、ボーッとしているときに口を開けている、食事のときにクチャクチャ音を立てる、食べ物を口からこぼす、などありませんか。このような場合、口で呼吸をしていることが多々あります。



     通常、人は鼻で呼吸をします。鼻から取り込まれた空気は曲がりくねった鼻気道を通過しながら異物の除去、温度の一定化、湿度の調整をしながら肺へ運ばれます。しかし口呼吸をする人は、この経路を通過せずに空気を体内へ運んでしまうので体にもよくありません。口呼吸がいつも行われていると、顔の筋肉や骨格の発育にも影響があり、独特の顔つきや噛み合わせになる可能性があります。そして物を飲み込むときには、舌で前歯を押すような癖になってしまいます。口呼吸をしていると思われるときは専門家に相談しましょう。

     また3~4歳を過ぎても指しゃぶりを続けている、上唇や下唇をなめる癖があるなど、口の周りの習癖でも歯並びは悪くなります。

     さらに、乳歯の奥歯のむし歯を放置したり、むし歯になった歯を抜いたままにしたりしておくと、乳歯のいちばん奥に生えてくる永久歯である第一大臼歯(6歳臼歯)が前のほうに移動して生えてきます。そうすると、後から生えてくる永久歯のスペースがなくなり、歯並びや噛み合わせが悪くなることがありますので、むし歯は放置しないようにしましょう。

     歯列矯正については、歯並びだけの改善、あるいはあごに関連した歯並びの治療のいずれの場合も、開始時期は症状によって差があります。もちろん大人になっても治療は可能ですが、(1)乳歯が生えそろった3~4歳のころ (2)上下前歯が4本ずつ計8本のころ (3)小学校6年生のころにチェックを受けると治療の適切な開始時期や流れがわかってよいでしょう。

     あごに関連した矯正治療は、成長過程の子どもの場合、誘導しながら治療することができるのでたいへん効率よく処置できます。

     歯並びや噛み合わせは、あご、顔、頭それぞれの成長発育と関連があるので、気がついた時点でなるべく早く矯正歯科医に相談しましょう。


    【Point】保健指導等に携わる人は
     矯正治療が必要な場合、保護者に治療を受けさせたいという思いが強くあっても、子ども本人が治したいという意思がなければうまくいきません。
     矯正治療期間は、口の中にいろいろな器具が長い間入ります。慣れるまでは痛いと思ったり、違和感があったりします。歯磨きも器具の間をていねいに磨くなど、ふだんと違ったやり方をしなければいけません。
     本人は歯並びについて、まったく気にしていないのに、保護者の思いだけで無理やり治療を開始しても苦痛でしかありません。特に子どもの場合は、本人の気持ちを大切に考えて、アドバイスしてください。

    隅田百登子(日本歯科大学附属病院 小児歯科講師)
    【健康づくり 2009年6月号】


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