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第13回

東京医科大学WHO呼吸器内視鏡協力研究研修センター教授

田中 満

たばこと呼吸器疾患

 たばこの煙による反復の刺激および種々の有害物質が、呼吸器の疾患の原因となっていることはよく知られています。たばこの煙の中には約4700種類以上の種々の成分が混入しています。喫煙することにより、呼吸器は種々の反応を起こします。アレルギー性反応、肺細胞間の相互作用による障害、また肺細胞の機能の障害による病理組織学的変化、また気管支および肺胞上皮の細胞の障害などが起きます。喫煙が密接に関連している疾患は肺癌だけでなく、肺気腫、慢性気管支炎、細気管支炎、気管支喘息、特発性間質性肺炎などがあります。

慢性気管支炎

 慢性気管支炎は、咳嗽、喀痰が主な症状です。長期間の喫煙により気道の分泌機能に障害が起こり喀痰の量が増え、また腺毛による分泌物を喀出する運動機能にも障害が起こり、粘液性の分泌物が気道内に停滞し易くなり息切れが起こります。咳嗽、喀痰の症状は、喫煙を止めることにより軽減します。

細気管支炎

 気管支の径が2mm以下の細い気管支を細気管支と言います。若い人の喫煙者の炎症性変化はこの部位に認められますSmoking bronchiolitisとも呼ばれています。喫煙により膜様細気管支の気管支壁は非喫煙者の約50%も肥厚し、clara細胞は減少し、杯細胞は増加します。タールが気道上皮細胞に沈着し線毛運動も障害されます。呼吸気管支の壁は100%肥厚します。細気管支は狭窄、閉塞が起こります。

肺気腫

 肺気腫は、肺胞隔壁が破壊的変化を起こし終末細気管支より末梢の含気領域が異常に拡大する病態で、喫煙することにより細気管支、肺胞の壁に炭粉沈着が起こります。この炭粉沈着が肺気腫の大きな発生原因と考えられています。炭粉沈着の程度は、内視鏡で観察しても喫煙者と非喫煙者では明らかに異なります。肺気腫の主な症状は、喀痰、咳嗽を伴う労作時呼吸困難です。慢性気管支炎様および気管支喘息様の症状を呈します。喫煙は肺気腫の発生に深く関わっています。現在の進歩した医療技術をもっても早期診断は難しく、適切な治療方法も確立されていませんので、禁煙が最善の方法です。

肺癌

 肺癌の原因の85%は能動的喫煙、3%は受動的喫煙によると、国際肺癌学会は勧告しています。肺癌の危険因子として喫煙の他に、大気汚染、職業性因子、遺伝子因子、ウイルスなどがあり、これらが複雑に絡み合い肺癌発生の要因になっていると考えられています。喫煙者の全てが肺癌にならない、また動物にたばこの煙を吸入させても肺癌が起こり難い、などを理由に喫煙を肯定することはできません。

正常の細気管支の内視鏡像

喫煙者の細気管支の内視鏡像

受動喫煙者の細気管支の内視鏡像

慢性気管支炎の細気管支の内視鏡像

細気管支炎の細気管支の内視鏡像

肺気腫の細気管支の内視鏡像

  炭粉沈着および黄土色に変色した気管支粘膜が認められる。 75歳の女性で配偶者は1日10本で45年間の喫煙歴を有する。黄土色に変色した気管支粘膜が認められる。 黒色に変色し凹凸がある気管支粘膜が認められる。 気道は浮腫、狭窄が認められる。 細気管支が壊れているのが認められる。