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目次 第1章 第2章 第3章 第4章 第5章 第6章 第7章 付録 図表目次

たばこ流行の抑制 たばこ対策と経済

第3章

喫煙者はリスクを認識し、コストを負担しているか?

 本章では、人々がなぜ喫煙をするのか、その動機を検証する。喫煙は他の消費財と同じように数ある選択のひとつにすぎないのか、また結果的に社会資源を効率よく配分しているのかどうか考察する。さらに、政府の関わり方についても論じていこう。
近代経済の理論では、米、衣類または映画などの商品にどのように金を使うかについて、最も優れた判断を下せるのは個人消費者だとされている。消費者主権のこの原理は、いくつかの仮定の上に成り立っている。まず、各消費者は購入に先立ち、そのコストと利点を比較した上で、情報に基づいて合理的な選択を行っていることであり、次に、その選択にかかるコストはすべて消費者が負担することである。すべての消費者が、このようにリスクを認識した上で自らの選択に発生するコストを負担するという形で主権を実行した場合、理論的には社会資源が最大限効率的に配分されていることになる。
喫煙者が喫煙に利益を見出しているのは明らかだ。さもなければ、わざわざ金を支払ってまで喫煙しないだろう。喫煙者が見出す利益とは、楽しみや満足、自己イメージの向上、ストレス発散、そして喫煙依存者にとっては、ニコチンの離脱症状を回避できることだ。このような利益に対して個人が負担するコストとしては、たばこ製品購入のための費用、健康被害、およびニコチン依存症があげられる。このように考えると、喫煙者が見出す利益は認識されるコストを明らかに上回っていることになる。
ところが、喫煙という選択は、他の消費財購入の選択とは特に3つの点で異なっている。

  • 第1に、多くの喫煙者は自らの選択が疾病と若年死亡を引き起こす高いリスクを伴うという事実を十分認識していないことが明らかにされている。これは喫煙が個人に課す主要なコストである。
  • 第2に、子供や十代の若者は、喫煙の健康影響に関する情報の重要性やそれを適切に評価する能力を持ち合わせていない可能性が高い。また、新たに喫煙を始める者が、ニコチン依存症に関連する将来的なコストを少なく見積もる可能性があることも見逃せない。ここでいう将来的なコストとは、成人になった後、たとえ禁煙を望んだとしても、依存症のために若い頃の喫煙の決断を翻すことができないでいるコストと考えてよいだろう。
  • 第3としては、喫煙者が他の人々に、直接的および間接的なコストを負わせていることがわかっている点である。経済学者は、人が自らの選択のコストと利益を適切に比較検討できるのは、自分がコストを負担しながらその利益を享受する場合に限るとしている。コストの一部を他者が負担するのであれば、喫煙者は、自分ですべてのコストを負担する場合よりも喫煙量を増やす結果になるだろう。
以上の点について順を追って検討してみよう。

リスクの認識

喫煙が健康に及ぼすリスクに関する知識は、一部の人々にしか浸透していないようだ。特に、このような危険に関する情報が限られている低・中所得諸国にその傾向が強い。たとえば中国で1996年に行った研究によると、対象となった成人喫煙者の61%が紙巻たばこは「ほとんどまたはまったく無害」と信じていたとある。
高所得諸国においては、過去40年間で、喫煙の健康影響についての一般的な認識はまちがいなく上昇した。しかし、高所得諸国の喫煙者が発病のリスクをどの程度正確に認識しているかという点については、いまだに多くの議論が続いている。過去20年間に行われた研究からも、喫煙によるリスクの認識については、「リスクが誇張され過ぎている」「過小評価されている」さらに「リスクが適度に認識されている」など、さまざまな結論が導き出されてきた。しかしこのような研究での方法論については、複数の理由から批判が集まった。最近行われた研究では、一般的に高所得諸国の喫煙者は疾患のリスクが大きくなることを認識はしているものの、非喫煙者と比べると、そのリスクの大きさの認識が過小であり、かつ定着していないとする結論が導き出された。さらに、個人が喫煙者全体の直面する健康のリスクを十分に認識している場合であっても、自分よりも他の喫煙者の方がリスクが大きいと信じており、その情報と自分との関連性を甘く見ている。
最後に、健康に関する他のリスクと比較して、喫煙が健康に及ぼすリスクについて曲解している喫煙者がいることを示す証拠も、さまざまな国からあがっている。たとえば、1995年にポーランドでは成人を対象に「人間の健康に影響を及ぼす最も重要な要因」をランクづけさせる研究が行われた。最も多かった要因は「環境」であり、次は「食習慣」と「ストレスや多忙なライフスタイル」が続いた。喫煙が登場するのは4番目で、対象となった成人のうちわずか27%が挙げていたに過ぎない。実際には、ポーランドの中年男性の若年死亡リスクの3分の1以上は喫煙が原因であり、他のリスク要因よりもはるかに多いのである。

青少年における依存症と健全な判断能力

第1章で述べた通り、ほとんどの喫煙者は人生の早い時期にこの習慣を始めているが、子供や十代の若者は、喫煙の健康影響について、成人ほど十分な知識を持っていないようだ。最近モスクワで15歳から16歳の若者を対象に行った研究によると、半数以上が喫煙関連疾患をまったく知らないか、または唯一肺がんを挙げられるだけだった。若者に、より豊富な情報が提供されてきたと思われる米国においてさえ、現在13歳の少年たちの半数近くは、紙巻たばこを1日1箱吸っても大きな害はないと考えているのである。青少年の知識が不十分であるということは、彼らが成人よりも、十分な情報を得た上での選択を行いにくいことになる。
同様に重要なのは、若者がニコチン依存症に陥るリスクを過小評価していることであり、そのため、喫煙による将来的なコストを著しく少なく見積もっていることだ。米国で、喫煙習慣を持ちながら、5年以内に喫煙を止めると考えている高校最高学年の生徒のうち、実際に禁煙できるのは全体の5分の2にも満たず、残りは5年後も相変わらず喫煙を続けている。高所得諸国では、成人喫煙者10人中約7人が、喫煙を始めたことを後悔していると言う。米国のデータに基づいた研究では、現在と過去の喫煙の関係に関する計量経済モデルを利用して、どの年をとっても紙巻たばこ消費の少なくとも60%、もしくは実に95%もが、ニコチン依存症が原因であると推定している。
十代の若者にとってたとえ喫煙のリスクを知らされても、その情報をきちんと理解する能力は限られているだろう。十代の若者にとって、25歳になった自分の姿を想像するのは難しい。ましてや55歳ならなおさらのことであり、遠い将来に喫煙が健康に害を及ぼすと警告されても、喫煙したいという欲望を抑えることはできないようだ。若者が分別の足りない選択を行うというリスクは、多くの社会で認識されていることであり、喫煙に関する選択に限ったことではない。そこで、文化によって差はあるものの、大半の社会では、若者が特定の決断を下す権限に制限を加えている。たとえば、民主主義国家では、ある年齢に達するまで若者に選挙権を与えていない。ある年齢まで教育を義務づけている社会もある。また多くの社会では、ある年齢に達するまで結婚を許可していない。ある種の決断は成人に達してから行うことが望ましいという考え方は、社会通念となっている。若者が喫煙依存症に陥る道を選択する自由は制限すべきであると社会が考えるのも同じことである。
若者は自動車の高速運転やアルコールの飲み過ぎなど危険な行為に魅力を感じるものであり、喫煙も同じという主張もあるだろう。しかし、違いはいくつもあるのだ。まず、世界のほとんどの地域で、喫煙は他の危険行為ほど厳しく規制されていない。自動車を運転していて制限速度を超えた場合、運転者は重い罰金を課されるのが普通だし、免許を剥奪される場合さえある。また、飲酒運転などの大量の飲酒に関連する危険行為に対する罰則もある。次に、生涯を通じて見た場合、喫煙はリスクが高いとされる他のどの行為よりも危険である。高所得諸国のデータに基づく推定では、現在低・中所得諸国に住んでいる15歳の男性1,000人が常習的に喫煙を続けた場合、125人が中年期に、さらに125人が高齢期に、たばこが原因で死亡するとされている。一方、約10人が交通事故で、同じく約10人が暴力で、そして約30人がアルコールによって引き起こされる交通事故や暴力行為も含むアルコール関連の原因で、それぞれ中年期に死亡するとされている。3番目に、喫煙のように依存症に陥る高い危険性は、他の危険行為にはほとんど見られないため、その多くは成長すればより容易に止めることができるし、実際に止めているのである。

他者に課されるコスト

喫煙者は、他者に金銭的コストを課すかもしれないだけでなく、物理的コストを課す可能性もある。理論上は、喫煙者がこのようなコストを考慮すれば、喫煙量を減らすはずだ。なぜならば、社会的に適正な消費レベルに到達する、すなわち資源が社会で効率的に分配されるのは、消費者がすべてのコストを負担する場合だからだ。もし、そのコストの一部を非喫煙者が負担するなら、紙巻たばこの消費レベルは、社会的適正レベルを上回っていることになる。次に、他者に課せられる様々なコストの種類について簡単に述べることにする。
まず、喫煙者は非喫煙者に対して、直接的な健康上のコストを課している。第2章で述べた健康影響には、喫煙者の母から生まれた新生児の出生時低体重や様々な疾患にかかる危険性の増大や、他人のたばこの煙に慢性的にさらされている子どもや成人の疾患がある。その他の直接的なコストとしては、煙の苛立ちや不快感、それに衣類と家具類のクリーニング代があげられる。さらに、十分な証拠はそろっていないが、葉たばこの栽培や加工の結果、または喫煙の結果、火災、環境悪化、森林伐採のコストが発生する可能性もある。現存するデータでは、喫煙者が他者に課す金銭的コストを識別したり、数量評価を行うことは困難である。本報告書はこのようなコストを見積もることは意図していないが、その代わりコストが発生し得る主要分野について記述している。まず喫煙者の医療費について、そして年金問題について述べる。
高所得諸国では、喫煙に関連する年間医療費総額は、総医療費の6%から15%と見積もられている。今日ほとんどの低・中所得諸国における喫煙関連年間医療費は、これよりも低い。これは一つには、たばこ関連疾患の蔓延がまだ初期段階であることの他に、どのたばこ関連疾患が一番多いかや必要な治療法といった要素もあげられる。しかし、こうした国々では、将来的に喫煙関連年間医療費が増加する可能性が高い。本報告書のために中国とインドを対象にした予測によると、喫煙関連疾患の医療年間費がGDP(国内総生産)に占める割合は現在よりも増加するという。
政策立案者にとって、これらの年間医療費とその中で公共セクターが負担することになる割合を知っておくことは、きわめて重要である。なぜならばこれは、他の商品やサービスに使うことのできない、実質的な資源を表すからである。一方、個々の消費者にとって重要な問題は、自分たちと他者のうちどちらがどの程度のコストを負担するかという点である。繰り返すが、非喫煙者がコストの一部を負担することになる場合、全コストを自己負担することが予測される場合よりも、喫煙量を増やす誘因は大きくなる。しかし、以下で述べる通り、こうしたコストの額を評価することは複雑であるため、それが喫煙者の消費選択にどのような影響を与えるかに関しては未だ結論が出せない。
どの年をとっても、喫煙者1人当たりの平均医療費は、同年齢で同性の非喫煙者1人当たりよりも多い傾向にある。しかし、喫煙者は非喫煙者に比較すると死亡年齢が低い傾向にあり、高所得諸国の喫煙者および非喫煙者の生涯医療費はほぼ同じになる可能性もある。高所得諸国における喫煙者および非喫煙者の生涯医療費を計算する研究については、相反する結論も導き出された。たとえば、オランダとスイスでは喫煙者と非喫煙者の医療費は同程度になることが分かったが、英国および米国では、喫煙者の生涯医療費の方が実際に高いと結論づけた研究もあった。たばこ関連疾患の増加およびその他の要素を考慮に入れた最近の研究では、高所得諸国の場合、全体的に見て、喫煙者の方が死亡年齢は若いにもかかわらず、その生涯医療費は非喫煙者よりもやや多いと結論づけられた。低・中所得諸国における生涯医療費に関しては、こうした信頼性の高い研究はまだ行われていない。
世界中どこでも、喫煙者が自分の医療サービスのコストを全額自己負担する場合[訳注:保険等に頼ることなく全額負担することをさすと思われる]、このようなコストが非喫煙者と比べてどれほど高額であっても、他者に負担を課していないのは明らかだ。しかし、病院の治療など多くの医療は、政府予算や個人保険のいずれかを通じて支払われている。税金および保険料として支払われるこうした政府予算や個人保険のいずれかへの負担金が、喫煙者にとってとりたてて高くない限り、喫煙者に発生する高額な医療費の一部は非喫煙者が負担していることになる。
たとえば高所得諸国では、医療にかかる公共支出は全医療支出の約65%、GDP比で言えばその約6%を占める。したがって、喫煙者の正味生涯医療費が非喫煙者より高額だとすると、非喫煙者は喫煙者の医療費を補助していることになる。正確な負担額は、保険の内容や公共支出を支払うために使われる税金の財源により、複雑に異なる。たとえば、公共支出でまかなわれるのが65歳以上の医療費に限られているとすれば、多数の喫煙者が喫煙関連医療を必要としながらも、この年齢に到達する以前に死亡する限り、歳出のうち喫煙者が利用する正味の金額は少なくなるかもしれない。同様に、公共支出がたばこ税を含む消費税を財源としてまかなわれていれば、喫煙者は他者にコストを課していないことになる。これについても低・中所得諸国では状況が異なり、平均的に総医療支出に公共資金の占める割合は全体の約44%、すなわちGDPの2%にあたり、高所得諸国よりも低いからだ。しかし、国家が支払う医療費が高くなるにつれて、歳出に占める総医療費の割合も高くなりがちだ。
このように喫煙者および非喫煙者それぞれの医療費の額を査定するのは、複雑な問題であるが、論争を巻き起こしてきたという点では年金問題も同じだ。分析者の中には、高所得諸国の喫煙者が非喫煙者以上に公的年金制度に貢献していると主張してきた者もいる。喫煙者の多数は定年頃まで負担金を支払うが、多くが年金を請求する前に死亡してしまうというのがその理由だ1)。しかし、常用喫煙者の4分の1はたばこが原因で中年期に死亡するため、年金負担金全額を支払いきらないうちに死亡しているといえる。現在のところ、全体として高所得諸国の喫煙者が非喫煙者よりも多くを負担しているかどうかはわかっていない。しかし、低・中所得諸国の多くにこの問題はあてはまらないのが現状だ。低所得諸国では成人10人中約1人しか公的年金に加入しておらず、中所得諸国においても、加入割合は個々の国の収入レベルによるが、人口の4分の1から半分が加入しているにすぎないからだ。
要するに、喫煙者が非喫煙者に対して、健康被害など、直接的なコストを課しているのは明らかだ。その同定ないし数量評価は一層困難であるが、たとえば、医療費など金銭的なコストも同様に課していると思われる。

政府による適切な対応

以上見てきた3つの問題点を考慮すると、ほとんどの喫煙者は、そのリスクをすべて理解しているわけでも、彼らの選択に伴う全コストを負担しているわけでもなさそうだ。そのため、喫煙という消費選択は、資源の非効率的な配分をもたらしている可能性がある。そこで各国政府には、喫煙量が減少するよう、誘因を調整する対策を行うことが求められる。
子供や青少年がたばこについて十分な情報を入手していないことと依存症に陥る危険性、それに健全な決断力に欠けるという複合的な問題を考慮すれば、政府による介入の最も大きな理由は、一般的に子供と青少年に喫煙を思いとどまらせるためだと捉えられてよいだろう。また政府が、喫煙者が非喫煙者に直接的な物理的コストを課すのを阻止するために介入を行うことも正当な対応といえる。喫煙者の金銭的コストから他者を保護することについては、このようなコストの性質が依然不明瞭なため、その正当性は若干弱まる。最後に、一部の社会では十分な情報を得た上で消費選択を行えるよう必要な情報のすべてを成人に提供する役割が政府にはあると判断する場合もあるだろう。
政府による介入は、確認された個々の問題の解決を理想とすべきである。しかし、それは必ずしも可能なわけではなく、介入の種類によっては影響が広がる可能性もある。そのため、たとえば喫煙の健康影響に関する子どもの判断が不完全であるという問題に関しては、彼らやその親たちに対してより効果の高い教育を行うようにすることが最も効果的な対策になるだろう。だが実際には、青少年に対する健康教育には反応が乏しく、親も必ずしも子どものためになる行動をとるとは限らず、その役目を十分に果たしているとは言えない。現実に、子供や青少年に喫煙を思いとどまらせる最も効果的かつ現実的な方法は、強引なやり方ではあるが、課税を行うことなのである。紙巻たばこが値上りすれば子供や青少年が喫煙を始める可能性は低下し、すでに喫煙を始めている者も禁煙する可能性が高いことは、多くの研究で実証されている。
非喫煙者を保護する最も明確な方法は、喫煙できる場所を限定することである。この方法で公共の場所における非喫煙者の保護は可能になるが、家庭内で煙にさらされるという情況を緩和するものではない。そのため、課税は、喫煙者が非喫煙者に課すコストを喫煙者自身に負担させるための追加手段にもなる。
喫煙者の高額な医療費など、非喫煙者に課せられる金銭的コストを解決するための最も直接的な方法は、医療費の財源に個人の喫煙行為を反映させることだ。そこで、たとえば、喫煙者は非喫煙者よりも高額な保険料を支払い、または高額になる可能性の高い医療費用に貯蓄口座の開設を義務づけるのだ。しかし、実際に、喫煙者により多くを負担させるためには、たばこ税の徴収の方が簡単なのである。
理論上は、たばこ税が子供や青少年に喫煙を止めさせるという目的のために使用されるのであれば、子供に課せられる税金は大人よりも高くなければならない。しかしそのように差をつけた課税措置は、現実には実行不可能である。といって、より実際的な選択肢として、子供と大人に同一税率を課すと、大人に負担を負わせることになる。それでも、子どもを保護するためなら、社会はこうした負担を大人に強いることも認めるかもしれない。しかも、子供が喫煙する傾向が親や手本となる他の大人が喫煙しているかどうかに左右されることを思えば、大人が喫煙量を減らせば、子供の喫煙も減少につながるかもしれない。
子供と大人で差をつけた税制を実施する1つの方法は、子供の紙巻たばこ入手を制限することである。理論上、そのような制限をすれば結果的に、大人の支払うたばこ料金を値上げしなくとも、子供がたばこを手に入れようとする際払わねばならない費用が上がることになるはずだ。だが実際には、高所得諸国で現行の規制が効果を上げていることを示す証拠はほとんどない。低・中所得諸国では、そのような規制を導入し徹底させる力が不足しがちなため、実行はさらに難しい。そこで、子供に喫煙を思いとどまらせるには、次善策である税の引き上げが望ましいことになる。

依存症への取り組み

喫煙者の消費選択によって発生する不都合を是正するということの他に、依存症問題に取り組むことも必要だ。喫煙という決断は、若い頃に下されたケースが多いのだが、たばこには依存性があるため、成人してから禁煙したいと望んだ場合その多くが、大きなコストに直面することになる。禁煙の意思がある者のこうしたコスト負担を軽減するために支援となるような措置をとる社会もある。たとえば、喫煙を続けることによってかかるコストと禁煙の利点について警告する情報を喫煙者に広く普及させることや、禁煙のコストを低減する禁煙介入を受ける機会の拡大がその例だ。税を引き上げれば、一部の喫煙者の禁煙にはつながるだろうが、彼らに対しコストを課すことになるのも明らかだ。そのコストとは、喫煙に見出していた利益を失うことであり、また、ニコチン依存のための離脱症状に関連する追加の物理的コストである。政策立案者は、喫煙者が禁煙介入を受ける機会を拡大することで、このコストを軽減できるだろう。離脱症状のコストの問題については、第6章で掘り下げる。一方、まだニコチンへの依存に陥っていない子供たちにとっては、禁煙を決断しても離脱症状に対するコストが発生しないため、課税は効果的な戦略になるだろう。
次に、たばこ対策のためにいくつかの政府がすでに採用している措置について検討しよう。それぞれの措置を、順を追って検証する。第4章では、たばこの需要削減を目的とした措置について論じ、さらに第5章では、たばこの供給削減のための措置を取り上げる。


1. たとえ喫煙者が他者に課す最終コストが若年死亡することによって軽減されるとしても、このような若年死亡が起こる方が社会にとって好都合であると判断するのは間違いである。そのような判断は、高齢者のいない社会の方が好都合であるという論理を容認するものになるからである。


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