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たばこ流行の抑制 たばこ対策と経済

前書き

現在の喫煙パターンが継続すると、今日の地球上の生存者のうち、約5億人がいずれたばこ使用のために死亡するといわれている。そのうちの半数以上は、現在の子供や十代の若者たちである。2030年には、喫煙が世界中で単一のものとしては死因のトップになり、年間約1000万人が喫煙により死亡するものと予測されている。この負荷を軽減するための活動を強化することは、健康改善および貧困低減という使命の一環としてのWHO(世界保健機関)と世界銀行の優先課題である。特に子供を対象としたたばこ抑制政策の効果的な提供および実施を実現することにより、両機関はその使命を達成し、喫煙流行による苦痛とコストを削減できるであろう。
たばこには、健康を損なう他の多くの問題とは大きく異なっていることがある。消費者からの需要があり、多くの国で社会習慣の一部を形成していること、また、大規模な取り引きにより大きな利益を生む商品であり、その生産と消費は、先進国と発展途上国の両方で社会的および経済的資源に影響を及ぼしていることである。そのため、たばこ使用の経済的な側面は、たばこ対策に関する議論の最重要テーマであるにもかかわらず、こうした側面が世界的な注目を集めることは、つい最近までほとんどなかった。
本報告書はその格差を埋めることを目的に作成された。ほとんどの社会や政策立案者がたばこやその対策について考える際に必ず直面する主要な問題を網羅しており、WHOと世界銀行の連携作業の中でも最も重要なものである。健康問題を統括する国際機関のWHOは、「Tobacco Free Initiative(たばこのない世界構想)」を掲げ、喫煙習慣の広がりへの対応で主導的役割を果たしてきた。世界銀行は、経済分野の詳細な分析を資源として提供することで、主導的機関であるWHOと協力していこうとしている。1991年以来、世界銀行はたばこが健康に及ぼす害を認識した上で、正式なたばこ方針を掲げてきた。その方針とは、世界銀行がたばこに融資することを禁止し、対策努力を推進していくことである。
また、本報告書は時宜にかなったものでもある。たばこを原因とする死亡率の上昇をふまえて、多くの政府や非政府組織、またUNICEF(ユニセフ)やFAO(食糧農業機関)などUN(国際連合)システム所属の各機関、それにIMFもたばこ対策についてそれぞれ方針を検討し始めたからである。
本報告書は、国内および国際的なレベルで進んでいる検討事項の共同研究が基になっている。その主な目的は、たばこ抑制政策が経済に与える影響について政策立案者の立場でその懸念に取り組むことである。とくにこのたばこ抑制政策が、世界中の子供たちの健康に利益をもたらすことは明らかである。しかし、それにはコストがかかり、政策立案者には慎重な比較検討が求められる。たとえば貧しい葉たばこ栽培農家に対して転作計画を整備するなど、たばこ抑制政策が社会の最貧困層に負担を課すようなら、政府が負担の削減を援助する責任を負わなければならないのは明白である。
たばこは人類史上、本来回避可能なはずの若年死亡を引き起こす最大の要因なのである。ただし、その壊滅的な影響力を軽減するために、比較的簡単で効率的な政策はすでに用意されている。確固たる経済政策の枠組みの中で健康増進を図ろうとする政府にとって、たばこ対策の措置はきわめて魅力ある選択なのである。

David de Ferranti
世界銀行
Vice President Human Development Network
(ヒューマン・ディベロップメント・ネットワーク担当副総裁)

Jie Chen
WHO
Executive Director Noncommunicable Diseases
(非伝染性疾患担当クラスター長)

報告書作成チーム:本報告書はリーダーPrabhat Jha、および共同リーダーFrank J. Chaloupkaが率いる以下のメンバーで構成されるチームによって作成された。Phyllida Brown, Son Nguyen, Jocelyn Severino-Marquez, Rowena van der Merwe, Ayda Yurekliの各メンバーである。また、Wiiliam Jack, Nicole Klingen, Maureen Law, Philip Musgrove. Thomas E. Novotny, Mead Over, Kent Ranson, Michael Walton、および Abdo Yazbeckが貴重な助言を提供してくれた。本報告書は、Howard Barnumが世界銀行で先に行ったたばこに関する貴重な研究を基にまとめた。WHOからはDerek Yachの、米国疾病管理センターからはMichale Eriksenの助言をそれぞれ得ることができた。本業務はHelen Saxenian, Christopher Lovelace、そしてDavid de Ferrantiの総指揮の下で行われ、作成開始にあたってはRichard Feachemの助力を得た。万一誤りがある場合は、報告書作成チームによるものである。

報告書作成スタッフとして、Dan Kagan, Don Reisman, Brenda Mejiaが加わった。

本報告書作成にあたっては、実に様々な方面の協力を得ることができた(付録Cの謝辞を参照)。本報告書は、世界銀行のヒューマン・ディベロップメント・ネットワーク(Human Development Network)、ローザンヌ大学(University of Lausanne)の社会・予防医学研究所(the Institute for Social and Preventive Medicine)、それに米国疾病管理センターのOffice on Smoking and Healthからの支援を受けた。彼らの力添えに深く感謝する。


目次 第1章 第2章 第3章 第4章 第5章 第6章 第7章 付録 図表目次