21世紀のたばこ対策検討会(第1回)
●全米たばこ訴訟の和解
FDAの調査を契機に、従来の製造物責任訴訟の限界であった「喫煙者の自己責任論」から、「たばこ産業の過去の所業」に対する懲罰的賠償請求へと訴訟の戦略が大きく転換し、複数訴訟の統合や集団訴訟の効率化が図られるとともに、1994年、ミシシッピ州がたばこ関連疾患によるメディケイド(貧困者医療)の医療費の損害賠償(第三者求償)と青少年に対する販売戦略の禁止を求めて提訴した。計39州の州政府と禁煙団体の代表が加わり、1997年6月、和解金の支払いと広告・販売促進活動の規制を含む和解案が合意された(表3)7 。
●その後の経緯
・クープ・ケスラー諮問委員会:有志議員団の要請により、前公衆衛生総監クープ博士と前FDA長官ケスラー博士を座長とし、医師会(AMA)、がん協会(ACS)などの医学専門団体から成る委員会が和解案を分析し、FDAの規制権限を十分に保障したたばこ対策と公衆衛生政策の計画を厳しい代案として提出した(7月)8 。
・クリントン大統領:和解案は不十分であるとし、FDAの十分な権限、価格政策、たばこ産業の改革、農家の保護を含む「米国の子供たちを守るための総合的たばこ対策法」の法制化を最終意見として表明(9月)9 、一般教書演説でも10年で1箱1.5$の値上げや罰則強化など、超党派での規制法案の制定を要請した(1998年1月)10。
・連邦取引委員会(FTC):議会の要請に対して、和解の経済影響を分析し、和解金の将来的価値の目減り、値上げによるたばこ産業の増益、和解目的である青少年の喫煙防止効果は小さく、たばこ産業の価格カルテル形成のおそれなどを指摘、FDAへの支持を表明した(10月)11 。また、従来のたばこ煙の成分測定法は実際の喫煙条件を反映していないことから、測定法と表示方法の変更方針を発表した(9月)12 。
・全米科学アカデミー(NAS):和解案をめぐる議論を踏まえ、たばこはがん死亡の単独で最大の原因であり、世界的にはエイズとならんで主要な健康脅威であるとして、たばこの消費の減少に効果がある唯一の方法は、たばこの値上げにより禁煙者の増加と喫煙開始の減少を促すことであること、ニコチン、添加物、タール、他のたばこ成分の規制が必要であり、FDAの権限を制限してはならないことなどを提言した(1998年1月)13 。
表3 和解案の骨子| 1. |
たばこ産業納付金
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総計3685億$を25年にわたり支払い、その後年間150億$支払う。250億$は保険に未加入の子供達の医療費に充てる。一部は禁煙教育の資金と和解の実施に充てる。 |
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| 2. |
たばこ訴訟の調停と将来の訴訟の制限
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喫煙関連疾患の治療費としてMedicaidの賠償請求を行っている州政府とプエルトリコの訴訟を調停する。集団訴訟、複数訴訟の統合、過去の所業に対する懲罰的賠償を禁止する。個人訴訟は医療費と賃金損失の請求に限り行える。たばこ産業からの年間50億$の資金を充てることができる。 |
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| 3. |
FDAの役割
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FDAはニコチンを薬物として規制できるが、2009年までは紙巻きたばこから禁止することはできない。但し、「健康リスクの大きな低減」、技術的な可能性、闇市場が発生しないことを、FDAが証明しない限り、ニコチン量を低減できない。 |
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| 4. |
警告表示
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(カナダの例にならって)「紙巻きたばこは依存性がある」「紙巻きたばこはがんを起こす」「喫煙はあなたを殺す可能性がある」などの警告表示を紙巻きたばこの包装に掲載する。警告は包装の上部25%以上に、白地に黒か黒地に白で表示する。 |
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| 5. |
広告の禁止
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たばこ製品の屋外看板や屋外広告は全て禁止する。人物や漫画を広告やインターネット広告に用いてはならない。映画やテレビへの製品登場に対し報酬を払わない。スポーツ大会の銘柄名での後援や販促商品に銘柄名を使用できない。 |
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| 6. |
未成年者へのアクセス
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自動販売機による紙巻きたばこ販売を禁止する。たばこ小販売者の全米的な免許制度を実施する。 |
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| 7. |
青少年の喫煙
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青少年の喫煙が5年間に30%,10年間に60%減少しない場合は、たばこ産業に罰金が課せられる。1%目標達成できない毎に8000万$の罰金で、年間の罰金は2002年から課せられる。たばこ産業が合意実施を「誠意」を尽くして遵守したことを示すことができれば、罰金の75%は返還される。 |
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| 8. |
禁煙原則
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独立で換気された喫煙場所のない公共の場所と多くの職場における禁煙。バー、カジノ、ビンゴパーラー、レストラン(ファーストフード店を除く)は、例外とする。 |
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[U.S. Department of Justice, Proposed Settlement, 1997]