たばこと健康の問題については、昭和39(1964)年の米国公衆衛生総監諮間委員会報告書の公表、昭和45(1970)年の世界保健機関(以下「WHO」と略)総会におけるたばこと健康に関する最初の決議などを契機として、国内外において、これまで様々な取り粗みが行われてきた。
昭和62(1987)年には、我が国で初めて「喫煙と健康問題に関する報告書」が、厚生省の公衆衛生審議会から厚生大臣に対して意見具申され、翌昭和63(1988)年には、WHOにより「世界禁煙デー」が始められた。また、平成元(1989)年には、大蔵省のたばこ事業等審議会から大蔵大臣に対して「喫煙と健康の問題に関連するたばこ事業のあり方について」の答申が行われた。
さらに、平成元(1989)年に、WHO総会において「たばこに関するWHOの行動計画」が決議され、その中で加盟各国がたばこ対策を策定するよう求められていること、平成5(1993)年に、たばこと健康に関する最新の科学的知見を取り入れた「喫煙と健康問題に関する報告書」の改訂版が公表されたこと、また、近年、諸外国においてたばこ対策に関する取り組みが活発に行われていること、たばこと健康の問題に関する国民の関心が一層高まっていること等を背景として、より効果的なたばこ対策の推進が求められているところである。
このため、本検討会において、来る21世紀に向けて、今後の総合的なたばこ対策の礎となる「たばこ行動計画」について検討を行った。本検討会においては、「たばこ行動計画」を実効性あるものとするため、禁煙運動関係団体やたばこ関連業界の関係者を含む各界からのメンバーにより幅広く検討を重ね、様々な意見が出されたが、これらの意見の集約の上に、本報告書をとりまとめたものである。
喫煙者本人の健康影響については、これまでの多くの疫学的研究によれば、肺がんをはじめとする各種のがん、心臓病、呼吸器疾患の危険因子であることが認められており、青少年期に喫煙を開始すると、成人後に喫煙を開始した者に比べ、がんや心臓病などのリスクが高まることも示されている。また、妊娠中の喫煙による胎児や母体への影響については、低体重児出産、早産等のリスクが認められている。
受動喫煙による非喫煙者への健康影響については、流涙、鼻閉、頭痛等の諸症状や呼吸抑制、心拍増加、血管収縮等生理学的反応等の急性影響が認められているとともに、慢性影響については、肺がん、呼吸器疾患等へのリスクを示す疫学的研究があり、公衆衛生上の取り組みが求められている。また、受動喫煙は、非喫煙者に対し、不快感やストレス等精神・心理面の影響を与えていることが指摘されている。
他方、たばこは古くから存在する嗜好品であり、現に多くの喫煙者が存在し、喫煙による精神・心理面における効用を指摘する意見がある。
今後のたばこ対策は、以上の基本認識を踏まえ、未成年者の喫煙防止の徹底、非喫煙者に対する受動喫煙の影響を排除・滅少させるための環境づくりとともに、禁煙希望者に対する禁煙サポート及び喫煙継続者に対する節度ある喫煙の促進という観点から「防煙対策」、「分煙対策」に「禁煙サポート・節煙対策」を加えた三つの柱ににより推進することが必要である。
また、これらの対策を推進するに当たっては、上記の基本認識やたばこを巡る現状等を踏まえ、非喫煙者と喫煙者のコンセンサスが得られるよう努めるなど社会生活の調和の中で十分な配慮がなされる必要がある。
(1)防煙対策(主として未成年者の喫煙開始の防止と喫煙習慣化の防止対策)
新たな時代の担い手である未成年者の喫煙については、未成年者の喫煙が法律により禁止されていることから、これを防止していくことは当然の責務であり、喫煙の健康に対する影響から保護する観点にたった喫煙防止対策を講じていく必要がある。また、妊娠中の喫煙による母体や胎児への影響にもかんがみ、女性の喫煙対策についても特段の配慮が必要である。
このため、防煙対策として、具体的には、以下のような対策を講じるべきである。
地域、家庭においては、喫煙防止教育を健康教育の一環として位置付け、国、地方公共団体の支援、地域のボランティアの協力等の下に、積極的に推進するべきである。
特に、テレビ広告については、テレビが広告媒体の中でも特に強い影響力を有するものであること、また、欧米先進諸国では全面禁止されていることにかんがみ、未成年者喫煙防止の観点からは全面禁止が望ましいが、我が国の実情を勘案し、当面、放送時間帯等について一層の配慮を行うとともに、広告総量を縮滅するべきである。
(2)分煙対策(受動喫煙の影響の排除・減少対策)
公共の場、職場等においては、受動喫煙による影響を排除し又は減少させるため、具体的には、以下のような対策を講じるべきである。
また、公共交通機関等においては、これまでの取り組みをさらに進め、これに準じた非喫煙者の受動喫煙に十分に配慮した分煙の徹底が図られるべきである。
その他の場所においても、利用者のニ一ズを踏まえつつ、施設の規模・構造、利用状況等施設の態様に応じた分煙対策に積極的に取り組むべきである。特に、未成年者が多く集う施設においては、特段の配慮がなされるべきである。
国においては、公共の場における分煙のあり方について、施設の設置主体、施設の態様等に応じた分煙対策の実施に関する基本的な考え方及び配慮事項を提示すること等により、分煙対策を支援するべきである。
なお、喫煙間題を巡る社会の意識の変化等を踏まえ、禁煙時間、禁煙区域等の名称とともに、喫煙時間、喫煙区域等の名称を積極的に使用していくことが望ましい。
国においては、職場における分煙対策の実施に関し、その手法を普及する等により、分煙対策を支援するべきである。
(3)禁煙サポート・節煙対策(禁煙希望者に対する禁煙サポート対策・喫煙継続者に対する節度ある喫煙を促す対策)
成人の喫煙については、本人の健康影響に関する限り、喫煙をするかしないかは基本的には本人の責任において判断されるものであるが、喫煙の自己の健康への影響等を十分認識した上で判断が行えるよう対策を講じていく必要がある。
ア 禁煙サポート対策(禁煙希望者に対する禁煙サポート対策)
イ 節煙対策(喫煙継続者に対する節度ある喫煙を促す対策)
特に、吸い殻のポイ捨て行為及び歩行喫煙については、防災上及ぴ危険性の観点も含め、厳に慎むべき社会ルールとして確立するよう啓発を強化する必要がある。
(4)その他
たばこの健康影響に関する調査研究を進めるとともに、最近、社会的関心がもたれている疾病等との関連についても、客観的な調査研究を進め、適宣最新の知見について情報提供を行うべきである。
また、今後のたばこ対策の推進に資するため、定期的にたばこ間題に関する世論調査や喫煙に関する実態調査等を行うべきである。
(1)たばこ広告、たばこ自動販売機に係る規制については、従来から、たばこ事業法に基づく指針等を踏まえた業界の自主規制の基盤があることを踏まえ、自主規制の強化により進めることを基本とすることが適当である。
(2)分煙対策については、既にいくつかの事業者による自主的な取り組みが行われていることを踏まえ、それぞれの自主的な取り組みによって進めることを基本とすることが適当である。
(敬称略、五十音順、所属及び役職は検討会当時)
井尻千男 日本経済新聞社編集局文化部編集委員
大河喜彦 日本たばこ産業株式会社科学情報部長
大坂城二 日本労働組合総連合会本部総合労働局長
大島 明 大阪がん予防検診センター検診第1部長
○大和田潔 健康・体力づくり事業財団理事長
木村尚三郎 東京大学名誉教授
見城美枝子 エッセイスト
柴田 豊 共同通信社編集局産業部長
◎島尾忠男 結核予防会会長
島崎 攻 日本経営者団体連盟環境社会部次長
末舛恵一 国立がんセンター名誉総長
杉浦 稔 日本医師会常任理事
鈴木一彦 東日本旅客鉄道株式会社常務取締役営業部長
関野泰夫 全国たばこ販売協同組合連合会副会長
原田幸男 東京都市ケ谷商業高校教論
松谷満子 日本食生活協会会長
水野 肇 医事評論家
宮崎恭二 タバコと健康全国協議会事務局長
村田幸子 日本放送協会解説委員
(◎印:座長、○印:座長代理)