公益財団法人 健康・体力づくり事業財団

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高齢者の運動実践者と非実践者における生活意識と生活行動の相違に関する研究事業
(平成15年度 厚生労働省 老人保健事業推進費等補助金事業)

1. 事業目的

健康長寿を全うするためには、身体活動・運動が欠かせないという認識が広がり、運動を実施する高齢者の数が増加しつつある一方で、運動非実施者の割合は加齢と共に増加すること報告され、高齢者における運動実践の二極化が懸念されている。
そこで本事業では運動実践者と非実践者の筋肉量及び生活意識と生活行動の相違を検討することにより、元気高齢者を増加させる条件を明らかにすることを目的とした。

2. 事業概要

  1. 高齢者における運動負荷試験後の血流およびエネルギー代謝に関する研究
    【調査方法】
    運動習慣を有する男性と有しない男性(各3名)を対象に、運動負荷前後での大腰筋おける水分(血液)量の増加および乳酸の放出(エネルギー代謝)の変化を求め、筋肉活動量の変化を定量あるいは半定量的に捉えることを検討した。
    【調査結果】
    水分(血液)量の増加については、運動習慣の有無に関わらず信号強度に有意な変化が認められず、乳酸についてはペクトルが正常に検出されなかった。原因として前者は運動負荷量が不十分だったこと、後者は筋肉中の脂肪量が邪魔していたことが考えられる。
  2. 高齢者の運動継続と大腰筋増加に関する研究
    【調査方法】
    前期高齢者(19名)に対し大腰筋体操を約3ヶ月間(12回)行い、その前後でCT検査により大腰筋断面の長径と短径を測定し、その変化から運動習慣を有していることが起立・歩行を独自で行うことに有効であることを分析した。
    【調査結果】
    すべての被験者において筋断面の増加が認められ、初回時に筋断面が少ないものほどその増加傾向が顕著であった。このことより65歳以上になってからでも、運動によって廃用性萎縮に耐えられるだけの筋肉を保持することが可能であることが実証された。
  3. 高齢者の運動実践者と非実践者における日常の生活意識と生活行動の相違に関する分析的研究
    【調査方法】
    介護保険制度による要支援または要介護認定を受けていない60歳以上の高齢者を、性別および運動習慣の有無の比率がほぼ半数になるように全国から無作為抽出し(1,546名)、日常の生活意識と生活行動に関するアンケート調査を実施した。
    【調査結果】
    • 運動実践者の方が日常生活活動能力や、健康・体力に対する自己評価、生活に対する充実感が高く、運動に対してプラスイメージを持っていた。
    • 運動実践の有無および運動実践頻度を決定する最も強い要因は「運動に対する否定的イメージ因子」、次いで「健康・体力に関わる因子」であった。
    • 運動非実践者の運動阻害要因としては「なんとなく機会がない」、「時間がない」、「運動したいと思わない」との回答が多かったが、低頻度実践者(月1~2回程度)は運動環境要因、未実施者(全くしていない)は健康要因の得点が高かった。
    • 運動非実践者への運動を始めるための働きかけでは、「1人でもできる運動の紹介」、「医師・保健師の勧め」、「仲間の紹介」があればとの回答が多く、どのような運動をしたいかという問いでは、「1人でできる運動」、「楽しめる運動」、「健康改善を目的とした運動」との回答が多かった。
    • 運動実践者が運動を始めたきっかけは「健康の維持・増進のため」、「楽しみや気晴らしのため」、「体を鍛えるため」との回答が多かったが、「友人が増えるため」、「興味があるため」と回答した者は運動の継続年数が長かった。
    • 運動実践者が運動を継続できた理由は「楽しいから」、「健康になったから」、「仲間ができたから」との回答が多かったが、「体力が向上したから」、「健康になったから」、「仲間ができたから」と回答した者は運動の継続年数が長かった。
    【今後の方策】
    高齢者が運動を習慣化するためには、健康のための運動や楽しむための運動についての正しい知識を教授し「運動に対する否定的イメージを排除する」ことと、「運動を始めるきっかけ」を与えるさまざまな工夫が必要であり、このような支援はもはや「行政のみ」、「住民のみ」ではなく、双方が協力しながら活動することで、より効率的に運動習慣化が望めるものと考えられる。

3. 報告書