貯筋運動プロジェクト II
(平成23年度(独)日本スポーツ振興センタースポーツ振興くじ助成事業)
1. 研究目的
健康で活発な生活を遂行するためには、自らの力で活動できる力を保持することが大きく影響する。それには、居住する地域で、仲間と楽しみながら、安価に、スポーツやエクササイズを継続できる環境を整備することが必要である。
そこで、本研究では、道具を使わずに自体重を利用して効果を上げられる筋力トレーニング「貯筋運動」、高齢者でも安全に楽しく指導できる健康運動指導士、総合型地域スポーツクラブと組み合わせ、週1回程度の集合型運動教室"貯筋運動ステーション"を設置して、主にスポーツや運動を行っていない高齢者のスポーツ・運動開始を促し、健康・体力つくり、仲間・生きがいづくりに貢献するとともに、クラブの地域における存在意義を高め、指導者の活用を図るしくみを提案することを目的とする。
2. 研究概要
- 貯筋運動リーダー養成講習会のカリキュラム・ハンドブックの作成。
- 貯筋運動指導者と総合型地域スポーツクラブによる貯筋運動ステーションの拡大。
- 貯筋運動ステーション参加者の参加前後の変化から貯筋運動ステーションの効果を測定。
- 貯筋運動のDVDを作成するとともに、ステーションの効果をリーフレット、各種学術学会、ホームページ等で周知。
3. 研究の成果
- 貯筋運動指導者をサポートする者を想定したリーダー養成カリキュラムと、そのためのハンドブックを作成し、1日間の養成講習会を、対象層を変えて2会場実施し、42名を養成した。
- 貯筋運動指導者養成講習会を2会場で実施し、31名を養成するとともに、15の総合型地域スポーツクラブで貯筋運動ステーションを実施し、433名(延べ3789名/平均出席率76.3%)の参加を得た。
- 貯筋運動ステーション参加者の参加前後に体力測定、質問紙による調査を行い、385名分のデータ・回答を得て体力・心理の変化を分析した。
主な結果は、以下のとおり。 - 1) 身体・体力測定
男女共に運動介入前後で筋肉が増加し,動作パフォーマンスも改善されていることがわかった.女性では体重の増加が認められたが,腹部において皮下脂肪が減少し周囲が細くなっていたことから,筋肉量の増加が体重の増加に影響したものと考えられる.また,動作パフォーマンスにおいて,男女で有意差のみられた項目に違いがみられ,膝伸展トルクは女性に,5m最大速度歩行は男性により効果みられた. - 2) 日常生活動作能力
下位尺度得点及び総合得点の前後比較を行った結果,男性では「社会的役割」において有意な上昇が認められた.一方,女性では合計得点および「社会的役割」において有意な上昇が認められた.以上のことから,元々日常生活動作能力が満点でなかった参加者では,男女共に日常生活動作能力が高まる傾向が認められた.その改善率は男性に比べて女性において高かった. - 3) 生活満足度
運動介入前後において男女共に生活満足度が高くなっていることがわかった.特に,男性では「決意と不屈の精神」(意義のある生活に従事し,断固としてその生活を受け入れ続けている状態)において,女性では「興味・関心」(個人の日常生活のなかでの活動に対して強い興味を持っている状態)において顕著に満足度が高くなった.また,介入前後の改善率は,女性の方が男性よりも高かった. - 4) 運動実施種目および実施頻度
男女共に運動介入前後で運動実施者の割合増加,運動実施頻度の増加,ウォーキングや体操といった手軽に行える運動実施者の増加がみられ,運動に対する態度が積極的になっていることが伺えた.また、介入後に新たに運動を始めた種目において,男女で違いがみられた. - 5) 運動目的
それぞれの要因ごとで運動介入前後の比較をした結果,運動を実施する目的の介入前後での割合に大きな変化はなかった. - 6) 1日当たりの歩数および歩行時間
1回あたりの歩行時間及び歩数において介入前後で変化はみられなかった. - 7) 運動実践者意識
運動介入前に最も高い傾向を示した項目は,男女共に「日常を快適に過ごすために運動・スポーツは必要不可欠である」(男性5.7,女性5.4)であり,次いで「運動・スポーツは,自分自身にとってかけがえのないものである」(男性5.1,女性4.7)であった.運動介入実施前後での比較を行った結果,男女共に向上した項目は「私は運動・スポーツ実施者だと思う」,「運動することに関連した多くの目標を持っている」であり,運動実践者意識の総合得点においても,男女共に向上していた. - 8) 貯筋通帳
男性では対象者74名中44名,女性では311名中223名が該当した.男性の貯筋残高の平均は「初日~3週目」において10,536円,「4週目~6週目」において12,550円,「7週目~9週目」において13,586円であった.一方,女性の貯筋残高の平均は「初日~3週目」において12,503円,「4週目~6週目」において13,557円,「7週目~9週目」において13,417円であった.その伸びは男性の方が高く,運動介入終了時に近づくにつれて男性のモチベーションがより高くなったと推察される.