公益財団法人 健康・体力づくり事業財団

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全国健康・体力つくり推進フォーラム2009

パネルディスカッション

[コーディネーター]
宮嶋 泰子(テレビ朝日 ジャーナリスト)

テレビ朝日編成局編成部兼アナウンス部局次長待遇。
「ニュースステーション」のスポーツ特集、ディレクター兼リポーターとして18年間にわたりトップアスリートやみんなのスポーツについてのドキュメンタリーを制作。同番組終了後も「報道ステーション」にて同様の活動を続ける。日本初の女性スポーツアナウンサー。テレビ朝日で数々のスポーツ番組のディレクター、プロデューサーを務めるほか、早稲田大学非常勤講師、NPO法人バレーボール・モントリオール会理事、日本体育協会スポーツグランプリ選考委員会委員、日本体育協会生涯スポーツ推進委員会委員、文部科学省中央教育審議会スポーツ・青少年分科会臨時委員等、数多くの委員を歴任。富山県高岡市出身。

[パネリスト]
由美 かおる(女優)


田中 喜代次(筑波大学大学院 人間総合科学研究科、スポーツ医学専攻 教授)
筑波大学大学院博士課程修了。教育学博士。
大阪市立大学講師、筑波大学体育科学系講師・助教授を経て現在に至る。
大学で教鞭を取られる傍ら、民間病院、筑波大学附属病院、地域の保健センターなどで中高年者および有疾患者に向けた健康運動教室、健康支援活動を行っておられる。また、茨城県立健康プラザなど、スーパーバイザーとして全国の市町村の健康づくり支援にも協力。
『中高年のための運動プログラム』、『スマートダイエット メタボリックシンドローム予防・改善のための減量指導』他、研究著書多数。健康度指数「活力年齢」の考案者。「スマートダイエット理論」を確立。滋賀県出身。

石澤 伸弘(北翔大学 生涯スポーツ学部スポーツ教育学科 准教授)
1994年鹿屋体育大学体育学部卒業。1996年鹿屋体育大学大学院体育学研究科修了。
2005年神戸大学大学院総合人間科学研究科博士課程修了。
大阪YMCA社会体育専門学校専任講師、流通科学大学助手等を経て、現在に至る。
マスターズ甲子園実行委員会実行委員、札幌市スポーツ振興審議会専門委員等、学外でも活躍。
2008年本フォーラムのテーマである「アクティブ・エイジング」に関し全国調査を実施、報告書を作成。
現在は筋トレに励み、趣味は手抜き料理。
山形県出身。

鈴木 悦子(アクティブ・エイジング実践者)
大正12年生まれ。実践女子専門学校在学中に大東亜戦争を経験され、ご結婚(昭和20年)されるまで霞ヶ浦海軍航空廠に勤務された。
2007年茨城県主催の健康づくり講演会にシンポジストとして参加。
本パネルディスカッションでは、田中先生が主宰されるつくばヘルスフィットネス教室参加者を代表して有益な体験談を語っていただく。
ゴルフは40年のキャリア。つくばヘルスフィットネス教室には4年、ボウリングは始められて半年。
茨城県出身。

パネルディスカッション

宮嶋 泰子(ジャーナリスト) 【宮嶋】今日は本当にたくさんの方々がお集まりくださいました。おそらく「由美かおるさんが24年間水戸黄門で元気にレギュラーを続けてらっしゃるその秘訣を聞きたい」と思って来られた方が多いのではないでしょうか。これからもたくさんお話を伺ってまいりたいと思いますので、皆さん、お楽しみにしてくださいね。
由美さん、先ほどの基調講演の中で呼吸法を教えていただきましたが、始められたのは、おいくつぐらいのときですか?

【由美】今から25、6年前、西野バレエ団の西野皓三先生がおつくりになって、それを教えていただいて、それからです。

【宮嶋】水戸黄門でずっとレギュラー休みなしというのは、まさにこの呼吸法のおかげと言っていいですね。
鈴木さん、由美さんのお話を真剣に聞いておられましたが、どうですか?


鈴木 悦子(アクティブ・エイジング実践者) 【鈴木】びっくりです。けれど、私にも通じることがあります、なるほどな、と。
さっき、アコーディオンを弾いていらっしゃいましたね。私はウクレレを弾くんです。4人のグループで、フォーリーズアンドクローバーという名前をつけて、3ヶ月に1回ぐらい千葉県の福祉ホームに行って、おじいさんおばあさんたちを慰問しています。
自作自演のフラダンスもやります。もう、ずっと続けています。

【宮嶋】すごいですね。やはり、何か通じるところがありますね。
田中先生も、由美さんのお話を必死にメモしていらっしゃいましたけど、どんなことをお感じになりましたか?

【田中】素晴らしかったです。期待はしていましたが、それ以上のインパクトがありました。
由美かおるさんは、心の健康の重要性をとても強調されました。私も全くそのとおりだと思います。心のスイッチがオンになってはじめて、運動の習慣化と食生活の見直しが実行できるのではないかと思います。
記憶は定かではないのですが、東京オリンピック開催の昭和39年、団塊の世代の方であれば覚えていらっしゃると思うのですが、その昭和39年に、確か、『平凡』という雑誌に由美かおるさんが登場されました。そこで初めて、「日本に肥満傾向者が増えてきた」という記事があったように記憶しています。そのころにはあまり肥満がいなかったのですね。今は肥満、メタボの時代ですが。そういうことも今思い出しました。
お声の年齢が42歳ぐらい。そして見た目年齢が40歳。私が考案しました活力年齢は38歳ぐらいかな、と思いました。由美さんは四捨五入で実年齢60歳ですが、ちょうど20歳ぐらい若いお体をお持ちではないかと思います。アメリカ人にきいたら30代というでしょうね。
(拍手)
由美さんを見て感じたのは、「心がダンスしている」ということ。私の目標が「心躍る人生」。それを由美さんが実現されているように感じました。そういうオーラが出ている。そういうものを皆さんも感じとっていただいて、今日から、今日の夜から、あるいは明日から、健康づくりにいそしんでいただきたいと思います。

【宮嶋】ありがとうございます。
石澤先生、由美さんのお話をお聞きになりながら、どんなことをお感じになりましたか。

石澤 伸弘(北翔大学 生涯スポーツ学部スポーツ教育学科 准教授)

【石澤】今、北海道で生活していますが、出身は山形でございます。由美かおるさんは酒田の短大で先生をしてらっしゃるということで。実は私、由美さんが講師に来られると聞いて、酒田短大にチャレンジしようかと考えた時期もありました。
呼吸法をご指導いただいているときに、始めるに遅すぎることはないとおっしゃいました。今私がこういう仕事をしている中で、中高齢者の方に運動を勧めるのですが、やはり、遅すぎることはないというところがインパクトがありました。英語で"Never Too Late"、何かを始めるのに遅すぎることはないということを由美さんに言ってもらえたおかげで、改めて意を強くいたしました。

【宮嶋】さあ、それでは本題に入りましょう。
この全国健康・体力つくり推進フォーラムを東京で行うようになって、今年で4回目。それまで47の都道府県を持ち回りでいろいろと回ってきました。中高齢者がどうやれば体力を維持し、そしてより良い人生を過ごせるようになるのか。相当情報も出回っていますが、このフォーラムを通じてさまざまなことが発信されて皆さまの知識もどんどん増えていってるのではないかと思います。今日はさらに新しい発見があると思います。
まずは田中先生に、体力保持の重要性ということで、お話をしていただこうと思います。

田中 喜代次(筑波大学大学院 人間総合科学研究科、スポーツ医学専攻 教授))

【田中】それでは10分ほどいただいて、「目指そう!元気長寿 高齢者の身体機能の見地から」ということで、スライドを10枚ほど披露させていただきます。
生活習慣病は食習慣、運動習慣、休養、喫煙、飲酒等の生活習慣が、その発症・進行に関与するものと言われています。改めるべきは、食べ過ぎ、飲み過ぎ、運動不足、喫煙、そして、私にも当てはまりますが睡眠不足です。

女性は骨粗鬆症の方が多いので、最新のデータ(『日本臨床スポーツ医学会雑誌2009』石川・桜庭)を紹介します。骨密度、体重、生活習慣の調査結果です。調査対象者の平均年齢が61.3歳で、閉経が50歳ぐらいなので、閉経後10年ぐらい経った人たち774名です。平均身長152cm、体重52kgの人たちの調査結果からわかったことは、1)体重は適正値を保つこと。メタボには太りすぎがよくないのですが、骨粗鬆症には痩せすぎが危険性を高めることがわかっています。2)運動習慣の有無で骨密度に大きな差はありませんでした。運動はとても大事ですが、閉経後の女性の場合、運動していてもそう簡単には骨密度が上がらないのです。こうしたことも真摯に受け止めて、「運動は効果がない」ではなく、「運動しなければもっとスピードを増して骨粗鬆症の世界に入っていく」ということをご理解いただきたいです。3)骨折経験がある人は骨密度が低いという結果が、はっきり出ています。骨折経験があるため動いて転んだら怖いという意識が働き、動かなくなるようです。高齢期で動かなくなると骨密度がどんどん低下するということですね。
最後は、4)乳製品を摂取している人は骨密度が高い傾向にあるということです。牛乳嫌いの方は工夫して、チーズなどの乳製品を適量摂っていただきたい。
和食は世界一いい食事と言われておりますが、欠点が2つあります。1つは、カルシウムが足りないこと、もう1つは塩分が多いことです。たとえば、朝のコーヒーに無脂肪ドライミルクを入れるとか、午後のおやつに低脂肪ヨーグルト、夕食のサラダに低脂肪のチェダーチーズなどを4分の1カップ。これだけ摂ると、1日に必要なカルシウムが満たされます。こうした工夫をしていただきたいですね。

老化の坂道はゆっくりと
次に、「老化促進循環説」を説明させていただきます。「加齢」のところから矢印順にたどりますと、まず年を取ることで運動量が少しずつ減ってきます。運動量が減ると、体力、身体機能が低下します。そして老化を自覚します。還暦を迎えて、定年退職をして老化を自覚します。お孫さんができて、お祖父ちゃんお祖母ちゃんといわれて、老化を自覚します。
そうすると、年寄りだからあまり運動をしなくていいかなと、自分も周りも思ってしまう。動かなくなってお孫さんの子守ばかりしていますと、からだの機能は衰退し老化はさらに進んでいきます。こうして一巡しながら、ピンクで斜めに入った「老化」という階段を一段ずつ下りていって、最後は亡くなっていくわけです。
身体の自立度の観点からいえば、この循環の速度をゆるめるほうがいいわけで、ゆっくりと老化していきたいですね。
老化を自覚しておられないのが、まさに私の横にいるお二人だと思います。お二人の生き方を、今日は学んでいただきたいと思います。

パネルディスカッション



このグラフは、体力と生存率の関係図です。70歳ぐらいの方がもともと体力が低くても、運動を習慣化して体力をつければ、14年経って80歳を越えても90%以上が生存しているというデータです。
ところが低体力のまま放っておくと、70%しか生き残っていないのです。このように、体力の違いで寿命に開きが出てきます。
体力をつければ寿命が延びるという単純なメカニズムであるわけではなく、体力をつけることで社会に参加し、人と交わり、いい病院、いいお医者さん、いいサプリメント、いいフィットネスクラブに出会い、生き方が上手になって、かつお腹も空いて、しっかり栄養をとっているという好循環が期待できるのではないかと思います。
内閣府の平成18年度の世論調査によると、50代、60代、70代というのは、運動している人と全然していない人に両極化しています。元気な方と虚弱な方が増えているのです。40代50代ぐらいでは体力差はそんなに大きくないのですが、70歳ぐらいになってきますと認知症、要介護、寝たきりの人がいる一方で、マラソンをやっている人もいたりと、非常に体力差が出てきます。また、男性で体力の低下が早いため、運動の習慣化は男性でより大事かなと思います。
さまざまな人がいるのは仕方ないのですが、運動はエンジョイする、QOL(クォリティ・オブ・ライフ)のために楽しむというだけではなく、国の社会保障費にもプラスの貢献をするという意味で、運動を習慣化し元気で生きていくという気持ちを国民一人ひとりが持つように、またここにいらっしゃる指導的立場の方がそういうメッセージを出していくことが大事だと思います。


パネルディスカッション

【宮嶋】男性の体力の低下が早いという言葉がグサッと胸に突き刺さったのですが、これはどういうことですか。

【田中】もともと女性に比べて男性のほうが体力の初期値が高く、高い人ほど落ちやすく、体力が低い人ほど運動すると効果が出やすいのです。つまり、今まで全く運動していない人が運動すると数値的には伸びます。低い人は伸びやすいし強い人は落ちやすいですから、男女を比較しますと男の方が筋力もありますので、年とともに低下度が目立っていくということですね。1年1年の変化は男の方が大きいですね。
病院の患者さんを見ていますと、特に私たちのフィットネス教室に来る女性は運動を習慣化していると、10年後5歳くらいしか年をとってないように感じるのですね。一方、男性は10年経つと、15歳も老けたように見えます。動きも言葉も、すべての面で男女差がはっきり出ます。これはデータで示せないのですが、確かなことと感じます。

【宮嶋】さあ、その田中メソッドの推進者。一番弟子と申し上げてもいいかもしれません。お弟子さんの方が、年が上になってしまっていますが、鈴木悦子さん。鈴木さんから、田中先生のどういうメソッドに従ってどういうふうにやっているかご説明をお願いできますか。

何にでも積極的に挑戦する気持ち

【鈴木】田中先生主宰のつくばヘルスフィットネス教室に通ってから、私の健康力が大幅に増進しました。血圧の安定、体力の保持、体脂肪の減少などです。
私は2001年に狭心症を患い、カテーテル治療により回復し健康の重大さに気づきました。
そして運良く2005年に教室に入会させていただき、このように体力を維持するとともにスポーツをエンジョイし、元気長寿の道を歩んでいます。
私は週2回のフィットネス教室のほか、週1~2回ゴルフをしており、1ラウンド18ホールだけで約1万6000歩から1万8000歩、歩きます。その日の歩数合計は2万歩から2万5000歩になります。また、最近ボウリングも始めました。
つくばヘルスフィットネス教室では、準備体操10分、自転車エルゴメータ運動15分、主運動(レク、エアロ、Gボール、ダンベルなど)、整理体操、ストレッチ10分、健康講話5分~30分、合計1時間30分、週2回です。月にわずか3000円の月謝を病院にお払いしています。運動以外にも、食事・栄養、規則正しい生活リズム、気持ちの持ち方、交通事故防止などを学んでおります。

【宮嶋】鈴木さん、非常にお元気で、先ほどウクレレやフラダンスをしてらっしゃるという話をされていましたが、やはり田中先生の教室に通われて、確実に変わってきたなという実感がありますか。

【鈴木】あります。何にでも積極的に挑戦する気持ちが大きくなりました。

【宮嶋】お聞きしていて驚いたのですが、1万歩歩くとかなり疲労感もあるのですが、先ほどゴルフで2万歩とおっしゃいましたね。

【鈴木】はい。わたしはぜんぜん疲れません。さらにハーフ、歩きたいぐらいです。それはフィットネスで体力つくりしているおかげだと思い感謝しています。

【宮嶋】そうですか。からだが健康になって、気持ちが若くなって、何でもやりたいという気持ちになって。さきほどのウクレレの話ではないですが、広がっていくのが何よりいいですね。ただからだが元気になるだけではないですね。

【鈴木】はい。全然くよくよした生活をしていません。毎日がラッキーです。

【宮嶋】皆さまお聞きになりましたか。こういうことなのですね。こうして元気に過ごすことが大切なのだろうと思います。
石澤先生、アクティブ・エイジングの全国調査でも鈴木さんのような方がおられましたか。

キーポイントは向上力

【石澤】はい、昨年度「アクティブ・エイジング全国調査~中高齢者の身体活動に対する潜在的ニーズと選択肢の予測調査」と銘打って調査を行いまして、昨年度末に調査報告がまとまったというところです。
お年を召すということは、いろいろな力が落ちてくるというイメージがあるのですが、「60歳以降に上がっていく力はありますか」という問いを投げかけてみましたところ、知力と気力、忍耐力が上がるといった答えが出ました。逆に下がっていくパワーは何かと聞きますと、体力と記憶力という結果が出ました。
鈴木さんが好奇心いっぱいで何にでも挑戦していかれるのも、まさに気力の向上だと思います。

【宮嶋】年を取って体力なくなっちゃって何もやる気ないというのは、本当は違うのかもしれませんね。

【石澤】体型と体力に関しましては、全体的に男性は実年齢より若干若く、女性は実年齢より老化が進んでいるという感覚を持っておられますが、気力年齢は逆に、男性が実年齢より上に、女性は実年齢より下に感じておられるという結果が出ています。
では、体型や体力、気力を実年齢より若いと感じさせる要素は何か。ダントツなのが、この「向上力」です。逆に気力の老化を感じさせるもののトップは、老化を認識することです。ですから、自分はもう年だからといって老け込むのではなく、日々向上心をもってすごすことが、実年齢より若く感じる秘訣のようです。

【宮嶋】キーポイントは向上力ですね。
由美さんは、先ほどアコーディオンを本当に上手に弾かれていましたが、始められて半年ですよね。右手は鍵盤で、左はボタンで、両手でこうしたりして、頭では英語やフランス語やロシア語などで歌わなければいけなくて。

【由美】そうですね、ひとりで4人分ぐらいのことを同時にやるので混乱します。

【宮嶋】これは、上手になりたいという気持ちがないと習得できないですね。

【由美】最初はうまくできませんが、少しずつ上達していくことが、自分で楽しいのです。ですから、ちょっと変わっているのかもしれませんが、難しいことが敢えて好き。易しいことよりも、難しいことの方がチャレンジのし甲斐があります。アコーディオンも、何度もやめようと思ったことがありますが、それを乗り越えていく楽しさ。大変なことを楽しさに変えていくことが生きていること。今を大切に進んでいきたいという、そういう感じです。

【鈴木】同感です。易しいものは面白くないですね。やはり、難しいものにぶつかる方が。そして、成功したら何倍も嬉しいです。

【宮嶋】さて、田中先生。今、由美さんと鈴木さんが石澤先生の調査結果を裏付けるようなお話をしてくださいましたが、何かお感じになったことはありますか。

【田中】由美かおるさんと鈴木さん、そして私もチャレンジ精神旺盛なので、我々3人は似たタイプなのかなと感じました。
ですが、もっとゆるやかに、のんびりと、あまり競争せずにやろうという考えの方もいらっしゃいますので。DNAなどで決まっているのかわかりませんが個人差があるので、自分の性格、気質、特徴に合った生き方を選んでいくのがいいと思います。チャレンジ精神旺盛もありだし、控えめでいくアプローチ、それで運動を楽しみスコアにこだわらない生き方もあると思います。柔らかく受け止めてあげたいと思います。

【宮嶋】現代ではどうしても健康ばかりが神様のようになってしまって、からだの健康が一番大切なことのようになりがちですが、本当は「健康なからだで何かをしたい」という気持ちがなければいけないのですよね。そのあたり、どうでしょうか。

【田中】健康はゴール、という見方もありますが、生き甲斐を感じて人生を楽しむ、QOLを良好に保ち人生を上手に生きていく上での手段と位置づけた方がいいと思います。
QOLは一般的に訳すと生活の質となりますが、私は今の時代、健康で長生きし病気にならないためには、生命の質、という言い方もします。もうひとつ、人生を楽しむという意味では、人生の質という言い方もします。生活の質、生命の質、人生の質、そうした3つの視点からQOLを捉えていって、自分にあった目標を見つけていただきたいと思います。
スポーツは人生の質を良好に保つ上で大変よいものだと思います。

【宮嶋】スポーツは、動詞はPlay(プレイ)ですからね、やはり、楽しむ、遊ぶ、ですよね。人生にリズムがある、いつも心が躍っているような人生がいいと田中先生がおっしゃったのが、なるほどなあ、と。今まで教えていただいたことが、だんだんひとつにまとまってくるように思います。
さて、田中先生は、「活力年齢」ということばを考案されたことでも知られています。先生、ここで寿命や活力年齢について教えていただけますか。

活力年齢は若返ることができる

【田中】はい。まず、活力年齢について話す前に。
2年前のデータですが、日本の女性の平均寿命は85.8歳。これは、あくまでゼロ歳児の平均寿命ですから、ここにいらっしゃる60歳あるいは70歳の方達の余命はもっと長く90歳近いということになると思います。
ブラジルは、女性で72.4歳。同じ日本人でもブラジルに住んでいる方のデータを見ると、10年ほど短命。ということは、ブラジルに生まれたか日本に生まれたかで違ってくるのです。あくまでも予測値ですが、寿命は生まれる国によって、医療の質や空気、水、食べ物、生活習慣の影響もあって、13年違うということになります。
さらに、シエラレオーネという国では、エイズ等の影響もあると思いますが、女性は35.7歳、男性は32歳。皆さんの息子さん、娘さんがもう生きていないというくらいの短い寿命です。
長くなりましたが、私の言いたいことは、日本は寿命という視点から見ると、世界一幸せな国であり、そういうところに私たちは生まれ育ったことに対して、感謝の気持ちを持つことが大事ですね。いろいろ不平不満はありますが、まず、日本人であることの幸福を感じ取ることが大事だと思います。
さて、日本人は世界でも最高レベルの平均寿命ですが、これには不健康期間、つまり要支援・要介護も含まれていることに、私たちは着目しなければなりません。男性は健康期間が72年で、不健康期間が6年、女性は男性より長生きする分、不健康期間も1、2年長く7、8年です。
不健康で要介護、寝たきりで、長らく寝ながら死んでしまうのが「ねんねんころり」、NNK。理想はPPK、「ぴんぴんころり」です。そのためには、不健康期間の6.1年を0.1年にしたいですね。研究者として、あるいはアクティブ・エイジング実践者として現場で指導されている方、ここにいらっしゃる皆さま方の力を合わせて、健康寿命の面でも世界をリードしていくべきではないでしょうか。
そういったことで、実年齢(暦年齢)とからだの年齢(活力年齢)は違います。同級生でもからだ年齢は全然違います。同窓会をすると、見た目年齢だけでなくからだの動きや顔色も違います。そこで、1990年に活力年齢を考案しました。
この活力年齢は、今の流行の言葉で言うとメタボ因子と体力を合わせたもの。詳しく言うと、体力と動脈硬化危険因子を合わせたもので、約10項目から算出されます。暦の年齢は、年々直線的に上がります。それに対して活力年齢は、上がったり下がったりします。
私たちの運動教室に参加されていた循環器疾患、代謝疾患を持つ方のデータですが、教室参加前は52歳でありながら、活力年齢は59歳と7歳悪かったのです。ところが教室を10年間続けられた人は -10年間続けられた人のみのデータで、続けられなかった人のデータは含まれていませんが - 病気の方でも活力年齢が5歳若返っています。こういう顕著な生活習慣改善効果が得られています。活力年齢は自分の励みに、行政の評価に、そして自己努力の変化を検証する意味で有用と思います。

【宮嶋】何はともあれ10年間続けた方は、病気の方であっても、健康な方よりも数値がよくなっているという田中先生のお話でした。でも、続けるって、大変なことですよね。
さて、間もなく87歳になられる鈴木さんではありますけれど、活力年齢という意味で言えば大変お若いのではないかと思います。
鈴木さん、自分の活力年齢は若いなあと実感はおありになりますか。

【鈴木】強くは意識していませんが、自然とからだを動かすことが日常化していて、それが若さ維持につながっているというモットーです。

【宮嶋】鈴木さんが田中先生の教室に入られたときにも、たくさんお仲間がいらっしゃったと思いますが、みなさん、スポーツしよう、運動しようと思っても、途中であきらめたり、できなくなったり、なかなか続けられないものですよね。鈴木さんがここまで続けられた秘訣は何ですか。

【鈴木】好奇心ですね。また、早くから病気に負けたくない、こういう所でくじけたらみっともないという気持ちが強いです。

【宮嶋】ご主人は何とおっしゃっていますか。

【鈴木】好きなようにしろ、ぐらいですね。

【宮嶋】ご主人はお元気でいらっしゃいますか。

【鈴木】はい。もう90歳ですけど、元気で。今、庭にバラが110本ぐらいありますが、それを5月と10月にきれいに咲かせています。お花に対する肥料と葉に対する肥料の分量が違うんですね、それを確実に測ってやっています。バラはとても正直で、与えればきれいに答えを出してくれるが、うちのかみさんはなかなか答えをださない、と。(会場、爆笑)

【宮嶋】由美さんの講演で、老後はお好きなことをやりましょうというお話がありましたが、その中にまさに造園がありましたね。それを、鈴木さんのご主人はおやりになっていらっしゃる。いいなあ、うらやましいですね。
さて、石澤先生。続けることが、スポーツでも何でも大切だということですが、実際に中高年の方がどんなことをやりたいのかということも調べていらっしゃいますね。そのあたりを教えていただけますか。

今、マスターズ大会というのがいろいろな種目で行われています

【石澤】先ほどお話ししましたアクティブ・エイジングの全国調査でわかったことですが、現在行っていてこれからも継続していきたい種目で、多いのは散歩、ウォーキング、体操、ハイキング、サイクリング。これからやってみたいなと思われている種目では、共通している種目もありますが、人気の高い順からサイクリング、ハイキング、ウォーキング、水泳、ヨガ、アクアビクス、筋力トレーニング、登山といったところです。
着目しましたのは、希望する率こそ1~2%と低いですが、学校の部活動で行うような種目が入ってきていることです。これまで中高齢者の方のスポーツというと、ゲートボール、グランドゴルフといった種目が多かったかと思うのですが、団塊の世代を中心に、自分がこれまでやって来た種目をそのまま続けていきたいという方が増えてくることが予想されます。
今、マスターズ大会というのがいろいろな種目で行われています。本当に部活の延長の感覚で、40代、50代、60代の参加者がどんどん増えてきています。若い頃できなかったことを、何年か後にやってみる。そこで達成感を得る。私の友人でも、大学の時に陸上部で頑張りましたがなかなか記録が伸びませんでした。その彼が今、日本のマスターズ陸上で、40歳代で日本記録を持っています。
私はマスターズ甲子園というイベントも手伝っています。野球部は高校時代甲子園を目指して頑張るのですが出られるのはひと握りだけ。高校時代1回戦10対0でコールド負けした人が高校のOBでチームを作り、現役の時に負けた高校に逆にコールド勝ちを収めて、県の代表になって中年の甲子園をもう一度目指す、といったことが毎年展開されています。
若いときにできなかったことが、40代、50代、60代になって実現する、その喜びは何ものにも代え難いようで、非常に感動しながらやっておられます。

【宮嶋】ふと思い出したのですが、やって来たスポーツを続けるというのもありますし、作家の方で60歳過ぎてフィギュアスケートを始めたという男性もいます。
氷とエッジの感覚とか、一つひとつ技術が自分でできるようになるのが非常に新鮮な喜びで、そのトレースを見ながら頭の中でいろいろなイマジネーションをかき立てるというお話を聞いたことがあります。
今までやってみたいなと思いつつ自分では無理だと思っていたスポーツを、60を過ぎ、時間ができたときにやってみる、そういう方も多いのかもしれません。
アイススケートをやってみたいと思われる方が4%とあるのを見て、ああ、そういう方もいらっしゃるかもしれないと思いました。

【石澤】今まで、年を取ることは可能性が狭まることと思われる方が多かったかと思いますが、決してそうではなく、長生きすることで可能性が逆に広がるという、そうした発想の転換も必要かと思います。
やってみたいスポーツのアンケートを取ってみたところ男性は、1位がサイクリング、2位が筋力トレーニング、3位が登山です。女性は、1位がアクアビクス(水中運動)、2位がヨーガ、3位が社交ダンス、4位水泳、5位サイクリング、6位がダーツ-今流行っているようですね-、7位がハイキング。協会関係者の方などいらっしゃいましたら、ぜひ参考になさってください。(笑)
ただ、お気をつけいただきたいのは、記憶に新しいのですが、今年、北海道大雪山系で登山の事故がありました。潜在需要は多いのですが、しっかりしたケアや準備をしていかないと、大きな事故につながる可能性もあります。

長生きすることで可能性が広がる

【宮嶋】そうですね。私もタンザニアに行ったとき、日本大使館の方に、キリマンジャロに登った日本の中高年の登山家の方が事故に遭われたと聞いたことがあります。
中高年になるとお金にも余裕があるし気持ちも大きくなって、思い切ってぽんとどこかへ行ってしまおうと。しかしそこで、きちんと準備をしていかないといけないということですね。

【石澤】先ほど申しましたように、上がっていく能力もありますが、やはり60歳過ぎて落ちてくる能力のワーストワンが体力です。
鈴木さんや由美さんのように日々活動されている方はいいのですが、お友達に誘われたり、流行に乗って普段やり慣れないことをするとき、そこには危険も潜んでいるということを忘れてはいけないと思います。

【田中】発想の転換という言葉が出ましたが、私も同じ考えを持っています。
経験がないスポーツ・運動は「経験がないからできない」となるのですが、やってみると意外とよかったりします。何でも、というわけではありませんが。
経験がないスポーツは、技能や能力を数値に置き換えればゼロに近いので、やり始めればめきめき伸びていくのです。60歳、70歳を過ぎても伸びていきます。どこまで伸びるかは個人差がありますが。
指導者の皆さんにお伝えしたいことは、自分の好きな種目、自分が得意な種目を多くの人に勧めたとしても、1番人気のある種目で割合にして10%程度ですよね。つまり10人にひとりですよね。ですから、1種目に固執せず複数の種目を紹介してあげることが大事です。


パネルディスカッション


一番大事なのは事故の予防
「スポーツのススメ」は大事ですが、私が鈴木さんによく言うのは、転倒骨折してしまったら数ヶ月動けなくなって、そこで一気に筋力も低下して、そのあとは保証されないというアドバイスです。交通事故をやれば、介護や寝たきりのリスクはもっと高いですね。
心のスイッチオンで一番大事な点は、転倒骨折の予防、交通事故の予防ではないかと思います。そうした安全面についても注意していただきたいですね。

【宮嶋】先ほど鈴木さんの発表の中に、「交通事故に気をつける」というのがあって、実は何のことだろうと思っていましたが、そういうことなのですね。

【田中】ただでさえトラブルはメンタル的にすごくつらいことですし、加えてケガしたことで好きなスポーツができなくなるのは、とてもつらいですね。QOLを維持するためには、そうした交通事故はないことが大前提です。私は、教室でもそういう注意を促しております。

【宮嶋】信号が点滅し始めて、昔の感覚だと渡れると思い走ろうとしても、実は体力がそこまでないということもあるかもしれません。ちょっと待とうという気持ちとか、年を取ったなりのゆったりスローペースで注意をしていくことが大切ですね。
さて、由美さん、先ほどの女性がやりたいスポーツの中に、これからやりたいことなどありましたか。

【由美】そうですね、やはり、好きな男性と社交ダンスっていいですね。でも、好きな相手がいないとだめですね。誰でもいいというわけでないので、これは難しいですね。

【宮嶋】鈴木さんはどうですか?

【鈴木】今のところ、精一杯やっていますので。これ以上新しいことを始めたら混乱します。やはり、自分の年齢をきちんと心得て、選んでやっています。

【宮嶋】己を知る、ですね。
鈴木さんのご主人はガーデニングにいそしんでいらっしゃる。鈴木さんはご主人に、「男性もこういうスポーツあるけどやらない?」とか、「一緒に田中先生のところに行きましょう」などのお誘いはされないのですか。

【鈴木】ええ、誘いまして。最近ボウリングをやろうという気になりました。近くのボウリング場のメンバーになって、土曜日は一緒にやっています。
前はゴルフもやっていて元気だったのですが、直腸癌をしまして人工肛門を付けているのです。それで、いろいろなスポーツが無理になりました。ここに袋を下げていますので、自然とからだが歪んでしまいました。
でも食欲は旺盛だし、この前もNHKへ行きまして、3時間半、ミッドウェー海戦での自分の体験を喋ってきたそうです。記憶はまだありますから。
100歳まではちょっと無理かもしれませんけど、どっちが長生きするか競争しています。

【宮嶋】素敵ですね。

【田中】大切なのは、自分にあった生き方ですね。鈴木さんのような、ポジティブな攻めの姿勢で生きていく方には何度も言いますが、交通事故などに気をつけてくださいと。でないと、一気にしぼんでしまいます。

年々、自分流が見えてくる
また、ご家族、配偶者等いらっしゃれば、そういう方との仲のよい、上手な、ペアでの生き方も私は大事だと思います。ボウリングでも、テニスでも何でも楽しめると思います。
相手の考え方、生き方、遺伝的な体質、気質、そうしたものにも上手に調和してあわせていくような、自分流を見つけることが大事かなと思います。年々、自分流というものが見えてくるのではないでしょうか。
体力が低下する一方で生き方の巧みさは増していきますので、人との付き合いが上手になります。コミュニケーションもそうですが、そういったところで人間はずっと成長していくのではないかと思います。
鈴木さんのことばかりお話していますが、ちょっと補足しますと、私たちがやっている病院の中での運動教室に、90分参加されています。ウォーキングすると50分ぐらい歩きます。その前後に体操やレクリエーションをやります。このように、午前中、90分エクササイズをして、ご自宅に帰られてランチを取られて、そのあとでボウリングを3ゲームされるのですよ。
冬に一緒にゴルフに行ったときに、ワンラウンドして。私は久しぶりなので疲れたからすぐに帰ろうとしたのですね。男は力があり、思いきって振るから疲れるんです。女性は男ほどは力まずに軽く振るから、ワンラウンド回っても私たちより疲れないんです。私の方が体力があるのですが、疲れるんです。鈴木さんから「もうハーフ行きましょう」と言われたのですが、さすがに、電動カート無しのところで歩いていますので、断りました。(笑)

【宮嶋】生き方も巧みですが、ゴルフの仕方も巧みということですね。

【田中】ひとつ目安を言いますと、鈴木さんは80歳のときに最高で180ヤード近く飛んでいたと思います。男性は80歳になっても、200ヤード程度は維持できるのではないでしょうか。そういう目標を持って、末永くスポーツを楽しんでいただければ、と思います。
鈴木さんの目標とされているご友人は、10歳上の96歳で、週に2回、年に150ラウンドをこなされています。お二人とも100歳まで今のまま、つまり、年は取るけれど好きなことが続けられるということを目標にされていると思います。だから、10年、15年経つと、私の方がどうなっているかわからないという、そういう不安を感じております。

【宮嶋】運動と同時にもうひとつ重要なのが食事。
食事に関して、先ほど、日本食は世界一いい食事だと言われていますが、カルシウムが足りない、そして塩分が少し多いのが欠点というお話でした。

【田中】日本食の特徴は、やはり、塩分が多い、カルシウムが足りない、ですね。とはいえ、非常にバランスの取れたよい食事ですので、欧米の栄養学専門家も日本食を絶賛していますね。
そういう意味で私たちは日本食をしっかりとればいいにも関わらず、今どんどん欧米の食品が入ってきて、簡単に食べられるものを口にしてしまい、油の量が増えたり良質のタンパク質が不足しています。また野菜も足りず、食べる果物の種類も減っており、日本のいい食事が若い人の間で軽視される傾向にあります。
そしてプロポーションだけを気にして、食べずに痩せる。運動も足りない。今、日本の女性は世界一長寿ですが、今の若い女性達が、本当に元気で、からだが健康なまま、80、90を迎えられるか、それが今とても心配されている時代だと思います。
そういった意味で、今日は高齢の方、中高年の方が多いのですが、若い方の体育、運動、食育をもっと啓発していくことが大事かと思います。

【宮嶋】由美さんは食事に関して、一番気をつけていらっしゃることは何ですか。

【由美】私は何でも好きで嫌いな物はありません。旬の物、新鮮な物が大好きです。
あるとき、テレビのお仕事で地方に行ったとき、おじゃこをたくさんもらったんです。ちりめんじゃこ。それ、どうしようかなと思って。冷凍庫にも入れて。それで毎日、トーストにちりめんじゃこをいっぱい乗せて、とろけるチーズも乗せて、オーブントースターで焼いて食べたら、とってもおいしいんです。
撮影所に、私と同じ年齢の、髪を結ってくれる結髪(けっぱつ)さんの女性がいて、膝がずっと痛かったのですが、毎日じゃこチーズトーストを食べいたら、膝の痛みが取れてきたとおっしゃっていました。

【宮嶋】カルシウムの塊ですものね。
鈴木さんは、食事には何か気をつかってらっしゃることはありますか。

【鈴木】別にそんなに気をつかってはいませんが、裏庭に畑が広くありますので自給自足です。野菜食がほとんどです。たまに、1週間に1度、お魚を買ってきて食べてみたり、次の週はお肉を食べたり。それは週に1回です。あとはほとんど自給自足。いろいろな野菜をつくっています。ほうれん草、おねぎ、玉ねぎ、にんにく、それからトウモロコシ、トマト、ナス。たくさん採れるんです。作り方も上手なんですね。

【宮嶋】ご主人が、ですね。ご主人が世話をしてらっしゃる。

【鈴木】私もやりますよ。農家のおかみさんです。お大根なんかも立派なのができて、食べるのがもったいないな、駅前に行って売りたいなと思うときもあります。おかげさまで、自給自足で頑張っています。

【宮嶋】そうして自分の育てた野菜をいただく。命の恵をいただくという感じで、大根も葉っぱから、最後まで大切にいただくという感じではないですか。

【由美】いいですね、本当に最高の贅沢といいますか、楽しみながら作っていらして。やってみたいですね。
パネルディスカッション

【鈴木】どうぞ、今度見学にいらっしてください。

【由美】ぜひ伺いたいと思います。よろしくお願いいたします。

【宮嶋】田中先生、今のお話で、お魚が週に1度、その次の週はお肉が1度。大丈夫なのかしらと、ちょっと心配しましたが。

【田中】はい、栄養学の専門家からすれば、タンパク質の摂取が必要なので、お魚もしくはお肉は、1日に1回、少しはとりましょうというメッセージが出ます。
しかし、栄養学はまだ一番発達していない未熟学問だとする友人の栄養学者もいます。その方はベジタリアンではないのですが、お肉はほとんど食べないです。由美かおるさんほどではないですが、見た目が15、6歳若いし、喋らせると20歳ぐらい若いし、体力も20歳ぐらい若いのです。肉が悪いということではありませんが、まだまだ科学ではわからないところがあるようですね。
鈴木さんの場合、肉食をされないのではなく、一般の方よりは食べている量が少ないということでしょう。

栄養学というのはわからないと思うことがあります
【宮嶋】本当に、栄養学というのはわからないなと思うことがあります。
私もオリンピックに14回も行かせていただいて、さまざまなトップアスリートを取材しました。もう20年ぐらい前ですが、400mハードルでエドウィン・モーゼスという選手がいました。黒人の選手でした。彼はベジタリアンで、肉はまったく食べない。それでもいい筋肉をして、世界記録を出す。
400mハードルは、一番きつい種目と言われます。400を全速力で走るだけでもきついのに、その上ハードルがあるわけですから。体力も、技術力も大変要求されるものです。それを軽々と世界一でクリアしてしまう。そしてベジタリアン。
日本が大好きで日本にしょっちゅう来るのですが、そういうことを聞くと、食事というものはわからないものだ、スポーツ選手は肉、肉、肉、朝から肉、というイメージがありますが、決してそうではないのだと思ったことがあります。
まだまだこの食事と健康、スポーツの分野は、これからもっともっと研究をしていかなければいけないところだと思います。

【田中】栄養をとっても若いときのようには効率よく吸収されていかないので、積極的に運動して、充分栄養を補給するという、運動と食事の組み合わせで上手に生きていくことが大事です。
若い方に出すメッセージは年配者には必ずしも当てはまらないので、年配者にはその人の体調、身体的特徴に合わせた運動、食事のデザインが大事だと思います。

【宮嶋】年を取ると、栄養は吸収されにくくなるものなのですね。

【田中】一般に吸収率が落ちます。

【宮嶋】由美かおるさんは、先ほど講演の中で、血液にのって栄養がからだのあちらこちらに運ばれているので、とにかく血流をよくすることが重要とおっしゃっていました。そういう意味で、血流をよくするということは、運動なのですね、田中先生。

【田中】運動も呼吸も大事だと思います。
先ほど由美さんから丹田の話がありました。西野式かどうかはわかりませんが、腹式呼吸などを長く実践されている方の多くは、本当に見た目が若いし、姿勢もいいですね。ちょっと遅いかもしれませんが、私も今からそういう方法を勉強しようかと、本当に思います。

【宮嶋】石澤先生、ここまでお聞きになってお感じになったことはありますか。

階段は非常にいい運動チャンス
【石澤】スポーツをしなければいけないということが、今よく言われています。ただ、社会の動きとして、逆行している部分もあります。たとえば、バリアフリー。必要な方には必要なものですが、必要でない我々も、それを使ってしまっているところがあるのが、問題かなと。今日も立派なエスカレータを上がってきました。階段はやはり、非常階段という位置づけで、隅の方に追いやられています。。
スポーツの機会がない人が、日々の生活の中でどう活動量を増やすかとなってくると、階段は非常にいいポイントになります。身近なところに運動チャンスを見出すのが重要となってきます。。
思い起こすと、20年ぐらい前からリモコンが登場し始めました。皆さんのお宅にも、4つ、5つ、なんのリモコンかわからないくらいリモコンがあると思います。私が子どもの頃はまだリモコンがない時代でしたので、テレビのチャンネルを変えるにもテレビの前まで歩いて行って、ダイヤルをカチャカチャと回したものです。戻ってきたら兄貴にボリューム上げてこいと言われて、また上げに行く。一度リモコンをしまってみるのも一考かもしれません。
田中先生もおっしゃったように、団塊ジュニア世代あたりが60代70代になってくると、今とまったく違う論議をしなければいけない状況になってくると思います。質が違ってくる。私は40歳代ですが、30代20代の若者が30年後40年後どうなっていくか。今よりもっともっと便利さを追求し、人間の本来の機能を使わないようになっていく中で、いかに日常生活の中に動くことを取り入れていくか。これからしっかり考えていかなければならない論点なのかなと思います。

【宮嶋】生活も便利になったし、子どもの頃からやるスポーツは画面の中のゲームスポーツだけという子ども達も増えていますからね。40年後の日本はどうなっているのでしょうか。
女の子達は洋食ばかりですから、先ほど田中先生がおっしゃったように、和食など見向きもしないような女性達が骨粗鬆症で悩み出すかもしれない。
最後に、皆さまにこれだけはやってみたらどうでしょうかということや、あるいは健康に関するキーポイントでもよいので、まとめとなる一言を。では由美さんから。

"Never Too Late"今日から心のスイッチをオンに
【由美】やはり、たった一回の人生なので、自分の健康は自分でコントロールできるようになることが一番だと思います。
そのために、普段あまり意識していない呼吸の仕方。呼吸を深くすることによって、からだは本当に変わっていきます。生き生きとしたからだを内側から蘇らせる。そうして健康になって、一度だけの人生をアクティブに、いろいろなものに挑戦していただきたいと思います。そうすれば毎日毎日発見もあるでしょうし、驚いたり感動されることもあるでしょう。
私も自分から優しさをどんどん送っていきたいし、感謝の気持ちももっともっと表していきたいと思っています。
こうして皆さまと出会えたことに感謝をして、このような会で基調講演、またこのパネルディスカッションができたことに本当に感謝しております。
今日は本当にありがとうございました。

【鈴木】私はただ平凡に86歳と何ヶ月か過ぎてきましたが、何の取り柄もないですが、ただ楽しく生きることだけを考えています。憂鬱なこと、悲しいこと、つらいことはすぐに切り捨てる。そしてすべてをいいほうに解釈します。また、自分を元気なからだに産んでくれた両親に、まず朝起きたときは朝一番のお茶を上げ、「ありがとうございます、今日一日も頑張ります」とお祈りすることから始まります。
そういう、平凡な毎日です。

【石澤】北海道といえばスキー、スキーといえば皆さまご存じかと思いますが、三浦雄一郎さんのお父様が、99歳のときモンブランをスキー滑降したということで非常に脚光を浴びました。先ほど田中先生のお話の中にもありましたが、今いかにして健康寿命を延ばしていくかが1つの大きなポイントになっています。三浦さんは100歳のときまでスキーをされました。そして、102歳を直前にしてお亡くなりになったのですが、亡くなる半年ぐらい前になって、ご家族の方が介護に当たられるようになったということで、ずっとひとり暮らしをしてらっしゃったそうです。そう考えると、三浦さんの健康寿命は101.5歳という、驚異的な数字になります。
今日は諸先輩方からいろいろなパワーをいただきましたので、それをまた次の世代につなげていきたいと思います。
今日はどうもありがとうございました。

【田中】私どもの養生訓をご紹介します。
「病気にならないことを願うばかりでなく、病気を寄せ付けず、日々を楽しむための積極的な心がけが肝要である。」
病気になってもくよくよせずに、日々を楽しむための積極的な心がけが肝要であるというメッセージを出しています。その楽しみ方ですが、運動もありますし、適量の食べ歩きもありますし、旅行、音楽、それぞれに魅力がありますね。
食事だけ気をつける、運動だけやる、というのでは、QOLがあまりよくならない傾向にあると思います。複数のことを楽しむ心がけを見つけていただきたいですね。
運動というものは、苦手な方が初めてやっても面白みが感じられると思いますので、ぜひやって、楽しんでいただきたいと思います。
最後ですが、誰もが健康長寿実現というのは難しいものです。お薬を飲んでいる方、血圧の高い方、もうすでに骨粗鬆症と言われている方もいらっしゃいます。そういう意味で私は、身体的に元気、気持ちも元気という意味で、元気長寿のための提言を、皆さんにお伝えして締めくくりたいと思います。

1. 脳の健康スイッチをON。頭を使いましょう。
2. 食生活の改善。体に害を与えないようにしましょう。
3. 運動の習慣化。体を上手に使いましょう。
4. 飲酒・禁煙と休養。体をいたわりましょう。
5. 薬の上手な使用。避けることばかりがよいわけではありません。

内臓脂肪を減らすには、1番は寝ることではないかと思います。これについては、時間をかけてうまく説明をしないと誤解を招くのですが、食べずにじっと休んでいれば脂肪はどんどん燃えていきますので、よく運動をし適量の栄養をとって、ぐっすり休むのが一番大事だと思います。
最後に、薬の上手な使用ですね。何でもかんでも薬が悪いわけではなく、また病院に行くのがよくないということでもないのです。今はいいお薬が開発され、医療が発達していますので、必要に応じて薬も医療も受けることが大事です。そういうバランスが大事だと思います。
こうしたスローガンを参考にしていただき、生活習慣病を予防・改善・進行阻止し、元気長寿を図っていただきたいと思います。
今日はこういう場にお呼びいただいて、私なりに元気長寿に向けたメッセージを出させていただきました。ありがとうございました。

【宮嶋】体力つくりの優秀組織として表彰された皆さまにおかれましては、今日のことをぜひ地元に持って帰っていただき、地域の方と一緒に、さらにグレードアップした体力つくり健康づくりを目指していただければと思います。
由美さんの講演を聞きたいと思っていらっしゃった皆さん、巧みな話をたくさんいただきました。呼吸法も早速今日から実践していただいて、元気長寿を目指していただきたいと思います。
"Never Too Late"遅すぎることはありません。今日、心のスイッチをオンになさってください。