認知症理解する
形態面からみた変化
生まれてから死ぬまでの生物としての変化を加齢変化(aging:エイジング)
といいます。 そのうち成長し一定のできあがったからだとこころが変化してい
く過程を老化とよんでいます。
老化はいろいろな面からみることができます。まず、からだの外に現れる変
化をみてみましょう。身長は40歳代から低下し始めますが、この低下は女性よ
りも男性の方が早くみられます。 しかし、 低下の程度についてみると、女性の
方が大きく、 その原因は骨粗鬆症が女性に多いことと関連しているようです。
また、 背筋の萎縮、背骨を構成している椎骨と椎間板の退行変性も身長低下
の原因として考えられています。
体重は、男性で30歳代、女性で40歳代に最大値を示し、それ以降減少して
いきます。体重が増加する場合、それは脂肪によるものです。腹部の脂肪増
加についてみると、男性は20歳代から40歳代の間に起こりますが、女性では
閉経後までは起こらないようです。
一方、各臓器について加齢変化をみたものが表1です。体内の各臓器にも
重量減少がみられますが、その程度は臓器によって異なり、肝臓・脾臓・腎臓
などは減少の程度が大きく、脳などでは少なくなっています。また、心臓は例外
的に高齢者の方が若年者よりもむしろ重くなりますが、これは動脈硬化や高血
圧が加齢とともに頻度が増し心臓が肥大することと関連しています。
表1 若年層と高齢者の臓器重量比較
身長 (cm) |
体重 (kg) |
脳 (g) |
心 (g) |
肝 (g) |
脾 (g) |
腎 (g) |
腸腰筋 (g) | |
若年者 | ---- | ---- | 1,330 | 250 | 1,230 | 140 | 130 | (170-180) |
高齢者 | 153 | 41 | 1,260 | 350 | 830 | 63 | 105 | 70 |
*男9名、女10名 。資料:吉川政己、老いと健康、岩波書店、東京、1991
肉眼的にみることはできませんが、細胞レベルにおいても変化がみられま
す。人体の細胞には大きく分けて2種類の細胞があります。それは、消化管
上皮細胞などのように生涯を通じて活発に分裂・再生を繰り返す細胞(分裂
細胞群)と脳神経細胞のように一度も分裂しない細胞(分裂終了細胞)です。
ここでは細胞レベルの加齢変化を脳神経細胞について述べることにします。
神経細胞は分裂終了細胞とよばれるように、一部の細胞が死んだあと、残
った細胞が分裂増殖して穴埋めすることができません。したがって、歳をとる
に従い、脳神経細胞の密度は粗になっていくのです。これが脳の老化の最大
の特徴といえます。また、脳の情報処理のメカニズムは図1
のようになってい
ますが、老化により神経細胞の数の減少、神経突起の減少・変化が神経細胞
の機能単位としてのシナプスの減少をきたし、神経機能としてのニューロンネ
ットワークの破綻が生じ、さまざまな障害が現れてくるのです。
図1 脳の情報処理メカニズム