認知症理解する
人格の変化
一般的に高齢者の人格特徴は、頑固で自分中心に考えやすく、内向的で用心 深いといわれています。また、自分のからだのことをあれこれと気にしたり(心気 的)、うつうつとなりやすく(うつ的)、ものごとを否定的に考えやすいなどマイナス 思考の傾向にあるといわれています。これまで述べたように歳をとるとともに身体 機能も精神機能も老化し、さらに社会的にも家庭内においても役割を失っていくこ とから、これらの性格特徴が生み出されると考えられていました。
しかし、高齢者の心理学研究や人格の加齢変化についての縦断的な追跡研究 などが行なわれ、これまでいわれてきたような高齢者特有の人格特徴などはなく、 人格は中年期から高齢期においても本質的には変らないことがわかってきました。
図5は、30歳から80歳代の成人を対象に神経症的傾向、外向性、開放性の 3つの性格特徴について年齢別に調べた調査結果です。神経症的傾向には抑 うつや心気的傾向の要素が含まれていますが、図に示されているように高齢では わずかですが少なくなっていました。 外向性の性格特徴では年齢差がほとんどみ られませんでした。 また、創造性などの性格特徴を含む人格の開放性の面でもあ まり年齢による変化はみられませんでした。
図5 性格特徴の年齢比較---(拡大図を見る)
説明:アメリカの30〜80歳代の成人を対象とした3つの人格特性と年齢差を示している。
資料:東京都老人総合研究所編、サクセスフル・エイジング(老化を理解するために)、
ワールドプランニング、東京、1998
たしかに、個々人の人格面を経年的にみると、少し気むずかしい性格の人が歳 をとるに従い非常に気むずかしくなって、ちょっとしたことで怒り出すようになること があります。また、少し心配性な性格の人が非常に神経質になり、洗ったばかりの 手をさらに何度も洗うような強迫的な行動までみられるようになることがあります。 これらは、元来そのような人格特徴を持っている人が歳をとることによって知的能 力や判断力などが低下し、 自分を抑える能力が弱まったため、環境に上手く適応 することができなくなるからです。つまり、まったく違った性格になるのではなく、もと もとあった人格特徴がよりきわだってくるためです(人格の先鋭化といいます)。