認知症理解する
正常圧水頭症
水頭症とは、髄液の産生と吸収のバランスが乱れたり、あるいは髄液の流れが
阻害されて脳室などに髄液が滞り、そのため脳室の拡大がおこり、同時に頭蓋内
圧が上昇し、頭痛、嘔吐、意識障害などをきたす疾患です。このなかで認知症、歩行
障害、尿失禁などの症状を呈し、脳室の拡大はみられるものの頭蓋内圧の上昇の
みられない水頭症が正常圧水頭症といわれるものです。
正常圧水頭症でみられる精神症状は、軽い記憶障害や意欲・自発性の低下など
であり、これらの症状だけから他の認知症性疾患と区別することは難しく、他の神経
症状の存在と合わせて総合的に判断する必要があります。神経症状に関しては、
アルツハイマー型認知症と異なり、初期から歩行障害がみられることが特徴です。こ
の歩行障害は、下肢の失調あるいは失行によるものと考えられており、両足を広く
開いた不安定な小刻み歩行がみられます。歩行障害を伴う例ではシャント術による
改善率が高いといわれているので、手術適応を考えるうえでも重要な症状です。尿
失禁は、精神症状や歩行障害より遅れて出現することが多いといわれています。
図10 正常圧水頭症CT像 ------(拡大図を見る)
正常圧水頭症が疑われる場合には、頭部CTやMRI検査が有用です。CTでは側
脳室、特にその前角部の拡大がみられ、その周囲にPVL(periventricular lucency
)とよばれる淡い低吸収域がみられることが特徴です。MRIではT2強調画像におい
てPVH(periventricular hyperintensity)として描出されます。さらに髄液の循環動態
を調べる検査として、腰椎穿刺によりラジオアイソトープをクモ膜下腔に注入し、こ
れが正常では入らない脳室内に逆流する現象を確認したり、24時間たっても吸収さ
れずにいつまでもクモ膜下腔や脳室内に停滞していることにより診断します(RIシス
テルノグラフィー)。さらに、腰椎穿刺により一定量の髄液を排除し、歩行障害が改
善するかどうかをみることもあります(髄液排除試験)。これにより症状が改善すれ
ば、脳室内に停滞している髄液を腹腔内に流したり(脳室腹腔シャント術)、腰部ク
モ膜下腔と腹腔をシャントしたり(腰部クモ膜下腔腹腔シャント術)する手術効果が
期待できます。
図11 T2強調画像によるMRI−cisternography(NPH)