認知症理解する
行動異常の起こる仕組み
認知症老人に多くみられる行動異常としては、ここで取り上げるように、妄想と幻
覚、徘徊、不潔行為、暴力、性的逸脱などがあります。ここで注意しなければなら
ないのは、これらは観察をするサイドからみたレッテルにすぎないという点です。
これまでみてきたように老人認知症は加齢による脳の多彩な病的変化に基づく機能
低下によるものです。これは、大きく分けると、記憶障害、見当識障害(状況認識
力の低下)、人格(人間性)の崩壊という3つの欠落症状にまとめることができます。
認知症老人の行動異常を考える上で最も重要な点は、その異常行動がどのような脳
機能の低下と関連して起こっているのかを十分理解し、現在どの程度の能力が残
っているかという点を踏まえて対策を立てることにあります。
例えば、「家の中をうろうろ歩き回って困る」という徘徊症状においても、記憶障害
や見当識障害があり、今住んでいる家になってからのことをすっかり忘れてしまって
いるため落ち着かない場合も考えられます。自分の歳に関する認識を失ったため
に子供や親を捜してうろうろしている場合もあります。また、どこからか幻覚(幻聴)
が聞こえてくるためにその声に従って歩きまわっている場合もあります。末期の痴
呆患者では、広汎な脳障害のためただ無目的に歩き回っている可能性もあります。
こうした認知症の自然経過を考慮して、記憶の障害に留まっている場合は軽症例と
考えます。これに加えて、今いる場所がわからない、家の中でも迷ってしまう、今が
いつなのかわからない、自分が何歳かわからないなどの見当識障害が加わった場
合を中等症とします。さらに、言葉が全く通じない、以前の人柄と全く変ってしまった
、などの人格の崩壊がみられる場合を重症とします。認知症患者さんによくみられる
個々の行動異常について具体的に考えてみましょう(図9参照)。