認知症理解する
アルツハイマー型認知症の臨床症状
アルツハイマー型認知症の臨床症状は中核症状と周辺症状に分けられます。中核
症状は記憶障害、高次皮質機能障害、人格崩壊と行動能力の消失を軸にして、進
行によって重層的に重症化していきます。周辺症状はこの中核症状の段階の変化
に対応して随伴していろいろな形で出現します。
このようなアルツハイマー型認知症の臨床経過は一般に3期に分けられます。
第1期の主症状は記憶障害で、 新しく経験した事柄や情報を記憶することが困
難になります。具体的には同じことを何回もきいてきたり、物をしまい忘れたり置き
忘れたりして大騒ぎで捜しまわり、 時には身近にいる家族の仕業ではないかと疑
ったりするようになります。このような記憶障害の他、それまでやっていた趣味や日
課、社会的な出来事などに対する関心が低下し、複雑な話の理解が困難になって
きます。さらに今日が何月何日、何曜日かといった時間に関する見当識に障害が
みられるようになります。このような能力低下はあっても、人と接したときの対人的
配慮は保たれ、世間話程度の日常会話はそつなくこなせるので、日常的に本人と
接することの無い人が表面的な会話をかわすだけでは、障害に気づかれないこと
がしばしばあります。また、この時期に本人自身がある程度病識をもっていて、人
によっては自らの能力低下に対し不安を抱いたり、抑うつ的になったりします。
図9 アルツハイマー型認知症の重症度による中核症状と周辺症状
第2期になると、日常生活における障害はさらに顕著になってきます。記憶障害
は、 前日のことを覚えていない程度から、数時間前、数分前のことを覚えていない
というように、記憶を保持している時間がより短くなってきます。外で道に迷ってしま
ったり、自分の家にいることがわからなくなって「帰る」と言いだしたりするなど場所
に関する見当識障害もみられるようになります。 また、それまで使っていた電気器
具の使い方がわからなくなったり、季節に合った服装の判断ができないばかりか衣
服の着方そのものがわからなくなるなどの失行もみられるようになってきます。初老
期発症のアルツハイマー病では、この時期に筋固縮、姿勢異常、ミオクローヌス、
痙攣発作、語間代(言葉の中間の音節や終わりの部分を痙攣様に反復する言語障
害: 例「ありがとがとがと…」「わたしたしたし…」など)などの多彩な神経症状や鏡
現象(鏡のなかに写った自分の姿に向かって話しかけたり怒ったりする)がみられる
のが特徴です。
第3期に至ると、自分の名前まで忘れてしまい、身近にいる家族のことも認識で
きなくなるなど知能低下は高度になります。失禁がみられるようになり、次第に発語
もみられなくなって臥床状態となります。