認知症理解する
徘徊
徘徊は認知症老人にみられる行動異常で最も頻度の高いもののひとつです。徘徊
について考えるには、よく観察することが大事です。この観察に基づいて原因を考え
対策を立てるようにします。以下に観察のポイントを示します。
表11 徘徊時観察のポイント
1) 目的(地)のある行動か? |
2) 徘徊のきっかけは?(物音、他人の行動、食事など) |
3) 患者の気持ちは、表情は?(おびえた感じ、不安な感じ、楽しい感じ) |
4) 徘徊は朝に多いか、夜中に多いか? |
5) 身体的な苦痛で歩き回っている可能性は? (かゆみ、下肢のむずむず感など) |
6) どのような点で徘徊が問題なのか? |
7) 痛み、空腹、寒さなどの不快感の緩和で徘徊が落ち着くか? |
比較的軽症の患者さんでは、「仕事に行く」「家に帰る」などという目的をもって徘
徊していることが多いようです。 こうした場合は、本人の思い込み(妄想)を否定せ
ずに、「遅いから明日にしては」などの理由を述べて優しく接することが重要です。
幸いにこのような徘徊を示す患者さんのほとんどは次の日になればまた忘れてしま
うので毎日同じ対応でも効果があります。
中等症の患者さんによくみられるのが、家の中でトイレの位置がわからなくなって
しまいうろうろと徘徊し、失禁に及ぶことです。このような場合はトイレに向かう矢印
をつけたり、ポ−タブルトイレ自体にマ−クをつけるなどして発見の手がかりを与え
てあげることが徘徊を減らすと同時に排泄時の不潔行為を減少させる上でも効果
があります。
徘徊の誘因を考えることも対策を立てるのに役立ちます。周りの人の大声が徘
徊を誘発することは意外と多く、特に重症で言葉の理解が悪くなった患者さんにとっ
てはこうした声にせっぱつまった感じを抱いてそわそわと落ち着かなくなり徘徊をは
じめることがあります。声のかけ方を優しくして大声を出さないように気をつけるだけ
でも徘徊が減ることがあります。また、漠然とした感情気分や幻覚によって起こるこ
ともあります。誰かが呼んでいる、誰かが死んだなどと幻聴を疑わせる言葉が本人
の口から聞かれることもあります。このような場合には、専門機関へ受診することを
勧めます。その他にからだの痛み、かゆみで落ち着かなくなったり、空腹も徘徊の
原因となります。本人は自分が空腹で落ち着かないということには全く気づいていな
いので、食事の回数を増やしたり、少量ずつ与えるように工夫することで徘徊を改
善できる場合があります。
さまざまな対策を試みても全く効果がない場合には、精神科の老人専門医に相
談し、一時的に適切な薬物を利用し介護者の負担が大きくなりすぎないようにする
ことが大切です。夜間の徘徊がある場合は、できるだけ昼間しっかり起きた状態で
過ごさせてあげる工夫が必要です。