公益財団法人 健康・体力づくり事業財団

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認知症理解する

財産管理

 高齢者が保有している年金や貯蓄あるいは住宅などの財産は、本来「老後の蓄
え」であって、本人のために有効に使われるべきものといえます。しかしながら、高
齢化にともなって判断力が鈍ったり、認知症状態が進行したりすると、自分自身のた
めに使うことが困難になってしまいます。そのような場合、同居の親族が管理するこ
とが多いのですが、実態は本人の年金などの支給額の範囲内が大部分との調査
報告もあります。また、本人が悪徳商法等につけこまれて泣寝入りしていることも少
なくないようです。

  現在、わが国の禁治産制度は、心身喪失の人が対象になります。禁治産者には
後見人が指名され、禁治産者の療養看護(身上監護)の責任があり、法律行為に
ついても代理権があります。準禁治産者の場合には、保佐人がつきますが、代理
権はありません。また家庭裁判所が禁治産の宣告をすると、戸籍にその旨が記載
され、本人の選挙権などあらゆる法的権利を失います。

  平成12年4月からの施行にむけて100年余り続いた現在の民法の制度を含めた
関連法の改正がなされるよう国会で審議されています。認知症や知的障害などで判断
力の低下した成人を保護支援する制度は、新たに
①「自己決定の尊重」から判断力の低下する前に後見人を選べる「任意後見制度」
 の創設
②弾力的で利用しやすくするため軽度の障害者のために「補助」という区分を新設
③プライバシーを守るために戸籍への記載を廃止し新たに登記制度を導入
するこ とになりました(図12)


図12      
(拡大図を見る

  現行制度で改正される主な点は以下の通りです。
  1) 現在、禁治産宣告を受けた人は、行為無能力者とみなされ、単独では一切 
  の法律行為ができず、例えば、スーパーでの買い物も自由にできなくなります。 
  新制度では簡単な日常の行為は認めることとしています。

  2)禁治産者の後見人や準禁治産者の保佐人は、夫婦の場合は配偶者とされ
  ていますが、配偶者が高齢のために後見人の役割を果たせない場合も多くなっ
  ています。そのため、本人がしっかりと判断できるうちに(認知症になる前に)、信頼
  できる友人などを後見役として選んでおけるようにする仕組みをつくることにして
  います。

  3)現行法では、家庭裁判所(家裁)の禁治産宣告や準禁治産宣告は官報で公
  告され、戸籍の身分事項欄に記載されます。プライバシー保護のためにこれを
  廃止し、東京法務局に登録センターを設け、家裁の決定と同時に本人と後見人
  の氏名、住所が登記され、後見人は本人に代わって財産を処分したりする際、
  センターから証明書の発行を受け、権限を相手に示すことになります。

 4)
「禁治産宣告制度」と「準禁治産宣告制度」は本人が要保護状態に陥った後
  に機能する"法定後見制度"であり、これに対し、本人が要保護状態に陥る前に、
  自らの意思を表明しておき、この本人の自己決定的な意思に基づく制度が"任
  意後見制度"です。 本人の判断能力が低下した後は、本人がみずから任意代
  理人を監督することはできず、権限濫用のおそれがあるので、これを防止するた
  めに公的機関の監督の枠組みを法制化する必要があります。

 5)新しい成年後見制度では家裁の役割が大きくなります。しかし、現状でも家
  裁の仕事は増加しており、果たして迅速できめ細かい対応や適任者の選定がど
  こまでできるか心配されています。

  一方、すでに一部の自治体では認知症性高齢者や障害者に対する権利擁護のた
めに、財産管理の支援など先駆的な事業が行われているところもあります。

 例えば、中野区では1983年から、65歳以上の1人暮らしの方と高齢者だけの
世帯を対象にして、財産管理、現金や有価証券の保管、預貯金の出し入れ、公共
料金の支払などを区の職員が代行してくれます。

 また、事前に契約して意思確認をしておき、その後認知症になってもサービスが継
続できる方式を採っているところが品川区です。ここでは社会福祉協議会が任意代
理人であり、サービス担当者に対する他の職員による内部的監督制度(答申・勧告
・助言・監査)が確立しており、利用者本人の意思能力存在時にあらかじめ明確なラ
イフプランを作成しています。

 東京都社会福祉協議会が運営する権利擁護センター「すてっぷ」は、認知症性高齢
者、知的障害者を対象に、権利擁護に関する相談や相談後の援助等のサービスを
実施しています。

  さらに、厚生省は平成11年10月より都道府県の社会福祉協議会(社協)を実施
主体に、市区町村社協365ヶ所に業務の一部を委託して認知症性高齢者等に生活支
援員(仮称)を派遣する地域福祉支援体制を新たに整備することにしました。

 これらのサービス利用料は、公費負担で、相談や支援計画の策定にかかる費用
は無料、生活支援員により提供される具体的なサービスに係る費用については利
用者が負担することとなっています(ただし生活保護受給者については無科)。