認知症理解する
血管性認知症
血管性認知症は脳血管障害によって生じる認知症です。その病変の広がりから、
A:広範な病変あるいは多発性病変と
B:局在性病変
に大別されます。
前者には血栓性あるいは塞栓性の大梗塞や多発性の皮質梗塞、多発性の皮
質出血、 大脳の白質が主に傷害されるビンスワンガー型白質脳症、多発梗塞性
認知症などが含まれます。
後者の局在性病変の部位としては、知的機能に関与する前頭葉、後頭葉、側頭
葉、海馬、帯状回、脳梁などにおける梗塞や出血が認知症をきたしうるとされます(表
9)。
表9 血管性認知症の分類
A:広範な病変あるいは多発性病変 | B:局在性病変 (梗塞または出血) |
1、大梗塞(血栓または塞栓) 2、多発性皮質梗塞(おもに脳塞栓による) 3、多発性皮質出血 (おもにアミロイドアンギオバチーによる) 4、進行性血管性白質脳症:ビンスワンガー型 (大脳半球白質の広範な虚血性病変を特徴とする) 5、多発梗塞性認知症(大脳白質、基底核などの 多発性 小梗塞を特徴とし、白質病変がビンスワンガ ー型 ほど広範ではない) |
前頭葉、後頭葉、 側頭葉、視床、 海馬 |
1、血管性認知症の臨床症状の特徴
血管性認知症の臨床症状や経過には、アルツハイマー型認知症に比べていくつかの
特徴があるといわれています。まずその発症様式についてですが、アルツハイマー
型認知症においては、発症時期をはっきりと特定することは困難であり、気づかれな
いような形で徐々に進行することが特徴です。これに対して血管性認知症の場合は脳
卒中発作後に急性ないし亜急性に発症したり、卒中発作の反復に伴って階段状に
症状が悪化することが特徴とされます。しかし血管性認知症のなかでも後述するビン
スワンガー型白質脳症や多発梗塞性認知症の場合、卒中発作が明らかではなく徐々
に進行する場合があるので注意が必要です。 血管性認知症を強く疑う臨床症状とし
ては、
ア 仮性球麻痺による構語障害や嚥下障害
イ 片麻痺
ウ 初期からみられる尿失禁
エ すくみ足や小刻み歩行などの歩行障害
オ 深部腱反射亢進や病的反射
などの神経症状があげられます。アルツハイマー型認知症と血管性認知症を鑑別する
基準としてはハッチンスキの虚血スコアがよく知られていますが(表10)、このス
コアでは徐々に発症するタイプの血管性認知症をとらえられなかったり、典型的なア
ルツハイマー型認知症の経過中に脳卒中発作をおこした場合に判断が難しくなると
いう問題点があります。
表10 ハッチンスキの虚血スコア
特 徴 | 点数 |
急速に起こる | 2 |
段階的悪化 | 1 |
動揺性の経過 | 2 |
夜間せん妄 | 1 |
人格保持 | 1 |
抑うつ | 1 |
身体的訴え | 1 |
感情失禁 | 1 |
高血圧の既往 | 1 |
脳卒中の既往 | 2 |
動脈硬化合併の証拠 | 1 |
局所神経症状 | 2 |
局所神経学的特徴 | 2 |
7点以上:血管性認知症 4点以上:アルツハイマー型認知症
2、多発梗塞性認知症
多発梗塞性認知症は、文字どおり脳梗塞が多発することにより持続性の神経症状
と認知機能障害がみられるようになるものです。大脳白質、基底核、視床、橋など
脳深部の広範な領域が多発性の小梗塞により傷害されることにより仮性球麻痺、
片麻痺、歩行障害などの神経症状がみられるようになり、軽快、再発を繰り返して
いるうちに認知症状が明らかになってきます。また、神経症状がみられず、物忘れ
や脳ドック等で念のため検査した頭部CTやMRIで多発性の小梗塞が発見されるこ
ともあります。
3、ビンスワンガー型白質脳症
ビンスワンガー型白質脳症では、高血圧や脳動脈硬化を背景にした、脳血流障
害のため、大脳白質が広範に傷害されることにより認知症が生じます。卒中発作をき
っかけに急性に発症することもありますが、卒中発作や局所神経症状が明らかで
はなく、アルツハイマー型認知症のように緩徐進行の経過をとることもしばしばありま
すので、注意が必要です。認知症状の内容としては、記銘力障害の他、意欲の低
下、自発性欠如、うつ状態など、前頭葉性認知症の症状を示すことが特徴とされます。
神経症状としては、仮性球麻痺、筋固縮、動作緩慢、小刻み歩行などがみられます。
頭部CTでは側脳室周囲に対称性広範あるいは斑状の境界不鮮明な低吸収域がみ
られるのが特徴です。