認知症理解する
認知症老年者
老化に関連した脳の変化が著しくなるとともに睡眠・覚醒障害は多くなります。ひ
どい場合には、昼夜が逆転したり、1日中うとうとして睡眠・覚醒リズムが非常に不
規則となります。アルツハイマー型認知症や多発梗塞性認知症にかかると、老化による
脳の変化にこれらの病気による変化が加わり、睡眠・覚醒障害のみならず、夜間の
徘徊やせん妄などの異常行動を伴ってきます。
老年者の、特に認知症状態にみられる睡眠・覚醒障害の原因としては、体内時計の
加齢性変化がさらに進むことがまず考えられます。このため、昼夜のメリハリなく昼
の不規則な時間帯に眠ったり、真夜中に起き出したりといった異常な睡眠・覚醒パ
ターンがみられるようになります。
体内時計のメリハリはついていても、これが昼夜の変化とずれてしまうこともあり
ます。体内時計が外部環境に同調するには日中に十分日光を浴び、活動し、夜間
は強い光を避けて休息する必要があります。適切に同調できないと、昼夜逆転など
が容易に起こってしまいます。認知症老年者では、日中の活動が不活発になりがちな
上、白内障などの加齢性眼疾患により日中の光も不十分になりがちです。そのた
め、体内時計が外界に同調できない事態が起こりやすいのです。こうした点に着目
し、いくつかの治療法が考えられており、効果をあげています。
①社会的接触の強化
私たちは、社会的同調因子の乏しいとみられる入院中の認知症老年者のうち睡眠
・覚醒リズムの異常を示している患者に対して、社会的同調因子の強化を試みまし
た。すなわち昼間看護婦が話しかけたり、屋外へ散歩に連れ出したり、簡単な手作
業をさせたりするのです。こうしたことにより、患者の覚醒水準を高め、居眠りを少
なくさせ、その結果睡眠・覚醒リズムの異常を著しく改善させる場合がありました。
②高照度光療法
多くの動物と同様にヒトにおいても光が生体リズムの強力な同調因子であること
が明らかになって、生体リズム障害に関連した疾患の治療に応用されています。
老年者に対する高照度光療法は、日中に強力な光同調因子を与えることによって
日中の覚醒水準を高め、その結果十分な夜間睡眠が得られることを目的としたも
のです。つまり、昼夜のメリハリを強化する治療法です。