睡眠
レム睡眠時の障害
① 行動障害 |
レム睡眠行動障害は、レム睡眠中に見ている夢内容に反応して、異常行動が生じるものです。一言でいうと夢にうなされてねぼける状態と考えられる病態です。健常人が夢を見ている時には、脳からの運動の指令が筋に届かないように、生理的に金縛りに似た機構が働き夢内容に対応した行動が生じることを防いでいます。しかし、レム睡眠を制御する機構のある脳幹(脳と脊髄のつなぎの部分)を障害する神経病、あるいは脳の加齢による変化でこうした夢見中の機構の働きが悪くなると、夢でうなされ大声でねごとを言ったり、暴力的な行動を示したり、歩き回ったりするようになります。老年期に多くみられ、子供や若年成人にみられることはまれです。 |
ねぼけて殴る、蹴るなどの暴力的動作を示す場合に、第一に考えるべきものはレム睡眠行動障害です。レム睡眠行動障害では、素早い暴力的動作が多くみられ、このために同室者を殴ってしまったり、室内のドアや障子などを壊してしまう場合が少なくありません。こうした行動中であっても、大声で呼びかけ、身体を揺するなどすると完全に覚醒させることができます。レム睡眠行動障害では、悪夢、ねごとを伴う点、暴力的動作が夢内容と一致している点が特徴的です。50〜60歳代以上に多くみられます。 |
レム睡眠行動障害においても、睡眠時遊行症のように寝床から起きあがり歩き回る場合があります。この場合、半開眼あるいは閉眼で立ち上がるため障害物にぶつかったり、あるいは転倒したりで、半数以上の患者が外傷を負うことが知られています。このため、長い時間歩き回ることはまれです。エピソード中の動きは素早く、多くはぎくしゃくしています。ストレスで悪化しやすい特徴を持っています。通常、強い刺激を与えると覚醒可能で、夢体験を聴取できる場合が多くあります。 |
② 主観的体験の異常−悪夢 |
悪夢は恐ろしい夢でレム睡眠からの覚醒を伴います。恐怖や不安を基本的な要素とするものが多く次第に恐ろしさを増していきます。子供に多く、3歳から6歳の半数近くが悪夢を体験するといわれています。この場合、悪夢に反応したりねごとや叫声をあげたり、暴力的行動が出現することはまれです。通常は数週から数ヶ月の経過で悪夢は消失、または頻度が少なくなるため、この年代における悪夢は、必ずしも治療を必要としません。一部の子供では数年、あるいは思春期まで悪夢を見続けることがあります。 |
③ 睡眠麻痺 |
睡眠麻痺は、いわゆるレム睡眠時の「金縛り体験」として一般的に知られた現象です。これは眼球運動と呼吸運動をのぞく、四肢、体幹の筋が睡眠中に麻痺して動かせなくなる睡眠時随伴症で、出現時期により、睡眠開始時におこる入眠時型、睡眠から覚醒する時に起こる出眠時型に分けられます。恐怖を伴うことが多く、特に呼吸が困難であると感じた時や入眠時幻覚を伴った時に強くあらわれます。通常は1分から数分続き自然に消失します。外部刺激により睡眠麻痺がとけることもあります。 |
睡眠麻痺は正常なレム睡眠に特徴的な錘体路抑制機構が入眠期あるいは出眠期のまどろんだ状態で働いた結果と考えられています。また、同時にみられる入眠時幻覚はレム睡眠の夢体験と関連したものと考えられています。 |
睡眠麻痺に伴う入眠時幻覚としては、「誰かが寝室へ入ってくる」、「身体の上に何かがのしかかってくる」、「身体が宙に浮き上がる」などの視覚性、触覚性、運動覚性のものがよくみられます。 |